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旅の開始



 勇者様と言うのは随分と優遇されてたんだなって改めて思った。

 あんだけ嫌だった馬車も冒険者やってきた今ならわかる。流石に目的地までとは行かずともその近くまで乗せていってもらえるのはありがたい。


 まあ、なんか俺を馬車に乗せるか否かで揉め事になっていたらしいが流石に効率が悪いとかになってやめになったみたいだ。


 で、現在は広大な平原のど真ん中。チラチラと魔物は見えるが襲ってくる気配は今のところはない。


「食料用に、武器用、それに睡眠用に医療班って…はは、凄いですね」

「ええ、まったく」


 因みに俺は武器用の馬車に乗せられている。武器には触れるなと言われてるが、触りたくもない。

 それにあの連中と同じ空気を吸わなくていいだけで有り難い話だし、御者の人もこの間学園まで乗せて行ってもらった人だから気分が楽だ。


「どうでしたか?久しぶりに皆様と再会したご気分は?」

「最悪と言う言葉を煮詰めて生ゴミにソースとしてかけて食わされてる気分ですよ」

「独特な表現ですな」


 何言ってんだお前とか言わない辺り、本当にこの人いい人だなと思う。


「これから3日ほどでウォーデン領に入ります。そこからは徒歩で更に半日ほど…大変だとは思いますが、ご健闘を祈っております」

「…世界が貴方のような人ばかりならいいのに」

「自慢ではありませんが、私は随分と平凡な人生を送って来ました。皆が皆平凡な人生を送っていれば、この世界は平和でしょうが、さぞつまらないでしょうな」

「何も無いつまらない人生ってのは、それだけで価値があると思いますがね?」


 ここにアルマもいれば…とか思ったが、あんなクソどもと顔を合わせたら気分悪くなるかもしれないからやっぱりやめておきたい。


「やはり冒険者家業ならばこの様な場所によく?」

「まあ、依頼によってですかね」

「ふむ…危険なので?」

「どちらかと言うと森とかの方が危険なイメージが強いですかね?ほら、木とか使ってアクロバティックな行動してくる奴が多いので」


 それでなくても木が生えて狭いのだから戦いにくいし、レーヴァテインを考え無しに振れないからしんどい。


「…おや?」

「ん?」

「どうやら出番の様ですな」

「ああ、大丈夫です。貴方のことは絶対に守りますから」

「ははは、まるで愛の告白ですね」


 冗談でも、もうじき60を超えるだろう老人男性にそんな事言うわけない。やめてくれ。


 止まった先頭の馬車の前に走って行くと、巨大な猪の様な魔物が今か今かと蹄で地面を叩いている。


「どうせろくに食事も渡されない様だし今夜は猪鍋にするか」


 魔剣を引き抜くと平原なのでいつもよりも巨大な炎へと剣が姿を変える。


「はっはー!晩飯ゲット!」


 横なぎに魔剣を振ると巨大猪は1匹残らずに上下真っ二つになる。

 朝からもう何度目かは知らないが…まあ、慣れたもんだ。

 進行の邪魔になるから食べ切れる肉片でも拾って袋に入れておこう。


「コダマさん!」

「…ん?」


 ノリコの声が聞こえて来た。なんだと思ったら横から最後の力を振り絞ったのだろう。血だらけの猪が突進してきて俺は宙を舞っていた。なんだ糞、奥にまだいやがったか。


「ッつう…」


 左手で剣を振るうと縦に猪が両断される。あんま気を抜くのは良くないな。うん。


 華麗に着地とは行かずに顔面から地面に激突する。うん…流石に恥ずかしい。

 

「あだだ…うーん…折れてんなこれ」


 痛みには慣れてはきているがそれでも腕の真ん中からポッキリと…まるで関節がもう一個増えてしまった様な見た目は顔の痛みも忘れて叫びたくなるような激痛が走る。


「大丈夫ですか!?」

「え、何が?」

「腕ですよ!無理しなくていいですから!ユーリさん!」

「ちょっと待ってて!」


 何をそんなに騒いでるのやら。


「ああ、お待たせしました。魔物狩ったんで進みましょう」

「だ、大丈夫なんですかそれ?」

「まあ、いつもよりかは痛いですね。ほら、ニシカワさんも早く乗ってって。御者の人が出発できない」

「いや、だから腕」

「唾つけときゃ治る」


 なんなんだこの女。しつこいなぁ。


 なんか医療班らしき白衣の女性も来たが無視してさっさと自分の乗ってた馬車に乗り込む。


「…大丈夫なので?」

「ああ、はい。もう治ったんで」


 常時発動してるベルセポネはもはやエンチャントと言えるのか不明なのだが…傷の治りが早くて助かる。


「凄いですね、炎の大剣」

「俺のエンチャントは相棒曰く他とは違うらしいので」

「エンチャントなのですか!?いやはや、王国中のどこをみてもそのような武器はありませんよ」

「相棒は似たようなの持ってますよ?」

「ははは、口を開けば相棒、相棒と余程信頼されているのですな」

「そりゃあ、この世界来て初めて信頼出来た人ですからね」


 早くニルアに帰りたい。なんだかんだで朝、アルマの匂いと髪のもこもこが無いと寂しい…いや、変態か己は。



ーーーーー



 最初に思ったのは何の為にわざわざ睡眠用の馬車なんぞ持って来たんだよという事だ。

 何せ道中の街に寄って宿借りるとか言い始めたので、無駄な浪費だろとか思った。


「ああ、ごめんな無能。お前の分の宿の部屋取れなかった」

「いいよ別に。お前らと一つ屋根の下で過ごしたら体調崩しそうだし」

「あ?」


 恐い怖い。さっさと退散しよう。


 昼間買った魔物や採取した肉などを売ってあぶく銭になったしどこかで飲んで忘れるとしよう。宿は冒険者組合で登録証見せれば安く借りれるし。


「しかし、どこで食うかねー…この街初めてくるし」

「あれ?旦那じゃないですか」

「うーん…お?ゼリーピッグ?何々…肉がゼリー状の豚です…美味しいの?」

「旦那、旦那ってば」

「呼ばれてるのですからさっさと返事したらどうですか、アクト」


 スパーンと頭を叩かれたので誰だと後ろを睨むと見知った奴がいた。


「…エルヴァ?」

「お久しぶりです、アクト。どうしたんですか、こんな所で」

「お前こそ」

「私はゼタールの仕事の手伝いです」

「あ、やっと気付いてくれやしたね。もう、旦那ったら気付かねえんだからビビリやしたよ」

「…お前、痩せたなー」

「仕事忙しくてろくに飯食ってないんです」


 脱色して白くなってしまった髪と大人びた顔をしたヴァリアントのエルヴァと前よりも少しスマートになったゼタールが後ろに立っていた。


「何だっけ?秋の奴隷感謝祭みたいなのは終わったの?」

「大還元セールですぜ。いやー、今年は儲かること儲かること…うへへ、例年の倍以上でやす。へっへっへっ。恋人同士を同じ奴に売りつけて金を踏んだくるのはたのしかったですぜ?

「ああ、そう」

「で、今日は仕事終わりなんでパーっとやって、明日ニルアに帰ろうかと」

「へえー」

「ところで旦那は何でこんな所で?」

「ガルドさんに捨てられた挙句に国に人質取られて勇者パーティーに戻された」


 え?みたいな顔されてるが本当の事だ。


「旦那…奢りやすぜ?」

「ありがとう」

「エルヴァはどうする?」

「…?あっ、すみません。ちょっとだけ待ってもらえますか?」

「うん?」


 人混みに紛れ込んで数秒後…何やら首根っこ捕まえて誰かが連れてこれてた。


「痛い!」

「さっきからアクトを付けていたようだけど…どちら様で?」

「ん?ああ、コイツ勇者パーティーのメンバーの1人だ」


 本当に何考えてるかわかんないな…エルヴァに連れられて来たのはノリコだった。



ーーーーー



「そいつはおかしいですぜ」

「まじで?」


 とりあえず店に入って酒が周り始めた頃、ガルドとの事を話したらゼタールに真っ向から否定された。


「ガルドとは付き合い長いんで、わかりやす。アイツはそう簡単に仲間を見捨てるような奴じゃない」

「…だが、現に─」

「犯罪起こして牢獄に打ち込まれた奴に向かって、ここがお前の帰ってくる場所だって言う奴ですぜ!?そんな理由も言わずに出てけなんて絶対に言わねえ!なんならあっしが話しつけやす!」

「…そっかー。ありがとうな」

「いやいや、まあ今日は飲んで忘れましょうや。エルヴァもノリコも好きなもんじゃんじゃん頼め!」


 ビクリと肩を震わせたノリコはエルヴァから渡された注文書を見て1番安いのどれだーって呟いてる。


「アクト、アルマは元気ですか?」

「ああ、うん。この間、洗脳されて結婚させられそうになってたけど…元気だよ」

「それは知ってます。というか、その場にいました」

「いやー、あれは笑いましたぜ?」

「ははは、あの直後に婆さんにショウガマ取りに行けって【幻影の森】行かされて嫌なもん思い出させられたよ」

「……」


 良かった。旅先で知り合いと会えるってのはそれだけでメンタルが生き返る。


「どうしたんですかノリコ?早く注文しないと、そこの酒飲み2人はすぐに飲んですぐに酔っ払うので注文しないと食べれませんよ?」

「は、はい!えーと…あの…」

「…はあ、ゼタールはこんなナリで奴隷商人やってますが優しいですし、妻子持ちなんで貴方に手なんて出しませんよ?」

「あっし、そんなに悪い見た目してやすか?」

「確実にヒロインに跨ってボロンしてんな」

「あひゃひゃひゃひゃっ!」

「お顔真っ赤だなー、ゼタール」


 酒も大分回って来て感情の抑制が効かなくなって来た。


「そっちのアクトも頭は大分アレですが、私の命の恩人です。

 だから遠慮などせずに、これも何かの縁ですから」

「そ、そうですか…?」

「そうです」


 まあ、知らない人間に囲まれていきなり食事なぞコミュニケーション能力がかなり高くないとキツイよな。


 まあ、それでもエルヴァの一言でなんとか注文はできたみたいだ。


「ひっ、ひっ、でー、ノリコはなんだって旦那を追いかけてたんでい?」

「あの…えーと、昼間怪我してて…それで、ユーリさんも手当てしてないって」

「…また、何かしたんですか?」

「右腕ポッキリ」

「はぁー…アルマに怒られますよ?リハビリ中なのにって」

「もう治ったからいいだろ、別に」


 婆さんの魔法は解けてないし大丈夫だ。


 手を開いたり閉じたりするのを見せるとため息をつかれる。悪かったって。次から気をつけるよ。


「その男は両手両足と眼球が吹き飛んでも生きてる男ですよ?たかが腕の一本折れたくらいで…」

「えぇ!?何があったんですか!」

「女の子助ける為に無茶したんですよ。ねー?」

「あ、エルヴァお前、酔っ払ってんな」

「酔っ払ってませんよ、アクト。私が酔っ払うのはアルマに抱きついて髪を堪能した後に、優しく撫でてもらった時だけです。新しいママになってもらいたい」

「嘘つけ、絶対酔っ払ってんだろ。普段絶対言わねえこと言ってるし」

「うるせえムカデ殺す。ひっく」


 ダメだこりゃ。思ったより早い解散になりそうだ。


「大体いつもズルいんですよ。私だってアルマに抱きつきたい!お日様の香りに包まれたい!」

「抱きつきゃいいじゃん。アルマも喜ぶぞ」

「複雑な乙女心があるので!」

「じゃあ知らねえわ」

「旦那ぁ、たまにゃエルヴァを労ってやってくだせえ!」

「ん?そうか?よーしよしよし、偉いぞー」

「ぐわぁぁぁ!やめろー!私の!私の中の邪悪な心が!」


 ああ、もうダメだこれ完全に出来上がってる。


「…なんだか、羨ましいです。クロードさん達との食事も楽しいんですけど…こうやって、騒げないから」

「馬鹿やってるだけだけどな」

「馬鹿とはなんですか?後先考えずにいつも行動してるくせに。くーせーにー、ゲルダ先生に怒られればいいんだ」

「うるせえ」


 余計なお世話だ。


 まあ、でもいい時間だしそろそろ本当にお開きだ。


「ニシカワさんはアイツらと同じ宿だろ?気を付けてな」

「え!あ、はい…」

「駄目だ、夜は危ないからノリコは今日私と寝る。寝るんだー!」

「…ゼタール、払っとくからさっさと宿戻れ。駄目だエルヴァが完全に出来上がってる」

「旦那、後で返しやす…うっぷ、あれ、宿どこだっけ?」

「…エルヴァさーん?」

「はーい」

「宿どこ?」

「こっちれす」

「あ、あの、戻れるので!一人で戻れるのでー!」


 結局ゼタールに肩を貸してエルヴァに案内されるがままに借りてた宿に着く。酔っ払い相手で妙に疲れたし…ゼタールの部屋の床でも借りて今日は寝るとしよう。

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