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ころがる石、飛ばない鳥  作者: 桃桜
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0話



プロローグ


下を見れば真っ赤なタータン。

上を見上げれば、どこまでも大きく遠く続く青い空。

正面を見れば砂場がある。

審判の赤いフラッグが見える。

まだ跳べない。

審判の白いフラッグが目の前に現れたかと思うと、すぐに振り下ろされる。

跳べる。

たった40~50mを走ってトップスピードに到達する。

タンタンタンタンと良いリズムで走れている。

白い板が見える。

それを思いっきり踏み跳びあがる。

刹那、時間が止まる。

空中に浮かび上がり、時間の流れがゆっくりとなる。

もう何度も跳んだフォームは身についていて、自然と腕と脚が動く。

気持ちいい。

この瞬間だけは鳥になれる。

ずっとこの時間が続けば…

そう思った矢先、脚が地面に着く。

一気に時間が戻され、同時に現実にも引き戻される。

もう夢の時間は終わりだよ?と言わんばかりに。

1秒にも満たないこの空中浮遊の時間。

そしてたった6m前後の距離を1cm単位で競い合う。

シンプルでかつ奥が深い、そんな競技が走り幅跳びである。



走幅跳び。そんな競技に魅せられたのはいつからだろうか。

昔動画で見たからだろうか。

それか兄貴がやっていたから同じことをしたのかもしれない。

兄貴はいつだって俺の目標で兄貴をいつか超えることが夢みたいなものだった。

小学校の頃は同い年で幼馴染み2人と2個上の兄貴と2個下の妹の5人でよく遊んでいた。

でもなにをやっても5人の中で兄貴が1番だったし、そんな兄貴を尊敬していた。

兄貴は中学で陸上を初めた。やっぱり中学校と小学校は全然違うくて、一緒に遊ぶ時間も少なくなった。その頃には既に幼馴染みの1人が転校して居なくなっていて、兄貴も一緒に遊ばないからと俺は妹と幼馴染みと遊ばなくなっていた。

妹と幼馴染みはよく一緒に遊んでいた様だったけれど、俺から距離を置いていたのかもしれなかった。

兄貴は中学で陸上が強かった。

走り幅跳びでは2年で全中に出場するほどだった。

俺は中学に入学、兄貴は3年だった。

俺は幅跳びを初めた。

勝負の世界で同じ競技をしたことは初めてで、だから兄貴の凄さを実感して、俺は劣等感を強く感じていた。

兄貴は全中で優勝。

高校は陸上名門校のスカウトを、受け入学。

高校1年でインターハイ出場を果たした。

かく言う俺は2年で全中の出場は叶わなかった。

兄貴が高校2年のある日、俺に話してきた。


「なあ、俺はな、いつかお前に負けると思う。けど、俺は負けるその日まで抗ってやる」


こんな感じのことを話してた。

俺は冗談で言ってると思った。

だけどそんな顔では言ってなかったと思う。

俺もよく覚えてない。

県大会の日、チームの応援のために朝早く出発した兄貴はもうこの家には帰ってこなかった。

次会った時は幸せそうな、だけど心残りがあるような表情を見せながら、眠っていた。

コンビニにご飯を買いに行く途中、居眠り運転をしたトラックが信号無視をして衝突。

兄貴は即死だった。

葬式、母親は泣いていた。

幼馴染みは、こんなわけないと何度も言っていた。

妹は、いつも寝坊助なんだから、早く起きてよ!みたいなことを言っていた。

父親は、親より早く死ぬなんてと涙を堪えきれずに言っていた。

引っ越した幼馴染みは結局来れなかった。

俺はと言うと、なんだか実感が湧かずに、頭が真っ白で涙も出てこなかった。

家に帰って兄貴が居ないと実感した途端、ダムが決壊したかのように、涙が溢れた。

その後は何に対してもやる気が起きず、陸上も辞めた。

近くの高校を適当に選び、入学が決定したその日。

とある動画サイトで1曲の歌を見つけた。

どこにでもありそうなただの失恋ソング。

でもその曲を、その人が歌った曲を聴くと何故か涙が溢れた。

優しい歌声に包まれた。


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