開幕前夜
レポートが滞ってるため、7月中は不定期更新となります。
「まだやんのかよ!」
「へっヘっへっ、旦那。話を持ちかけたのはあっしですがね…やると決めたのは旦那でさぁ」
もうかれこれ何百個目になるのやら…
フェスティバルもいよいよ明日開催となり、街もいつも以上に賑わったり露店の準備や街の装飾などで大賑わいだ。
それで今俺は何をやってるのか?組合の一画で魔石に延々とエンチャントを行なっている。
横ではエンチャントを終えた魔石を小さな革袋に入れて縛ってをアルマが繰り返し行なっている。
組合も何やら露店を出すらしいのだが俺は知らない。アクトはそれだけやってくれとガルドさんにも言われたので、建材を持って走り回ったり金槌の音が聞こえてきたりすると楽しそうだなと羨ましくなってくる。
「大体よぉ…他にも魔法付与師いるだろ?俺ばっかじゃん」
「旦那じゃなきゃいけないんでさぁ」
ゼタールはニコリと笑うが嫌な笑みにしか見えない。
MPはしょっちゅう無くなることはあるが初めてSPが底をついたぞ。
しかもSP回復の歌を後ろで吟遊詩人達が歌ってくれているが…なんか無駄に優しげな声なので眠くなってくる始末だ。
「あっ、旦那」
「んだよ」
「これ最後の追加でやす」
ドン!とエルヴァが乱雑に机に乗せたのは大量の魔石が入った箱…
「ノルマは1400個。今ので1200個目だから、残り200個。まあ、ガキみてえに一々言わねえでもわかってると思いやすが…頼みますぜ?」
「ホーリーシット」
「……ホリーさんが嫉妬?」
アルマだけが癒しだよ。こんちくしょう。
ーーーーー
「やりやしたね!」
「うるせー、喋んな。もうマナポーションで吐きそうなんだよ…うっぷ」
「……流石に疲れた」
「2人ともお疲れ様」
「……」
そういやエルヴァが話すようになった。いや…なんかこう、ムカデ云々だけじゃなくて普通に。
「アルマに抱きつけたか?」
「…ムカデを殺す」
「心を殺意で落ち着かせんな」
「……?おいでエルヴァ」
どうしようか迷ってオドオドしてるエルヴァなんてそうそう見れないなと思って見てると意を結したのか手を広げてたアルマにエルヴァが抱き付く。
まあ、何か楽しそうで何よりだ。
「あっそうだ。旦那、報酬はどうしやす?」
「知らね。好きにしろよ」
「あっしが2割で旦那と組合に4割でも良いので?」
「何でもいいよ別に」
もうなんか疲れたしどうでもいいや。
「報酬は大切ですぜ?」
「わかってるよ」
「…まあ、旦那がそう言われるのだったら…しかし普通なら6割寄越せとか言われやすぜ?」
「知らね」
疲れたからさっさと帰って寝よう。
「アルマー、そろそろ帰るぞー」
「……はーい」
「…幸せ」
なんかエルヴァが凄いツヤツヤしてる。
「また、やってください」
「……ご褒美?これくらいいつでもいいよ」
「……」
何かムカデ云々の頃よりもわかりにくくなった気がするが…まあいいか。気にしないでおこう。
2人に別れを告げると宿へと戻る。そういやエルヴァってゼタールの家に住んでるのか?
「……アクト」
「ん?」
「……お祭り楽しみだね」
「そうだな」
いつもよりも目をキラキラさせて子供のように笑うアルマ。
この笑顔の為に今日もまた頑張れた。
「おーい、アクト!」
「…ん?あっ、デン!」
「お疲れ、仕事終わったの?」
「ちょうどな」
「みんなで明日のフェスティバル前夜祭ってわけで飲んでるけどどうする?」
「あー…」
どうしようかとアルマを見ると行きたいとでも言いたげに見つめ返してくる。
「行くわ」
「よっしゃ」
「悪いが今は金ないからアクトの奢り〜とかはやめてくれよな」
「ははは、大丈夫。みんな今日は先払いしてるから」
勘定わかんなくなるくらい飲む気なのかよ…
「……お腹空いた」
「そうだな」
明日から1週間も祭りだと言うのに…この街では今日からのようだ…
ーーーーー
「カーーーッ!仕事終わりの一杯は効くなぁ!」
「あんたいつも呑んでるじゃないですか」
「それとこれとは話は別よ!だって今日は母ちゃんのお許しがもらえたからな!」
「そのうち逃げられますよ」
「あっはっはっはっ、それはねぇな。なんてたって俺よりも先に母ちゃんが俺に惚れたんだからな!」
「奇特な人もいるもんなんですね」
もうなんか合流したら既に何人か出来上がってた。
いつも昼間から呑んでるケリーも今日に限って我慢してたらしく昼間はテキパキと仕事をしていた。
「しっかし、よかったなぁ無罪放免でよ!」
「いや、俺何もやってないんでよかったと言うか当たり前なんですが…」
「固いこと言うなよ!それよか飲め呑め!」
「そうだぜアクト!いつ何処で死ぬかわかんねえんだ!だからこそ!酒を飲む……ぷっ、がはははは!」
「机のってんじゃねえぞ、ボケが!」
「あ?やんのかゴラァ!」
まーた始まった。懲りない連中だ。
そういやアルマは…?たしか酒場に入った直後に…
「アルマちゃん強かったもんねー?」
「ねー!」
「……や、やめて…恥ずかしい」
「きゃー!赤くなってるー!可愛いー!」
…あっちはあっちで面倒臭そうなのに捕まってた。
さて、喧嘩も始まった事だし移動するかな…
「アクト先輩、ちーす」
「お?おぉ、ラークス君。久しぶり」
「お久しぶりっす」
「元気そう…じゃないね、周りが」
……死屍累々。そこら中に転がってやがる。
「味なんてよくわかんないんで甘いやつばっか頼んでたんすけど、気付いたらこうなってて…俺は強いんすけどね〜」
「あー、うん…」
『初めて酔ったから皆んな調子に乗ったのよ』
「ラークス君、塩持ってきて」
『何、邪霊扱いしてんのよ…化け物』
「足生えてきてから俺のこと馬鹿にしろ。化け物」
シルフィーがゲラルドの剣から出てきた。
相変わらず嫌な奴だ。
『ラークスもこんなの先輩って呼ぶのどうかと思うわよ。絶対デンとかの方が優しいし』
「デン先輩にはデン先輩の良いところが、アクト先輩にはアクト先輩のいいところがあるんだよ」
「え、俺のいいところって何処…?」
「……」
『社交辞令って知らないのー?』
うるさいので塩を撒いてはみたが…効果は無さそうだ。
「せ、先輩はほら!強いっす!」
「無理して見つけてくれたんだね、ありがとう」
「あ、あぁ!そんな事より!」
「え、待ってそんな事で済まされるのこれ?」
「みてくださいっす!この間親父が旅先で買ってきたヤヨイ酒っすよ!アクト先輩に渡せって言われたんす!」
「…何それ?」
ヤヨイ…?たしか日本的な場所だったよな?もしかして日本酒ってこと?
「何か虫の卵みたいなのを発酵させたので、何でも転生者が過去に製造法を考案して今も作られてるらしいっすよ」
『え、東洋人キモッ』
「多分コメに似た植物使ってんだろ。虫の卵じゃない」
…最近バカでかい蜂を漬けた酒を見たがあれの事は話さないでおこう。
『ねえ、虫の卵じゃないんだったら私も飲んでみたい』
「清酒ってたしか邪を払うみたいな効能あったけど大丈夫なのか?」
『は?キレそう』
「勝手にキレてろ」
「先輩とシルフィーは仲良しっすよね」
「『どこが?』」
被せてくんなとか言いたかったがより面倒くさそうになりそうだからやめておこう。
「と言うか、お前触れられるようになったの?」
『ええ、そうよ!ゲラルドの献身のお陰ね!』
「そういや組合からの手紙で明日からのフェスティバルでの転職…ゲラルドは専用職になるらしいんすよ」
「へぇー」
『私が剣に入ることで精霊剣になるからね!精霊剣士の誕生よ!』
「おー。おめでとうゲラルド君」
「ありがと…う…ござい…ウォぇっ!」
今言うことじゃないなうん。口開いたら吐きそうなレベルだし。
「ラークス君は?」
「ばっち、目標通りっす」
「ウォリアーだっけ?」
「っす!」
『そのうちアクトよりも強くなっちゃうかもね〜』
「いやいやいや、無理」
「そうか?夢は大きく乳は小さめがベストだと思うぞ?」
『キモッ、死んで』
「てめえが死ねアバズレ糞邪霊」
一々暴言挟んできやがって。
「…アクト先輩はぁ、小さいのがいいんですかぁ!?」
「エレン、落ち着け。酔った時に起こした行動は後で赤っ恥かくぞ」
「ふぅえへへへへ」
酔っ払いがからんできた。アルマには無い二つの大きなものを押し付けてくる。
……
「あっ、今アクト先輩ちょい感慨深くなってたっすね?」
『うわー、無いわー。これだからムッツリスケベは』
「アルマー、ちょっと邪霊沸いてるから魔法頼むわ。あとな、ラークス君。これは最早人間に備え付けられた機能だ。抗うことなんざ出来ない」
『うわっ、アルマに頼るのは卑怯だろうが!』
「アクトせんぱーい。先輩はどうなんですかぁ?うりうり」
「…ラークス君が相手してほしいってよ」
「え、ちょっ!?」
何で俺?って顔してるがこっちにばかり任せてきて素知らぬ顔してるからだ。大体お前の幼馴染みなんだ。どうにかしてくれ。
「ラークスぅ、どう?」
「ど、どうって…い、言われたって…」
『青春か』
「放っておけよ。それよか、ご主人様の介抱でもしてろ」
『はーー?真面目ぶっちゃって、俺興味ないし〜とか言ってどうせトイレで─』
「……シルフィー?」
『は、はひっ!?』
……あっ、酒飲まされたな。
「……ねえ、アクトを虐めてたの?」
『ち、ちちち違っ!な、なあアクト!私達仲良しこよしで…』
「うわーん、アルマー。シルフィーに虐められたよー」
『てめえ嘘付くなら棒読み辞め…あ、待ってあの本当にやめ、いや…いやぁぁぁぁぁぁッッ!』
うるさいだろ?でも、これほんの一部なんだ。これが冒険者の数だけある…まあ、要するに酒飲んで忘れろってわけだ。
ーーーーー
「うごごご…」
「……すぅ…すぅ…」
飲み過ぎた。動けねえ、気持ち悪い。
酒場も既に閉められ、皆なが帰路に着いた頃。まだ何人かは酒場の前で動けずに床に突っ伏していたり空を見上げていた。
そしてその中に俺たちもいる。
飲み過ぎて動けなくなった俺と気持ち良さげに寝ているアルマ。それはそうと寒くて風邪ひきそうだ。
「あっ、いたいた。いやー、探したよ」
「うっぷ…待って、もう少し優しく」
「ははは、然しもの君も酒には弱いんだね。宿はどこだい?」
「あっぢ…うぶ…」
「やれやれ、世話の掛かる」
ひょいひょいと俺とアルマは担がれる。もう頭まわんねえけど帰れるならいいや。
「うーん…こんな状態じゃあダメそうだし…まあ、いいか。後にしよっと」
「待って、スキップはやめ…うっ」
結局宿には戻れたが何回も吐きかけた…あり?ところで俺たちのこと運んでくれたの…誰?




