新たな武器
息を潜めるという行為に本当に気配を消す効果があるのかは別として今現在、背の高い茂みの中で隠れている。
「…来ねえなぁ」
「……しっ!アクト、来た」
アルマに口を抑えられたのと同時に目の前の木の裏側から奇妙な生物が出てくる。
ブーストスカンクと呼ばれる魔物は何やら自分のテリトリーに違う匂いがしている為か警戒して中々此方へと来ない。
「……あと、数歩」
「手で捕まえないか?」
「……それは無理」
ブーストと名が付くだけあって加速する。いや、普通に動く分にも素早いらしいのだが…
「…見つかった!」
「マジか、追いかけるぞ!」
たしかに早いが…それでも、ゼウスエンチャントの前では…
「…避けてアクト!」
「なっ!?」
ブーストスカンクは見た目こそ俺の元いた世界のに似ているが臀部が違う。具体的に言えばロケットの噴出口みたいなのがある。え?なにを噴出するって?ケツに空いてる穴から出るガスなんて決まってんだろ。
ブボッ
そんな音が最初した。音だけは可愛らしかった。
続いてくるのは目の痛み、呼吸困難、下手したら今までで1番の痛みかもしれない。しかし本能的に前屈みになって耐えようとしたが…閃光が生まれる。
ブーストスカンクの屁は臀部の噴出肛と呼ばれる場所から出ると同時に着火。要するにロケットエンジンだ。
チュドドドドォォォンッッ!
ーーーーー
「……アクト」
「言いたい事はわかる。だが、1つだけ言わせてくれ。距離取らないで」
「……アクト、臭い」
「知ってるよ!でもこれ俺の臭いじゃないから!スカンクの屁だから!俺臭くない!臭くないもん!」
「……可愛くないもん」
もんじゃないよ。
爆発によるダメージ自体は無いが全身から立ち上る刺激臭とアルマから軽蔑の眼でノックダウンしそう。
「……ふぁいこれ」
「ああ、ありがとう。臭い消し買っといてよかった」
「……けぽっ」
「ア、アルマぁぁぁ!?吐くな、いや吐いていいけどいや、あの!」
「……アクト、臭い」
2度も言わなくていいから。
全身にスプレーを吹き掛けると一瞬で臭いが取れる。それでも、鼻の奥にこびり付いた臭いのせいでなんか臭い気がするが。
「……よかった、いつものアクトの匂いだ」
「アルマ大丈夫か?顔色がヤバイぞ」
「…ふふっ、アルマのお墓は…海の見える灯台に立て…てね」
「しっかり寿命を終えたら子供や孫に作ってもらって」
そこに俺はいないだろうけど。
「……ところでアクト。スカンクは?」
「ん?ああ、大丈夫。捕まえといたから」
所詮は超スピード、瞬間移動の敵では無い。なんか無駄に魔力は消費したが。
『ギュッ、ギュッ…』
「安心しろって、いい飼い主にあえるぞ?」
『ギィ、ギュイ?』
「おう、そうだ。三食昼寝付きだ。嫁さんいるなら嫁さんも連れてきていいぞ」
『ギュギュッ』
「おっと、すまん。メスだったか」
「……ナチュラルに魔物と会話しないで」
最近なんとなくエルヴァの言葉もわかるようになってきた…気がする。気のせいか。
スカンクを離してやると物の数秒で目の前から消えてしまう。
「……」
「……」
「……アクト?」
「待て待て待て、来るから!絶対来るから!」
結局その後、ひと回り小さな成体と子供4匹連れて戻ってきてくれたので、アルマには怒られはしなかったが、人間やめ始めてるなって思った。
ーーーーー
「おぉ〜凄いねぇ、こんなに捕まえてきてくれたんだぁ」
「あ、はい」
「助かるよぉ〜多ければ多いほどいいからねぇ〜」
間の抜けるような声を出してるのは今回の仕事の依頼人である農夫だ。
夫婦揃ってニルアの近くで農家を営んでいる。
因みにこのスカンク、魔物避けになるらしいのだ。と言うのも魔物ですらあの屁の臭いを嫌うので、いるだけで獣害?を防げるそうな。
そんでもって食べられる被害よりも彼らを飼ってる方が低コストに済むらしい。ああ見えて雑食でそこら辺に生えてくる草から人肉までなんでも食べる。そんな便利な魔物だからか今回の依頼となって俺たちが受けたと言うわけだ。
「んだば、とっとと名付けすんべ」
「そうだねぇ」
おいでおいでと奥さんが手招きするとスカンク達はそれに付いていく。
人馴れしてるのか、理解出来てるのかは知らないが…まあ、大丈夫なのだろう。
「お前らも報酬ついでに、飯ば食ってけ。ほれ、のべずれ上がれ」
「…なんて?」
「家に上がってご飯食べて行きなってさぁ」
「奥さんと以心伝心ですね」
「聞いていればそのうちわかるよぉ」
そういうものなのか?
まあ、お腹空いてアルマもダウンしてるしお言葉に甘えさせてもらおう。
「ほれ、黒白ども。足洗え」
『ギュピッ』
「でも、若いのに大変だねぇ。危険だろうにぃ」
「まあ、生きる為にですから」
「ほうけ、辛くなったらいつでもうちさ来い。何もねえが、もてなしくらいはやっから」
「ありがとうございます」
わあ、田舎のお婆ちゃん。まだまだ2人とも若いけど。
「……ご飯の匂い」
「蜂漬け食うけ?」
「はっはぁ、ダメだよぉ〜。お摘み無くなっちゃうからぁ」
なんかドラム缶サイズの大きな瓶の中に500のペットボトルサイズの巨大な蜂が漬けられていたが…みなかったことにしよう。
「今日採れたての野菜で、何か作っかぁ?」
「んだば、そうすっけ。ほれ、いしゃれ。今、お前らの野菜は用意すっから」
……
「……家族みたい?」
「そうだな」
「……やることなくなったら、静かに…暮らす?」
「…それもいいかもな」
「……何処にも行かないでね?」
「ん?ああ、大丈夫だって。ちゃんと最後まで側に居るから」
ーーーーー
「また、来てねぇ〜」
「気い付けろよ」
見送られて更にお土産にとサツマイモを渡された。この世界、ヤバイ野菜だけじゃなくて普通のもあるんだなって少し感動した。
ニルアまでは徒歩1時間程度だ。おやつの時間くらいには帰れるだろ。
「……来年もまた来ようね」
「依頼が来たらな」
「……とうもろこし…」
「…行くんならお土産買って行けよ?」
アルマのコミュ力と言うか…最早なんからのスキルかと疑うほどに誰とでもすぐに仲良くなっている。
自分は性格も何もかもアレなので、極端に嫌われるか無視されるかなんてのが多かったから…少し羨ましい。
「……〜♪」
「満腹でご機嫌だな」
鼻唄まで歌ってるし。
「……あっ、そうだ。アクト、武器屋さん…行こ?」
「いいけど…どうした?」
「……アクトの新しいエンチャント武器…見たい」
「んー…頑張ってみるよ」
「……楽しみ」
喜んでもらえて何よりだ。
「……いつか、ラークス達にも作って…あげて?」
「エンチャント武器を?」
「……ん。アクトが大丈夫になったら」
大丈夫に?シルフィーとの会話を聞かれてた?いやいや、あの時いなかったよな…
「……それと、シルフィーと仲良くね」
「今日ゲラルド君仕事だっけか?」
「……アクト、めっ」
あの性悪邪霊は後でどうにかしよう。
しかし、1時間ってのは案外早いものだ。もう街に着いてしまった。
「俺ギルドに行くけど、どうする?」
「……今日、新作が販売開始だって」
「あらぁ、じゃあいいぞ。行ってきな。報告終わったらすぐ行くから」
「……ん」
そうか。だから今日は朝から随分とテンションが高かったのか。
そう言えば最近買い食いもせずにお金貯めてたし、そう言うことだったのか。
「気を付けろよー」
「……はーい」
アルマを見届けるとさっさとギルドへと向かう。
中に入れば相変わらずの熱気だ。
「おう、アクト。お疲れー」
「ああ、どうも…って、また昼間っから酒飲んでるんですか?」
「お前と違って俺はキビキビと働かねえ、本当にやりたいクエストだけやりてえんだよ」
「って言ってるけどな、実は最近になって、お前にランクを超えられそうだからって焦ってんだぜ?」
「あっ、てめえ言うんじゃねえよ!」
ああ、また始まった。
「ジョシュアとケリーの喧嘩だ!どっちに賭ける!?」
「ケリーだ!」
「俺もケリー!」
「ジョシュア!今回はてめえに賭けるから負けんじゃねえぞ!」
違う意味でまた熱気が起きた。凝りねえなぁ…どうせまたガルドさんの怒鳴り声でドローになるってのに。
「あら?お帰りなさい、アクトさん」
「ああ、どうも。無事に依頼をこなしてきたんで報告と…あと、これ。依頼完了書です」
「ありがとうございます。ええと報酬は…と…はい、どうぞ」
「どうも」
結構ずっしりとしてるな。増やしてくれたのかな?
「ブーストスカンク大丈夫でしたか?」
「え?ああ、無事に依頼人に…」
「あ、ごめんなさい。言い方が悪かったわ。あの屁こきジェットです。あれで毎年結構な数の冒険者が辞職するんですよ」
「へぇ〜」
「屁だけに?なんてね!…すみません。
あの、臭いもそうですけど、あの爆発で腕だったり足だったり吹き飛んじゃうんですよ?」
謝るくらいならやめておけばいいものを…と言うか、アルマをもっと後方に下がらせておけばよかったと今更ながら思う。何も無かったからよかったものを。
「まあ、ともかくここで生きてるって事は無事に依頼もこなしたと言う事で…依頼完了です」
チリンチリンと依頼完了のベルを鳴らしてくれる。いつもより楽しい半日だ。
「てめえら!組合の中で喧嘩するなって何度言やぁわかんだッ!」
組合を出る時にガルドの怒号が聞こえてきた。チラッと後ろを見れば今回もまたドローだったようだ。
ーーーーー
「……むふー」
「お?おぉ…?」
いつもの武器屋に着くと中から声が聞こえて来なかったので裏へ回る。
そしたら親父とアルマが何やら奇妙な武器を持って談笑していた。
で、アルマが気付いてその手に持っていた武器を自慢げに見せてくる。
見た目は…なんかゴテゴテしてるし…どことなく機械的でもある。ただ、彼女が持つにしては随分と体に合わないサイズで、何倒すの?って聞きたくなる両刃斧なのだが…何というか左右で非対称なのだ。
前後ろという概念があるのかは知らないが仮定すると、前面は普通の斧。力一杯叩きつければ何でも両断できそうだ。で、後ろ。何というか…巨大な片刃の剣を逆さまに付けたような…
「よう、あんちゃん。どうだい?工房組合の新武器の見た目はよ!」
「もうちょっと小さく出来なかったの?」
「無理だな!内部の機構をこれ以上小さくしたら暴発したり上手く動作しなくなる」
「なに?これもまた頓珍漢な武器な訳?前のミョルニルみたいな」
「ツインハンマーな」
「名前なんざ、どうでもいい」
「……アクト、頓珍漢じゃない。浪漫」
「あ、はい」
もう面倒くさいから突っ込むのやめよう。
見ててとアルマが言うので大人くししてるとガチャンと音がして前面の斧がアルマの持ち手の辺りまで下にスライドし、次に後ろの逆さの片刃が前面にスライドされ斧部分と合体。巨大な大剣へと姿を変えた。
「名付けてマルチウェポンだ!」
「……やばい、かっこいい!」
「そうだな」
多分、耐久面とかは魔法とかで補っているのだろう。この親父の腕は知ってるが少なくとも作り出す物全てを考えてなどいたら頭がおかしくなる。
しかしわざわざ同じ武器でなぜ二つの機能?魔法の袋があるのだから、かさばらないし両刃斧と大剣を購入すれば良いのでは?
「しかもな…此奴にはまだ見せてねえ機能がある。嬢ちゃん!」
「……ん」
アルマが力任せに大剣を振ると、剣が輝き紅い軌跡が見える。
「内部に特殊な魔石を埋め込んでいてな。大剣モードの時に斬りつけると、その魔石によって様々な追加効果がある!くーっ!此奴を考えた奴は天才だぜ!」
ああ、これ知ってる。中学の頃の友人が話していた。新武器だとかなんだとか…異世界では無いがモンスターを狩るゲームのだ。開発者絶対同郷の奴だ。そのうち虫型魔物操る棍とか盾と剣合体させて巨大な斧になるマルチウェポンとか作り出されそうだ。
「…いいんじゃないのか?」
「……楽しい」
才能でも流石に重さまではカバーできないのだろう。一撃一撃振るたびに体が持ってかれている。まあ、本人は楽しんでるからいいか。
「で、それにエンチャントするのか?」
「…ん」
するのかー…うーん…アルマの今持ってるのはリヴァイアサンと試作レーヴァテイン、イージス…うーん…
「……わくわく」
「良かったらうちの商品にもエンチャントかけて行ってくれね?」
「いいですけど何か起きても俺責任取りませんからね」
「いいねぇ、ギャンブルは好きだぜ」
ギャンブルなのかは知らないが…はて、どうするか。
「…あ!」
「……ん?どうしたの?」
「あった、あった。ピッタリのやつ」
アルマからマルチウェポンを受け取ると輝き始めた手を武器の上に乗せる。
「【エンチャント・夢幻】」
とても巨大で一撃で全てを粉砕するような…それでいて多技に渡り、なによりも…リヴァイアサンと対をなす魔獣。
「ベヒーモス!」
一気に魔力を流し込み、もう慣れた手付きでエンチャントを付与する。この手の動かなさ。間違いない、成功だ!
「っ!?」
とてつもなく重くなった。地面にめり込んでしまったので慌ててゼウスエンチャントを自身にかけるが…持てない。全く持ち上がらない。
「すまん、アルマ。失敗だ…後でちゃんと弁償するからな」
「……違う。成功…ううん、大成功」
慰めてくれるのか、お前は本当に優しい子だな。
ふっと、柔らかな少女の手が俺の手に重なり…それからベヒーモスの持ち手を掴む。
「……?」
「ヒュッ…」
人間が理解不能になって口から息を漏らす音と言うのを初めて聞いた。しかも自分の。
あれだけ重く、びくともしなかったベヒーモスをアルマは軽々と持ち上げたのだ。
「……軽いよ?」
「え?いやいやいや、そりゃ無いって」
アルマから再び武器を受け取ると今度は手が下敷きになってベヒーモスが地面にめり込む。
幸い、折れる前にアルマが拾い上げてくれたので大事には至らなかったが…どう言う事だ?痩せ我慢とかのレベルじゃないぞ?こんなのまともに持てるわけない。
「ははーん。さてはあんちゃん、武器に嫌われたな」
「あ?どう言う事だ?」
「武器だって使い手を選ぶって事だよ」
「……」
なんかよくわからないがシャクだ。
「言っちまえば嬢ちゃん専用の武器ってヤツだな」
「……おお」
「良かったな」
「…うん!」
年相応の少女の様に…無邪気で輝く満面の笑みを見せてくれた。
眩しい。汚れた心が浄化されていく。あっあっ…
「あのー…ところでなんで俺に向けてるの?」
「……試したい」
「……」
「……だめ…?」
……
「よっしゃあッ!かかってこいや!」
「…やったー!」
ヤケクソ気味にアルマからの挑戦を受ける。
まあ、彼女が楽しそうなのはなによりだ。




