代行教師な1週間 その3
癒しと言うのは正しくこのことだ。
今日だけは素直にアルマを抱き枕にして寝た。そしたら気分上々。最高に気持ちがいい朝だ。
「……昨日の夜は激しかった…ね?」
「誤解の生まれそうな言い方はやめてもらいます?」
いや、年下の少女に抱き着いて寝ると言うのは誤解どころか1発で豚箱案件ではあるが。
「……お腹空いた」
「そうだな」
王都にある宿と言うのは魔法によってだが見た目の割に随分と広く作られている。
あの後は迎えに来た男性によって宿まで運ばれてきた。
もうなんかとても疲れた。
「ビュッフェ?らしいぞ」
「……わぁ、楽しみ」
他愛のない話をしてる時だけは心も体も癒される。本当にもう早く終わんないかな。1週間。
今日は朝かららしいのでゆっくりと食べてる時間もないが…彼女がとても幸せそうに頬張ってるの見ていられるので満足だ。
ーーーーー
「……」
「……」
「どうかしたんですか先生?あんたが来ないと僕らも困るんですけど」
「フィレム君…?」
「……ドッペルゲンガー」
「それだ!」
「それだ!じゃなくて早く始めてくれません?」
校庭に行くと今日は全員が座って待っていた。
どうせまた騒いでんだろとか思って少し遅れて行ったのに待たれてたとなると申し訳なくなる。
「どうしたの?全員揃って変なもの食べた?」
「は?あんたが僕らより強いってんだから僕らは大人しく授業を受けてやるってだけですよ」
「へぇー…今日も罰ゲーム?」
「いいえ、今日は敢闘賞です」
「ああ、そう」
なんか昨日は敵だ!みたいな目で睨み付けてきた癖に今日は殆どが目を輝かせている。
何?何なの?期待されてるの?まあ、良いや。
「えーと…取り敢えず魔法使い?魔法を主軸に戦う人、前に出てきて」
「……?」
「アルマ、この間の剣貸してもらえるか?」
「……ん」
アルマから剣を受け取る。
いつもレーヴァテインにやってるように魔力を流し込むと思った以上に巨大な炎が生まれる。
全員が驚いた顔してるが段々と炎小さくしていきやがていつもの様な圧縮された炎の剣へと形を変える。
「ほい、じゃあ魔法使いの人達はこっちと俺の剣貸すから取り敢えずこんな感じで炎を普通の剣と同じくらいにするのを10分くら─」
「……アクト、雑」
「…え?」
「……アクトが言いたいのは、この魔剣2本は扱いに難がある…から、形をうまく作り変えれれば、魔力がより効率的…に使える様になる…でしょ?」
「お、おう。そう言うことだ。うん」
アルマありがとうと心の中で賛美の言葉を叫んだ。
「じゃあ、魔法の方は任せてもいいか?」
「……ん」
「先生、私達はこれだけですか?」
「それが出来たらアルマが相手してくれる」
「え?この人が?」
「舐めてると昨日以上に痛い目見るぞ」
少女は多分、自分よりも背丈も小さく端的に言って弱そうなアルマを見てそんなこと言ったんだろう。まあ、そこら辺は多めに見ておこう。後はアルマ任せだ。
「で、僕らは?」
「んー…と、残ったの8人?じゃあ適当にチーム組んで」
「は、はぁ…」
「で、俺と戦うぞ。俺の事は化け物だとか怪物だとかと思って本気で殺しに来いよ」
「…昨日は負けましたけど今日は気を抜きませんよ?」
「そう?まあ、兎も角。チームワークとか作戦とかも考えて頑張ってね」
剣はアルマに渡したので徒手でのみの戦闘だ。
まあ、気を抜いたら殺してしまうかもしれないからしっかりと攻撃を見よう。
「俺はね、頭悪いから斬新なアイデアでみんなを直ぐに強くするなんて事はできないけど…まあ、命の危機を感じたらさ、戦場でも立ち止まる事なく前に進めるでしょ?」
「先生は悪魔ですか?」
「どこからどう見ても純然たる人間だよ」
そう言って拳を構えると俺の周りに金属の塊が浮いていた。
順番なんぞ決めなくとも既に誰からやるかは決まっていたらしい。
「【マグネットボム】」
フィレムが指を鳴らすと同時に金属は俺に引っ付き爆発する。
「先生、気を抜いたら死にますよ?」
「知ってる」
まあ、無傷だが。
「ッ!?」
「さあ、チームワークだ。お互いを補い合って目の前の敵を殺せ」
芝居がかった口調で言ってやると最初の4人が前に出る。
「ジョージ!クルー!行くぞ!」
「任せとけ!」
「僕に指図するな」
「うーん?あの子は後衛?」
フィレムは金属か磁力を操るスキルなのだろう。複数の剣が宙を舞い一直線に俺へと飛んでくる。
ジョージ君…は、斬撃を飛ばしてきたな。これがスキル?それとも剣に付与されていた魔法か?んで、クルー君は…剣に結晶を纏っている…うーん、前衛3人?後衛のあの女の子は動かないな…
フィレムの剣を避けるとその先にジョージとクルーが待ち構えていて、剣を振ってくる。殺す気満々だ。途中で止めたりなんてするなよ?
「ガッ!?」
「ゴフッ!」
鳩尾に拳を叩き込む。かなり弱めなので精々少し呼吸し辛くなるらくらいだろ。
しかしそこで辺だと気付く。フィレム君が攻撃を行わず、宙を舞っていた剣が溶け出して殴り飛ばされた2人と自分自身の前に巨大な鉄の壁を作り上げた。
「今だ、シーラ!」
「任せて!【クラウノス】!」
驚いた。俺だけ使えるとか勘違いしてたけどこのスキルを使える奴が他にもいたのか。
シーラと呼ばれた少女が腰にさしていたレイピアを抜くと上空へ投げる。それが触媒になったのか、或いは他に発動条件があるのかは不明だが…金属の爆発よりも眩く、目の前が白く書き換えられる。
「…やった…のか?」
「はぁ、はぁ…ぜ、全力でやったわ」
「死んだのでは?」
「えっ、いや、たしかに殺す気で来いって言ったけど…」
何やら話し込んでいるが…
「残念なお知らせだ。ソレは最悪の手だ」
永久機関的に魔力を吸収した結果、ドラゴンと対峙した時と同様に両腕が赫雷へと姿を変える。
「せ、先生…無理です。勝ち目がありません」
「うん、ごめん。今回は俺が悪い」
体内に溜まってた膨大な魔力はそのまんま吸収して元に戻る。流石にこんなところで寿命を削りたくなんてない。
「ええと、シーラさん?」
「は、はい!」
「今回は相性が悪かったけど、凄いね。さっきのスキル。普通の人なら一瞬で蒸発してたよ」
「ありがとうございます!」
「フィレム君いつ作戦立てたの?」
「さあ?いつでしょうね?」
ニヤニヤと笑っていて考えは読めないが一泡吹かせてやったぜとか思ってるのかな?
「取り敢えず…技の拡張とスキル発動の時間短縮かな?ええと…ああ、そうだ。チームワーク。あれはよかった」
「そんな無理矢理絞り出さなくても僕らは僕らで反省点を学べますよ」
「…悪いね、人に物教えんの苦手なんだ」
「構いませんよ、あんたはただ強ければそれでいい。僕らもそれだけ本気を出せますから」
いい子だな。なんだかんだでクルー君とも仲良さそうだし…ん?ジョージとシーラ…ああ、デキてるのかな?そこら辺は放っておくとしよう。
「さて、じゃあ2番目の組の人。準備万端?いつでも開始していいよ」
まだ、2日目だが。きっといい生徒に恵まれたんだなって思い始めて楽しくなってきたのは自分の心がチョロいせいだ。
ーーーーー
「……暴走したら、止めるから大丈夫」
そう言ったのは何十分くらい前のことだったか…
えりーと学生とかいうのだからか、存外魔力の扱いが慣れている。
あんまり上から目線も駄目だけど上手。
魔力が切れないように1分毎に交換しあってるがもう既に慣れてきたのか刀身を一定の大きさに定着させている生徒もいる。
「……どう?」
「む、難しいですけど…楽しいです」
「……アクトのは無理だけど、そっちの魔剣は…そのうち売り出されるよ?」
「えっ!?本当ですか!」
少し興奮してしまったせいか刀身が揺らめく炎に変わってしまう。
「……集中」
「はい!」
…しかし暇だ。こんなので強くなれるのかと言えば五分の賭けだし、アクトはアクトで楽しんでるし。
角は見えてなくても魔力探知でアクトが何してるかはわかる。
ゲルダに言われてから随分と頻度を少なくしているので廃人になる心配も少しは和らぐだろう。
「…ぷはっ!」
「……息はしっかりして」
「先生!1分間維持出来ました!」
「……ん。じゃあ、次の順番回ってきたら…攻撃するから、維持したまま避けて」
「えっ…」
「……大丈夫。アルマはアクト程強くはない…」
それならよかったと安堵される。
まあ、アクトよりは攻撃力は低いけど避け難い攻撃ではあると思う。
「……ん?」
それは昨日からだったが、辺な魔力が時折アクトの周りを包み込んでいる。
そしてそれを操っている奴も意外と近くに…まあ、アクト自身気付いてないし術者のレベルがあまりにも低いのか危害も全くない。
「……殺しといた方がいいのかな?」
「先生?」
「……?あ、大丈夫。それよりも、2人とも交代」
「「はい!」」
まあ、いいか。もしも本当に危害を加えてくるなら…その時は私がどうにかすればいい。




