敗北勇者
ちょっと遅れてしまって申し訳ないです…
「避けて、クロード!」
「ガッ!」
腹部への一撃は一瞬、世界から音が消えたようだった…だが、即座に痛みが全身を駆け抜ける。そして浮遊感と共に背中を強く叩きつけられる。
強い。自分たちの何倍も。どれだけ攻撃しても避けられ、一撃を持って盾も鎧も粉砕してくる。
強すぎる。勝てるわけがない。
「…弱っええなぁ、本当に勇者なのかよ?爺ちゃんの方がよっぽど強えぜ?」
「黙ってて!」
「はは、怖え女」
目の前に立つ特徴的な角を頭から生やす魔族は呆れを通り越して最早、哀れみの眼をこちらへと向けてくる。
「ゲホッ、ゴホッ…ノリコ!エンチャントだ!早くしろ!」
「は、はい!」
「はぁ…お前らの頭の中にゃ糞でも詰まってんのか?」
プレゼンターであるノリコのエンチャントによって、各々の武器がより一層強く輝き始める。
「ははは!覚悟しろ魔族!サツキ、援護を頼む!行くぞ、エイジ、ツバキ!」
3人並び各々の武器を構える。後方にはサツキがいる…何度も背中を合わせてきた。お互いに語り合い、愛し合い、そして通じ合ってきた。
最強の布陣だ。負ける気がしな─
「殺す価値も無えな。おーい外に放り投げといてー。面倒だが外に捨てとくか…」
魔族は俺たちを摘み上げると、まるでゴミでも捨てるかのように放り投げる。どうなってるんだ?
一瞬の事だった。眼を瞑ったら…全てが終わっていた。
なんで俺は地面に寝転がってるんだ?なんで誰1人立っていないんだ?
「待……て…」
「やなこった」
勇者として異世界へ来て約1年と半年。その日僕らは大敗を喫した。
ーーーーー
「ふむ…そうであったか」
王様は深刻そうな顔をしている。言わなくてもわかっている。僕らは負けた挙句に命まで取られずにおめおめと逃げ帰ってきたからだ。
「王様、僕らはまだまだ強くなれます!ノリコの4つ目のスキルが解放されればきっとそれが戦力に─」
「…少し良いか?」
「は、はい…」
途中で話しを止められてしまった。
「メルカよ」
「はい、ここに」
「例の件、頼んだぞ」
「はっ」
「余は最後の…な」
「…お気をつけて」
なんだろう?何かしてるのかな?
王様が出ていくと次にメルカがいつものように優しい笑顔を向けてくる。
「さっ、取り敢えず治療が先だよ。みんなお疲れ様」
「…ありがとうございます」
「気にする事はない。君たちはこの国の選ばられし勇者なんだから」
勇者…そうだ。僕たちは勇者だ。たかが一度負けたくらいなんだ。あんな奴、もっと強くなってぐうの音も出ないほどにコテンパンにして…みんなの前で殺してやる。僕らを…何よりもサツキを傷付けた罪は重い。
「クロード?大丈夫?」
「ん?ああ、大丈夫、大丈夫」
「す、すみませんでした!私のエンチャントが弱いから…」
「それも気にする事じゃないよ、ノリコ。君のスキルのおかげで僕らは何度も助けられてきた。だろ?」
泣きそうになってる彼女の頭を優しく撫でてやる。
少しして恐る恐る周りを見るとみんな頷いている。ほらね?君のスキルはみんなにとって必要なんだ。
「あー、ゴホン。話は後でゆっくりしてね」
「あ、すみません」
待たせてしまっていた。申し訳ない。
メルカの後について、城の一室…城内の病院とでも言えば良いのか?そこでもまた美しい女性が優しく出迎えてくれた。
「あら…勇者様方。お加減はいかが?」
「すみません、全員負傷してまして…」
「ふふっ、いいのよ。気にする事ではないわ」
ここには最新の魔法技術やポーションなどが数多くあり、恐らくこの世界で1番医療技術が高い場所だ。どんな傷を負っても治してもらえるし。
「あら、サツキ様?どうなされたのですか、そのように頬を膨らませて。もしかして虫歯かしら?」
「なんでもないです!」
「まぁ…うふふ、可愛いわねぇ」
可愛い。その手には同意する。僕が先生と話してるのを見て焼き餅を焼いてしまったようだ。
「すまない、ユーリ。出来れば治療に専念してもらいたい」
「あら、ツバキ様…まあ、酷いアバラが折れているわ。エイジ様、どうか手を握ってあげて?ちょっと痛いのだけど…我慢してもらうしかないから」
「…わかった。ツバキ、大丈夫か?」
「ええ、気にする事はないわ。これくらい…んっ」
「…ふっ、痛いなら痛いと素直に言え」
ツバキとエイジもいい感じだ。ノリコも最近はなんだなんで僕に積極的にアピールしてくるし…ああ、どうしよう。
そうこうしているうちに身体中にあった擦り傷や打撲、骨折は治り完全回復だ。心なしか気分もいい。
「うん、うん。よかった、みんな全開だね」
「はい!なので早速ノリコのレベリングを─」
「それはまた後」
「話被せないでくださいよ」
「ごめんね。でも、急ぎなんだよ」
彼女とも長い付き合いになるからわかる。ああやってポリポリと鼻の頭を掻く時は相当切羽詰ってる時だ。
「…追い討ちをかけるようで申し訳ないけど…君たちの戦った魔王軍の幹部の1人、ウォーデンは我々カールマイド王国と魔王領のちょうど境目に住まう魔族なのは覚えてるよね?」
「勿論です」
「正直に言ってしまおう。格上だった…とても強かっただろ?でもね、もう一度戦ってもらうよ?じゃないと世界は魔王に支配されてしまうからね」
「え、でも…」
正直な話、手も足も出なかったが…
「安心して、君たちはまだまだ強くなれる。誰よりもね」
パチンと指を鳴らしメルカが合図を送ると扉を空けて王城専属の鍛治師達が部屋へと入ってくる。
「本当はもっと後に…ああ、出し惜しみとかじゃないよ?でも、対魔王まで取って置きたかった品々だ」
彼らの持ってきた防具や武具、アクセサリーの数々からは膨大な魔力や今自分たちの使っている武器と同じような神々しさを感じる。
「非常に魔力の消費が激しいから普段から…とはいかないけど、持っていてくれ。きっと役に立つからね」
「「「「「ありがとうございます!!」」」」」
「はは、息ピッタリ」
各々が自分に合う防具や武器を見繕い始めた時、ふとメルカから耳打ちされた。
「…クロード君。アクト コダマを覚えてる?」
「メルカさん…貴女にこう言うのはとても失礼ですが…あんな雑魚の事貴女の口から出るまで忘れてましたよ」
「ふふっ、そうかい。彼ね、結構強くなったんだって」
「へぇ…」
「勇者パーティーに戻る気はないみたいだけど…どうだい?ウォーデンの所に行くまでの肉壁として使わない?」
「悪いですけど僕らの旅は命をかけた物であり、足手纏いどころか1人で魔物も倒せないような奴を連れてくつもりはありません。ましてや、あの無能をもう一度パーティーに入れるなんて例え王様に土下座されたって嫌ですよ」
嫌な記憶だ。最初こそ仲良くしてやっていたと言うのに…その恩を仇で返してきたような奴だ。結局強くなろうともせず、足を引っ張り最後の最後まで無能だった。
でも、最後は泣きながら王都を出て行ったところは笑った。無様で何よりも似合っていたからだ。やっと自分の無能さに気づいたのだと。
「それともう一つ。これを…」
そう言って手渡して来たのは小さな魔石だった。
「これはね、私が開発したスキル魔石の派生系でね。強制的に発動してるスキルを奪うことが出来るんだ」
「…これをどうしろと?」
「アクト コダマは無能なのは理解出来るだろ?」
「はい」
「でも、彼のスキルはとても珍しいんだ。まあ、彼自身全く使いこなせて無いけどね」
同感だ。ノリコのエンチャントと比べる必要も無いほどに酷いものだった。あれなら王都にある学園の生徒の方がまだ良いエンチャントをすると思う。
「取ってきてくれない?」
「…わかりました」
「助かる〜。あっ、それとアクト コダマ自体にはなんの価値もないからさ…本当に肉壁として捨ててきて構わないから。スキルだけはお願いね」
「はい」
そんな簡単な事なら頼まれなくたってやるよ。さて、どのタイミングがいいか…
「クロード!いつまでメルカさんとイチャイチャしてるのよ!」
「わ、ま、待ってサツキ!当たってる!当たってるから!」
我慢の限界だったのだろう。サツキは人目を気にせずに抱きついてくる。
柔らかく大きな2つの胸はむにゅっという擬音でも聞こえてきそうなほどに押し付けられる。
「ははっ、こりゃ失敬。勇者様の奥様に恨まれちゃ世界のどんな人間も助かる見込みがないね!」
メルカの冗談でみんなが笑う。ああ、なんて楽しい生活なんだろう。




