大海の鼓動
どれくらい意識を失っていたのだろうか?10分?それとも1時間?全身が痛いが…他に怪我はないようだ。
なんとか立ち上がり今だに朦朧とする意識の中奇妙な音が聞こえてくる。
グチャ、グチャと一定の間隔で聞こえてくる音は不快で耳を防ぎたくなってくる。
「……ね!死ね!死ね!」
ペイルが何かに馬乗りになっていた。そして拳を振り下ろすたびに辺りに飛び散る赤い液体。
何…あれ?
見覚えはあった。彼女は見た目などどうでも良いのでとゼタールに渡されたパンツスーツを着ていたから。だから一眼見た時に…理解した。
殴られている人物を、彼女のものか或いは殴り続けているペイルの物かわからない血を…
「…エルヴァッ!」
「ん…ああ、やっと起きた。いやー、お寝坊なんだね」
気色の悪い笑みを浮かべながら滴る血をハンカチで拭うとエルヴァを蹴り転がす。
頭部だった場所は潰れていて、識別も出来ない。恐らく骨も砕けて…
「ああ、コレ?いや本当にさぁ…躾しないとダメだよ?なにせこの僕に歯向かってきたんだから」
「…屑が!」
「はぁ?畜生風情1匹をどうこうしてなんでそんな事を言われなきゃいけないの?おかしくない?」
けらけらとふざけたように笑うペイルに不意打ち気味で蛇腹剣を伸ばし攻撃するが巨人によって防がれてしまう。
だったら!
「…ベヒーモス!」
「は?」
巨人に受け止められはしたが上空からの攻撃ともなって受け止めきれずに巨人が膝をつく。
もう1発!
膝を着いた巨人の顎に向かって斧を振り上げる。流石に鎧は砕けないが…巨人が宙を舞い倒れる。
「…なんだよ、それ。おいさっさと起きろ魔眼ッ!僕の…僕の作り出した兵器がその程度のわけないだろ!」
『ギッ…ギギ…』
ゆっくりと立ち上がるが…攻撃の隙も与えずにぶっ壊して早くエルヴァを!
「捕獲対象を見つけた。直ちに作戦に移行する」
「…っ!?」
背中から押さえつけられ武器も落としてしまう。
何事かと思ったら周りの瓦礫から次々と兵士が現れペイルと巨人を囲う。
「邪魔だ!蹴散らせ魔眼っ!」
『ギッ…』
ペイルと兵士達の戦闘が始まった。しかしこっちはそれどころではない。
「ラプラスの遺児、アルマだな?メルカ殿から捕獲命令が出ている。最悪死んでいても構わないらしいが…生きているなら上々だ」
「…離して!エルヴァが!」
「囀るなゴミ種族。貴様らに触れるだけでも吐き気がする」
体重をかけられ内臓が押し潰されそうだ。痛い。痛いのは…やだ。
両腕を後ろに回されると手錠を付けられる。このままじゃエルヴァが…!
「捕獲対象を転送する。お前らはあのハリボテとガキを始末しろ。ああ、脳だけは傷つけるなよ」
「「了解!」」
およそ100人程度の兵士が一斉にペイルと巨人へと攻撃を行う。
流石のペイルも巨人を盾にして凌いでいるが時間の問題だろう。
「さっさと行くぞ。ゴミとは言えど魔法だけは優秀だからな。我が国のために使って─」
咄嗟に背中から体重が消え私を押さえてつけていた男が距離を取る。
「チッ…化け物が」
「ご……ろ…ず…」
両腕は無く顔もぐちゃぐちゃで…それでも…
「…エルヴァ!」
「畜生の捕獲は入ってない…まあいい。新生メメントモリのリーダーであるジャルカが相手してやろう」
二刀流。長い剣と短い剣。炎と氷。相反する2属性の使い手…?
ジャルカと名乗る男はその剣をエルヴァへと向ける。
もうやめてと叫びたい。エルヴァは私を守るためにこんなになって…また…
「も……い……せん」
大丈夫だと、必ず守ると。何をやってるんだ私は…大切な友達がこんな目にあってるのに。
一度強く頭を打ち付けると痛みで思考が纏まり始める。
ペイルの方は他の兵士が相手しててこっちは1人…メメントモリってたしか…アクトが…殺した人達。
「ああ、ゴミ。悪いけどあんな処刑人共と同じにするなよ?あの連中が束になってかかってきても俺には勝てない。無論、お前やあの無能勇者もな」
「……その割には弱そう…だね」
「お得意の挑発か?はっゴミらしいな」
「……」
やっぱり何度考えたってこれしか思い付かない。
考える時間も無駄だエルヴァが…死んでしまう。
「…エルヴァ!手錠を食いちぎって!」
「っ!なに!?」
「りょ……い」
最後の力を振り絞りエルヴァが私にかけられていた手錠を食いちぎる。
だが、ジャルカもただ見てるだけじゃない。攻撃を仕掛けてくる。
アルマは…私は、アクトのエンチャントも武器も信じてるから!
「…リヴァイアサン!」
ジャルカの攻撃が私に届く瞬間、伸びた蛇腹剣が私とエルヴァを包み込みガードする。
「くそっ、意志持ちの武器か!」
「…ッ!」
ガードの隙間からジャルカを蹴り飛ばし態勢を整える。
炎と氷ならこっちは水の剣だ。
「へえ…面白い武器だな。寄越せよ」
「……貴方程度で扱え…たら、誰でも使える…」
エルヴァにハイポーションをかけはしたが…焼け石に水状態だ。やはり早くゲルダの元へ連れて行かないと。
「じゃあ、こっちのマルチウェポンは俺が使わせて…んだこりゃ、持ち上がんねえ」
「……それはアルマ専用の武器だから」
「はぁ?ははっ!そういや、あの無能は魔法付与師だったな。エンチャントでそういう風に作ってもらったのかよ」
「……さぁ?」
ベヒーモスに意志があって私に使わせてくれてるならきっと…リヴァイアサンも…一か八かの賭けはなんとか上手く行った。
ただ、一つだけ不思議なのはいつもよりもリヴァイアサンの使用魔力が大きい事だ。伸ばしてるせいもあるのかもしれないが…もしかしたらアクトのエンチャントのように進化する?
一途な望みに賭けつつ、ジャルカを睨む。余裕そうではあるが…負けない、負けられない。
「……エルヴァ、絶対助けるからね」
今にも消えそうな命の灯火を揺らす友人を守る為に…この人を倒す…いや…
「……殺してやる」
ーーーーー
「…はあっ!」
調子がおかしい。リヴァイアサンのキレがいつもよりも悪いし何よりも重い。そのくせして振られた剣は軽くジャルカにダメージを与えられていない。
「どうしたゴミ。その程度かよ!」
「……」
リヴァイアサン…原初の智と呼ばれる存在。超巨大な海蛇。知らなかったからこそ調べる程に気にはなっていた。
アクトにとっての夢幻。最強の生物…それをエンチャントされた武器で…アルマが負けるわけには行かない!変化とは言うのは火のような揺らめき、或いは一瞬で燃え広がり消えるものだ。それに夢幻の力はその人間の想いの力。
「…デプス!」
「なんだ、そりゃ…」
蛇腹剣に変化が起きた。刀身に鱗のような物が浮かび上がってきた。
進化?なの…?
剣が軽い。ベヒーモス同様に私に扱いやすくなっているようだ。
「氷牙の剣!極炎の剣!」
「……」
「ああ、ゴミ…いやラプラスの遺児。俺はそれを知っている。それは…」
ジャルカの持っていた剣それぞれの刀身を炎と氷が包み込み巨大な片手剣へと姿を変える。
本気という事なのだろう。
「それは、人間やましてや魔族が持っていていい代物じゃない。だが…その力は俺のような奴が持つのがふさわしい」
「……結局欲しいだけじゃん」
「ああ、だからよ。その薄汚ねえ手を切り落として俺のもんにしてやるよッ!」
エルヴァを守るように立ち、刀身を伸ばし炎と氷の剣を難なく受け止める。
「ッ!?」
「……余裕」
ジャルカの足を絡め取りいつものように地面に叩き付ける。しかし、相手もそう簡単にはやられてはくれなく受け身を取って最小限のダメージに抑えた。
もっと強く、もっと速く!
「…おおぉぉっ!」
斬る。単純な動作ではあるが鞭のようにしなる剣は受け止めるのは容易ではない。
「この、糞…うざってえんだよゴミ種族が!」
「…ゴミじゃない。私はアルマ。アクトの相棒ッ!」
より一層輝く藍色の魔力は空中に小さな水の玉をいくつも作り出す。
「んなもんで止められるとでも思ってんのかよ!」
「……思ってる」
その小さな水玉は次の瞬間には槍のように形を変えて一斉にジャルカへと向かって伸びる。
無論ジャルカも避けて、避け続けて或いは剣を使い弾き飛ばし…
「……ここがアルマの絶好…の場所」
「しまっ─」
一度捕まえたら離さない蛇の如く…獲物を誘い込んだ。
上空から叩きつけるように蛇腹剣を振ると音速を超えて剣先がジャルカの左肩から斬り落とす。
「ーーッッ!?!!」
「……次は、首っ!」
後ほんの少しのところだったが…炎の剣でガードされてしまい小規模な水蒸気爆発が起こる。
そして角で魔力探知をしていたのだがそこから外れてしまった。
「……逃げられた」
勝った…
ベヒーモスと落としていった氷牙の剣なる物もついでに袋にしまい。それから自分の持つ蛇腹剣を見る。
剣が新しくなったのだ。なんて事だろうか。前よりも魔力の循環もいいし、鱗のような模様。何よりも防御性能も攻撃性能も上がった。
綺麗…
つい、戦闘中だと言うのに…エルヴァが危ない状態なのに…見惚れてしまった…だから…
「アル…マッ!」
服の裾に噛み付きエルヴァが上空へと跳躍する。ぼたぼたと流れ出る血に思わずハッとなり急いでエルヴァを抱き寄せて下を見た。
死屍累々。次々と倒れて行く兵士達と真っ赤な双眸を再び閉じる巨人と笑い転げるペイル。
反省してもしきれない。またエルヴァに救われてしまった。もう動くこともままならないの…に…
「……あ、あぁッ!」
次に映った光景はエルヴァから腐り落ちる両脚。もはや一刻を争う事態だ。
「…あれ?まだ生きてたんだ。まあいいや。君を連れてかえるとしようか、なっ」
気色悪いウィンクをされてより一層腹は立つがそれよりもエルヴァだ。ポーションをかけてもゆっくりと腐っていくのが治らない。
「ああ、残念。視界に映っちゃったかぁ」
気付けば周りの倒れた兵士達も腐敗臭をただ寄らせながら腐り果てていく。
「さっ、そんな生ゴミ捨てて僕を受け入れなよ。僕はいつでも大歓迎だから」
「……殺してやる」
私自身への罰は後だ。私のせいでエルヴァがこうなったのだ…だが、それ以上に…
目の前の下衆野郎を粉微塵にしてやる。




