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来訪者たち



 誰もが皆自分の前に跪き、改めて自分が王であると、選ばれた者だと理解させてくれる。


「カールスマイドの賢王殿」

「陛下の御言葉を頂戴いたします」

「我が国は貴方様のお陰で安泰であります」


 ああ、心地良い…筈だったのに。


「どうするつもりか知らないけど…2度と俺の周りに近づかないでくれとだけ言っておくよ。聡明な貴方なら良く理解出来ますよねえ?王様?』


 あの男…アクト コダマは勇者の1人として召喚された異世界の捨て駒の1匹。

 否、あれこそ化け物だ。現勇者などあれからすれば赤子のような物だ。


「……か…陛下!」

「…む。すまぬ」

「大丈夫ですか?お体に触るようでしたら今日はもう…」

「構わぬ。どうせ最後の客人だ」


 玉座から見下ろしたまま、下で跪く男を見る。


 ボサボサの赤い髪をした男。それだけでも奇妙なのだが金属製の義手が怪しい輝きを放ち…相も変わらず、気色の悪い連中だ。


 カルントン帝国の異界部隊の隊長のテスタロッサ=ゲーテルは口先だけは丁寧だが、その瞳の奥にはコダマと同様に取るに足りないゴミでも見る様な目で自分を見てくる。


「本日はお招きいただき幸甚の至りです。カールスマイド陛下」

「…よくぞ参った。異界部隊長殿。今日から7日間と短い期間ではあるが…この時だけは互いに1人の人間として共に平和を─」

「あっ、そう言うのいいんだわ別に、こっちは挨拶だけ済ませりゃ用はねえし」


 テスタロッサは面倒臭そうに顔を上げるとネクタイを緩め部屋から出て行こうとする。


 何を言っているんだ?仮にも一国の王の前だぞ?


「…帝国の人間よ。今はフェスティバルの期間。お互いに戦を止めて、先祖達に…そして神に感謝を捧げる時だ」

「ったく、うるせえな。おい、メーヴィン。ジジイの相手してやってろ。俺は酒…ガキ共探しに行ってくる」

「ちょっ、いくら敵国とは言え国王ですよ!?と言うか、もう少しは猫の皮くらい被っててください!」

「だからなんなんだよ、馬鹿じゃねえのか?毎年毎年、戦争する癖にこの時だけは〜ってよ。付き合ってられねえんだよ」

「申し訳ありません、陛下。何ぶん、実力で上がってきた人間で…」


 明らかな挑発だ。いつでも戦争を始められると…お前らなぞ敵ではないと。


「…それ程までに貴殿らの作り出した兵器は強力なのか?」

「はぁー…乗れよ徴発によー。そんだったら、今すぐにでもメメントモリ全員殺した後にてめえの首落としてやったのに」

「……」

「はいはい、悪かったよ。どうか多めに見てくださると助かりますよ、陛下」


 平民上がりなどどいつもこいつも低能なのはわかっているので今更無駄に体力を消費する必要はない。


「一つだけ良いか?」

「手短にお願いしますよ」

「新たな勇者召喚の確立。それが貴殿らの新たな強みと噂で聞いたが真か?」

「いいえ、違います。我々は─」

「隊長!」

「別にいいよ。この国の技術力じゃ真似出来ないし。

 7つの対国兵器の開発。まあそっちは俺の部門じゃないんで。それと、新たに完成した第二世代。どちらも我が国にしか無い独自の技術で積み上げた物でーす」

「なんと…」

「我が国は嘗て、この国に負け遠い西の土枯れた地へと追いやられた。

 ですがそれも今だけ、この国は…否、この世界はいずれ我が国の物となります。媚を売るなりへつらうなり、どうぞ陛下でお考えください。ほんじゃ、後よろしくね」

「あ、隊長!待っ…ってもういねえし!あの剃り残し野郎!」


 ……


 マズいことになった。メメントモリを失った今、あの国に攻め入られたらおしまいだ。

 コダマのスキルも未だ実用可能にすら至らず、無能な勇者共も役に立つかわからない。


「あ、あの…本当に申し訳ないです…うちのバカ隊長が…」

「マズいな…」

「ヒィッ!?やっぱりそうですよね!ああ、まだ結婚もしてないのに…打ち首だぁ…あぁー!」


 騒ぐ帝国の従者をよそに考えにふける。

 どうすれば良いのかと、やはりメルカに相談をせねばならぬかと…



ーーーーー



「……」

「あ、あの…ありがとう。まさか君が喧嘩してまで僕を庇ってくれるとはね」

「……アクトは性格に難はあるけど、あそこまで…急に人を殺そうとはしない。エルヴァ、何があったの?」

「…引き千切り」

「僕がやったって?いやいや、記憶に無いよ。確かに先ほど手洗いには向かってきたがね。お花を摘むというやつだ」


 臭い…それにあの時感じた禍々しさ…間違いなくあの時の奴は目の前のドラゴンだとエルヴァは言っている。


「……ドラゴンって名前、ドラゴン?」

「哲学かい?」

「……呼びにくい」

「そうは言われても困るよ。何せ僕には個体識別用の名前が無いのだからね」

「……むぅ」


 トビトカゲって前アクトが言ってたし、トビィとかでいいのかもしれない。


「あれ、アルマ先輩?エルヴァちゃん居るって事はアクト先輩と合流したんですか?」

「……喧嘩した」

「へぇー…こんな時にまでするなんて、ホント仲良いっすよね」

「……ラークス?」

「冗談っす」

「だが、今は戦争行なっている国同士ですら仲良くしているのですよ?早く仲直りしないと大変なことになるかもしれない」

「……」


 どうしよう。


 流石にこれだけ人がいると魔力探知も出来ない。


 アクト泣いてない?大丈夫かな。でも、何かおかしかった。


「…ムカデの両断」

「……?」

「ムカデを焼殺」

「……ありがと、エルヴァ」


 アルマを心配しての行動なんだからそのうち頭冷やして戻ってくる。だから気にするなと…そうエルヴァは言ってきた。


「なんて言ってるんだい?」

「……気にするなって」

「へえー」

「…あっ、やばい!」

「……?」


 やっと落ち着いたと思ったら今度はエレン達が騒ぎ出した。


「ゲラルド!時間!」

「あっ…」

「やべえじゃん」

「あんたも、そんな呑気言ってんじゃないわよ!」


 どうやら転職の時間らしい。


「……エレン、落ち着いて」

「は、はい!あー…申請書とそれから…よし、大丈夫!2人も大丈夫?」

「問題ない」

「バッチ、グー!」

「すみませんアルマ先輩。お騒がせしちゃって」

「……気を付けてね」


 後輩3人は自身のジョブに就くためには…なんか色々と手続きだったりと大変らしい。


 ……そう言えば魔砲師になったときは全部父様がやってくれたんだった。


 ちくちくと痛む胸を無視してエレン達を見送る。


「ところでアルマ君。私この街を知らないからもっと知りたいんだけどいいかい?」

「……長居するの?」

「少なくとも旦那様が亡くなるときまではね。それまでは妻として彼を支えるつもりさ」

「……」

「戦争だ」


 やっぱり庇わないでアクトに賛同すれば良かったかもしれない。



ーーーーー



 やってしまったとは思いつつも、それでもやはり彼女の為だと言い訳をつけて先ほどの公園へと戻る。


 既に何人もの衛兵達が駆け付けており、野次馬達がどうにか中を見ようとするがそこは便利な魔法世界。何故か内側は見えない。


「…おや?もしかしてアクト君?」

「あ、どうも。お久しぶりです」

「久しぶりだねぇ、最近見かけないからおじさん心配してたよ」


 門番の人だ。なんだか懐かしい。


「おじさんも非番なんだけどね、一応は街の見回りをしてたんだよ。そしたらこれさ」

「そいつらの仲間らしき奴さっき逃げて行きましたよ。それから殺したのは黒い騎士です」

「…驚いたな。見てたの?」

「ええ、危うく俺まで殺されるところでしたよ」


 まあ、そう簡単には死なないと自負はしているが、それでもあの黒い騎士…否、ドラゴンはまた強くなっていた気がする。


「たしか、ニルアの雷霆だって昼間ぶつかってきたやつのパーティーメンバーです。逃げた野郎はリーダーで2メートル近く身長があって…茶髪。武器は籠手。ああ、防具の左胸のところに十字の傷跡がありました」

「ふむふむ…いやー、助かるよ。雷霆様」

「…やめてください。マジで、本当に」

「あっはっはっ。二つ名は嫌いかい?でも、おじさん的にはいいと思うよ。かっこいいし」


 門番さんは笑っているがこっちは顔が真っ赤になりそうだ。

 別に自分から名乗った覚えなんて無いのにそう呼ばれるなど…


「ゼタール君が酒場でよく君の事を呼んでいたからね」

「あの、肉塊…次にあったらエライ目に合わせてやる」


 結局ゼタールかよ。何がしたいんだあいつ。


「さて、死体の回収をしちゃうからね。アクト君はフェスティバルを楽しむといいよ。

 君は君で今しか出来ないことがあるのだから、そっちをやるべきだ。面倒な事はおじさんがやっておくよ」

「…ありがとうございます」

「あっ、あとでサインもらっていい?息子が君のファンになってね」

「……」


 ゼタールッ!



ーーーーー



「…それで?」

「結局何もする事なくてよ…現在に至る」


 生まれて初めての祭りなのでやりたい事も多くあった筈なのだが…なんだか、思ってたよりもつまらなく、飲兵衛連中に混じっていたらデンが来た。因みにクララはアルマ達と女子会らしい。


「君ら本当にしょっちゅう喧嘩してるよね」

「あぁ…」

「こうなんかさ…言いたく無いんだけど、嫌になったりして来ないの?」


 嫌に?アルマが?


「…考えた事もないな」

「仲が良い証拠でもあるけど、帰ってきた直後にまた喧嘩って…」

「そういうデンはどうなんだよ。今日昼間クララ待たせてただろ?愚痴の一つも言われないのか?」

「普段から言われてるからね。デンだし、しゃーねえで済まされる」


 それはそれでどうなのだろうかと思う。


 まあ、口ではそうは言ってても…


 ちらりと視線を下にずらすと大事そうに包装されたプレゼントらしき物が見える。


「…随分と良い物をお持ちで」

「へ?」

「それ、魔動式のライフルだろ?たっかいやつ。ガンスリンガーの専用武器だっけか?」

「あ、あー…あははは…」

「どこのお嬢さんからのプレゼントで?」

「幼馴染みで男勝りなお嬢様からかな?」


 隅におけない奴め。


 酒なのか、照れてるのかは知らないがデンも珍しく顔が真っ赤になってる。


「そ、そういうアクトはどうなんだよ!」

「俺?俺は…無いな」

「無いの…?」

「そもそも相棒とは言えど、仕事上のだしなぁ…」

「大切な相棒なんだろ?」

「うーん…その筈」


 アルマは大切だ。守るべき存在だ。それ以上でもそれ以下でも無い。彼女の為ならどんなに汚い手を使ってでも…それくらいは考えてる。


「やべえー、酒入ってきて思考がまとまんねー」

「え、プライベートで普段どんな会話してんの?」

「そりゃあ………」

「……」

「あり?何話してるっけ、えーと…仕事、武器、エンチャント…」


 あとはあんま他人に言えなさそうな事くらいか?寿命の事とか、角の事とか…


「アクト…止まない雨は無いよ」

「そ、そうか…」

「今日は僕が奢るから…さあ、呑んで呑んで」

「いや、これ以上飲むといつもみたく悪酔いするから…」

「呑んで!」

「呑まねえって!」


 時間も遅いしそろそろ帰る事も考えていた頃、3人組が前に座ってくる。


 基本的に椅子四つでテーブル一つが複数ある感じの店なのだが…他も空いてるのに何故わざわざここに座るのやら…しかもわざわざ他から椅子もらってきてまで。


「よっ、ちょっと聞きたい事あんだけどさー」

「…長居するしないにしろ、注文くらいしたらどうだ?」

「おっと済まない。エールはあるかい?冷えてる奴、こっちの2人にもなんか適当なやつ…でいいよな?」

「お好きにどうぞ」

「毒なんて入れられて無いでしょうね?」


 何なんだこの連中は。


 ここらでは見かけない服だし…何よりも、何処となくあの糞勇者共と同じような感覚がする。

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