バッドデイスタート
傷を即座に治すベルセポネエンチャントが無ければ今ここに立っていないだろう。
アルマの一撃を受け止めるだけで両腕の骨は砕け、筋肉やよくわからない内臓とかもう色々とぐちゃぐちゃになる。
彼女も別に悪気はないのはわかるがすげー痛い。
「…やあっ!」
「ッ!」
ガギィン!と金属のぶつかり合う音が響く。
見た目の通り重くそれでいて彼女にしか使えない武器というわけなのか、まるで重さなど感じていないように軽々と振り回す。こっちはクソ重い一撃だけど。
距離を取ったが、即座に間合いに入り込まれると顎を蹴り上げられる。
ヤバイ、ヤバイヤバイ。
流石に卑怯かと思って使わなかった体の電気化を行い身動きの取れない空中での攻撃を間一髪で避ける。
「……」
「……流石アクト。強い」
「冗談言える程こっちに余裕ないよ」
「……ふふっ」
笑い事じゃねえ!
冷や汗ダラダラだ。しかも、今はまだ斧モードだ。マルチウェポンの剣モードとは戦ってない。つまり、アルマはまだ満足していない。
ガシャンと音がして先程見たギミックが起こる。
「…なぁぁ、アルマさん…もう、やめない?」
「……やめない」
「え、あれ?あの…もしかして怒ってる?怒ってらっしゃる?」
「……?怒ってないよ?」
そうは言われてもそのバカでかい剣向けられてたら不安になる。
「…行くよ!」
「無理、無理無理無理ぃー!」
ーーーーー
アルマが怒ってた原因はどうやら俺が本気で戦ってくれなかっという理由らしい。なんじゃそりゃ。
「……本気のアクトと戦って勝たない…と意味がない」
「なんの意味だよ…大体俺本気で戦ってたって」
「……1度も【クラウノス】を使って…ない、瞬間移動、電気化、放電も…どこが本気なの?」
「……」
「まあまあ、いいじゃねえかよ。取り敢えず使いこなせてるようだったしよ」
オヤジの言葉通りだ。あんなもんどんだけ振り回しても使いこなせる気がしないのに、アルマはいとも容易く使っていた。
それにあの魔石による追加効果だ。触れたら小規模の爆発が起きるとか戦いたくなさすぎる。
「……むー」
「あとでなんか奢るから機嫌直してくれよ」
「……アルマそんなに安い女じゃない。デザート…も付けて」
「はいはい」
武器屋での用事は済ませたので久しぶりに街を歩いてると何やらいつもと比べて騒がしい。いや、いつも騒がしいのだが…違う方面に。
何だろうなと遠目にアルマと見てたら、顔見知りの女性が手招きしている。
「アクト、アクト。ちょっとこっち来て」
「ああ、はい」
「見てこれ」
「はぁ…は?」
新聞など無いので、国が月一で各街にその月の王都で何があったかみたいなのを無理やり貼りに来るらしいが…
「ちょっとちょっと、あなた捨てられたんじゃないの?」
「……」
アクト コダマ。再び勇者として魔王討伐の旅へ
などとデカデカと見出しが書かれていた。
「なんすか、これ」
「こっちが聞きたいわよ」
「……嘘が書かれてる?」
「うん、だって俺知らねえもん」
メルカが何か企んでる?いやそれにしたって…何がしたいんだ?
書かれてる内容は厨二臭い台詞と全身に鳥肌でも立つかのような内容で見てるだけで恥ずかしくなってくる。
剥がしちまうかとか考えてたら今度は違う奴から話しかけられた。
「おい、アクトやべえぞ。ガルドさん超怒ってる」
「…マジで?」
「お前なんだよ、結局国の犬だったのか?」
「んなわけあるか」
「取り敢えず組合に来いよ、組合総出でお前のこと探してんぞ」
マジかよ。
アルマと顔を見合わせると、取り敢えず行った方がいいよと頷く。
「わかった。身の潔白の証明しに行くわ」
「出来るだけ早くな。じゃねえとガルドさん今にも暴れ出しそうだ」
何やら不穏な影が見え始めてきた。
ーーーーー
「…てめぇ、どういうつもりだ?」
「ありゃ嘘ですって。あんなもん言った覚えも約束した覚えも全くありません」
組合に着くとなんかわからないが全員正座させられてた。
その真ん中でガルドだけはいつも通り…否、いつも以上に恐ろしい顔をしてじっと扉を睨みつけてた。
「じゃあ、何か?てめぇを貶めたり、どうにかしようってんであんなもん書いたと?だったらこの国は本当に終わってんな」
「いやー…そうっすね」
ゴガン!と音がした。ガルドがテーブルの端が握り潰していた。
「…真面目に答えろ」
「…真面目ですよ」
「……信じてガルド。アクトとずっと一緒だったけど…アクトそんなことして…ない」
「黙ってろ…お前が出てくるとややこしくなるんだ。奥に行ってろ」
「……」
俺の身の潔白を証明する為だと…涙を流しそうになりながらアルマは組合の奥へと行ってしまう。
「おい、この間のもってこい」
「…はい」
何やら受付のお姉さんも真剣そうな顔して、奥から紙の束を持ってくる。
「なんだかわかるか?」
「手紙…ですか?」
「そうだ。内容はてめぇが勇者パーティーに戻りたいって言ってるってのが書かれてる。あの、メルカとかいう奴から届いた」
「…いやいやいや、おかしいでしょ!どう考えても偽装ですって!」
「どうだかよ」
なんなんだよ。あんた確かに顔は怖いけど…いい人じゃないのかよ…なんで、そんなに疑いの眼差しを向けてくるんだよ…
「なあ、アクト─」
「やあやあやあ、待たせたね!」
組合の扉を乱暴に開けて見たくもない奴が入ってくる。
「ガルド組合長。話は済んだ?」
「…チッ、ああそうだな」
「ちょっと待ってくれよ!ガルドさん!」
「2度と組合の敷居跨ぐんじゃねえぞ?勇者アクトさんよ?」
……何か大切なものが壊れるような音がした。
こうして俺はされるがままに、また王都へと向かわされるのだった。
ーーーーー
「……ガルドおかしい」
「うん、おかしいよ。あのガルドさんが仲間を疑うなんて」
奥の部屋へと案内される最中、組合の職員も言ってきた。
「ガルドさんは誰よりも仲間を信じてる人だ。だから、仮に何かあったとしてもあんな話もろくに聞かずにアクトを疑うのは絶対何かあったに違いない」
「……魔法?」
「まさか!…いや、もしかしたらそうかも…しれない」
「……」
ガルドに【ワルプルギス】をかける?
でも…もし、本当にあれがガルドの本心だったとしたら…もっとアクトが傷付いてしまう。
「他の冒険者もさ、アクトに限ってそんなこと絶対ないって言ってたんだけど…そしたらガルドさんが全員座ってろって…」
「……やっぱりガルドに魔法かけてくる」
「大丈夫?」
「……絶対おかしい」
元来た道を戻るとアクトは既にいなくガルドと座らせられてる冒険者達しかいなかった。
「…ん?どうした、アル─」
「【ワルプルギス】!」
問答無用でガルドにスキルを放つとガルドの全身から虹が出現し…ガルドはドロドロに溶けてしまった。
それはつまり…
「…ッ!」
急いで冒険者組合から出たが…
「…アクトは!」
「へ!?いや…なんか王都の連中の馬車に乗せられて…」
「……アクト」




