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代行教師な1週間 その2


「お迎えに上がりました」

「は、はぁ…」


 今朝は宿屋のオヤジの声で目が覚めた。

 何事かと思えば宿の目の前に豪奢な馬車が止まっており、燕尾服に身を包んだ初老の男性が深々とお辞儀をしてくる。


 昨日の今日でもうかよと思ったが日付とか何も聞いてなかった俺が悪い。


「…アクト、なにだってんだ?」

「新しい仕事っすよ…1週間くらい部屋開けますんで」

「そうか…安心しろ、勝手に貸し出したりはしねえからよ」

「助かります」


 急いで身支度を整えるとアルマは準備OKとでもいいたげに親指を立てて待っていた。


「腕輪持った?」

「…ブレスレット!持った」

「ん。じゃあ、お願いします」

「はい、かしこまりました」


 馬車にはあまりいい思い出が無い。あの連中と何時間もこんな狭い中で入れられていたのだから。これなら監獄に入れられてる方がマシと思ってた。


「…到着まで、少し時間がかかります故、なにぶん狭いですがごゆっくりご寛ぎください」


 今回はアルマと2人だけだし、いい気分で乗ってられそうだ。



ーーーーー



「……真っ白なお城だ」

「そうだな」


 まあ、言ってしまえば白亜の城だ。中身は真っ黒ではあるが。

 ともかく、外見だけで言えばとても美しい。外見だけは。


「……それに、街並みも違う。しっかりと舗装された道路に…あれは?」

「街灯でございます。夜になると吊るされているランプが光り、夜道を照らすものです」

「……すごいね」

「……」

「……アクト?」


 一応御者である燕尾服の男性に中の声は聞こえているらしく、わからないことがあると話しかけてくる。それは別にどうでもいいのだ。


 馬車に揺られて二時間ほどで王都には付いた。二度と来たくないと思っていた。

 いや、殆ど来たことないのにそれは流石に失礼か?


「……大丈夫、アルマが付いてる」

「そうだな、ありがとう」

「…しかし、大変ですね。まさか特殊育成クラスの臨時担任とは」

「なんですかその仰々しい名前」

「所謂ところの貴族や平民もですが実力者揃いだったり珍しいスキルを持った方達の集まりです」

「へぇー」


 ……ん?


「……アクトは今、冒険者じゃ無くてもスキル…使える?って思った?」

「え、うん」

「……一般人がスキルを使うには冒険者にならなければ…だけど、お金のある人はスキル魔石で…覚えられる」

「ああ、あの…サジ君だっけ?あの子もそうって言ってたな」

「魔石によっても種類がありまして、武器や日常品に使われる物から、魔物を封じ込めたり、その様にスキルを映したりも出来るものまで多技にわたります」

 

 便利だな…いや、しかし覚えることが多い。


「……魔石を使った生活用品は…高級品だから、覚える必要はない」

「なるほど」

「お話し中に申し訳ありませんが、そろそろ到着しますよ」


 何を教えろと言われるのかは知らないが出来ることなら頭を使わない感じの強化でお願いしたい。



ーーーーー



 端的に言えば着替えさせられた。

 なんかいきなり音楽室にある肖像みたいな髪型のジジイにここは神聖な学び舎だぞとか言われ、服を渡された挙句にどうやらコイツが学長らしくて着替えを終えるとすぐに学長室に2人とも連れて行かれ、1時間近くこの学校の歴史だとかいかにして我々人間が尊いだとか、言われてる。

 因みにアルマは既にブレスレットを付けて人間の姿になっているため問題ないようだ。


「…以上を持ちまして、つまるところこの学園は素晴らしき人材と未来ある騎士や魔導師達を育成しているのです。お分かりいただけましたかな?」

「……素晴らしい校風だと思います。貴方のような方が学長をされているのです。この学園の生徒は幸運ですね」


 ああ、わかる。これ社交辞令だ。


「おお、ありがとうございます」

「…あー、すみません。素晴らし過ぎて言葉が出てきません」

「…何言ってるんですか貴方は?」


 殺すぞジジイ。


「まあ、学が無い力だけの人間とは聞いていたので構いませんよ。

 今回は貴方のような学の無い人間でも出来る仕事ですからね」

「ソーデスカ」

「困った物ですよ…どれだけ優秀な教師を雇っても彼らの前では玩具同然ですからね。たしかに強い事はいい事ですが…いやはや、貴方のような人間と違って他の教師は使い捨てでは無いというのに」

「……」

「まあ、兎も角です。貴方は平民風情の中でも多少強いらしいですし、戦闘訓練の方は任せましたよ。ああ、因みに授業中にもし大怪我を負っても我々は責任は負いませんので、悪しからず。あっ、勿論生徒に危害を加えたらわかってますよね?」


 どうやらここではアルマだけが癒しであり救いのようだ。


「戦闘訓練と言っても彼らは並みの大人では太刀打ち出来ませんから、難しいんですよ。ははは」


 話終わった後に校庭らしき場所に案内されると10数名程度の少年少女達が各々の武器を持って待っていた。


 アルマと同年代くらいか?仲良く…はなって欲しく無いな。うん。


「学長。次はそいつですか?」

「ええ、そうですよ。じゃあ、あとは任せましたよ」


 ジジイはそれだけ言い残してさっさと学校に戻って行った。


 …やりたくない。どうすんだよ、俺より強かったら。負けたら恥ずかしいし、何よりも格好がつかない。

 そもそも精神的苦痛を与えるためにメルカがコイツら当てがってきた可能性もあるし…


「……アクト、頑張ろ?」

「だな」

「おや、先生。妹同伴ですか?」

「相棒だよ。で、えーと…名簿とか無いの?」

「悪いんですけど、僕は罰ゲームとして貴方と話していますが、僕らは弱い人間と話すつもりはありませんので」

「ああ、そう」

「……はい、名簿」

「ん、ありがとう」


 子供の指導なんてするつもりはないが給料分は仕事をしないとな。

 それにあのジジイがウザったいし。


 名簿を確認すると写真らしき物も貼ってあって助かる。


 フィレム君でいいのかな?


「はいじゃあ…取り敢えずお前ら態度悪いからブン殴る。体罰とかで訴えんなよ」

「…は?」

「ああ、勿論君らは抵抗してくれ。死ぬ気で。なんなら俺の事殺そうとしてもいいよ。アルマちょっと下がっててくれ」

「……ん」

「ほい。んじゃあ、よーいスタート」

「ははっ!死にたいんですか?冗談にしたって今までの先生とは多少ユーモアが─」


 もう何か話聞かさなそうなのでいいやとゼウスエンチャントを掛けて、瞬間移動をして…結構弱めに話しかけてきていたフィレムを蹴り飛ばした。


 土煙の奥で気絶した学友を見てか、やっと現在の状況を理解して何やら慌てふためき始めた。


「何ボーッと突っ立ってんだ?それとも、それも罰ゲームで1人やられたらまた1人って訳か?それでもいいぞ」

「ひ、卑怯ですよ!」

「どれに対して?不意打ち?それとも君らが多数で俺と戦うから?安心しろって、俺別に魔力さえあれば死なないし」

「……それはやめて」

「…ごめん。

 まあ、兎も角ほら来いって。別に話さなくたっていいよ。手は動かせるだろ?」

「それでも大人ですか!?」

「まあ、一応こっちの年齢だと成人してるしね」


 何やらごちゃごちゃ言い始めたので【クラウノス】を最低出力で撃ち込む。


 まあ、取り敢えず戦闘訓練だって言うしこんくらいでいいのだろう。多分。



ーーーーー



「うーん…弱いね」

「……違うアクト。今まで戦ってきたの…が、格上ばかりだから…そう感じる」


 ものの五分で全滅していた。立っている者は俺とアルマ以外いなかった。


「アタギ君の方が強かった」

「くっ…ドラゴンを討伐した英雄なのだから当たり前じゃないですか」

「ああ、フィレム君起きた?じゃあ、ハイこれ。ハイポーション」

「要りませんよ、僕らもっと高価なの持ってるんで」

「へえー」


 最初に蹴り飛ばしたフィレムがどうやら最初に目を覚ましたようだ。


「卑怯者ですね。それで勝てて嬉しいんですか?」

「冗談。魔物だって人間だって律儀に勝負だって言って襲ってきやしねえよ。

 あと、俺に人を殴る趣味は無いから嬉しくもなんとも無い」

「……フィレムには蹴り」

「ああ、そうだった。ごめんね。殴るって言ったのに蹴っ飛ばして」

「……。どっかで見たことあると思ってたんですけど…あんたもしかして元勇者?」

「そうだけど?ああ、アイツらと同類に見ないでね。吐き気がする」


 勇者とかいう単語聞くだけで吐き気がする。


「あんた、弱くて見捨てられたんじゃなかったのかよ…それとも勇者様はそんなに強いのか?」

「知らね。もうアイツらのことなんざ毛ほども興味無いし」

「……負けて敗走中だって…アクト居ればそんなこと…無いのに」

「それは流石に言い過ぎだって。俺にも勝てない奴は大勢いる」

「…こんなのに負けたのかよ」


 何やら悔しげな表情を浮かべているが、どうせ1週間の付き合いなんだ。それに、この先どうせ二度と会うわけないし、別にいいだろ。


「で?殴られた理由お分かり?」

「…なんか深い理由でも?」

「まっさかー!単にイラッときたから」

「人間の屑っすか?」

「そうだよ。だから君らには反面教師としてでも見といてくれよ」


 大体何をやればいいのかわからないし。


 フィレムからはなんだコイツって目で見られているけど。


「君ら十分に強いんでしょ?なら、多少は素行を良くしとかないと将来大変だよ?」

「余計なお世話ですよ」


 そうこうしているうちに、段々と目覚め始めてきた。取り敢えず人数分のハイポーション渡しておこう。


 あとは…アルマがウィンクしてきた。可愛いな。違う、そうじゃなくて。

 どうやらこのあとは任せてくれということらしい。


「……はい、注目」

「いきなり人のことを殴りつけておいてなんだその態度は!」

「……?」

「お前らを父上に言いつけてやるからな!」

「……だから何?」

「なっ!?」

「……殴ったのアルマじゃなくて…アクト」


 どうやら貴族の坊ちゃんなのだろう。他にも数名いるが制服が妙に豪華だ。


 そう考えるとフィレム他数名が一般階級の人間?別に誰が偉いとか偉くないとかはどうでもいいと思うが…結局は偉いのも金持ってんのもお前じゃなくて親なんだし。


「他の平民どもは兎も角だ!僕は将来この国を引っ張っていくエリートだぞ!」

「……エリート?ええと…あれ?エリートって名前無いよ?」

「多分名前じゃなくて僕は他より優れてるって言いたいんだろ」

「……なるほど…あっ、あった。クルーだ」

「気安く僕の名前を呼ぶな!」


 1人が声を上げれば何人かもまた声を上げ始める。恐らく人生で初めて食らった痛みなのだろう。ズキズキと忘れ難く、無性に腹が立ってくるみたいだ。


「……騒ぐ体力あるならもう一回…アクトが戦う…って」

「いいだろう。所詮は不意打ちでしか勝利を得られない能無しだ!」


 そう言って何かを俺の足元に投げ付けてくる。

 物に当たるなよと思いながらも拾い上げるとどうやら手袋のようだ。なんか無駄にゴテゴテしてて使い勝手は悪そうではあるが。


「決闘だ!」

「はい?」

「コダマとか言ったな?お前は今僕からの決闘を受け取った!」

「…ちょいちょい、フィレム君」

「なんです?」

「どゆこと?」


 なんか急に騒ぎ出したし貴族階級らしき生徒は盛り上がり、他はまたかみたいな顔している。


「相手の投げつけてきた手袋を拾い上げたら決闘成立ですよ?」

「そうなの?」

「……ん」


 なんだかなぁ…


「ルールは3つだ!スキルの使用は禁止、自分の武器は使用可能、そして生死は問わない…だ」


 …だ。じゃねえよ。アホなのか


 いつの間にか生徒もアルマでさえも俺たちの周りを囲ってどうなるのかを見ている。


 俺の立っていたところから数歩先にクルーが立ち、剣を引き抜く。


「おい、平民。合図しろ」

「チッ…いざ、尋常に…勝負!」

「あ、そこだけ和風なのね」

「ウォォォッ!」


 クルーの雄叫びと共に彼の持っていた剣が淡く輝く。

 前に見たことあるなこれ。たしかアタギ君のとこのお姫様の使ってた奴だ。


「我が魂と!希望の光を持って、悪鬼を浄斬せよ!」

「うーん…まあ、いいか」


 レーヴァテインの炎をいつものように圧縮して真っ赤な剣にし、上空から来た光の剣を受け止める。

 いや、そんなに脆いとは思ってなかったけど…受け止めたところから簡単にクルーの剣が折れた。斬れたではなく折れた。九十度に。ポッキリと


「……」

「…な、ななななんて事する!これは我が家に伝わる家宝だぞ!」

「え?これ俺が悪いの?扱い方の悪いお前のせいじゃね?」


 何か泣きかけてるしどうしようかなとか思ってたら後ろからまた何か投げられた。今度は何だろう?また、手袋?


 振り向きざまにそれを掴むと毒がたっぷりと塗り込まれた投げナイフだった。


「いや、気に食わねえのはわかるけどここまでする?」

「…アクト!」

「死ね!この、下等生物が!」

「いや、もう君はどうでもいいから」


 元に戻ったレーヴァテインの柄頭で斬りかかってきたクルーの鳩尾を突く。

 なんかよくわからないけどこれで終わりらしい。拍手されている。ナニコレ?


「…アルマ、俺には先生向いてない。何やってるのか自分でもわからない」

「……普通素人がやったら…支離滅裂で、破茶滅茶…こんなものだよ」


 これがあと6日間もあるとは地獄でしか無い。

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