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血戦



 朝目覚めるといつもよりもふくよかな感覚があった。

 アルマとは違う桃のような香り…


「…はぁ、だからクソ称号付けられるんだよ…」


 まだ朝靄(あさもや)が晴れてもないし、一応はいつもと同じ時間なのだろう。規則正しいことはいい事だ。だが、今抱きついていた物はなんだ?


「う、うぅ…」


 起こさないようにノリコを離し焚き火の跡を片付ける。

 久しぶりに地面で寝たせいか背伸びをすると身体中から音がする。


「はぁ…早く帰りたい」


 もう口癖のようになってきた言葉を呟くとおかしな事に気づく。


 魔法の袋が随分と軽い。何事かと思って漁ると…買い溜めしといたポーション類が無くなっている。


「…泥棒?いや、なんでポーションだけ?」


 袋にしまっておいた財布も剣も何もかも残っている。ポーションだけ無くなっていた。


「…まあ、いいか」


 もしかしたら世界の誰かの役に立ててるのかもしれないし、忘れよう。


「さて、こいつら起きる前に…新しいエンチャントでも考えておくかな」


 思考は白く染まっていく。ゼウスエンチャントに変わる新たな物を最近考え始めた。これ以上化け物にはなりたくないとフィレム君には言ったが…アルマがピンチになった時、ゼウスで太刀打ち出来なかったらと考えると寒気がする。


「ふむ…ギリシア…それとも北欧…うーん…」


 結局うるさい奴らが起きてくるまで考えはまとまらなかった。



ーーーーー



「おお、城だ」

「なに当たり前のこと言ってんだ。それよりも早く進めよ無能」


 朝食をさっさと済ませ準備万端になっていたが、馬鹿共が朝っぱらから何やら高級そうなもん食ってたので、そのせいで遅れた。


 まあ、いいか。俺は戦わないし。


「なぁ、俺の役目はここまでの護衛じゃねえの?」

「ああ、そうだ。たしかに多少強くはなってたけど…まっ、所詮は無能の域を越えてなかった。どれだけ頑張っても無能は無能なのかね」


 質問に答えろ馬鹿。


「城の中にトラップとかあるかもしれないだろ?行けよ、お前は別にいいけど僕らは世界に選ばれた勇者なんだぞ?お前と違って換えなんて無い」


 どうだか。


 ラケルさんは理論上はあと数人召喚出来るとは言ってたから死んでも何人かは補充できんだろ。


 まあ、渋ってても後ろの連中がうるさいだけなので城へと入る。


 豪奢と言うよりかは洗礼されて無駄の無い感じ。王城みたいなゴテゴテして変な煌びやかさなど無い。なんか迎撃要塞みたいな感じだ。


 そもそも、これどこに進めばいいのかわからないんだが…


「おい、そこは右だ」

「…何?道わかんの?」

「口答えするな」

「へいへい」


 まあ、一度来てボロ負けしてんだし覚えてるのか。


 それから何度も後ろから命令されて十分程…中庭らしき場所に着いた。

 しかも誰1人合わずに。1人くらい敵兵士とかいそうなもんだけど。


 それに広場だって、広いだけで花も何もない。


「…なあ、ここ─」


 なんなんだと言う前に頭にとてつもない衝撃を食らった。

 それはまるであのドラゴンの一撃の如く。ゼウスエンチャントをかけてなければ頭部が砕け散って即死していたであろう。


「…あ?なんだよ、またてめえらかよ。しっしっ、帰れ帰れ。お前らみたいな雑魚となんぞ戦う価値もない」

「ふん、たかがゴミ殺した程度で思い上がんなよ、クソ魔族。あの時の僕らとは違うぞ?」

「どうだか…まあ、いい。これ以上進もってんな─!?」


 いい加減に人の頭に足乗っけて話されるのも気分が悪い。


 突如襲ってき奴の足を掴むと強引に地面に叩きつけ、起き上がりぎわに壁へと投げ捨てた。


「痛えなぁ…鼻血出てきた」

「な、なんで生きてる?」

「あ?あんなので死ぬわけねえだろ」


 と言うか鼻血出た時って下向くんだっけ?上向くんだっけ?


「ひゃは!いいねぇ、そこの雑魚共とは違う!お前は本当の強者だな!」

「冗談。お前の相手はコイツらだろ」


 崩れた瓦礫を蹴り飛ばして襲ってきた人間…否、彼女と同じように角を生やした魔族の少年が姿を表す。

 年の瀬は…いや、魔族と人間で見た目は変わるのか?いやでも…アルマと同じか少し上くらいか?


 アルマのような下曲がりの角じゃない、上へと伸びるような形でしかも二本ともある。当たり前か。


「俺の名はレイヴンだ!てめえは!?」

「コダマだ」

「コダマ!よし、よし。んじゃあ、てめえはしっかりと俺の頭に名前を刻み込めるように…全力でぶっ殺し合いを殺ろうぜッ!」


 ドガンッと音がした。地面を蹴ったのだろう、その場所には大きな穴が空いていた。そして次に横からの衝撃。右フックだ。


 今度は俺がぶっ飛ばされる。


「ひゃは、ひぃはははは!どうしたコダマ!こんなもんじゃあねぇだろ!まだだ、てめえはまだやれんな!?」

「ペッ…ごちゃごちゃうるせえんだよ。その角へし折ってやる」

「いいぜぇ、やれるもんなやってみろよ!」


 面倒臭えとちらりとクロード達を見るとレイヴンが守っていたであろう扉を開けそそくさ中へと入っていった。逃げやがって。


「ああ、気にすんじゃねえコダマ。思い出したぜ、アイツら勇者のくせにクソ弱ええ、なめくじ野郎だ。

 俺にすら勝てねえでピィピィ泣いて逃げ出した奴らだからなぁ!」

「あ?お前が魔王の四天王じゃねえのか?」

「違えよ。四天王は兄貴だ。俺じゃあねえ」

「へえー」


 兄弟揃って魔王軍とな。


「四天王になったのも、魔王軍に入ったのも最近だが…兄貴は俺なんかの倍以上強えぜ?俺にも勝てねえで兄貴だけ討とうなんざ…笑い草もいいところだ」

「それは同感。連中にはあのまんま死んでもらいたいくらいだ」

「おいおい、仲間死んだら普通悲しむんじゃねえの?」

「悲しまねえよ、あんなクソども。とっととくたばんのが世界の為だ」


 本心だ。と言うかマジで死んでくれと切に願ってる。


 するとレイヴンは腹を抱えて笑い始めた。


「ひぃ、ひぃゃははははっ!最高!なあ、お前最高だよ!うん!きっといい戦友(ダチ)になれそうだ!」

「そうかよ、俺は角生えてる友達は生涯1人でいいって決めてるからな。断らせてもらうわ」


 拳を構える。ゼウスエンチャント全開でもいい気がする。ドラゴン程の気迫はなくとも…コイツはやばいと心が訴えてくる。


「行くぜコダマ!最高の殺し合いの始まりだァァッ!」


 戦いなんて嫌なのに…どこか高揚感を隠せずに、レイヴンとのステゴロを開始した。



ーーーーー



「多少は耐久力も上がってたみたいだね」

「…蛮族は蛮族同士で殴り合うのが1番だ」

「もしかして怒ってる?そういやエイジも昔喧嘩に明け暮れてたって言ってたけど…アイツに…おっと、ごめん」

「…気にするな」


 あの無能がどこまで役に立つかは知らないが…まさか、アイツの足止めをしてくれるとは助かった。


「みんな怪我は?」

「大丈夫です」

「問題ないわ」

「……」


 見た感じだと誰も外傷を負ってないが…


「ノリコ…?」

「あ、あの…コダマさん大丈夫でしょうか?」


 何言ってるんだと一瞬理解出来なかった。だけど、数秒後にはみんな笑っていた。


「ははは!ノリコ、ありがとうね。うん、僕ら緊張してた。だけど大丈夫だよ。絶対に負けないから」

「冗談じゃありません!」

「…ノリコ?何を言ってるんだ君?メルカさんに言われただろ?アイツは別に死んだっていい奴だ。まあ、死体からスキルを奪えるのかは不明だけどね。ははは!」

「わ、私、コダマさんを助けに行って─」

「駄目よノリコ。無能と違って貴女には貴女のやるべき事があるのだから」

「離してくださいツバキさん!」


 何を言われたのか知らないが、すっかり奴に洗脳されてしまったようだ。可哀想なノリコ。


 サツキに合図を送ると解除魔法をノリコに撃ってもらう。これで一安心だろう。


「さて、防具に着替えて…最終決戦だ」

「最終決戦というのは、終わりという事だ。

 おかしいとは思わないかい?君らはまだ魔王にすら近付いてないのに」


 急いでいた為に気付かなかったが、奥に誰かが本を読みながら座っていた。


 魔族特有の角があるが…外の奴よりもヒョロヒョロしてたり眼鏡をかけてるせいか弱く見える。


「あ、あー…着替えるなら早くしてくれたまえ。私も、もう少しでこれを読み終える」

「…お前が不意打ちをしてこないと言い切れないだろ?」

「ははっ、冗談を。その気になれば気の抜けてた君らなんて即座に殺せてたよ」


 冗談言ってるのはお前だ。

 どういう能力なのかは知らないが…怖くて今まで縮こまっていた癖に、今頃になって話しかけてくるとは。


「早くしたまえよ勇者。相手をしてやるのだから」

「随分と舐めてるようだが…悪いけど僕らはお前が命乞いをして来ようが、どれだけ良い取引を持ちかけて来ようが…お前を殺すからな?」

「……」

「チッ…」


 一瞥すらしてこなかったが…どうやら本当に本を読んでるらしい。まあいい。


「各々メルカさんに貰った防具に着替えてくれ。

 ノリコ、もう調子は大丈夫か?」

「…はい」

「そうか…大丈夫、僕達が負ける事なんてないから」


 優しくノリコの頭を撫でてやる。

 それから魔法の袋に入れてあった神々しい光を放つ装備を着る。

 ステータスなど見なくとも分かるほどに身体中から力が溢れてくる。


 そして全員がその装備に着替え終わった。

 勇者、賢者、拳聖、サムライ、プレゼンター。正直言って今の状態に更にメルカから貰った装備。神にエンチャントされた剣。無能が今戦ってる僕達と相性の悪かった奴もゴミのように簡単に勝てる。

 最強のパーティーだ。


「…ああ、終わった?どれどれ…よっこいしょ」


 立ち上がった魔族を見て改めて弱そうだと感じた。

 剣を持っただけで折れそうなほどの腕だ。それに身長もあるせいか背の高い木のようだ。


「さて、自己紹介でも。私はヴォーダン=クラーク。見ての通り魔族で歳は24歳。それから、好きな物は─」

「【レジェンドスラッシュ】!」


 何やら急に語り始めたので無視して攻撃を仕掛ける。


 それを開戦の合図に各々が持ちうる全てのスキルを持って攻撃を行う。

 所詮は魔族。人類の敵。勝つのはいつだって僕達、正義の味方だ。

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