アルマの武器
「……」
長い付き合いになりそうだから、お互いの事はまあ気長に話してけばいいかと思ってた。
そんなことを考えていたのだがまた一つ知った。どうやらアルマは食べる事以外にも好きな事があったようだ。
それが武器を眺める事。ついでに使う事もできるなら最高らしい。
今朝の食事の時同様に言葉に出さないだけでその瞳には子供特有の輝きが見えた。
「……おぉー」
「あんちゃんの剣も随分使ってんね。これを機に変えてみるってのもいいんじゃね?」
「うーん…」
買い換えるのは別にいい。
これ、城の武器庫でもらった剣だし。多分最初から見捨てる気だったんだろう。かなりの鈍だった。
多少の愛着が湧いてはいるが。
でも、エンチャント成功してしまったからどうしようかと…前は上手くいったが次がうまく行くかはわからない。
「……アクト、見て見て」
「お?…何それ?」
持ち手が随分と曲がった剣だった。
それに引き金と撃鉄も付いている。
有り体に言ってしまえばい銃と剣が合体したような武器だった。
「お嬢ちゃんお目が高いね。それ、最近仕入れたガンソードだよ。剣としても使えるがね、魔力を収束して作る魔弾ってのも撃てるからね。凄いよ。
お値段もポッキリ金貨3枚」
「他のにしなさい、というかしてくれ。そんな大金うちにはない」
「……見てるだけだから、大丈夫」
そのまんまかいと言う言葉は飲み込んだ。
というかこの武器屋もなんかイメージと違う。
もっとこう…無骨でthe武器ってのよりも斜め上あたりの浪漫系が多い気がする。
「……パイルバンカー、ドリルランス…」
「おっ?そこらへんのは型落ち品だから安くしとくよ」
なんかもうよくわかんないけどいいか。
放っておいて大丈夫そうだし俺も見て回るかと比較的普通の武器の置いてある場所を見る。
盾も必要だよな。
前は誰も使ってなかったけどエンチャントすれば強そうだし、やっぱためしに新しい剣も買おうかな…
なんとなく立てかけてあった盾を取る。
多分実践用ではなく鑑賞用なのだろう。飾り羽や装飾品がついているし、何よりも革製で防御性能は低そうだ。
「おや、兄さんもお目が高い。
それはブローキン族に伝わる婚礼の盾だよ」
「…なんで、そんな物まで売ってんだよ。
というか、素早いっすね」
「お客様を待たせるのは良くないですからね
おや、お嬢さん!それは…」
変な人だなぁ。
結局鉄の盾に新品のロングブレード、アルマにはどうしてもと言うので蛇腹剣を買った。
いや、まあ頑張ってくれたから何かしら買ってあげようとは思ってたよ?
まあ、女の子と付き合ったことなんて無いから何かは決まってなかったけど、でも武器って…まあ、いいけど。
「お買い上げありがとうございます!防具もお求めの際はまたご来店ください!」
「…ところでさ、振れるの?」
「……鍛える」
先は長そうだ。
ーーーーー
「……ん」
「ん?どうした?」
剣を重そうにしてたので袋にしまってやると少し悲しそうにした後にトテトテとどこかへ走って行ってまた戻ってくる。
よくわからない子だ…
なにやらあっちに行きたいところでもあるのか袖を引っ張ってきた。
「…まあ、いいか」
正直な話なんだが、転職した。食住に関しては宿は冒険者割引で安く泊めてもらえる場所があるのでそこでいい。衣服はまあ、後で買う。
やろうと思ってた事をやってしまうと途端になにをすればいいのかわらなくなる。
よく、志望校などに入った途端に今まで勉強してきた奴が目標見失って勉強しなくなるって聞くけどあれと同じか?
多分その通りだし、特に他にする事も無いのでいいかと引っ張られるままにアルマについて行くと広い空き地のような場所に着く。
「……アルマとアクトの特訓…しよ?」
「まあ、いいけどよ…
へえ、組合の野外演習場なんてあるのか」
結構広めだし奥の方でも何人か人がいて魔法を撃ち合ったり模擬戦?らしき事をしている。
いざって時にスキル発動するんじゃなくて常日頃から発動させておくんだしエンチャントした武器での闘い方も慣れておいた方がいいな。
「……アクト、アルマの剣出して」
「いや、いいけど振れないんだろ?」
「……大丈夫、考えはある」
ならいいかとアルマに剣を渡すと違うと首を横に振る。
何?どうしたいの?
「……先にアクトの練習。
【エンチャント・夢幻】をそれにかけて」
「えっ、この剣に?」
「……ん」
かけろと言われても困る。
先程成功した剣に関してもそうだが鮮明に覚えていたからこそ出来たのだ。
他にはそうそう思いつかないし、今考えればいかにつまらない人生送ってきたのかわかる。
「……アクト?」
いや、発想を変えるんだ。
いつもそうだが固く考えすぎだ。柔軟な思考を持て。
読めた神話系の本の中。最後まで読み切れたのは幻獣図鑑と北欧神話、それにギリシャ神話だったかな?
蛇腹…蛇、蛇…?
「失敗しても怒るなよ?【エンチャント・夢幻】」
「……わくわく」
あの時と同じようにイメージを固めるんだ、アクト。
蛇で、1番強そうな奴。
それと自分を見る好奇心に満ち溢れた群青色の瞳…海の色…
重くなる手と輝き始める剣。この調子だ。いいぞ、やれば出来る子だ俺は。
「リヴァイアサン!」
最後により一層輝くと出来上がった。
刀身を包み込むのは彼女の瞳と同じ群青色の魔力と渦巻く風。
聖書に記された渦巻く海獣の名を冠するエンチャント武器だ。
「……完成?」
「多分」
いや、正直なところ結構大雑把なので失敗してたらどうしようかと思う。
「……大丈夫、最初はみんな大雑把だから…
それに失敗してたら何回もやればいい。練習なんだし」
「あの、心読むのやめてもらえます?そんなスキルでしたっけ?」
と言うか先程まで持つのすらままならなかったと言うのに今は軽々とアルマは剣を持っている。
「……エンチャントはその人に使いやすいように自動で…重量が変わる…意思を持ってる?」
首を傾げられても困る。
そして少し離れたところに行くと剣を振り始めた。
蛇腹剣って何ぞやと思っていたがどうやら剣の内側にワイヤーが通されており鞭のようにしなる剣らしい。
構造的に無理があるが魔法でどうにかなってるのだろう。便利なものだ。
「…すげー」
舞のように動いているが段々と分かれた刃の部分が増えている。明らかに鞭状態の時と通常状態の時の刀身の長さが違ってくる。
だって、アルマの周りを覆い隠すように伸びてるし。それになんだか刀身はまるで意思を持ってるかのように生物的な…もっと言えば蛇のように畝り、一振りで暴風を巻き起こす。
エンチャント武器ってひょっとするとかなり危ない代物なのかもしれない。
この剣も炎吹き出すし、あっちのは伸びたり暴風巻き起こすし。
「……上出来」
「え?そう?」
「……ん。作ってくれてありがとう。
次はアクトの」
「お、おう…」
自分のスキルではあるが使い方は彼女の方が知っているし上出来と言うなら大丈夫なのだろう。