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たとえ此の身が砕けようとも



「ッ!!!」

「なんだっけ…ああ、【ライトニングブレイク】?いい名前だと思うけど…いかんせん名前負けしてる気がするね。スキルの練度はどれくらい?相当低いよね、それ」


 本気の一撃は魔族の手によって軽々と打ち払われ、代わりに腹部に生まれた衝撃は目を白黒させて気付けば壁に減り込んでいた。


「ガハッ…!?」

「勇者と言う名は、勇気ある者という事だ。別に選ばれたわけでもなんでもない。夜中に1人で小便にも行けないガキが勇気を出して1人で小便してくりゃそれも勇者だ。まあ、君らはは勇気というよりかは無謀なだけな気がするけど」

「…【神速拳】」

「【次元斬】!」


 エイジとツバキの息のあった攻撃。2人が正式に恋人通しになったあとに更に磨きがかかったものだ。


 名前の通り神速の速さで撃ち放たれた拳は一撃でそこらにいる魔物を肉片に変える程の威力だ。しかもそれをMPの消えるまで永遠に撃ち続ける。


 そしてツバキの放った次元斬…これは、斬りつけた対象を未知の次元へと飛ばす技…だが…


「ふむ…異世界から来る人間は大抵強いと聞くが…なんだその体たらくは」


 神速の拳に対抗するどころかそれよりも速い一撃をエイジの顔面に叩き込んだ挙句に殴り飛ばされかけたエイジの足を掴むとツバキに向けてエイジを投げる。


「きゃっ!」

「…ぐ、ぅ…」

「2人とも下がって!ノリコお願い!」

「は、はい!【エンチャント・魔法強化】!」

「くらって!【アルスマギカ】ッ!」


 ウォーデンの上に巨大な炎の塊が生まれる。否、あれは最早炎どころではなく、一つの恒星にも見える。


 サツキとノリコが作り出した最高にして現パーティーで1番火力がある攻撃だ…あれをまともに食らえば…


「…ははっ、」


 ウォーデンは落ちてきた恒星に吸い込まれる。

 既に僕らの前にはサツキが魔法障壁が張ってあるので炎が消えるまで待っていればいい。


「アルスマギカ…なるほど、魔法を作り出す魔法か。だがいかんせん、想像力が足りなかったみたいだね。ただ巨大な炎の塊だ。それ以上でもそれ以下でも無いにしろ…此の程度かって非常に残念に思うよ」


 無傷だった。あのっても攻撃を直撃してもか!?


「ッ!?化け物!」

「おや、女性にそう言われても別に私は何も嬉しく無いが…そうか、化け物か。ふふ、私からしてみれば君らの方がよほど化け物だよ」

「どこがだ!お前らがどれだけ人を傷つけたと思っている!罪なき人の命を奪ったと思っている!」


 言うに事を書いて何を言っているんだコイツは。此の世界を混乱に落としていれている魔王の部下だろ?ふざけるな。何を言ってる、何を笑っている。


 戦闘中だと言うのに腹を抱えて笑うウォーデンを見て言い知れぬ恐怖を感じ─


「ふざけるなよ、人間」


 ゾクリと、まるで生身のナイフを首元に押し付けられたかのように、ただの一睨みでウォーデン以外の誰もが動けなくなった。


「罪の無い?ああ、そうさ。私は魔王に命令されて女も子供も老人も生まれたての赤子だって…勿論、お前らみたいな(おだ)てられただけの弱者も大勢殺した。

 だがな、人間。お前らも同じだ。お前らはいつも私たちを迫害する。たかが角が頭から生えてきてるだけだ。お前らと同じで家族も恋人も友人もいる。中身だって同じだ…なのになぜだ?どうして私達を殺す。お前らは一体いつまで被害者ヅラしてるんだ?」

「なっ…!?」

「今の魔王のやり方は気に食わない。邪魔する奴は殺す、それを支持した者も、それに関わった人間を全員殺して…魔王に歯向かう者がいなくなれば魔族が住みやすい世界になるって本当に信じてるからな」

「……」

「それは結局の所で遺恨しか残さないしな…だが、私はそれに従う。

 だって、お前らは歩み寄ろうとしない。私達を敵として最後の1人になるまで殺し続けるだろう」

「お前は…お前は絶対に生きてちゃいけない奴だッ!みんな、神具の開放だ!」


 メルカから聞かされたこの装備の本当の状態。使えば暫く体が動かなくなるほどの負荷がかかるが…今ここでコイツは殺さないといけない。そう、勇者としての使命感が改めて生まれる。


 だが…勢いよく開けられた扉からとてつもない速さでウォーデンを殴り飛ばした人影がいた。


「てめえが…」

「ペッ…ははっ、レイヴンを殺して来たか」

「生きてるよ。外にいる」

「コダマ…ッ!?」

「生きていたの?」


 無能だ。何一つ出来ないあの雑魚が…いや、違う。


「そうか…僕らのピンチに遂に真の力がッ」

「…喋んな」


 いつ攻撃されたなんてわからないが…僕の意識は一瞬で消失した。



ーーーーー



 何を言ってるんだコイツはと思った。この期に及んでまだ自分に都合よく物事が進むとか思ってんのかよ。アホらしくて普通に蹴っ飛ばしちまった。


 だが、別にこんな奴らクソ程どうでもいい。


「まさかよ、こんな所で会えるとは思ってなかったぞ、ウルド」

「…ウルド?…はて?私は何か君にしたかな?あっ、もしかしてあの時殺した女の息子?それともあの時泣き叫んだガキの恋人?それとも頭を裂いて殺した少年の友人?」

「…アルマを覚えているか?てめえが角片方切った前魔王の娘だ」

「うーん…と言うかなんで私がウルドと?」

「てめえの弟が教えてくれたぞ」


 何やら不思議そうな顔をしていたが「ああ、レイヴンが」と頷くと納得したようでニヤける。


「思い出した、思い出した。アルマね、うん。楽しかったよ。泣き叫んで失禁して…堪らなかったなぁ。あっ、もう一本残ってるでしょ?また切らせてよ」


 頭の血管の切れた音というのを初めて聞いた気がする。


 気付けばウルドを殴り付けていた。勢いよく飛んで行ったウルドに瞬間移動で追いつくと、と地面へ叩き付け馬乗りになり顔面を殴る。何度も何度も何度も。自分の手がウルドの血か、切れて出てきた血か分からなくなるほどになるまで─


「ッ!?」

「ははっ、調子に乗りすぎだ」


 パンパンと埃を払うウルドが見えた。なんだこれ、どうなってんだ?浮いてる?


「躾のなってない手は…砕くしかないな」

「ぎっ、ってえなぁ!」


 本当になんの前触れもなく手が砕けた。文字通りにぐしゃりと。


「無能…いや、コダマ!今治療するから!」

「寄るな!誰がてめえらなんか信用できるか」


 殴ったからか?ならカウンター系のスキル?或いはこの血液?レイヴンも似たような能力だったし…兄弟だとするなら…いや、今はいい。


「【クラウノス】!」


 目の前が光に包まれる。そろそろ打ち止めだ。これ以上無理をしたらまた命を…いや、いい。たとえ削ったとしてでもコイツを…アルマを傷つけた奴を許さない。


「赫雷!』


 感情が昂っているせいか、蒸発した両腕の代わりの赫い雷の義手は辺りに破壊的な雷を放出している。


「スケア…クロウ?」

「だから、誰だってんだよッ!』


 軽く前方に跳躍するだけでもウォーデンの懐へと入れる。

 

 今度は本気だ。もう後のことなんて考える必要もない。思い切り、腕が千切れてでも!


 ウォーデンの腹に突き刺さった拳は…堅い感触と共にそれ以上進まなかった。


「びっくりした。わあ、スケアクロウだ。なあ、私のこと覚えてないのか?ほら、ザタ村にいたあの生意気なガキンチョ─」

「ッ!!』


 今度は回し蹴りをするがそれすらも簡単に掴まれてしまう。


「どうしたんだスケアクロウ?君…こんなに弱かったのか?」

「うるせえ!いいから黙って死ね!』


 手が緩んだので距離をとると魔剣を引き抜く。ゴブリンロードのクォルタの首を斬り落とした時と同様の圧縮された炎が刃へと姿を変える。


 このまんま首を…


「…嗚呼、なんて世界は無情なんだ。たったの10年で貴方はこんなにも弱くなってしまった…」


 体勢も悪いがそれ以上に本気で振った剣もまた簡単に掴まれてしまった。


「スケアクロウ。これ以上貴方の無様な姿は見ないよう…せめて、私が楽にしてあげるよ」

「てめえっ、離しやがッ、ゲッ!ガ…」


 腹部に刺さったウォーデンの拳は内側の柔なモノを握り潰す。何処を潰されたのかはすぐに分かった。何せ一瞬で呼吸が出来なくなったのだから。


「…よくやった無能。お前が気を引いたから─」

「ベラベラと喋ってる暇があるんならさっさと攻撃でも仕掛けなよ。余程君の方が無能だ」


 不意打ちのつもりだったのだろう。だが、エイジの顔面にウォーデンの裏拳が突き刺さるとそのまんま壁に叩きつけられエイジは動かなくなる。


「エイジッ!」

「はぁ…羽虫の相手も楽じゃない」

「ゴッ…げっ、あ、か、ひゅ」

「長苦しませたくは無いけどさ…せめて人生で良かったことを思い出してよ。走馬灯ってやつ?」


 なんでだ、ベルセポネの再生が始まらない。なんだこれ、息出来ない。やだ、助けて。死にたく無い。

 どこかで人間が呼吸できなくなってから3分で死ぬと聞いた。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。死にたく無い。アルマ。助けてアルマ。俺、こんなところで…


 段々とボヤけてきた視界とボーッと脳が思考を停止していく。

 

 死にたく…ない。



ーーーーー



 ウォーデンは内心呆れていた。不意打ちのやり方も知らない馬鹿に、たかが男が死にかけただけで慌てふためき何もしてこない女。戦場に来たのなら男も女も老人も子供も関係ないと言うのに…コイツらはなんなんだ?なんの覚悟もなく、煽てられるがままに私のところに来た。


 …まあ、いい。すぐに楽にしてやろう。


「ひっ、やめ」

「っ、離れててサツキ」

「ああ、そういう目はやめてもらえる?まるで私が弱いモノ虐めでもしてるような気分になってくる。自分で喧嘩を売っておいて…」

「黙れ!私は、私たちは選ばれし─」


 はぁ…洗脳でもされているのか?


 サツキとか呼ばれていた女の顔面を蹴り飛ばす。それから数秒してやっと自分たちが攻撃されたのだとカタナを引き抜くが…遅い、遅すぎる。


「君らが無能と蔑んだスケアクロウの方が…君らなんかよりもよっぽど強かったよ」


 次の女はピタリと鼻先に拳を向けると白目を向いて倒れた。呆れた。恐怖で失神したのか…しかも…


「まあ、借り物の城ではあるが粗相されたらあまりいい気分じゃないかな」

「……」

「…で?君は?どうする?」


 最後に残された奴は…スケアクロウを守るつもりなのだろうか両手を広げ彼を守っていた。


「少しでも恩を売っておきたい?それとも…別の感情でも持ってるの?」

「そんなんじゃ!」

「どちらにせよだ。ギャーギャー喚かれるのが煩いし、レイヴンの玩具にでもなってもらおうかと君らは気絶させてる。だけどスケアクロウはここで死ぬ」

「っ!?」

「それに、仮に生き残ったとしても…彼の目に映るのは君じゃないよ?」

「そんなの…そんなの、まだわからないじゃないですか!」

「わかるさ。スケアクロウは記憶の無いカカシって事で、旧魔王軍の間で皮肉としてそう呼ばれていたんだからな」


 しかし、この人も人間なのになんで10年経っても見た目が変わっていないのだろうか?もしかして混血?まあ、いいか。


「そんな記憶を無くして何をするってわけでも無いけどさ…アルマ様のことだけは覚えてて、彼女に仕えていた。たった1ヶ月と言えどね、そこの人はアルマ様に忠誠を誓っていたんだ」

「……」

「だから、どれだけ君が魅力的だったとしても、どれだけ魔法によって洗脳したとしても…彼の瞳に君が映ることはない」


 最後に残った奴を精神的に追い込むのは自分の悪い癖だと自覚はしているが…いかんせん、やめられないな。


 膝をつきどうとでもなれという顔になった最後の1人を蹴り飛ばす。これで終わりだ。


「勇者に賢者。拳聖とサムライ。それとプレゼンター…かつての召喚された勇者どもと全く同じ構成だけど、運命の悪戯かな?或いはあの国はそうなるようにしてるとか?」


 戦闘のために投げ捨ててしまった本を手に取る。

 流石に自分と違ってこれは普通にある物なのでページが燃えていたり破れていたりした。


「…残念なことだ。気に入ってんだけどな」


 折角探したのだが、読めなければどうしようもない。本を放り投げる。


 さて、と。サボってる愚弟を迎えに行くかな。


「…?ああ、なるほど。そう言えば君は魔法付与師。エンチャントは死んでも消えないんだったね。それにしたって一体どうやって生き返ったわけ?」

「ゲホッ…くっ…」

「ああ、なるほど。スケアクロウ、もういい、やめよう。命を魔力に変換したのか…そこまでして戦うことはない。いや、まあ今殺そうとしてたのは事実だけど」

「うるせえ…殺す。絶対にてめえを…」

「しつこい」


 腹を蹴り飛ばすと他の連中同様に壁に叩きつけられ…いや、そこら辺は他の連中なんかと違い立ち上がった。気絶しなかったようだ。


「…はぁ、ふざけないでくれよスケアクロウ。もう君じゃあ私を倒せない」

「知る…か…あと、俺は…スケアクロウじゃね…え…」

「まさかまた記憶を無くしたの?大概にしなよ」

「知らねえ…人間の事なんざどうでも…いい…」

「そう?それは残念だ。あっ、ところでアルマの居場所は?前魔王の忘形見なんて現魔王からすれば邪魔な遺物だからさ…殺して来いって言われたんだけど」


 …ああ、レイヴン。なんて兄思いなんだ、君は。最高じゃないか。よく君が我慢出来たね。ぶっ殺されてでも喰らい付いて離しそうにないのに。


 わざわざウルドとか言う前任者の糞ゲス野郎の名前を名乗って良かった。

 卑怯で傲慢で自分で手を出さないし、挙句に趣味が弱いものいじめとか言う最悪のゴミだけど…今日生まれて初めて君に感謝するよ、ありがとう。

 君の名前のおかげで…こんなに楽しそうな奴と出会えた。


 笑みが止まらない。今目の前の人間は明らかに先ほどまでとは違う。激しい怒りに包まれている。

 それで強くなれるなら…ああ、最高だ。楽しい時間を過ごせそうだ。

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