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激鐡!! ~ヒノモト妖撃譚~  作者: 甲賀野カッパ丸
章之壱 黒い鉄も磨けば光る!【新参編】
3/34

壱之二 学問優先?五月、学校に行く 其の壱

 私は羽柴ひより。18歳で城下学園の3年生です。生徒会で書記をしております。

 2年ほど前…どこで私のことを知ったのか、秘芽康様の命により、十乃蜜様のお世話係として浪花ノ町よりここ、花江戸町にやってまいりました。

 私、こう見えても家事全般は得意なんです。十乃蜜様の喜ぶ顔を見ると励みになります。

 ただ、少々困ったことがあります…私もそうですが、実は十乃蜜様は朝が大変弱いのです…そこで、私は遅刻しないようにと十乃蜜様の枕元に目覚まし時計を置いているのですが、「アラームが鳴るだけ」の目覚まし時計も、「ベルで起こす」目覚まし時計も、十乃蜜様の枕元に置くと、どういうわけか翌朝には「爆発して起こす仕様」に変わっているのです…

 それだけではありません、最近十乃蜜様が五月さんを「拾って」きたのですが、これが人よりたくさん食べるので食費がもちません…しかも五月さんが来てからというもの、十乃蜜様は五月さんにべったりでほとほと困っています…

 それだけではありません…最初に会った頃からそんな気がしてたのですが、十乃蜜様は少々わがままが過ぎるのです…


「はあ?このケータイのスクリーンをほろぐらふ投影できるようにしろじゃと?」

 この屋敷の地下には姫組の作戦本部と秘密のラボがあります。このご老人は姫組のメカニックを担当している平賀天蓋さん、秘密のラボの「住人」です。

 今日も十乃蜜様の「わがまま」を伝えに来たのですが、私はこの人が苦手です…この老人はとんでもない色ボケジジイで私が来ると体を触ろうとするのです…十乃蜜様をこの老人の毒牙にかけるわけにもいかず、五月さんは外出してていないので、やむなしに私が行くことになったのです…


 話を数刻前にさかのぼりましょう…私と十乃蜜様が居間でテレビを見ていたときのことです。

 十乃蜜様は最近、テレビの勧善懲悪もののドラマにハマッております。かつて副将軍だった一人の老人が二人のお供を引き連れて国中を旅して回るものです。そして、行く先々で悪者を裁いて懲らしめるシーンを十乃蜜様はいたく気に入っておられます。

 そして、番組を見るようになってから何日かたったこの日、十乃蜜様が突然、このおじいさんみたいになりたいと言い出したのです…

「ねえ、ひより…うちのエンブレムを見せられる物ってないかしら。このブローチの他に…」

「あるとすれば、このケータイでしょうか…待ち受け画面を徳川のエンブレムにしているのですが」

「えー?ケータイの待ち受け画面だと凄みに欠けるな…それにそのスクリーン小さいじゃない!遠くの人には見えないわよぉ…」

 そういっているうちにテレビがCMに入り、ホログラフ映写機のコマーシャルが流れたのを見た十乃蜜様は、

「これよ!そのスクリーンをホログラフ投影してでかでかと映せばいいじゃない」

「そんなことが可能でしょうか…」

「できるわよぉ!地下にいるあのじいさんに頼めばいいのよ」

 …そして、今に至っているのです。


「まあ、おヌシに免じて引き受けてはやるがの…これはちぃと難しいぞい…」

 天蓋さんはケータイを受け取るとラボの奥に戻っていきました。私は十乃蜜様の部屋に行き、天蓋さんが「改良」を引き受けてくれたことを報告しようとドアをノックしました。しかし返事がありません。扉を開けてみると十乃蜜様がいません…!?屋敷のどこにもいません、外出してしまったのでしょうか…?

 ふと、部屋のテーブルを見ると学校から持ち帰った奨学システムの資料が置いてあります。ですが、あれはまだ正式に導入されるまではトップシークレットだったはず…まさか!


* 


 今日も天気がいいのであたし、石川五月は引き続き花江戸町を散策してます。だって花江戸町ってだだっ広いから一日じゃまわりきれないんだもん…

 今日はタピオカミルクティなるものを買ってみた。6分とんだ…ぶっといストローの容器の底にカエルの卵みたいなのが沈んでる…


飲み物の中にこんなモノ入れるなんて誰が考えたんだろう。

 ストローで飲み物と一緒にタピオカの粒を吸い上げる…大福よりもやわらかいもにゃっとした歯ざわり…

近くのベンチに座ってもう少しタピオカをすすって不思議な歯ざわりを堪能する。でもやっぱりこの感触は苦手かも…

「そう?私はけっこう好きよ?」

 ぶっ!?危うくタピオカを吐き出しそうになった。いつの間にか隣に十乃蜜さんが座っていた。

「あら、奇遇ね」

 いや、奇遇じゃないでしょ…絶対待ち伏せしてたでしょ…


「ねえ五月、あなた学校に入ってみない?」

「え?学校?あたしが?」

「そう、学校は楽しいわよ」

 そういえば、十乃蜜さんたちが学校に行ってる間、学費に当てられるほどお金を持ってないあたしは街をぶらぶらしてる。口座を持っていないから今持ってるおよそ40分があたしの全財産だ…

 学校で授業を受けるには毎月両単位の学費を払う必要がある。あたしみたいにたいしたお金を持っていない庶民にとっては学校なんて雲の上の話だ。

 しかも、前回あたしは生徒じゃないのに学校に入ろうとして、警報を鳴らしてしまったから二度と近づくまいと決めていた。それを考えると不用意に首を縦に振るわけにもいかない…

「ゴメン、ちょっと考えさせて」

 そう答えたけど、あたしは十乃蜜さんを見てふと違和感を感じた。いつもそばにいるひよりさんがいない。

「ねえ、とのっち…ひよりんは…」

 そう言いかけたその時、遠方から…

「十乃さまあああああああああああああああああああああああ!!!」

 ひよりさんが全速力でこっちに向かってくる。

「ちっ、見つかったか…」

 あたしが地獄耳じゃなかったら聞き取れないほど小さな声で十乃蜜さんがつぶやく。つまり…ナニ?ひよりさんに内緒であたしに会おうとしてたの?

「こ…ここにいらしてたのですね…散々探しましたよ」

「散々て…ひよりんも花江戸町を隅々まで探してまわったの?」

「ま、まさか…ねえ…」

 あたしの疑問に十乃蜜さんは少々引きつりながら笑う。ひよりさんはあたしを細目でちらっとみながら十乃蜜さんのほうを向く。

「まさか、近々試験的に学校に導入される奨学システムの事を五月さんに話していないでしょうね…」

「大丈夫、まだ話していないわ」

「ま…話す気でいたんですか!?ですが、あのシステムを適用させるには推薦状に生徒のご両親か親族の押し印が必要です。聞くところによると五月さんの母親は亡くなっていて、父親も行方知れず、親族もいないようですが」

「だから最も力のある人から推薦をもらうんじゃないの」

「お城に推薦状をFAXで送っても奥方様にはわからないと思いますよ?それに判子をもらってもどこに送ってもらうおつもりですか?屋敷にFAXがないからコンビニでFAXを送るつもりだったのでしょう?」

 なるほど、FAXするのにコンビニを探してる時にあたしを見かけたんで接触をはかったってワケね。

「え~?やっぱりお城に行かなきゃダメ?やだなあ…行きたくないなあ…」

 十乃蜜さんは口を尖らせる。奨学システムとかよくわかんないけど、あたしはお城に行ったことがないからこれはつれてってもらえるチャンスかも。

「あたしも行きた~い」

「決まりですね」

 多数決で2対1、十乃蜜さんは根負けした。

「ああーもう!わかったわよ!行くわよ!行けばいいんでしょ?行けば!」

 

 十乃蜜さんがスマホを取り出す、お城に電話をかけるために。でも、その後の光景があたしにとっては驚愕の連続だった。

 左手にスマホを持ち、右手は人差し指を突き出し、まるで牙突を繰り出すかのように構えている…


「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」


 えええ!?電話番号入れるのに必要以上にに気合入れる人、初めて見るんだけど?


ぶす!パリン…

「あっ…」


 やだ…あたし疲れてる?スマホのボタンを押そうとした十乃蜜さんの指がスマホを貫いたように見えたんだけど。フツー指を痛めるかスクリーンにひびが入るかするはずだよね?それだけ十乃蜜さんの人差し指は威力があるってこと?

 ひよりさんが新しいスマホを取り出した。こんどは落ち着いて電話番号を入力する…ひよりさんが。


プルルルルル…プツッ


「繋がりました」

 十乃蜜さんがひよりさんからスマホを受け取る。

「お母様?十乃蜜です」

 次の瞬間、スマホから奇妙な音声が聞こえた。ねえ…電話の向こうの人、秘芽康様だよね?

「あのね、お話したいことがるの。これからお城に行っていいかな…うん、うん…わかった。じゃあ、これから行くね」

 電話を切った十乃蜜さんはためいきをつく。

「はぁ…まずは、一旦屋敷に戻りましょう」


*


「はい、お城に行くならあんたはこれを着なさい」

 屋敷に着くなり十乃蜜さんはあたしに一着の服を渡した。これは…黒装束?

「本来なら一般人はお城に入れないのよ。だからそれを着るの。私は徳川家だし、ひよりは付き人だからそのままでも入れるけど、あなた、そのみすぼらしい身なりのままでお城に入れると思って?」

 確かに、今のあたしはまんま町人のカッコだ。これではお城に行っても文字通り門前払いを受けてしまう。あたしは言われたとおり黒装束に着替えた。

「ふむ…違和感を感じませんね」

「似合うじゃない」

 二人に言われて少し照れくさかった。でもこの黒装束ってなんだろう、礼服かな…


 お城は花江戸町のどこから見ても見えるほどでっかい。でも屋敷から歩いて行くとめちゃめちゃ遠いので人力車を拾ってお城に向かう。

 お城に着くと、まずはあたしの背丈の4倍もある大きな門と門番があたしらの前に立ちはだかる。十乃蜜さんが門番の前でブローチに手をやるとブローチに徳川のエンブレムが浮かび上がる。それを見た門番が門を開き、あたしらは門の先に進む事ができた。

 花江戸城はホントに要塞みたいな場所だった。めちゃめちゃだだっ広い庭園を抜けると、街ができるんじゃないかと思うくらいたくさんの兵舎やら使用人の詰め所やらが建ち並んでた。お城のエントランスは宿の入り口みたいだけど、自動改札機のゲートみたいなのがあって、そのわきに受付嬢がいたの。十乃蜜さんが秘芽康様にあわせて欲しい旨を伝えるとゲートが開いて通れるようになった。

 エレベーターで最上階の4階に行くとふすまがいくつも重なってる通路があった。この奥が城主の間といって、秘芽康様と椴秀将軍がいるんだって。

 ちなみに、十乃蜜さんが言うには、2階と3階はお城に仕える人たちのオフィスやら居住施設やらがあって、ほかにも重要な機密を保管した書庫もあるから、関係者以外は立ち入り禁止なんだとか。

 いくつかふすまを抜けると、徳川のエンブレムが描かれたふすまの前に着いた。十乃蜜さんがそっとふすまを開ける。

「お母様、入ります」

 ふすまが完全に開かれると、すぐ目の前に椴秀将軍と秘芽康様がならんで正座して…待っていた…え?ちょっと待って?コレどういう状況?十乃蜜さんがそっとふすまを閉じる。

「ね、わかった?」

 え?なにが?って聞こうとするより早くふすまが開いて御両親が十乃蜜さんに飛びついて頬ずりをする、ドン引きするあたしに対して見慣れているのか、ひよりさんはいたって冷静だ。

「いきなり閉めるとはつれないじゃないか、わが娘よ」

「相変わらず照れ屋だねえ、十乃蜜は」

「こうなるのが嫌だからお城に戻りたくなかったのよ!」

 親バカとは聞いていたけど、まさかこれほどとわ…


「へえ、この子が姫組の新人さんねえ」

「御庭番も雇うとはますます将軍としての自覚が出てきたな、十乃蜜よ」

 なるほど、それであたしに黒装束を着せたわけね…でも御庭番てなんだろう…庭掃除する人?

「御庭番というのは、将軍などの身分の高い人の身辺警護をしたり、命令を受けてスパイ活動をする忍者のことですよ」

 ひよりさんが説明してくれた。

 でも、この人たちが十乃蜜さんのご両親ねえ…母親の秘芽康様は、やっぱりこの母親から十乃蜜さんが生まれたんだなあ…と思うくらいの美人さん。着物から肩がはだけていて、女の子のあたしでも思わず「おお~」と声をあげそうになるくらいスタイルがいい。

 父親の椴秀将軍はたなびくような髪に立派なおひげが生えていて、まるでライオンみたい。一目見ただけでホントに強そうって感じがする。

「ちょっと親子で話がしたいから、あなたたちはそこで待ってなさい。くれぐれも!覗いたり聞き耳を立てたりしないようにね!!」

 そういうとふすまを閉めた。

 しばらくしてから十乃蜜さんがふすまの向こうから出てきたけど、何の話をしてたのかひよりさんが聞いてもはぐらかされて教えてもらえなかった…


*


「五月さん、すみませんが『地下』に行って天蓋さんからケータイを受け取ってきてもらえませんか?そろそろ出来てると思うのです」

「天蓋さん?」

「地下にいるおじいさんです。会ってみればわかりますよ。地下に行くには奥にある階段を使ってください」

 それから2日ほど経った日の朝、あたしはひよりさんに頼まれて地下に行くことにした。 ケータイの修理でも頼んでたのかな…

 言われたとおりに奥に行くと階段があった。2階に行く階段と地下に続く階段だ。


 そういえば、屋敷についてまだ説明してなかったね。2階は、アパートみたいにいくつか部屋が並んでる。あたしらそれぞれのメンバーのプライベートルームなんだ。他にもいくつか空き部屋があるけど、メンバーが加わったら住まわせる予定だと十乃蜜さんが言ってた。

 1階は居間とキッチンと食堂と浴室があるんだ。みんなの生活空間だね。

 んで、地下は姫組の作戦本部になってるって十乃蜜さんが言ってたけど、ここに来てから「仕事」がなかったから行ったことなかったな…どんなところなんだろう…


 地下への階段には『関係者以外立ち入り禁止』と言う貼り紙があったけど、あたしは姫組の関係者だから入っていいよね…

 階段を出ると、だだっ広い部屋に丸いテーブルみたいのがあった。あたし、小さい頃に読んだ本でこのテーブル見たことがある。コレは円卓と言って、エグリス国やブランシェー国の「騎士」というサムライみたいな人たちが話し合いするのに使うテーブルだ。

 その部屋から向かって左側の部屋に入ってみた。部屋の中は真っ暗だけど、でっかい何かが並んでいたのだけはわかった。部屋の中は絶えず何かの機械が動いてる音がすっごくうるさかったからすぐ出てったけど、あれは何の部屋だったんだろう…

 その向かいっ側の通路に入ってみると、すごく長い廊下の奥に部屋があった。あれが天蓋さんの部屋かな?

 

*


 ワシの名は平賀天蓋。かつては辺境の街で骨董屋を営んでいたが、今は姫組のメカニックを担当しておる。

 今ワシは…先日あの…何だ?駿河十乃蜜とかいうトノサマガエルの腰ぎんちゃく…羽柴ひよりとかいったかの?…が持ってきたケータイをほろぐらふ投影できるように改造している真っ只中じゃ。

 んん?誰か来たようじゃな。見ない顔じゃ…姫組の新人か?


「すみませ~ん…ひよりさんからケータイを受け取ってくるように言われたんですけどぉ…」

「もうすぐできる。そこで待っとれ」

「はぁい」

 新人らしい小娘を待たせてワシは最後の仕上げに取り掛かる。

「おぬし、見ない顔じゃの。名前は?」

「石川五月です」

「石川五月のう…ワシは平賀天蓋、姫組のメカニックじゃ。よう覚えとけ」

「うん、おじいさんは昔っからここにいるの?」

「ここに来る前は辺境の町で骨董屋をやっていたよ。趣味でからくり人形を作っとったが、ある時店を訪れた十乃蜜の嬢ちゃんにその腕を見込まれてここにスカウトされたんじゃ」

「へえ…それで、お店のほうはどうしたの?」

「たたんだわい…ほとんどお客が来なくて閑古鳥だったからのう。店を畳むにはええ機会だったのかもしれんの」

「ふうん…」

「…客が来ないのはワシが商才がないからとか思っているだろう…」

「ぜんぜん?」

「じゃが、ここに来てからワシは不幸に見舞われた…あの小娘はとにかく物を壊しまくる。見てみろ!ここにあるガラクタの山はみぃ~んなあのトノサマガエルが壊した物じゃ!今では…ほれ、どっちを向いても壁が見えんほどガラクタの山が出来ておる。文句を言おうにも腰巾着はトノサマガエルに会わせてくれんし、直せども直せどもガラクタは増える一方だし、おかげでわしの血圧は上がる一方じゃ!」

「ふうん…大変だね」

「これらを全部直す前に寿命が来るかも知れんというのに、あの世間知らずは年寄りの労わり方も知らんのか!」

「年寄りはは大切にしないとだもんね…」

「まったくじゃ…物を大切にしないトノサマガエルは死んだら地獄に落ちるぞ?」


 しかし、ワシの愚痴に付き合ってくれるとはなかなかええ子じゃのう…と思っていたその時、不意に背後から重量物が崩落する音と五月くん…じゃったか?あの子の悲鳴が聞こえた。おそらくその辺の物を弄ったか何かしたんじゃろう。

「こら、何をしておる!!むやみにその辺の物に触るでない!」

「ごめんなさぁい…」

 ちょうどケータイの改造も終わったところなので五月くんにケータイを投げ渡す。

「ほれ、できたぞ!それを持ってとっとと出て行け!」

「おじゃましましたぁ…」

 五月くんは肩を落としながら部屋を出て行った。ワシはこれからあの子が散らかした部屋を片付けんといけん…そう思って部屋を見たが、ふと違和感を感じた。久しく見てなかった壁が見える、白い壁じゃ。はて…ワシの部屋にこんなスペースあったかの?部屋の片隅には修理済みと書かれた大きな箱があった。どこから持ってきた箱かは知らんが、箱の中は山を構築したガラクタだった物が整然と詰まっていた。中の物を見たワシは驚いた。どれも元通りに直っているではないか!まさか、あの子が直したのか!?


* (ナレーション交代:天蓋 → 五月)


 もと来た通路を戻り、円卓のある広い部屋であたしは、ひよりさんに渡す前にどんな感じに改造されたのか確かめたくて、ケータイのスイッチを入れた。なんと、スクリーンの大きさまんまの画面がほんの数センチホログラフとして浮かんだだけだった。  

 いやいやいやいや!いくらなんでもひどすぎでしょ、コレ!ホログラフで動画見るにしてもこれはないよ?

 それにコレ、ずいぶん古いタイプのケータイだけど、コレで動画見たらめちゃめちゃパケ代かかっちゃうよ?まあ、十乃蜜さんはお金持ちだからそんなの気にしないか…

 でもどうしよう…あのおじいさんの部屋、いい道具がいっぱいあったからあれを使えばもっとイイ感じに出来るんだけど、追い出されたばっかなのにまたあの部屋に行ったら絶対…


「出て行けと言っただろ!何をしにきた!!」


 って怒られるだろうなあ…しゃあない、あたしの部屋で何とかしてみるか…と、思っていたら不意にあたしを呼ぶ声が聞こえた。天蓋さんが追いかけてくる。

「ま…待っとくれい…さっきは追い出してすまなかった。あれを直したのは君かね」

「そうだけど?」


 そう、あたしはあの部屋にいたとき、天蓋さんの愚痴を聞きながらガラクタの山の物を天蓋さんの道具を借りながら片っ端から直してた。だって、ちょっと直せば元通りになりそうなものばっかしだったんだもん。ひとつの山を片付けて、もうひとつの山のを取ろうとしたら山が崩れてきたのだ。なんで一番上のを取らないで横着しちゃったんだろう、あたし…

 出来れば全部直したかったけど、さすがにあたしでも短時間に全部は無理だった。

 

「素晴らしい!100年に…いや、千年に一人の逸材じゃ!ワシの助手にならんか?いや、なっとくれい!」

 つまり、助手になればあのお部屋に出入り自由てこと?あたしは目を輝かせて2つ返事で承諾した。

「ねえ、ついでにコレ、もーっとイイ感じにしてみてもいい?」

「んん?かまわんが…?」


 天蓋さんのお部屋に戻ると、まだ手をつけていないガラクタの山から壊れたペンライトと映写機を見つけた。幸い使いたいパーツは無傷だ。

「むむ…ガラクタの山から使えそうなパーツを使うのか。その発想はなかったわ…若いコの発想力には驚かされるわい…いや、脳が若いから柔軟な発想が出来るのかも知れんのう…」

 天蓋さんが感心してる。あたしはペンライトと映写機を分解すると必要なパーツを取り出してそれをケータイに組み込んだ。

「できたあ!」

 ケータイの側面にあるスライダーを調節すれば映像の大きさと映し出す高さを調節できるように改良したのだ。早速ひよりさんに届けよう。

「部屋の物は好きに使ってええぞい、オマエさんなら大歓迎じゃ」

「ありがとー♪」

 機嫌が良くなった天蓋さんに見送られてあたしはひよりさんの元へ向かった。


*


「おまたせ~♪」

 改良の済んだケータイを持って居間に行くと、テーブルになにやら箱とカバンが置いてあった。箱の中身はおそらく制服と教科書だろう…

「ずいぶんかかりましたね」

「あのおじいさんの愚痴に付き合わされてたんじゃないの?」

 まあ、当ってるかも。あたしはケータイをひよりさんに渡した。

「ねえ、これホログラフ投影できるようにしたけど…こんなのなんに使うの?」

「それは…」

「今はまだ内緒よ」

 何か言おうとしたひよりさんを手で制して十乃蜜さんが答えた。

「それより見て。あなたが学校に行くのに必要な物一式届いたの。もうすぐ学校に行けるわよ」

 やっぱり学校に行かなきゃだめ?て、言いそうになったけど、十乃蜜さんの好意を無駄にするのも気が引ける…最初に学校を見たときに興味があったこともあってあたしは腹をくくった。

 あたしが学校に行けるようになるのは、前に十乃蜜さんが言ってた「奨学システム」ってのが学校に正式に導入されるようになってからなんだって。


 学校ってどんなところなんだろう…

 奨学システムってのも気になるなあ…

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