死、槍を持ちて進む
ゼウスエンチャントでは太刀打ちできない。赫雷で与えた攻撃も最初の不意打ちじみたものだけだ。
魔力切れになりかけている為か傷の再生は遅くポーションも無い為に回復もできない。
ダウンエリクサーみたく隠しておけば良かったと今更ながらに思う。
「諦めなって」
なんで立ってるのか自分でもわからない。足は震え、声を出そうとするだけで全身に激痛が走る。
これ以上寿命を魔力にすれば死んでしまうし…詰みだ。
「…立っているのがやっとだろ?安心してくれ、スケアクロウ。ちゃんと君が死んだ後にアルマ様も後を追うからさ?」
「…は?」
何を言って…
「魔王に命令されたんだよ。ラプラスの遺児を抹殺して来いって。勿論私だって殺したくない…けど、しょうがないだろ?私だって残った家族を殺されたくはない」
「…は、はは…そうか、あんたは家族想いなんだな」
「至って普通だと思うが?」
「じゃあ、俺は異常なんだな。てめえのことぶっ殺して、てめえの家族が殺されようが…どうも思わねえだろうよ」
「そうだね、他人だからさ」
ウォーデンが拳を構える。どんなスキルなのかさっぱりわからないが…攻撃が通用しないのは理解できる。
ゼウスエンチャントは良くも悪くもバランス型と言える。なんでも出来るからこそこれだけはと秀でたものは無い。
なら、それを補えばいい。防御力なんて捨てて攻撃に特化したエンチャント。戦と死を司る神…
「【エンチャント・夢幻】…」
震える手を胸に当ててスキルを発動する。
ドクンと心臓が脈打ち、初めて自分の身にエンチャントを行った時と同様に…全身が激痛に襲われる。だが、今回はそれだけじゃない。右目が痛い。厨二病的な物ではなく…押さえ込んだ次の瞬間には手の上にどろりとした感覚と腐り異臭を放つ眼球があった。
これでいいんだ。アルマを殺されるくらいなら命なんて要らない。もう何度も葛藤などする必要もない。
「オーディンッ!」
全身から何かが抜けていく様な感覚だった。命か或いは魂か…まあいい。
「はは…ははははッ!スケアクロウ、正直侮っていた。君は私たちの村を救ってくれた時よりも弱くなったと!でも違う!まだ、そんな隠し球を持っていた!」
「そんなのどうでもいいことだ』
右目の代わりにと小さな魔法陣が現れ視界が広がる。背中には魔力で出来た蒼いマントがはためく。
「【武器召喚・神槍】」
アタギ君の使っていたスキルと同じ系列のようだ。
ただ、召喚されたのは弓ではなく槍。シンプルで殆ど装飾品は無く…どこにでもあるような見た目だ。
召喚された槍を持つと吸い付くように手に馴染み…大きさの割には片手で軽々と持てる。アルマのベヒーモスがこんな感じなのだろう。
そして槍の穂先をウォーデンに向ける。
「行くぞ、今度は…いや、今度こそ殺す』
「ああ、ああ!それだ、その眼だよ!あの時俺たちを救ってくれた!あの人間どもへ向けた純粋で美しい殺意!それでいい、それでこそスケアクロウだ!さあ、最高の殺し合いだ!」
負けてたまるか。
ーーーーー
生まれて初めて槍を使った筈だが、まるで長年使ってきたかのように使いこなせる。
しかも長物なので懐に入られたまともに動けないと思えたが…出来る。まるで全てを見通してるかのように。
「【ブラッドデストロイヤー】!」
そしてもう一つ分かったこと。それはウォーデンのスキルだ。
名称は不明だが血液を自在に操るスキルは恐らくレイヴンと同じ物なのだろうが…正直に言ってしまうと格が違う。
血液で作られたガントレット…しかも、あれに触れりゃ再生能力も一時的に封印される。
ウォーデンの連撃を槍の柄でいなし、足払いをする。しかしそれも読まれていたのか跳躍する。
負けじと跳躍しウォーデンに近付き槍を突き出すと右足を犠牲に顔面へと拳を叩き込まれた。
「ぐっ…」
「はっはっ…はははは!」
お互いに距離を取る。
オーディンの弱点は防御力の無さだ。先程から何度も打ち合っているが…正直、ウォーデンのように楽しんで戦ってるわけではないので全身に蓄積された痛みと折れた肋骨等でもう泣き出したい。
「凄い、凄いよスケアクロウ!あんたまるで戦神だ!俺の攻撃が通用しない!」
「はっ、舐めんじゃねえ。マジの戦神をエンチャントしてんだ』
「そうか…ああ、堪らない。なんてことだろうか、祖父よ感謝します。貴方の言いつけを守ってきた甲斐があった」
ゴキリとウォーデンが一度首を鳴らすと見たこともない構えをとる。いや、別にそんな武術とか詳しくないけど…少なくともわかるのはその構えは防御が出来るのかと疑問に思った。
右の拳を突き出し、左手は突き出した右拳に重ねる。
「スケアクロウ。俺…いや、私はまだまだ楽しみたい。君との闘争を、君との命の削り合いを…」
「あ?』
「【禁式・血戦魔装】」
ウォーデンの全身から血液が溢れ出てくると彼の体を包み込み紅い鎧へと姿を変える。
見た目こそあの時の鎧モドキなドラゴンより無機質にした感じだが…アレよりも気圧される。
強さはドラゴンよりも弱いかもしれないのに…奴と違ってウォーデンにはスキルだけじゃ無く培ってきた技もある。
『キィィヤァァァァァァァッッ!!』
「っ!?」
ウォーデンが天を仰ぎ金切り声を上げ突っ込んでくる。
速さ自体は先程と変わらなく読めるが…
「っつう…』
突き出された拳をいなしても槍を握っていた手に残る痺れる感覚。そして槍で斬り付けても内側には届かずに即座に回復をされる。
『マダダ、マダマダマダッ!楽シイ!スケアクロウ!モットモットダ!』
「ッ!?」
拳が速くなった!?
避けきれずに頬をかするとパックリと裂けて血が溢れ出す。そう時間もかからずに俺も全身真っ赤に染まりそうだ。
だが判断力は欠如してるのか横薙ぎに槍を顔面に叩き付けてやるとぶっ飛んでいく。それでも無傷なようでピンピンしてやがる。
何か手はないか?このままじゃジリ貧で負け…
ぼうっと無いはずの右目が熱くなり、魔法陣が輝く。
頭の中に何か文字が…いや、そうか。そう言うことか。
「いいぜ、お互いに出すもん出しきって…本気でぶっ殺し合いだ』
槍の穂先に左手を重ねる。
「刻印付与ᚺ』
槍の穂先に魔法によって破壊のルーンが付与されると、禍々しいオーラが槍から出始める。
これは恐らくパッシブスキルなのだろう。流石、オーディン。マジで神。神だけど。
『オォッ!』
ウォーデンが再び拳を突き出してきた。
だが生憎かな、その攻撃は読めていた。
本来槍は突く武器ではあるがなぜかいけると思い袈裟懸けにウォーデンを斬り付ける。
『グギッ!?』
「ははっ、痛えか?まだ殺り合えるんだろ?ほら、来いよ』
『ケキッ…クキャキャキャ!』
腹の底から笑ってるのだろうけど不気味すぎる。鎧の顔の部分から覗く青白い光が細くなってるし、
ウォーデンも防御を捨てたのだろう。顔と腕以外の鎧は全て消え、代わりに両腕のガントレットがより肉厚で重く変化していく。
槍を構えて迎え撃とうとするが一瞬で目の前から消えると上から叩きつけられた。
頭が割れて目の前が赤く染まる。脳が揺れて思考がまとまらない。
ダブルスレッジハンマーだったか?ともかく、頭部へのダメージで一瞬動けなくなり顔面を蹴り飛ばされる。
『スケアクロウゥゥゥッッ!』
「だか、ら…誰だってんだよ!」
起き上がり視界も足もおぼつかないが…最後の力を振り絞り槍を投擲するとウォーデンに簡単に避けられてしまう…無駄な足掻きだ。
必中の槍を前にすれば防御も見切りも無意味な事。
飛んで行った槍は意志を持つかのように空中で軌道を変えてウォーデンの喉を刺し貫く。
『ゴヒュ…ゲ…』
それが止めになったのか、或いは本当に限界が来たのかは知らないが…顔面と両腕を覆っていた紅い鎧が体へと吸収されてしまう。
「は、は…強い…やっぱりあんたは…勝ち目…ない、や…」
「さっきから言ってるが…俺はスケアクロウじゃねえからな?』
「……どう、でもいい」
隠しもっていたのであろうポーションをウォーデンが飲む。それでも喉に開いた傷や肩から胸にかけての傷は治らない。
破壊のルーンの傷は余程の事がないと消えはしない。
それはそうと喉貫いたのによく話せるな。
「最後の1発…だ…」
喉から溢れ出た血液が右手に集まるとウォーデンが構える。
しかしその拳が振るわれる事は無かった。
巨大な戦鎚が目の前で振るわれウォーデンがぶっ飛ばされるとそのまま動かなくなる。
見知らぬ奴だ。誰だこ─
次の瞬間には俺の前にも戦鎚があり、咄嗟のことで避けることもできずに…
ーーーーー
「魔王の四天王と〜大罪人の首ゲットォ〜」
間の抜けた声を上げながら、その戦鎚を振っていた物は今しがた気絶させた2人を大事そうに抱え込む。
「おや、終わったのかい?」
「もちろん〜」
「速いね。流石は王国が誇る処刑人の1人だ」
声の主人…メルカは処刑人と呼ばれる男からアクトを渡されると懐から魔石を取り出し押し当てる。
すると目が潰されるほどの輝きが魔石から放たれて…そして消えた。
「ふふ、ありがとうね。アクト君。これで本当に君は用済みだ。君のスキルは我が国の為にありがたく使わせてもらうよ」
大事そうに魔石をしまうと次にそこら辺で伸びている勇者共を見る。使えない連中だが…まだ、我が国の為には働いてもらわないとな。
「ユーリ、治療を頼んだよ。四天王を倒した勇者様方が死んでしまったら大変だ」
「お任せください」
まさかここまで順調に計画が進むとは…我ながら自分の先読みの才能が恐ろしい。
「罪人達は監獄に入れるなり、捨てるなり好きにしていいよ」
「ありがとうございます〜」
メルカは漏れ出しそうな笑いを必死に止めながら、待たせている馬車へと向かった。




