代行教師な1週間 その5
「どうですか、先生!?」
「いやー、ビビった。本気で死ぬかと思ったわ」
巨大な水泡に閉じ込められて、まるであの時の様に全身から魔力が漏電したが…無事に勝てた。勝てたって言い方もおかしいか。
代行教師6日目。明日が最終日だ。なんだかんだで仲良くもなれたし悔いは無い。
そして今日も授業は無事に終わり反省会と言うか、生徒達の次の授業までの休み時間に談笑してるのだ。
「グリム!お前一人で先生追い込んだとかヤバすぎんだろ!」
「へへっ、先生は雷神だからな。水で包んじまえばって思い付いたんだ」
「グリム君、その言い方やめて、恥ずかしい」
「事実じゃないですか。【クラウノス】ノーモーションで撃てるの雷神くらいですよ。普通はシーラちゃんみたく溜め時間必要ですし」
俺も俺で色々学べた。どうやらエンチャントした際に使えるようになるスキルは例えば雷系統だったり死霊系統だったりの最上位のスキルだったとか。後は情けない勇者どものアホな話とかも。
「でも、もったいなく無いですか?今のところ肉体へのエンチャントは2つだけなんですよね?」
「うん、そうだな」
「増やしたほうがいいですって」
「これ以上人間離れしたくないんだけど」
「でも、アルマ先生もエンチャント無くても大分人間離れしてますよ?」
「天才だからでしょ」
小さいのは可愛いというのは理解出来る。小動物とか見てると癒されるし。
ちょこんと日替わりで膝の上に座らせられ可愛い、可愛いと連呼されているアルマは今日も顔を赤くしている。
「……や、やめてぇ」
「楽しそうで何よりだ」
「…アクト、助けて!」
「今日はもう魔力切れでーす」
「…アクトの意地悪!」
仲良くなれたようで何よりだ。
「はあ、しかしやっとか。明日で終わりだ」
「え?あんたはそんなに僕らと一緒にいるのが嫌だったのか?」
「んー?いや、さ。人ってのは同じ環境にいると飽きるクセして、違うところに行くと元の場所に帰りたいってなる物なんだよ」
「はぁ」
「何よりも、俺君らにもう教える事ないし」
1週間同じ内容でよく持ったなって思う。
「お別れ会でもしようか?」
「遠慮しとく。それよりもそろそろ授業だろ?いいの?」
「あっ、やべ!」
フィレム達は焦って学校へと走り出し、アルマと話していた女子達も急いで行ってしまった。
「とんと静かになるもんだな」
「……寂しい?」
「別に?」
「ほっほっほっ、そんな事言わずに是非、我が校で教師を続けられたらどうですかな?」
「…ああ、どうも」
学長だ。いつの間にいやがった、くたばり損ない。
「いやはや、見くびっておりましたよ。まさか、彼等をまともな生徒に戻すとは…」
「世辞とかいいんで、報酬に色付けてもらえません?」
「ほっほ、俗物的ですな」
「あんたらと違って俺たちは生きるだけで精一杯なんだよ」
つーか、人変わりすぎだろ。お前もお前だ。ボケ。
「…我が校で教師を続けられると言うのであれば安定してそれでいて冒険者時代よりも多くの金を貰えますよ?」
「遠慮しときます。もう2度と王都に足なんて踏み入れたくないんで」
「嫌われておりますなぁ」
「安心してくださいよ、あんたの手のひらの回転は見てられますよ。少なくとも国王だったり、その部下の手のひらの回転よりかはマシですし」
「……アクトは学長さんの事思ったより人間らしくて安心した…って」
変な翻訳付けなくていいから。
「うれしいですな」
「やめろ、頬を染めて近づくなジジイ」
「まあ、でも優秀なコダマ殿にも幾つか苦情が入っておられまして」
「え、何急に」
まさか初日で全員殴ったことか?
「特殊育成クラスは既に強いのに何故これ以上強くする必要があるのですかとか、我々にも彼の授業を受ける権利があるはずですとか」
「…嫌ですよ?」
「そこをなんとか」
「いや、いやいやいや。無理ですって。素人にはこれ以上無理です。本当に勘弁してください」
「後はですね…他の先生方からは平民如きをこの学園に入れるなとの苦情が」
「じゃあいいじゃないですか。一応仕事は明日までって約束ですし」
楽しかったが、流石にこれ以上伸びるのは勘弁してもらいたい。
「まあ、ともかくその先生方にはどうせ明日には俺がいなくなるから我慢しろとでも伝えといてくださいよ」
「それが出来ればなんですがね…」
…わぁお、行動力の化身。
何人かの教師らしき人たちが学園の内部から出てくる。
「…王都ってこんな連中ばかりだな」
「……貴族なんて殆どが…自尊心とプライドの塊」
「うん、それは同意するわ」
クルー君は多少性格に難があるだけでいたって普通で優しい子だと理解出来た。
だがコイツら露骨に俺らのことを下に見て、口裏でも合わせたかのように罵ってくる。
「……」
「……」
「今となっては彼等よりも貴方の方が価値がありますよ?」
「…阿呆らしい」
取り敢えず彼等よりは強めにぶん殴っておいた。
ーーーーー
「…これくらいですかね」
「そうか…」
「役に立ちそうですか?」
「まあ、そこそこだな」
これが代行教師として王都で働いてきた1週間だ。
他にもアルマが未知の料理でテンション上がってたり、なんだかんだで昨日は見ていた生徒全員からありがとうございましたと伝えられたりと充実はしていた。
それで今日やっと帰ってきてガルドに報告している。因みにアルマは疲れたのか既に寝てしまった。
「…てめえあれだな?ガキに好かれやすいタイプだ」
「冗談はよしてくださいよ。どこにも好かれる要素なんてない」
「その割にはラークス達も随分と懐いてるじゃねえかよ」
「知らないんですか?恋は盲目って言葉。まあ、恋じゃなくてもこうやって憧れられてるのは自覚してますが、結果としてそれが目を濁ら─」
「つーわけだ、任せるぞ?」
「…はい?」
ガルドは何やら書類にサインした後にポンッと判子を押して何やら渡してくる。
「えーと…汝、アクト コダマを冒険者養成学校の教師と任命するぅ?」
「おう」
「ちょちょちょちょ!勘弁してくださいって!俺人に教えるような事無理ですよ!」
「なんでだ?ピッタリじゃねえかよ」
「どこがですか!」
しかもご丁寧に俺のサインまで偽装されて書かれてるし。
「お、横暴だー!」
「あ?どこがだよ?」
「俺、先公なんざ絶対向いてませんって!苛立ったら直ぐに人に当たったり物に当たりますし、自分が悪くないって直ぐ人のせいにするし!」
「言ってて悲しくなってこねえのかよ…」
「うぐ…」
それを言われたら何も言い返せない。
「何も今直ぐにってわけじゃねえんだ。それともなんだ?50過ぎても冒険者やるつもりか?体持つのかよ」
「うっ…」
「老後に備えろってんだよ。てめえがこの先どうなるのかは知らねえがよ…うじうじと過去の事引き摺ったり、今の事だけ今だけを考えるんじゃなくて先の事も考えやがれ」
「…っす」
「わかったなら先ずは酔っ払いどものユウシャサマって絡みも笑えるくらいの大人になれ。毎日喧嘩沙汰にすんな」
「それとこれとは話が別では─」
「いいな?」
「…はい」
ガルドの有無を言わせぬ圧力に気圧されて頷いてしまった。
過去との決別…嫌だから忘れるってのは良くないことなのか?そんなのに時間を割いてる暇があるなら他のことを考えてる方がいいのでは?
どうすればいいのかわからない。アルマに聞いても…いいのか?
結局考えはまとまらなく、いつもの宿に戻ると相変わらずアルマは凄まじい寝相をしていて少し笑ってしまった。
「どうやったら、そうなるんだよ…ったく」
彼女をベットに寝かせてやり、俺も今日は寝るとしよう。明日からまたこの街での日常が始まる。
しかし、先送りにしたい事と言うのは大抵直ぐに起こるので…数日後に吐き気を催す程の不快な事が起きるとは、まだ知る由もなかった。




