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赫き雷霆



「ひゃはッ!」

「しつけえんだよ!」


 お互いに1発ずつ、顔面や腹を殴り吹き飛ばされては相手にやり返しての繰り返しだ。

 生憎と傷の方は即座に治るが…魔力の消費が激しい。


「おーしっ。覚えた!コダマ!」

「なんだよ」

「お前は強ええ!固えし、痛えしで最高だ!」

「ああ、どうも」

「準備運動のゲームは終わった!こっからマジのぶっ殺し合いだ!」


 ベリベリと何かを剥がす音がする。見ればレイヴンが指先から腕の皮を剥いでいた…否、精巧に出来た皮膚とでもいうべきか。


「コイツは言っちまえば俺の力を抑えるモンだ」

「……」

「ジョーダン。ただ、見た目が悪いから貼ってるだけだ」

「ああ、そう」

「マオー様に俺たち兄弟雇われるまでよ、そこら中で喧嘩三昧だったが…つまんねえんだよ。どいつもこいつも口先だけだ。あの勇者どもみてえにな。

 だが、てめえは違う。間違いねえ、俺が本気でぶっ殺しても死なねえ!てめえは殴っても、蹴っても、裂いても、潰しても!てめえは俺をぶっ殺してくれるッ!」

「後半どうかは知らねえがよく…俺は戦いに来たんじゃねえんだわ」

「じゃあ、今は戦わなくていい。だが…てめえがやる気が出るようになるまで俺はてめえの周りの人間を殺す。女か?ダチか?それとも家族か?なんだっていい、頭捻じ切って玩具にしてやるよ」


 ……何?今なんて言いやがったコイツ。殺す?誰をだ?


「ほら、もういいからさっさと帰れよ。てめえの魔力はもう覚えた。何処にいようが必ず探し出して大切なもんぶっ壊しゃあ…やる気でんだろ?」

「…殺すぞ?」

「ひゃはっ。ああ、殺せ!ぶっ殺せ!俺に最高の死を寄越せ!コダマァァァッ!」

「上等だクソ野郎がッ!!」


 瞬間移動でレイヴンの懐に入ると腹を思い切り蹴り上げる。少し宙に浮いたレイヴンの顔面に拳を叩き込み殴り飛ばした…!?


「いいね、そうだ、そうだ、それだぁ!」


 口から血反吐を吐きながら、鼻血を出しながら…レイヴンは俺の頭を掴んでくる。咄嗟に体を電気化するが…どうやらレイヴンのスキルなのか、或いは剥がした皮の下の腕のせいなのかは知らないが…メキメキと音を立てて頭蓋が割れるほどの痛みが走る。


「ぐっ…離しやがれ!」

「ひゃはっ、離すかよ!楽しもうぜ!コダマァァッ!」


 ゴガン!と音がした。肺の中の空気が全て口から溢れ出た。

 レイヴンの馬鹿力で何度も壁や地面に叩きつけられると投げ飛ばされる。


 壁を何回も破壊しながらもなんとか体勢を立て直した瞬間目の前にレイヴンの足があった。


「オラァ!」


 顔面に刺さるヤクザキック。首から変な音がした。

 そして再び襲いかかる浮遊感と顔面の痛み。


「くっ…」


 受け身を取ってなんとか立ち上がるとかなり城から離されていた。


 殆どスキルを使ってないのに魔力がもう空っぽだ。再生に使いすぎた。


「まぁだ!俺の番だぜぇ!」

「チッ!【クラウノス】!」

「てめっ─」


 再び現れたレイヴンに残る魔力全てを使ってスキルを撃ち込んだ。

 その隙にマナポーションを飲む。ダメだ、相手のペースに飲まれるな。魔剣を使え、スキルを使え。こんなところで死んでたまる─


「はっはぁ…いいゼェ?なんだって良い。スキル、武器、ポーション。使わねえとつまんねえからなぁ」

「ガッ…グギ…」

「苦しいか?辛いか?だが、まだだ…まだ、もっと、更に!俺を楽しませてくれよ、なぁ!コダマ!?てめえはもっとやれる!限界なんざ捨てて俺を殺せ!」


 あれ喰らってほぼ無傷どころか抜け出した挙句に首を掴まれて宙に浮かび上がった。どんだけ馬鹿力あんだよ。


「俺をもッッッッッと、楽しませろッ!」


 メキメキと身体中から音がする。握り潰された首に加え押さえつけられてるせいで呼吸もままならない。


 そして再び投擲される。何度も全身を地面に叩きつけながら。


 死ぬ…死んじまう…死にたくない…やだ、助けてアルマ。


「…おー?んだよ、またダメか?ははっ、どうなってんだろこれ」


 痛みは全身に広がってるのに…身動きが取れない。

 それに変だ。なんで今、俺の目の前に俺の足があるんだ?折れた?


「もうちょい強かったらなぁ…サンドバックじゃなくなってたのに…まあ、でもいつもよりかは楽しかったぜ?コダマ」


 死んでたまるか。こんなところで死ぬくらいなら…もう2度と右腕が動かなくなったっていい。


 上空から最後の力を振り絞り雷霆が落ちてくる。

 それは俺を再び包み込む、全身を焼く。最初に消えたのは両腕だ。あの時と同じように、それでいてあの時よりも早く。まるで分かっていたかのように。


「ッ!?」


 動くようになった体でレイヴンを殴り付ける。腰が入っていなかったせいか、ガードされて少し後ろに下がらせる程度だった。


「なんだそりゃ?なあ、もしかして?もしかしなくてもか?なぁ、なあなあなあ!そうだろ!てめえはもっと!俺を喜ばせてくれんだな!?なあ、コダマ!」

「ごちゃごちゃうるせえんだよ!殺されてえなら黙って殺されやがれ!』


 赫い雷霆は両腕を作り出す。あの時とは違い体には密着せず肘の辺りからほんの少し浮かんでいる。そのせいか体が蒸発しない。それどころか…あの時と比べて明らかに使いやすい。

 もしかしたらこれが本来のゼウスエンチャントの姿なのかもしれない。


「顎砕いて2度と話せなくしてやるよ』

「いいねえ、最高だぜ!」


 再び拳を構える。今度はサンドバックになる気はない。



ーーーーー



「ひゃひ…ゴフッ」

「どんだけスタミナあんだよ!』


 血反吐を吐きながらでも跳んで、走って攻撃をしてくる。


 さっきと比べれば多少は動きも見えるようになったが、それでも攻撃を食らえば致命傷だ。


 赫雷の腕での攻撃は触れるだけでそこを火傷にするせいか既にレイヴンの全身は火傷だらけだ。それなのにコイツは倒れようともしない。


 最早移動するだけでも辺りに破壊的な電気を撒き散らすがそれも難なく見切られるが…元からそのつもりだ。

 避けた所で此方は自由に動き回れるので腹部に思い切り拳を何度も叩き込み、前屈みになったレイヴンの顎を勢いのまま蹴り上げる。


「ガッ…ペ…」

「死ね』


 止めにと瞬間移動でレイヴンの上を取りかかと落としを食らわせる。


 地面に巨大なクレーターを作りレイヴンが叩きつけられる。


「……マジかよ』


 それでも尚、動いていた。


「爺さん…見つけた…ぞ、俺の本気…行ける、まだ…俺はまだ殺れる!」


 ドクンドクンと心臓の音がうるさい程に聞こえてきた。


 その直後から変化が起こる。黒ずんでいたレイヴンの腕には真っ赤な血管のようなものが幾重にも張り巡らされる。心臓の拍動音と同時に脈打ち、遂には指先まで真っ赤に染まり…まるで今の俺のようだ。


「オォ…オオオオォォォォッ!!」


 咆哮する。その声は戦闘への喜びにも聞こえて…同時に畏怖する。そこまでして戦いたいのかと、その時初めてレイヴンが魔族ではなく鬼に見えた。


「ッ!?消え─』


 一瞬レイヴンの咆哮に気圧されてしまった…そのせいで奴から目を離しときには既に視界から消えており…

 脇腹から聞こえてくる不快な破砕音と灼銅を流し込まれたかのような熱さ。


「ふしゅるるッ」

「ゲホッ!』


 今度は逆に俺が地面へと叩きつけられた。さっきから一進一退だ。


 傷は治っても痛みは残る。それでも気を抜いたら死ぬと降りてきたレイヴンと睨み合う。

 どちらが先に動くかなどではない。ほんの少しでも気を抜けば…今度は顔面に穴を開けられる。

 だが、見た感じだと攻撃方面だけに特化したようで防御方面はそこまででもなさそうだ。


 ならば次で決着をつける。


「クァッ!キィィィィッッッ!!」


 最早言葉などない。叫び声を上げてレイヴンが突っ込んでくる。集中すれば動きが見えた!


「行くぞ、オラァッ!』


 正面からのただの殴り合い。相手の隙を見つけて、弱いところを見つけて殴る。殴り続ける。どちらか一方が倒れるまで。

 ボクシングのラッシュを2人同時に延々と行っているようだ。


「ーーーっ!!」

「まだ…まだァァッ!』


 何度も何度もレイヴンの顔面も、腹も腕も砕いて…それでも勢いが止まらない。

 それは俺も同じだ。レイヴンの攻撃によって右目が潰れ、内臓もスクランブルエッグだ。

 それでも負けられない。クソっ。なんで戦いたくないのに、傷付きたくないのに…痛みなんざ嫌いなのに、こんなに楽しいんだ!?


「【ブラッド…プライドォッッ】!」


 止めのつもりだったのだろう。より赤く、否紅くなった指で貫手をしてきた。その一撃は俺の心臓を指し貫き、そこでラッシュ攻撃も止まる。


「…お、俺ノ…勝…」

「ゴフッ…俺の勝ちだ』


 【エンチャント・夢幻】によって右腕に施されたのはミョルニル。あの時のドラゴンに一時だけ致命傷を与えるほどの威力は無くとも…コイツを倒せればそれでいい。


「ぶっ倒れェ…やがれェェッ!」


 白く染まる世界と拳の一撃は貫手をした結果動けなくなったレイヴンの顔面に突き刺さり、殴り飛ばす。


 宣言通り。俺の勝ちだ。



ーーーーー


 

「ガハッ…ぐっ…ポーションを…早く飲まねえ…と…」


 全身傷だらけの挙句に血塗れで心臓まで貫かれた。

 残ってた魔力でなんとか心臓は再生したがダメだ。出血多量で死んでしまう。


 もう既に5本目だろうか、ハイマナポーションを飲んでやっと全身の傷が再生し始める。


「はぁっ…はぁっ…ふぅ…」


 こんなところでぶっ倒れたら…2度とアルマに会えない。


「……い……げ…ゴポッ」

「…どんだけしぶといんだよ」


 いまだにレイヴンは生きていた。

 ドラゴンの時の威力では無いにしろ、よく形が残っていたなと思う。


 ……


「高かったんだよなぁ…これ」


 ダウンエリクサーと呼ばれるこのポーションは、エリクサーを何百倍にも薄めたものではあるが、それでも大抵の傷は完治するのでハイポーションのさらに上という位置付けで売られている。


 それをレイヴンに飲ませている。え?何してんのって?こっちが聞きたい。


「…あれ?なんか体軽くなってきたわ」

「マジかよ、そんなに効くのかこれ」


 ケチってないで俺が飲めばよかった。と言うか自分で買ったんだからまず自分で使えよ。


「なんだって俺を助けたんだ?」

「知らね」

「…ひゃは、ひゃはははは!なんじゃそりゃあ!」

「うるっせえなぁ…」


 起き上がったレイヴンは腹を抱えて笑い始めた。


「なあ、コダマ。お前名字は?」

「あ?コダマが名字だよ。名前はアクト」

「そうか、アクトってのか。俺はレイヴン=クラークだ。よろしくなアクト」

「お、おう?」

「ほら、お互い何も知らねえだろ?」


 うーん…そうだけど…今更感が凄い。


「いやー、負けた挙句に施しまで貰って…一族の恥晒しになっちまったぜ。帰ったら爺ちゃんに殺されちまう」

「そうか、悪いことしたな」

「まあ、これも時の運ってやつだろ?兄貴がよく言ってたんだ。人間ってのは死ぬ時は簡単に死ぬが死なねえ時はどう足掻いても死なねえって。まあ、俺人間じゃねえけど」

「…ああ、そう」

「あっ、折角だし相棒って呼んでいいか?」

「もういる」

「え?マジで?」


 急に馴れ馴れしいなコイツ。まあ、いいや。ここでしばらく話してよう。


「あっそうか。お前魔王軍だし知ってるよな。アルマ」

「アルマ?アルマってあの、ラプラス様の娘の?」

「そうだけど…」


 あれ?これ言っちゃいけないことか?


 ふるふると肩を震わせたレイヴンを見てそう思った矢先に今度は砕けるほど強く俺の手を握って来る。なんだ急に気持ち悪い。


「やっぱそうだ!お前あん時に俺の村を助けてくれたスケアクロウだよな!?」

「えっ?」

「さっきの俺の【血装】ってスキル!あれあんたの真似したんだ!」

「ちょっと、待て。落ち着け。いつの話だそれ?」

「んーと…10年くらい前だな」

「じゃあ人違いだ。俺がこっちの世界に来たのは1年半前だからな」


 それを聞くとレイヴンは手を離し考え始める。ころころと表情や行動が変わったり忙しい奴だ。


「お前、スケアクロウじゃねえの?」

「誰だそいつ」

「だって、お前のあのスキルは【エンチャント・夢幻】だろ?で、さっきのはゼウスエンチャント」

「……」


 ……?


「なあ、その10年前お前の村?救った時にアルマはいたか?」

「おう、いたぞ。初恋の相手だ。だが、速攻で振られたがな」

「そこは別にどうでもいい。その、スケアクロウってのはアルマに騎士様って呼ばれてたか?」

「おー…そういや、そうだな。確かそんなふうに呼ばれていた」


 スケアクロウ…カカシ?はて、どう言うことなのやら。

 だが、思った以上に俺は騎士様との類似点があるらしい。


「もしかしてスケアクロウの息子か!?」

「違う、違う。俺の親父は純然たる社会のゴミだ。使えねえガキ無視して余生を過ごす屑だ。

 あ、そうか。アルマにスキルの使い方を教わったから…そのスケアクロウってのに使い方が似てるのかもな」


 ガルドさん辺り、もしかしたら知ってるかもしれない。あとで聞いてみよう。


「いやーでも、楽しかった。なあ、次は兄貴と殺ってくれよ。なんだかんだでやっぱり好きだぜー。殺し合い」

「んな、ポンポン命かけてらんねえよ」

「えぇー、でも兄貴強いんだぜ?最年少で現魔王様直属の近衛騎士団長だしよ」


 聞き覚えのある役職だ。


「…なあ、お前の兄貴ってもしかしてウルドって奴か?」

「お?あー…うん、そうだな。ウルドだ、ウルド」


 ニヤリとレイヴンが笑う。どう言う意味なのかは知らないが…そうか…


「…なあ、てめえの兄貴殺してもいい?」

「いいぜぇ。でも、さっきも言ったが俺の何倍も強いからな。注意しとけよ」

「ああ」


 別にダメと言われても殺すつもりではあるが…こんなところでアルマの敵に会えるとは…今日までの連中からのストレスや連中に関わった不幸は今日、この日の幸運のための礎だったのかもしれない。


「…なあ、お前も兄貴を恨んでたり死んで欲しいと思ってんのか?」

「あ?そんなわけねーだろ。だが、俺は…いや、俺の村は揃いも揃ってネジが緩んだ戦闘狂ばっかだからよ。ぶっ殺しあって死んだんならみんな本望だし、俺1人で楽しんだら申し訳ねえだろ?楽しい事はみんなで、だ?」


 ……


「じゃーなー、大将また会えたら楽しく殺り合おうぜ」

「…次会う時はてめえの兄貴の仇になってるかもな。あと、その大将って呼び方やめろ」

「そん時ゃ、もっと楽しめるぜぇ。ひゃははは」


 レイヴンは座り込んだまま止めようとしない。

 

 今心の中で固く誓った。必ずウルドを殺す。どんな卑怯な手を使っても、必ず。

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