序章 美人薄命 ワタシ死ぬの?死んじゃうの??
ええ…初めまして。
ワタクシ、甲賀野カッパ丸と申します。
今回はじめての小説を投稿させていただきます。
歴史に疎いオヤジが主人公視点の小説にチャレンジするので、
一話が非常に短かったり、妖怪一匹を倒すのに何話もかけでずるずると引き延ばしたりと、
至らない点があるかと思いますが、どうかお付き合いください。
ここはヒノモト国、花江戸町を中心にいくつもの大陸が繋がってる。んー…そっちの世界の言葉を借りると異世界になるのかな…?
時代で言うと聖暦202年……いや、あたしたちが住んでる星は数千年前からあって、時代が聖暦になったのは200年ほど前、その前はなんていわれてたかはわかんない…
遠い昔にヒノモト国を作った人が、大陸を開拓してるときに掘り起こされた文献をもとに街を作ったら、見事にそっちの世界で言う「江戸」の街並みになっちゃったってわけ。んで、今もそのまんまで地面がアスファルトになるでもなければ街に立派なビルが建つでもなく……そこ、遅れてるって言わない!
町並みは古めかしいけど、テレビや電子レンジ、スマホとかもあって、メカや魔法の技術だってすすんでるんだから。
…とはいっても、魔法技術のほうは最近になってエウロペ諸島から伝わってきたからよほど飲み込みの早い人じゃなきゃ使いこなせてないのが現状なんだけどね…
まあ、そんな世界に私は生まれた…私、石川五月、16歳。
突然ですが今、あたしは…
奉行所のお白洲の上にいます!!
両腕に手錠をかけられて身動きが取れません。
え?無実の罪で捕まったのかって?違う違う、あたしがここにいるのには理由があるんです!今から十日ほど前の話になるんだけどね…
*
「でっけえかなでっけえかな、こうして見るとでっけえかな、下町ってえのはさあ!」
夜のみんなが寝静まった頃、その頃のあたしはどこかの家の高い屋根から街を見下ろしていた。金目のものを持ってそうな立派な家を探すために。
そう、あたしのお父さんは何を隠そう天下の大盗人、石川「五兵衛」紋弩之助!
あー…やっぱそっちの世界じゃ知らないかぁ…でも、ヒノモト国ではその名を聞いただけでも大富豪が震え上がるほどの大盗人なんだよ?
あたしもお父さんの背中を見て育ってきたからいつかお父さんみたいな大物になりたいと思ってたんだよね。え?お母さんはいないのかって?あたしのお母さんは物心がつく前に病気で死んじゃったんだ…だからあたしの面倒はずーっとお父さんが見てきたの。
そんなお父さんも、3年前に「でっかい仕事を片付けてくる」って言って、家を飛び出して、それっきり帰ってこなかった…
でも、今度はあたしがお父さんに成り代わって「天下の大盗人」になってやるんだ!
今までだっていろんなお屋敷の金目のものを盗みだしてこれたし、今度も絶対大丈夫!そう思ってた…
この時は記念すべき10軒目ということで、ひときわ大きなお屋敷を見つけて忍び込んだのよね。
立ち塞がる幾重ものセキュリティを無力化させ、大きな部屋を見つけてそこにある高価そうなダイヤの鳥の像を見つけたの。ところが持ち上げた瞬間警報が鳴って、どこにいたのか屋敷の人たちが大勢部屋になだれ込んで来てあたしはあえなく取り押さえられた…
んで、奉行所の牢に入れられて、くっさいおにぎりを食べながら取調べを受けて、今に至ってるわけ…
弁護士?少年法?ないない、ヒノモト国にそんなものありません。
ただ、このお裁きは今までとちょっと違うみたい。いつもは奉行所の前は通行自由で、お裁きの時も道行く人たちがその様子を見守ることもあったんだけど、今回は非公開のお裁きらしくて奉行所の周りは封鎖されていて人が通れないようになっているの。あたしが大悪人の娘だからなのかな?
そうこうしているうちにお裁きが始まる拍子木の音が響く、お奉行さんが入ってくる…
*
公事場の奥からお奉行さんが出てきた。けっこうイケメン…この人は遠山金七郎さん。街に出るとき、奉行所の前を通ることがあるけど、そこでよくお裁きをしてるのがこの人。
イケメンな上に公正に裁くから街の人たちからの信頼は厚い。
あれ?もう二人ほど入ってきてお奉行さんの後ろに立った…うそ、この人って!?
一人は背中まで伸びた金髪にぱっつんな前髪の左側を髪留めでとめている、その眩しさから直視できないほどの美人さん…そう、この人は確か…未来の将軍とまで言われた徳川癒依密さん!?……と、今は駿河十乃蜜って名前だったっけ。
え?なんで違う名前なのかって?たぶん、身分を隠すためなんだと思う…
この人のお母さん…徳川秘芽康様は今の花江戸幕府を取り仕切ってるの。んで、お父さんのほうは徳川椴秀将軍。過去の戦では刀一本で戦場を駆け巡り、功績を挙げてついには将軍にまでなった男とまでいわれてた…今では奥方様の尻に敷かれてそんな気概もなくなってるんだけどね…
んで、この夫婦に共通してるのは揃いも揃ってとんでもない親バカだってこと。特にお父さんのほうがすごくて、いつか見たテレビで泣きながらインタビューに答えてたのが印象的だったなあ…娘さんに会えない寂しさからだと思うけど。
そしてもうひとり、十乃蜜さんより背が高くて、肩までかかったウエーブの髪をサイドテールで結わいてる、やけにグラマラスなこの人は…確か、羽柴ひよりさん。この人のおじいさん…羽柴藤吉さんが浪花ノ城の家老をやってる人で、この人はそのお孫さん。いつも十乃蜜さんと一緒にいるの。ボディガードなのかな?
*
お奉行さんがあたしの罪状を読み上げ始めた。そういえば、あの時の取調べで洗いざらい吐いちゃったんだっけ…
ゴミなんか分別しないで出しちゃってるし、急いでる時なんか赤信号で横断歩道渡る時だってあるし、無賃乗車なんてしょっちゅうだし、お金に困った時なんて人の財布スったりもしたし、ムシャクシャした時なんて人ん家の塀に落書きとか散々やってきたし…
あたしどうなるんだろ…これだけ悪さしてるんだから当然死刑だよね…
首チョンパ?オナカ切られちゃう?町中引きずりまわされる?それとも磔にされて鉄砲のマトにされちゃう?はたまた外国から仕入れたトゲだらけの棺おけでブスリ…やだ、考えただけで寒気がしてきた…
「…以上が貴君の罪状のようだが、何か申し開きはあるかね?」
お奉行さんが罪状の読み上げを終えてあたしの方を向いた。読み終わるの早っ!
「いいえ、ありません…ただ、私を刑に処するのでしたらせめて苦しくない方法で一思いにやってください…」
あたしは答えた…
「うむ、その潔さは感服いたす。だがな…」
お奉行さんは別に渡された書状に目を通すと再びあたしの方を向いてため息をつく。
「その望みは叶いそうにないな…」
だよねえ…苦しくない処刑なんてないよね…うん、知ってた知ってた…あたしはうなだれた…
「では、判決を言い渡す!被告、石川五月!右の者…」
あたしは強く目を瞑った。心臓が高鳴ってるのが聞こえる。お父さん、私はこれから死刑を言い渡されて処刑されます、先立つ不孝をお許しください……
心臓の鼓動がどんどん早くなっていく…あああ、でもやっぱりまだ死にたくない!神様仏様、私を助けて!
「姫組の面々と共に世間に奉公し、罪を償うことを命ずる!」
心臓の鼓動が元の速さに戻り、あたしは目を開いた。
え?どゆこと?これって温情判決ってヤツ?あたしがぽかーんとしてるとお奉行さんは続けた。
「死刑にもならぬ者を何故に処せようものか…だから貴君の望みは叶わぬといったのだ」
お奉行さんは穏やかな表情になった。
とりあえず死刑は免れたんだ、よかったあ…あたしは一安心し…た………いやいやいや、全然良くないし!そもそも姫組ってナニ?
「私たちのことよ!」
いつの間にかお奉行さんの後ろにいたはずの十乃蜜さんたちがあたしの目の前に立っていた。あたしは驚いて腰を抜かした。ひよりさんがあたしにリモコンを向けるとあたしの手から手錠が外れた。この手錠、リモコン式だったんだ…
「あなた!」
不意に十乃蜜さんがびしぃっ!とあたしを指差す。あたしはびくっとした。あたりの空気が張り詰める。
「徳川の名においてあなたに命じます、姫組に入りなさい!」
な、ナニ?この人すごく怖い…迫力に圧倒されて思わず「はい…」て返事しちゃった…温情判決とはいえ、あたしは罪人だから拒否権なんてないんだろうなあ…
「よろしい」
でも、返事を聞いて十乃蜜さんがやさしい表情になった。あたりの張り詰めた空気が緩和される。十乃蜜さんがあたしに手を差し伸べた。
「ホントはね、うちに若い子が欲しかったの。あなたが裁きにかけられると聞いて金七郎さんに無理を頼んで同席させてもらっちゃった…だって、まだ若いのに刑に処されて命を散らすなんて勿体無いじゃない」
やっぱりあたし、本来なら死刑だったんですね…
「実を言うとこの判決文を書いたのはほかならぬ十乃蜜殿だったのだ。命拾いしたな、五月くん」
「そういうこと。これからよろしくね」
あたしは大きくうなずくと十乃蜜さんの手をとった。きれいな手…すべすべしてる…
同時にあたしは悟った。おそらくお父さんの代まで続いていたであろう大悪人の家系も、あたしの代で終わっちゃうんだなあと…