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動き始める害意



 テスタロッサはニルアの街ゆく人の顔を見て何度も安堵し、そして目的の場所へと向かった。

 いくら実力で築き上げた地位と言えど、いつ何時暗殺されるかもわからなく、それは今も昔も変わらない。


「テス、少しは落ち着けよ」

「わーってるよ。だがな、仮にもお前らみたいなのが暗殺を生業になんてしてたらって考えるとよ。俺ちゃんと言えど玉が縮こまるんだよ。そりゃあもう内側にえぐり込む感じに」

「…下品ね」

「お前のパパだって怖くなりゃ玉は縮こまるからな?わかってんのかー?」

「サイテー」


 キッドはいつも通り心配してくれて、ルルもなんだかんだで当たりは強いが付いてきてくれる。ありがたい話だ。


「で、俺ら一体どこ向かってんだよ?」

「んー?いやまあ…さるお方がさぁ」

「勿体ぶらないで早く言ってくれない?」

「んー…あのねー…」


 キッドは兎も角、ルル的には会いたくないだろうしなぁ…うーん…


「ペイル=ジャーズに呼び出しくらってんのよ」

「…私帰るわ」

「待って!ルルも連れてこいって言われてんの!お前来なかったらアイツは会いたくないって!」

「一生合わなくていいわよ!」

「…テス、仕事上での関係はしかた無くても…なんで国外に来てまで会わなきゃならねえんだよ」

「俺ちゃんだって会いたくないわよ」


 それ程までに嫌われているペイルという男はまあ、言ってしまえば非人道的で自己中心的で嫌な奴だ。

 挙句に貴族階級で頭もそこそこ良いという…要するにルル以外の此方をあからさまに見下してくる。

 じゃあ、ルルはと言うと気に入られていて会うたびに求婚されたりベタベタと身体中を触られていて嫌になっているのだ。


「帰らせて」

「上から現地で会えって言われてんだよぅ。頼むって」

「しょうがない…俺がルルを送っていくからテスだけで行ってこいよ」

「お前らに上司を敬う気持ちは無いのか!?」

「「無い(わ)」」


 そうは言いつつもやっぱりついてきてくれてる2人には感謝しかないな。あとで飯くらいは奢ってやろう。


 そうしてなんだかんだで街外れの約束の場所…薄汚いバーに着く。

 自分たちから奪った土地で楽して生きてるなら王都だけじゃ無くても金を使えよとは思うが…


「…ん?」

「どうした?」

「いや…2人はここで待ってた方が良さそうだ」

「何?ここまで来て?」

「いや、うーん…」


 あの野郎が糞趣味の悪い糞カス野郎だとは知っている。

 バーの扉を開けると予想通りの惨状が広がっていた。

 殺された人間はどうせこの国の人間だし同情なんてしないが…


「うっ」

「だから言ったのに」

「先に…言いなさいよ」

「言ったってついて来たろ?」


 目立つなと言われているのにこんなことしやがって…

 人間だった肉塊が後ろに積み上がっており、それを背に1人の男が座って上品にグラスを傾けてワインを飲んでいる。その余りにもかけ離れた光景に思わず見惚れてしまうが…何せ、座ってる男はお世辞にもかっこいいとは言えず、寧ろやつれた顔に棒のような腕、無理矢理に引きつった笑顔をしており、それがまた酷く不気味さを醸し出している。

 そしてその醜悪な男は静かに口を開いた。


「僕を待たせるとは、また随分と良い身分になったなゲーテル」

「お生憎、今の俺ちゃんはあんたの部下じゃ無くて同等の地位なんだわ。見下されても困るねぇ、ジャーズさん?」

「…チッ。陛下もお前程度の低能を僕と同様に見るなんて…本当に見る目がない」

「そりゃ、お互い様でしょ。戦争も再開してないのに血税で無駄に6体も兵器作ってさ」


 元上司と部下とだけで無く、個人的にも互いを嫌いあってるのだ。

 しかし俺の後方、気分悪そうに目を逸らすルルを見つけると即座に先程のような引きつった笑顔を浮かべる。


「ルル!僕の愛しき人、再開を祝しハグをするぞ」

「死んでも嫌」

「照れるな。ほら、僕はいつでも準備万端だ」

「死ねよ」


 その冷たい言葉に興奮でもしてるのか体を震わせているのを見るとこっちまで気分悪くなってくる。


「…で?なんだってんだよ」

「ん?ああ、皇帝陛下からの直々の勅命だ。

 フェスティバルの隙を突いてこの国を落とす」

「はぁ?」


 考えてたこと以上にやばそうだ。


「その為にNo.3、No.5、No.6を連れてきた」

「本気かよ」

「僕がお前程度にわかりやすい冗談を言うとでも?」

「そんな気色悪いことするかよ」

「当たり前だ」

「そういや、昨日お前の爺さんが捕まえたって言ってた竜の素体が逃げてたけど?」


 昨晩、コダマを抱えていた少女…混沌の龍の人間態に間違いないはずの奴は…ペイルの祖父によって自立式対国殲滅兵器No.6 災厄(ディザスター)と呼ばれるなんとも長い名前の兵器に改造されたはずだ。なのにどうして昨日は自由に動き回っていたのか?


「あぁ、アレはお爺さまの趣味だ」

「趣味ぃ?」

「会ったというなら話は別だ。話しておこう。

 弱っていたとは言えど、ドラゴンだ。そう易々と体も受け渡さんさ。ならどうするか?簡単だ。精神を壊せばいい。そして、お爺さまはそうして絶望した姿を見た後に…肉体を己のものとする」

「三世代揃って悪趣味だな」


 父親もやり過ぎだと何度も投獄されたにも関わらず、腕がいいと拷問官を続けている。なんでも人の痛がる顔が好きだとか…本当にいい趣味してやがるよ。

 

「どうとでも言うがいい。補充のきくお前とは違ってお爺様もお父様も天才だ。価値が違うんだよ」

「あっそ。で?仕事は?」

「ああ、国王直下の処刑部隊 メメントモリの殺害だ。そっちのガキとルルさえいれば出来るだろ?」


 そう言って指差してくる。言いたいことはわかるよ。だが今は我慢してくれキッド。


 そのるる以外はどうでもいいと言いたげな目は俺だってイラつく。だが、今は王からの命に従うのみだ。


「一つだけいいか?」

「なんだ?」

「メメントモリは殺されたと言っていた。聞いてるか?」


 暫くの沈黙の後、ペイルは目を白黒させながら慌てふためく。

 

「な、ななな!?どういうことだ!説明をしろ!」

「いや、よくは知らねえけど…殺したって言ってる奴がいるんだよ」

「戯言だ!」

「どうだかな」


 メーヴィンには王城に残り情報収集をしてもらっている。

 まあ、死んでるにしろ生きてるにしろ…あとで彼女は迎えに行かねばならない。


「んじゃ、命令聞いたから俺たちは帰るわ」

「お、おい待て!ルルを置いていけ!」

「残念。俺ちゃんの部下だから、それは聞けないなぁ」

「べーっだ」


 さて、こんな血生臭いところから離れるとするかな。

 


ーーーーー



「はーっ、本当に嫌になってくるわ」

「それは俺ちゃんも同感」

「蹴落とすか暗殺でもしろ」

「それは出来ないなぁ…何せアレでも国の中枢にいる大公殿の家計だ。殺したりなんかすりゃ一族全員即座に処刑になる」


 昨日見つけた酒場でもう何もする気はないと3人仲良く座り込む。

 街は昼過ぎだと言うのに人通りが少なくなるどころか多くなってきた。


 いい街だよな…


 正直に言えば別にそこまで帝国の街が汚い訳でもなければ、常に飢餓状態とか、街中にスラム街がとかはないが…やはりこの国の人間と違うのは余裕の差だ。


 街行く人々のほぼ全員が祭りを楽しみ、家族と笑い合う。


「…テス、考えことか?」

「んー?まあ、そんなとこ」

「気にすることないわよ。すぐに私達の物になるんでしょ?」

「あっはっはっ」


 迷惑かけるなぁ…


「ねえ、ところで気になったんだけど」

「んー?」

「No.6ってのは、昨日のドラゴン娘なんでしょ?他の2つは?」

「それは俺も気になってた」

「えー、一応国家秘密だから言わないでねぇ?」


 ゲッて顔したがもう遅い。


「No.3ってのは轟天って呼ばれる大筒さ」

「ああ、パパに聞いたことあるわ。センゴクジダイとかに使われてた大きな奴でしょ?」

「なんたらジダイってのは知らないけど、言っちまえば魔力を使わない大砲だよ。火薬で鉄の砲弾を撃つ攻城兵器」

「弱そうだな」

「まぁ、お生憎様。あっちの世界には魔法防壁とか結界魔法とかないらしいからそれでも十分に事足りてたらしいよ」


 実際に目の前で見てきたらしいルルの父親は初めて見た時には余りの音に気絶しかけた…なんて言ってたが、それは彼の名誉の為に黙っておくことにしよう。


 しかし難儀な話だよな…飛ばされてき異世界の人間は今までの生活になかった魔力だとかスキル、魔法だとか俺だったら絶対に頭パンクするな。


「クニクズシ。それが轟天の元になった大筒の名前だ。ヤヨイに奉納されてた嘗て国を救った英雄の武器らしいが…まあ、ペイルの野郎はそんなのお構いなしに奪ってきて自分らでも使えるように改造したらしいが」

「最低ね」

「じゃあ、もう一つの方はなんなんだ?」

「あー…アレもドラゴンと同じだ。死にかけてた巨人族を拾ってきて改造したらしい。魔眼って呼ばれてる」


 今や全身を魔法合金で包まれた巨人。過去に見たことはあるが…あれは…


「災厄の一言だ」

「被ってるじゃない」

「ああ、そうだな」

「どんな能力なんだよ?」

「んー…実はわからない」

「はぁ?」

「所属してる機関は一緒でも部署が違うんだよ…」


 ただ、1度実験にと獣人領へと進軍した時…あの巨大で鈍間なゴーレムもどきと対峙した獣人5000人程が瞬きの間に全員死んだ。

 何が起こったかも何をしたのかも知らない。ただ、ペイルの心底を人を馬鹿にした笑い声が響き渡っていた。


「ともかくだ…メメントモリを殺したって言うあの、コダマ?アイツをどうにかして捕まえるぞ。最悪、味方に引き込めればそれでいい。これ以上ペイルにいいように使われるくらいなら俺たちが利用する」

「再生能力はビビったが…ハデスゲートだったか?大したことなかったじゃねえか?あんなの敵に回ったくらいで…」

「キッド知らないわけ?ハデスゲートって死霊系スキルの最高レベルのやつよ」

「使いこなせてなかったじゃん」

「それはキッドがまだ誰も殺してないからだ」


 どう言うことだよと言いたげだが何せこちらもあまりに情報量が少ない。

 それ程までに使い手は少なく、また使える人間も限られてくるのだ。


「ハデスゲートってスキルはな、冥府の門をこじ開けてスキルの対象になった人間に恨みや憎しみを持つ死霊たちを召喚するスキルだ。だから誰も殺してないキッドには発動しなかった」

「なんだよ、そんなら俺1人で十分じゃねえか。

 今すぐにでも捕まえてこようか?」

「頼むから落ち着け」


 そう簡単な話じゃないんだよ。


「ハデスゲートだけじゃない、上位のスキルってのはどの系統でもな…何かしらの制約が必要なんだよ」

「制約だ?」

「例えば炎系スキル最高のカウカーソス。あのスキルは自身の臓器を捧げる事で天上をも焦がす炎を召喚する」

「じゃあ、そのハデスゲートってのは?」

「…魂だ」

「は?」

「冗談でしょ?」


 ……


「冥府の門を開けるには自身の魂を捧げる。だからあんなに簡単に使えるもんじゃねえんだよ」

「テス、じゃあ何?昨日のアイツは死んでたわけ?」

「俺ちゃんだって知らねえよ。ともかくだ、奴も異世界人ってなら…お前らを前に言いたくはねえが化け物だ。この世界における常識から逸脱した強さを持つ超越者…いや、そんなチンケなんで尺度を測るなよ?」

「…わかったよ。あんたがそこまで言うんなら大人しくしてる」

「助かるよ。んじゃあ、聞き分けのいい子には俺ちゃんが何か奢ってやろう!」

「あっずるい!私にも買いなさいよ!」

「もっちろーん。さあさあ、良いもの探しに行こうぜ?」


 元勇者は危険、注意されたし。

 それは前々から王都に忍ばせていた密偵からの言葉だ。

 メメントモリの殺戮ショーの時、今忍び込んでいる館の主人もまたソレを見ていたそうだ。


 圧倒的なまでの力と、理不尽な暴力。もはや戦いとは呼べず、虐殺の如く。


 メメントモリが死んだ事は密偵からは聞いてはいたが…それはあくまでも誤情報の可能性もあった。だからこそ自らの眼で確認しにきた。


「…2人を失うなんて事は、無いようにしたいな」


 ドラゴンの逆鱗が如く…どうかコダマを逆撫でしないようにと考えつつ自分を呼ぶ声がしたので今はとりあえず考えることはやめた。

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