表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/130

天蓋花の揺りかご


 自分は恵まれていたのだと理解していた。それは前世では無くこちらの世界に来て、【エンチャント・夢幻】と言う名のとんでもスキルを使えてたから。

 何度も何度も戦い、強くなりを繰り返して…調子に乗っていた。自分は強くなったのだと。忘れていた。自分はただ運が良かっただけだと。所詮は能力頼りで自分じゃ何一つ出来ない無能だと。


「スケアクロウ、大丈夫か!?」

「ああ、なんとか」


 ウォーデンと背中合わせに戦っているのだが…ハンデを負いすぎている。数の暴力で負けそうだ。


 それにしたって利き腕でもない左手でウォーデンが殺した兵士から奪った武器を使っているが…無理だ。


 今も交戦してるが…腕一本で腕二本の相手に勝てるわけないのは考えずともわかる。


「奴隷勇者ァ、お前は大人しく勇者様方の玩具にされてろよなぁ?」

「笑えねえ冗談だ」


 いや、本当に。意気揚々としてたわけではないが…ゆっくりと剣が押されている。


「しゃがめ!」

「ッ!」


 咄嗟の言葉に一瞬動揺したが、ウォーデンに言われた通りにしゃがむと俺が相手していた奴の喉を真っ赤な槍が貫いた。


「そんな事もできんのかよ」

「感心なんてしてる場合じゃないぞ!」


 俺の相手が1人減っただけであって看守達はどんどん増えていく。


「突っ込むぞ!」

「え?マジで?」

「それしかない!」


 ウォーデンが両腕に紅いガントレッドを作り出すと殴り抜ける。

 一撃毎に肉片の雨が降り注ぎ悲鳴が木霊する。慣れては来たが…流石に気分は悪い。


 それでもウォーデン側の出口に向けて走り、なんとか進む。


「スケアクロウ、腕の調子は?」

「駄目だな全く動かない」

「君の手にかかっていた魔法のお陰か?」

「…ああ、そういや俺リハビリ中だったわ」


 いっけねえ、忘れてた。


「スケアクロウ、だんだん人が少なくなってきたぞ!」

「……」

「…?」

「なあ、ウォーデン─」

「避けろ!」


 ウォーデンが俺の首襟を掴み、後方へと跳躍する。その瞬間に目の前に見たのは潰れて…或いは破裂した看守達と振り下ろされた巨大な戦鎚…いや、アレは見覚えがある。


「避けたな〜?」

「…チッ。あの時の奴か」

「っ!?」


 咄嗟のことで自分でも驚いたが…後方からの奇襲を受け止められた…が、腹部を蹴られる。


「ゴッデル!私こっちね!」

「そうだな〜俺はこっちの魔族やるわ〜」

「どうすんだよ…」

「スケアクロウ…下がっててくれ」


 看守達も巻き込まれたくないのか距離を取り自然とモニタールームらしき場所から俺たち以外が出て行く。


「俺は弩鎚のゴッデル〜。メメントモリのメンバーだ〜」

「私はね、幻刀のカリーナ!よろしくね!罪人!」

「…勝算は?」

「俺はない」

「ああ、私もだよ」

「…ウォーデン、悪いな。俺はもう、諦めた。アルマ、もう一度だけ話したかったぞ…」


 もうやめだ。生きてりゃそのうちいいことがある。諦めて連中に投降しよう。


 しかしそれは許さないよとウォーデンに腕を掴まれる。


「…離せよ」

「スケアクロウ、お前はそれでいいのか?」

「こんなところで死にたくなんかねえんだよ…悪いな」

「尊厳を捨ててまでもか?貴方を馬鹿にしてきたクソどもに死ぬまでコケにされてもか!?」

「ああ、そうだよ!人間ってのはどこまでも醜く、浅ましく生き延びてえんだよ!例え自分よりも弱い雑魚どもに頭下げてもねえなぁ!」


 ゴッデルとカリーナはその言葉に反応した。


「こんな図体だけデカいだけの脳無し野郎や剣振り回してるだけで強いって勘違いしてるイキリ散らしたガキでも、助けてくれるってなら助けてもらうぞ俺は!」

「貴方がそんなにもプライドが無いとは思わなかったぞ!あんな勘違い連中に首を預けるくらいなら今ここで私がその首蹴り飛ばしてやる!」

「おお、おお、やってみやがれってんだ!」


 ゴッデルが戦鎚を振り下ろすと壁や床にヒビが入り建物全体が揺れる。


「俺のどこが弱いってんだよ〜?あ?」

「そうよ!お前らみたいな使い捨ての駒よりも私達の方が優遇され─ゴッ」

「馬鹿はすぐに挑発に乗るからね。扱いやすい」

「いやー、いい賭けしたわ。俺ギャンブラー向いてるかもな」

「スケアクロウは剣闘士がいいと私は思うよ」


 ウォーデンがカリーナの顔面を殴った。それはもう思い切りと。多少は可愛らしい顔をしていた気がしたが今はもう見る影もない程に…まあ、それで無くとも顔面から床を滑っていったし…可哀想になぁ…


 しかも彼らが来たお陰で看守達も後ろに下がっていた。このまんま一気に抜けられそうだ。


「ま、待て!」

「この機を逃したら2度とチャンスは来ないぞ!」

「んなことわかってんだよ!」


 道はウォーデンが作ってくれる。俺はただその後をついて行くだけだ。


 そして…遂に前にいた看守は全員殺した。そもそも兵士じゃないのだからそんなに多くいたわけでもないが。


 後方からの追撃もない。


「…すまないスケアクロウ。ちょっと休憩してもいいか」

「ん?ああ、見張ってるからいいぞ」

「ありがとう…」


 感謝したいのはこっちだ。ウォーデンが居なけりゃ今頃本当に…考えたくもない。


「半分くらいは返せたかな?」

「あ?」

「10年前の恩だよ」

「だから俺はスケアクロウじゃねえって言ってんだろ?」

「…でも、同じスキルを持っている。ならきっと…いつか会えたら伝えといてくれ…ありがとうって」

「自分で伝えろよな」

「……」


 ……


 変な話なのだが…ウォーデンの首元に触れた。何となくと言うかなんも考えなかったのだが…


「…ウォーデン?」

「…ああ、すまない。少し寝てしまっていた」

「いや…いいんだがよ」

「安心してくれ、私が絶対に貴方を…」


 立ち上がろうとしたのだろうが…倒れてしまった。それ程までに疲弊してたんだろう。生憎と袋の中を見たがやはりポーションは無かった。

 ウォーデンに肩を貸す。とりあえず体制を整えたほうがいいな。


「はは…貴方に肩を貸してもらえるなんて…光栄だよ。レイヴンに自慢できる」

「…休むなら休んでろよ」

「ああ、ああ…わかってる…」


 しかしおかしいな…なんで誰も追ってこないんだ?


 非常に遅い歩みだというのに…走る音や声も聞こえない。


 そうこうしているうちに出口に着いた。


「…罠はあると思うか?」

「無いとは言い切れないね…ああ、ありがとう」


 本当に大丈夫なのか?


 ウォーデンが前に出て扉を開ける。


…は?


 拍手をされていた。あの変な仮面野郎と奥に居るはずのデカブツと女…他にも何人か…それと俺たちを囲うようにこの国の兵士が。


「おめでとう、まさか下等種と奴隷でここまで来れるとは思ってなかったよ」

「…生で見ると更に気持ち悪いな、その仮面」

「ははっ、僕もね。生で君らを見て思ったよ…惨めな生き物だってね」


 ウォーデンが拳を構える。もう限界だろうに。それに俺を守る義理なんてどこにも無いのに。


「まあ落ち着いてよ。ボーナスチャンスを上げるから。ユル、商品をこっちに」

「はい…」


 ユルと呼ばれた長身の男は懐から中途半端な数のポーションやらマナポーションやら…いや、見覚えがある。


「これ、なーんだ?」

「正義の皮被った殺人鬼の挙句に泥棒かよ」


 俺のポーションだ。使ったら毎回補充したり数を数えてるのでわかる。それに婆さんに貰った特別な奴も紛れ込んでるし。


「君ら罪人はゴミだ、クズだ、生きる価値はない。

 君は僕らを殺人鬼と呼ぶか?でもいいよ。殺人鬼だって言い。僕らはこの国の正義の執行者だ」

「…酔いしれてるところ悪いが、早々にッ!」

「そういうのはいけないな」


 どこにそんな力があったのか不明だが…ウォーデンは一直線に仮面やろうに突っ込むと血液によって作り出された鋭い爪で斬りつけようとしていた…


「それは違反だよ〜」

「ぐっ!?」


 戦鎚によって地面に叩きつけられる。


「ウォーデン!」

「中の分身を相手にして〜勝てたの?まあ、それでもあんな出来損ないよりも〜俺の方が強いけどね〜」

「はぃぃぃ?なに?なに言っちゃってんノォ?私の芸術に向けて。そんなのこの仮面の価値のわからない、あそこの奴隷と同じよゴッデル!」

「だったらもっと上手く作れよ〜」


 また知らない奴…化粧濃いな。男が?女か?どっちかもわかんねえや。


「んまぁ、本当にやだわ」

「…チッ」


 漫才を始めたところでウォーデンが急いで距離を取る。もう限界だ。

 それに監獄の中でも言っていた。


 ウォーデンやレイヴンのスキルは血液を自在に操るスキルだが…それはあくまでも自身の物のみの話。使ってる間は身体中に酸素が行き渡らず、脳もぼーっとしてくるそうな。

 それにしたって俺という荷物を守っての連戦だ。もう立っているのどころか…


「辛い?悲しい?でも、君ら魔族は僕らの国を侵略する。大勢の罪なき命を殺してきた大罪人だ」

「…お前らこそ、何人の魔族を殺してきた」

「知らない。お前は潰した虫を全部覚えているのか?そして、そっちの召喚された元勇者。君は勇者達から見捨てられた後の方が活躍してるみたいだね?なんで?この国に召喚されたならこの国の為に、陛下の為に使いなよ」

「そんなことして俺になんの得があんだよ」

「わからないのか?陛下のお役に立てるのは至上の喜びなんだ。だから僕らメメントモリは罪人を殺す。貴族様達を喜ばせる。そうすれば陛下が喜んでくれるからな」


 各々が頷いている。狂信者どもめ。


「話がだいぶズレたね。で、ボーナスチャンス。

 奴隷、今すぐ地面に額を擦り付けて。額の皮が破けて血が出て…ふふ、出来たらポーションを返してあげる」

「あ?」

「ほら、早くしなよ。じゃないと君を守る肉壁も限界だよ?」

「…やめてくれ、私なんかのために」

「早くやれよ〜」

「ワクワク!」


 土下座しろって事だろ?だがここでしたところで本当に返してくれるのか?それに、したらしたらでウォーデンを肉壁と認めてしまう。そんな事は絶対に嫌だ。ここまで守ってもらった恩を仇で返すような事を─


 思考は相変わらずまとまらなかったが…次の瞬間には俺の顔面は地面にめり込んでいた。

 

「ねぇ、聞いてた?リクスがわざわざゲームを面白くする為にお前みたいな奴隷如きと話してあげてたのよ?」

「痛ッ、てめえ、ゴッ」

「ねえ、聞いてた?聞いてたのよネェ?慈悲の心よ!罪人なんかにリクスが慈悲の心を与えてあげたのヨォォォ!?」


 何度もオトコオンナに頭を踏みつけられる。


 ウォーデンも咄嗟のことで止まってしまったが、助けようとしてくれるが遂には膝をついてしまう。


「ニュクス。もういい、そいつは一応生きたまま勇者様に渡すんだ」

「はぁい」


 殺してやる。


「でも、貴族様方からは満足そうな声が挙げられているね。うんうん、じゃあプレゼントだ」


 パリンと音がした。

 揺らぐ視界で見たのは仮面野郎リクスが机からポーションを邪魔そうに投げ捨てていた姿。


「奴隷と下等種にはこれがお似合いだよね。ほら、床に這いつくばって舐めろよ。ご褒美だ」

「……」

「どうしたー?早く早く」

「ッ!」


 心底クソ野郎だな。死ね。


 悪態でも着いてやろうかと思ったがウォーデンが俺を抱えた後、最後の力を振り絞り跳躍する。

 


ーーーーー



 逃げた奴らをつまらなそうに見ていたメメントモリのメンバーはどうするかと面倒そうに話し始めた。


「私、狩りは好きよ!特に追い込むの!」

「じゃあ、今度こそ本物に行ってもらえる?」

「了解よ、リーダー!」

「3人はどうする?」

「行かない」

「俺は着いてく〜」

「私の居場所は貴方の隣よリクス」

「はいはい」


 話はまとまった。まあ、いつも通りだ。

 

「兵士ども追うぞ〜」

「行くわよ!」

「「は、はっ!」」


 戦慄していた兵士達も言われるがままに後を追う。

 こいつらとが変わったら自分らまで殺されかねないと…



ーーーーー



 ウォーデンは凄まじい速さで逃げて…逃げて…結局落ち着いたのは人気のいない廃墟だった。


「スケアクロウ、大丈夫か?」

「俺の心配より、自分の心配しろよ…うわ、歯茎切れて吐血したみたいになってる」


 多分またここまで追ってくるし、追いつかれるのも時間の問題だなと思う。


 2人して座り込むとそのまんまウォーデンは寝転がってしまう。


「俺、諦めてたよ…スキルも使えねえしよ。だが…お前のおかげで生き残れたわ」

「はは、貴方に感謝されるとは…」

「しっかしまあ…何で使えねえんだろうな…」


 スキルさえあればウォーデンの負担を減らせるのに。そうすりゃ2人で逃げられる。

 うわ、愛の逃避行みたいだ。気持ち悪っ。


「…なあ、貴方のスキルが使えないのは多分…私のせいなんだ」

「…は?」

「私、4日前に死んだんだけどさ…2人の黒い骸骨がな…私の足を支えているんだ。まだ、来るな。役に立てって…」

「…スキルの使いすぎで幻覚でも見てんのか?待ってろ今水汲んできてやる。どっかに井戸くらいあんだろ」


 もうだめだ。これ以上ウォーデンを戦わせたら死んで…死んで?何でこいつあんなに体が冷たかったんだ?魔族特有なのか?それとも、本当に…


「…あの場所にレイヴンが居なかった…魔力も王都周辺では感じない。きっと、逃げたか…あれは偽物なんだろな。仮に死んでいたとしても魔力の残滓でわかる…貴方の頭踏んでた奴のスキルなんだろうな…」

「しっかりしろ」

「スケアクロウ、あの時助けてくれて本当に感謝してるんだ。私も…レイヴンも本当は死んでたかもしれないのに…」

「冗談なら今すぐやめろ、無駄口叩いてる暇あんなら寝てやがれ!」


 縁起でもない。


 短い間しかまだ話してないが…こいつはいい奴だ。時に口が悪い時もあるが、弟想いで…純粋に戦いが好きなだけで…魔王の手下になんて何でなってるんだって。


「…貴方は貴方の進む道がある…ここで追われる身となっても…奴隷となっても…貴方はスケアクロウで…私達の恩人だ」

「おい、いい加減にしろ!」

「…恐らく奴らにスキルを奪われたみたいだが…はは、根幹はずっと私を生きながらえさせていた。だから、私の命は貴方の為に…あの時の恩を…」

「俺はスケアクロウじゃねえ!俺はコダマ アクトだ!いいか、ウォーデン!てめえがどこで死のうが勝手だがな、俺を守って死ぬなんてやめろ。胸糞悪いんだよ!何で他人のためにそこまでやれんだよ!」


 痛い。


「一度戦ったなら戦友で…兄弟で…はは、楽しそうだ。レイヴンも大喜びで…」


 痛い。やめてくれ。


 ウォーデンの瞳が段々と生気を失っていく。


「…ああ、楽しかったなぁ…最後に貴方と戦えて、恩を少しでも返せて……りがとうござ……ました…レイヴンを…よろしくお願いしま……スケアク……」


 ……


 ウォーデンの言葉が本当なのか嘘なのかはわからないが…体の奥底に炎が灯った気がした。


 顔の傷も腕の傷も治り、右腕の感覚も元に戻る。


「……胸糞悪いんだよ…」


 気付けば廃屋の中に一面の彼岸花が咲いていた。

 その中心で横たわるウォーデンは紅い揺りかごに寝ているようで…そうだな、疲れてるんだ。寝させておこう。


「…俺の方こそ救ってくれてありがとうよ。ウォーデン」


 静かに眠る恩人が起きないように。感謝の言葉だけ告げると廃屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ