代行教師な1週間 その1
「……んぅ…あふ…ふぇへへ…」
「……」
いつも通りの朝だと言うのは脳が理解している。
もう何度目になるか、数えるのは馬鹿らしいが今日も鼻腔をくすぐる甘い匂いと柔らかな抱き枕のお陰で朝早く目が覚めた。
目を開ければ少女の寝顔があるのが当たり前になったせいか、最近は朝っぱらから大声で叫ぶことも無くなった。
「…しかし、なんだろうな。環境が変わったせいなのか?寝相は確かに悪かったが何かに抱きつきながら朝起きるって事は無かったよな」
自身の変化なのか、それとも今までもそうしてきたのかはわからないがあまり良いとは言えないな。うん、いけない。
それに加えてアルマの壊滅的なほどの寝相の悪さ。前はアルマがベット、俺が床だったのでまだベッドから落ちたと理解できるが、最近はベット二つを離して寝ているのに気付いたらいつもアルマが腕の中で寝ている。
臨時的な物から定期的で比較的多めの収入になった結果、前泊まっていた所よりも大きな部屋になった。
一層のこと、部屋を借りると言うのもありかと考えたが冒険者割引で安くしてもらえるので少しでもとケチって今だに宿だ。
そしてアルマと同じ部屋にである。
「……風邪引くぞ」
お腹出して寝るのはよくないと掛け布団を掛けてやると丸まってしまう。
最近は寒くなってきたので長袖長ズボンのパジャマだが少し前までかなり薄い物で色々と見えそうでヤバかった。
間違いが起こる前に1度違う部屋にしないかと言ったら涙目になりながら1人はもうやだと言われたら残念ながらそれ以上は俺には何もできない。そんな可哀想なことは絶対にできない。
「はぁ…今日もいい天気だな」
アルマが起きるまでもう少し時間があるので窓際に行って日課の日光浴でもしていよう。
ーーーーー
「いらっしゃあい!今日のおすすめはバーストゴウヤのチャンプルだよ!」
「え?何がバーストしてんの?臭い?」
「種だよ!毎年死傷者多数!」
「やべえな」
「今日のは特にでね、17人ものだよ!」
「熟成ワインみたいな言い方やめてもらえます?」
組合についていつも通り飯を食おうと料理当番に話しかけると相変わらず煩い声が飛んできた。
「……見てみてアクト」
「ん?」
「……特盛りランチセットだって」
「へぇー…じゃあ今度の昼だな」
「……ん」
「で!どうする!?」
「いつもの朝食セットで」
「……アルマも」
「はいよっ!」
今日は何もない日だ。仕事を入れずに2人でのんびり過ごすのも悪くない。
「へい、お待ち!」
「あんがとさん」
「……ありがとー」
飯食ったらとっとと報酬をもらって、分配して…ああ、飯の時くらいは考えないでいいか。
「いただきます」
「……いただきます」
食事の時は面倒なことを考えるな。楽しめ…
「すまない、ああちょっと退いてくれ。おほん。私はメルカ!偉大なる国王陛下の忠臣である!ここに元勇者アクト コダマがいると聞いてきた!」
「……」
「……アクト?」
そりゃあそんな大声で言われりゃ何事かと思って本人を見るよな。うん。
「…飯が不味くなる」
2度と顔も見たくない人間と再開した。
ーーーーー
「久しぶりだねアクト。背が伸びた?」
「…あんたは随分と余裕なさそうだな。どうした?捨てたモンにでも足元すくわれたか?」
「そんなわけ無いだろ?君らと違って私達は忙しいんだ」
「ああ、負けた勇者の言い訳を考えてるのか。大変だな、ヘーカのご機嫌取り様は」
一体何しにきたのか知らないが、さっさと帰ってもらいたい。
流石の冒険者達も国王の側近となれば大人しくしているらしい。誰1人とて話さずにじっとこちらの話に耳を傾けてくる。
アルマも無言で食事を終えると片付けに行こうとしていたが周りを囲んでいる騎士が退かない。ここにいろと言うことか。
「…見たところ君はどうやら家畜の餌しか食えないような貧困状態に見えるからね。私が直々に雇ってやろうと思ってね」
「ああ、高価だからって理由で香辛料使いまくったあの料理に比べれば随分と元いた世界の料理と同じで安心したよ。
しっかし驚いたねえ、上流階級の人間はサラダに洗剤でもかけてるのかと思った」
わかりやすく眉間に青筋を立てている。
ああ、俺こんなのを王都にいる時は最後の希望だなんて考えてたのか。馬鹿らしい話だ。
「…はぁ、君さぁ自分の立場わかってないよね?」
「はて?俺はただの冒険者ですけど?」
「そこの魔族と連んで国家転覆を狙っているテロリストとして監獄に打ち込んでもいいんですよ?」
ガチャガチャと音を立てて騎士達が一斉に剣を引き抜き向けてくる。
「いやー、凄いですね。統率の取れたいい動きだ」
「はぁ…どうやら多少の実力はあっても馬鹿のまんまらしいね。悪いがこいつらは君らの倍以上強い…え?」
結構反射的に雷を流してた。命を狙われすぎたか?
そのせいで全員気絶してしまったようだ。
「な…なんだこれ…」
「……」
「おう、気は済んだか?」
何が起こってるかわからないという様子だったがガルドが声をかけてくるとハッと我になって喚き始める。
「貴様ら!これは王国に対する反逆だぞ!おい、起きろ!何やってるんだ!反逆者供を捕らえろ!」
「おいおい、メルカさんよ。俺の部下達が何やったってんだよ?証拠あんのかよ」
「国王軍に対する無礼を働いだろうが!」
面倒くせえ。
流石のガルドさんもなんだこいつみたいな顔してるし。
「まあ、ともかくだ。組合の中で騒ぎ起こすのやめてくんねえか?」
「ふん!これだから平民は…アクト、謝れよ。君のせいで私は今とても不快な気分だよ」
「さーせーん」
「謝り方も知らないのか?まあ、いい。私は君と違って真面だからね」
アルマ、頼むから落ち着いてくれ。お前今剣を抜こうとしただろ?頼むからこれ以上面倒くさいことにしないでくれ。
「君、勇者としては無能だったけど多少は力を付けたらしいじゃない?だから、王立デルマンテ学園の臨時教師として雇ってあげるよ」
「…はぁ?」
「いいか?これは君みたいな無能でましてや平民なんかでは到底なれない素晴らしい職業だ」
何言ってるんだ?
アルマと顔を見合わせるが何が何だかと言った表情でアルマも返してくる。
「ええと…そう言うのは組合通してくれません?」
「は?陛下直々の使命だぞ。組合ごときに通すわけ無いだろ?」
「…ちょっとタイム」
こいつ話が通用じねえな。ガルドさんにどうするか話すか…
ちょっとメルカから離れるとガルドも何やら急に真剣そうな顔をしている。
「やってこい」
「…え?マジすか?」
「冒険者育成学校で近いうちにお前のことを特別講師として呼ぶつもりだったんだよ。いい経験になるだろ」
「…やりたくないんすけど」
「アクト、今回だけは頼む。つーか、てめぇ普段から昇進蹴ってんだろ。どんだけ俺が他の連中に謝ってると思ってんだ」
「うぐぅ…それは卑怯っすよ」
それを言われたら断れなくなる…いや、今まで自分のわがままを聞いてもらって迷惑かけてきたんだ。いい加減に大人になれ、ガキじゃないんだ。
「わかりました。やってきます」
「悪いな」
「いえいえ、給金ふんだくってきます」
「おう」
「話は済んだ?ああ、そうだ。あとそっちの魔族。そいつも連れてこい」
「は?」
「決まってるだろ?仮にもお前みたいなのの側に居られるんだから」
アルマを王都へ…?大丈夫なのか?
言いたいことが言い終わったのだろう。目が覚め始めた騎士達を連れてさっさと行ってしまった。
ーーーーー
「マズいだろ」
「うん、これはとてもマズい事だぜアクト」
メルカが組合から出てすぐにガルドが一言言うとそれに同調して周りの冒険者達も頷き始める。
「王都にいんのは貴族と王族と他上流階級の人間ばっかりだ。てめえがどんな想像してるかは知らねえが…屑しかいねえぞ?」
「うわぁ…」
「取り分け、あの連中はな人間至上主義だ。魔族だけじゃねえ。獣人だって亜人だって等しく自分らの下としか見てねえ」
「それにだ、奴ら多分アクトを自分らの手駒にしようとか考えてるんだろ?
前はアクトを用済みって見捨てた癖してよ」
心配…してくれているんだよな?
なんだか、先の事なんて忘れて素直に喜びたくなってくる。
「……アルマを呼び出したのは、どさくさに紛れて殺す…つもり?」
「きっとそうよ!アクトも気を付けなさいよね!アルマちゃん以上にいい子なんてそうそういないからね?アルマちゃんと違ってボンッキュッボンな女の子いても…痛!ちょ、アルマちゃん叩かないで痛い!」
「……メイ、そんなんだから彼氏…に逃げられる」
「うわーん!アルマちゃんが虐める!」
わちゃわちゃしてきた。それにしても、王都か…城からろくに出させてもらってないしどんな所なのだろうか?今現状は掃き溜めみたいなイメージしかないが。
さて、どうしたものか…
ーーーーー
「で?どうして私のとこに来るんだい?」
「いや、なんかこう…人間になれる薬とか持ってない?」
「あるけど、正体バレたら泡になって消えちまうよ?」
結局いい案が浮かび上がらなかったのでゲルダに相談することにした。
なんか知ってるだろ、多分。
「しかし、まあ…面倒な仕事を取ってきたねぇ…」
「やりたくねえがな」
「で、なんだっけ?デルマンテ学園だったかい?あそこはエリート様の為の学校だよ」
「やっぱり?はー…行きたくねえ」
「いつからなんだい?」
「手紙送るってよ」
はぁ、と再びため息を吐く。こっちだって嫌だよ。というか当事者だし。
「アルマ」
「……ん」
「あんた他の魔法は使えないのかい?」
「……無理」
「職業とは別にだよ?」
「……スキルとしての【ワルプルギス】…と魔法としてのワルプルギス…しか使えない」
「…なあ、ちょっといいか?」
「なんだい?」
「スキルと魔法の違いって何?」
常々疑問に思っていた事だ。
SPはスキルポイントでMPはマジックポイント…魔力ってのはわかる。
すると先生がまた何言ってんだコイツって顔してきた。
「本くらい読んだらどうだい?」
「あ、待って。もしかしてこれも一般常識?」
「いや、これは冒険者ならって感じだよ」
「……アクト、冒険者になるとlevel…を上げられる」
「うん」
「……levelで上がったり、冒険者になって…職業を得て覚えたのは、スキル。逆に生まれながらとか…適性あって覚えられるのが魔法…」
「付け加えるとね、スキルを使うとSPが減るのくらいは知ってんだろ?」
「知ってる」
「持続的なのだったり、追加効果のある奴はねMPを消費してくんだよ。理解したかい?」
なるほどなぁ…と言うかやっぱり知らないことが多すぎるし、今度から気になることは早めに聞いておこう。
「私らみたいなエンチャント使う連中はSPとMPを同時に消費するからそこんとこも気をつけな」
「うっす…ん、あれ?先生も魔法付与師?」
「違うよ。私は冒険者じゃなくて真っ当な職業の医者だ。でもね、エンチャントってのは中々持って便利なものなんだよ」
そう言ってアルマに渡したのはこの間の首飾りのような…今度は腕輪?何やら薄く光っている。
「自然治癒力をあげたりも出来るが、幻覚作用…とでも言えばいいのかね?そのブレスレットを付けてる間はアルマの姿は人間に見えるよ」
「……どう?」
ほんの一瞬、アルマの姿がブレてそこに居たのは彼女と同じ髪色で優しげに笑う人間の少女がいた。可愛い。
「…すげーな先生」
「あんたも脳筋みたいな戦闘特化じゃなくてバランスの取れたのにしたらどうだい?」
「この世からアルマの敵が居なくなったらな」
「あー、やだやだ。これだから男って奴は…まあいいか、ほら。あんたも右手出しな」
言われた通りにすると今度は右手に淡い光が灯って…お?おお?動くし感覚がある。
「あんたは変な事しそうだから教えないけど取り敢えずは動くようにしたよ。
あとはもうひたすらに右手を使いな。筋肉痛みたいなもんさね」
「ありがとうございます。あと前半部分は聞かなかったことにしとくよ」
「そうしときな」
「……見てみてアクト。アルマ、人間になった」
「可愛い」
可愛い。




