弐之一 暗中飛躍 邪刀が動く
「…ここガ、花江戸町カ…前回、黒頭巾ガしくジッタせイデ、私ガで向ク羽目になルとはナ…」
「ホント、人間どもが多くて目が回るぜ」
「おまエハ喋るナ…妖怪ヲ連れているノガばれて騒がレルト面倒なコトニなる…今回ノ任務ハここノ妖撃隊「姫組」ノ新人の調査ダ。オマえヲ肩ニ乗せテ歩くのハ肩ガこる…早急ニ終わらセたいナ…」
「こっちだってなあ、おめぇと組んで行動するなんざまっぴらゴメンなんだよ!なにが悲しゅうて人間と組んで任務を遂行しなきゃならねえんだ、御大将の命令じゃなきゃなあ…」
「喋ルナと言っタ!」
「…!」
*
あたしが学校に行くようになってはや一月、学校では定期考査が行われた。つまる話が試験…勉強が苦手なあたしにとってはこの試験は地獄だった…
今回は中間考査といって、国語、算術、化学、社会、異国語の5教科だけど、期末考査はこれに加えて美術、音楽、家庭科、保健体育の9教科…もぉ~、試験なんて考えたの誰?これさえなければ学校は楽しいところなのに…
そして、定期考査が終わって2日後、答案用紙が帰ってきた…うわ~…どの教科も点数の10の位が3より上のものがない。一番ひどいのは異国語の15点…ヒノモト人ならヒノモト語を使えってんだ。異国語なんて使う機会ないでしょうが!
「ほぉ~?お前は横文字を使わないんだ…」
隣の席の根津君があたしの異国語の答案用紙を見て茶々を入れてきた。
「なんだよぉ、人の答案用紙覗くなあ!」
「いやなに、珍しい数字が見えたんでね…15点なんてそうそう取れる点数じゃないぞ」
「そういうアンタは何点だったのよぉ…」
「知りたいか?」
そういって根津君は自分の異国語の答案用紙を見せた。85点…なにコイツ、普段不真面目そうにしてるくせに成績がいいなんて…
「異国語だけじゃないぞ」
さらに他の教科の答案用紙も見せてきた。その点数を見ると、最高記録は国語の90点、低くても算術の75点…マジで、何なのコイツ…
「俺はこう見えても、授業は真面目に聞いてるんだ。運動しか取り柄がなくて、毎日寝てばかりの誰かさんと違ってな」
るっさいやい!
次にあたしは紫さんたちのもとに行っってみた。紫さんたち3人は互いの試験の結果を見せていた。
「ねー、ゆかりんたちは何点取れたの?」
あたしは声をかけてみたが、なんつーか…あたしなんか足元にも及ばないなんてレベルじゃなかった…
紫さんは一番低くても社会の68点、一番高いもので国語の94点。
清原さんはどの教科も80点台をとれていて、ゆうりさんにいたっては化学を除いて90点台。
「わあ、ゆうりさんて成績いいね」
驚く紫さんに対してゆうりさんは、
「まあね。化学はあまり得意じゃないから…」
とはいっても、その点数は86点だった。
3人とも高い点数を出してるのに対し、あたしの点数の低いこと低いこと…なんか、住む世界が違う感じがした…
*
4時間目が終わると、昼食の時間になる。あたしが一番大好きな時間だ。最近、毎日楽しみにしているのが購買部の特売品を見ること。
お昼時になるとほとんどの生徒が購買部になだれ込んでくる。でもあたしは足が速く、人垣だって飛び越えて誰よりも真っ先に購買部に到達する。いつの間にやら購買部に向かう生徒たちにとってあたしは越えるべき壁になっていた。あたしにとっては悪い気はしないけどね。
「おや、今日も一番乗りだね」
「おばちゃん、今日の特売品はナニ?」
「たこ焼きドックとソースかつサンドだよ」
「わお☆珍しいパンだ」
「浪花ノ町の人気メニューをパンにしてみたんだよ。口に合うかねえ…」
「うん、おいしそう。とりあえずその二つと牛乳頂戴」
「あいよ、しめて4分と60文だね」
いつの間にやらあたしは購買部のおばちゃんと親しくなっていた。
あたしは代金を払うと、そのまま屋上に向かった。屋上にはベンチがあって、常に開放されている。そこで食べるお昼が格別においしいのだ。
ベンチに座ってまず最初にたこ焼きドックの封を開ける。パンの間にまんまるのたこ焼きが3個ほど挟まってる。ん~…香ばしい削り節とソースの香りが食欲をそそる。
そして完食。そういえば形はどうあれ、タコを食べたのは初めてかも。たこ焼きというのも食べてみたいなあ…
次にソースかつサンドを取って封を開けようとした。ところがその瞬間、何かがあたしの前を横切り、ソースかつサンドを奪っていった。
「ケケケ、ちょうど腹が減ってたんだ」
見ると、食べ物を奪っていったのはカラス…いや、山伏の姿をした小さなカラスだった。妖怪?だったら何故結界の中に?
「こらー、カラス!あたしの昼ゴハン返せー」
「カラスじゃねえ、カラス天狗だ!とにかくこれはもらっていくぜ…ふげっ!?」
あたしの投げた空の牛乳瓶がカラス天狗に命中、落としたソースかつサンドが地面につく前にあたしはすばやく回収した。
「おめえ、足が速いのか?」
「そうだよ!とにかく、これは返してもらったかんね!」
「ちっ…!」
「おイ、カラス…何ヲ油を売っテイル?」
不意に後ろのほうで奇妙な声が聞こえた。振り返ると、校舎の入り口の屋根の上に人が座っていた、いつの間に?さっきまで屋上には誰もいなかったのに…
その人は、顔中布でぐるぐる巻きにされていて左目と前髪だけがその隙間からのぞいてた。目はよどんでいて光がなかったけど、もう片方の目を覆うように伸びている髪は十乃蜜さんのそれと同じくらいきれいな金髪だった。でも、覆面の中にボイスチェンジャーがあるのか、声にエフェクトがかかっていて性別がわからない。体の上半分を覆うマントのせいで体型もわからない…
「カラスじゃねえ、カラス天狗だ!!オメエまで俺をそう呼ぶのかよ!」
ところがマントの人はカラス天狗を無視してあたしの方を向いた。
「おイ、人間。姫組ノ新人についテ何カ知らなイか?」
コイツ、あたしのことを調べようとしている?
「知らないよ!知ってても教えてあげないもん!」
この人とカラス天狗がグルなら妖怪を連れている人に、その新人があたしだなんて言うわけにはいかなかった。
「そウカ…ならバ、今言っタ事ハ死んデ忘レロ」
そういうと、マントの隙間から3本のナイフを持った手が出てきた。そして、そのナイフをあたしに向けて投げてきた!でも、あたしは飛んできたナイフをつかんで投げ捨てた。あたし、山育ちじゃないけど、目はいいほうなんだ。
「危ないなあ!当ったらどうすんのさ!」
「…当てルつもりデイたんだガナ」
そういうと、次はマントから両手を出した。その手に握られているナイフはなんと10本、それを一斉に手から放った!さすがに10本はあたしでもさばききれない、あたしは防御体制をとった。そこに十乃蜜さんがあたしの前に出て、刀でナイフを叩き落した。
「あなたは誰?部外者が学校の生徒に危害を加えるのは許さないわ!!」
「とn…生徒会長?」
十乃蜜さんが刀の先をマントの人に向けるも、マントの人は微動だにしない。
「生徒会長…駿河十乃蜜…イや、正しクハ、徳川癒依密…だっタカ?」
コイツ、なんで十乃蜜さんの本名を知ってるの?
「我ガ名は『ムラマサ』…徳川ヲ狩るたメニ邪刀ヨリ遣わさレシ、アサシンだ。我等邪刀ハ、徳川ヲ滅ぼシ、花江戸幕府ヲつぶス…ソシてヒノモト国を掌握スル…」
なるほど、それが邪刀の目的か…でも、十乃蜜さんはさらに尋ねる。
「あなたたちがヒノモト国に妖怪を放つ理由は何?何故、直接私たちを狙わないの?」
「国土ニ蔓延すル「人」とイウ害虫を駆除すルタめだ。徳川ノ甘言に踊らサレタ愚民どモは万死ニ値すル…御大将はそウ考えテイる」
「御大将…」
「ついデニ言うト、妖怪に害ナス「妖撃隊」モ、排除すル…それガ私の使命」
その「御大将」ってのが何者なのかわかんないけど、邪刀で一番偉い人なのかもしれない…
「それにこの街を覆っている結界は『人』なら出入り自由なのもわかったからな!やがて「品種改良」された妖怪が…ふべし!」
カラス天狗が最後まで言い終える前に、ムラマサがカラス天狗の足をつかんで地面にたたきつけた。
「おマエハ余計なコトを喋りスギダ!次にこイツラの前デ余計なことヲ喋っタラ焼キ鳥にすルぞ」
「けっ、カラスの焼き鳥なんて食えるのかよ!」
「食べなイデ捨てルケドな…」
そういうと、ムラマサとカラス天狗は姿を消した。
「そういえば、生徒会長は何故ここに?あたしのピンチに駆けつけたってわけじゃないよね?」
「さっき、関西地区にある妖撃隊の拠点から邪刀についての情報を掴んだと連絡があったの。近いうちに話を聞きに行くから、屋敷に戻ったら準備をしておけと伝えたかったのよ。最初、教室に行ってみたけど、お昼ゴハンはたいてい屋上にいるってクラスメイトが言っていたから…」
「そうだったんだ」
「でも、思わぬところで邪刀の目的を聞けたのは大きな収穫ね」
「御大将ってのが誰なのか気になるね」
「向こうで聞けるといいわね…」
十乃蜜さんは刀を鞘にしまうと校舎に戻っていった。まだお昼休みは終わりじゃなかったので、あたしは取り戻したソースかつサンドを食べた。
でも、カラス天狗が言っていたことも気になった。「品種改良された妖怪」…まさか、人に擬態できる妖怪が花江戸町に入ってくるってこと?




