薬草求めてどこまでも その4
「落ち着いたか?」
『…うん、まあ』
「はぁ…面倒臭え」
『ふざけるなよ精霊殺し。お前絶対呪ってやる』
暫く癇癪を起こしていたがやっと落ち着いて話せるようになった。
「ところでお前誰なの?」
『えっ…もしかして君数分前のことも忘れるほどにバカなの?』
「聞き方が悪かったな。お前はどこの誰だ名乗ってくれ」
『普通は人に名前聞く前に自分が話さない?』
……
「コダマ アクトだ」
『木霊?へえ、いい名前だね』
「谺だ。で、お前は?」
『聞いて驚け!私は古の錬金術師、パラクスによって生み出された4大精霊が1人、風のシルフィーだ!』
「…パラクス?パラケルルスなら知ってるが…」
『誰だよそのパチモン。パラクスだ』
「そこは別にどうでもいい。で?消えるってどういうこと?」
人型…シルフィーは最初会った時と比べると多少打ち解けた感じで話してくる。まあ、普通は知らない人間が住処?に入ってきたら警戒するし。
『ゴホン。まあ知らないだろうから先に話しておく。えー…精霊っていうのは生きる現象なんだ』
「…?」
『例えば私は風。旋風、微風、強風、暴風、ああサイクロンとかも。とにかく風の全てが私であって私じゃない』
「ごめん、よくわかんない」
『私は風なの!君だって風を殺すことや攻撃すること出来ないだろ?だからさっきの攻撃も当たらない。わかる?』
エレメントゴーレムと何が違うのかイマイチよくわからない。後でゲルダに聞いてみよう。
『で、何で消えちゃうかっていうと。そもそも私のこの姿も人を真似しただけであって、本来は私は風なんだ。
でも、ヤドリギ…とは言っても別に樹以外でもいいんだけどそれに入り込んで、やっと私を視認できるようになってそこから更に魔力が高まっていけば…』
「この世界のものに触れられると?」
『そう!生まれた時から見たり聞いたりしてたけど触れはしなかった。だから、そこの樹齢云千万のフォグプラントをヤドリギにしてずっと魔力を貯めていたの!』
あの樹、そんなに長生きしてたのか…なんか切ってしまって申し訳ない。
『それなのに君が邪魔したから!どんどん魔力が霧散していくんだよ!』
「仲間を見殺しにする気はない。だが、あんたにも申し訳ないし取り敢えず俺の持ち物の何かに取り憑くか?」
『は?嫌に決まってるだろ?君みたいな真性ゲス野郎の側にいるなら消えた方がマシ』
じゃあ大人しく消えてろ。
『ところで話変わるけど何しにここまで来たの?」
「ショウガマって薬草採りに」
『ショウガマぁ?ああ、あのカエルちゃんか』
「どこにあるか知ってるか?」
『知ってても教えなーい』
使えない奴だ。
『もしかして村の人に頼まれたの?それならお笑いね。
騙されたの気付かないままフォグプラントの養分にされれば良かったのに』
「されてたまるか…おい待て騙された?どういうことだ?」
『えー?知らないの?あそこの村。魔樹神聖視のカルト教の本山だよ?』
「カルト…?」
『そう!だからああやって人を襲って上手くいけばそのまんま生贄に、上手くいかなけりゃ村を装って生贄狩り。あとは適当な言い訳で森に入ってもらえばって訳』
なんか妙に都合よく話が進むと思ったがそういうわけか。
『まあ私にとっては好都合だったんだけどね。定期的に魔力お裾分けしてもらってたし』
「…ところでこの霧はいつまで残ってるんだ?」
さっきから気になっていたことだ。フォグプラントは既に灰になった。それなのに泉を囲うように霧は未だ健在である。
『え?そりゃそうでしょ。たしかに霧を出したのはフォグプラントだけど樹が死んだからって魔法じゃないんだから消える訳ないじゃん』
「言われてみればそうだな」
『はは、ばっかでー!』
ゲラゲラと腹を抱えてシルフィーが笑う。こんなことしてる暇があるならアルマ達を助けに行った方がいいと思うが霧が晴れなきゃまた方向感覚も狂うし面倒な幻覚も見始めることになる。ならばここで大人しくしておこうと思ったが時間の無駄になりそうだ。
ひとしきり笑ったあと再び溜息をつき始める。忙しい奴だ。
『ねえ、君の仲間の中に堅実で優しくて何よりも私を怒らない人いない?』
「いな…いや、いるな」
1人思い当たる。
いつも、個性的で暴走しがちな幼馴染み達を止めてそれでいて真面目過ぎる後輩が。
「多少、怒るのは?」
『うーん…君みたくバカな真似するような奴じゃ無けりゃいいよ』
「じゃあいるな。お前霧の中がどうなってるのかわかるんだろ?見てみりゃいい」
『それはフォグプラントに入ってたからで今はもうわかんないよ』
「じゃあ、この霧を先ずどうにかしろ。風の精霊なんだろ?」
『えー…まあ、いいけどさ』
渋々と言った様子で何やら手に魔法陣が出現する。
取り敢えずこれで合流出来そうだなと思っているとつまらなそうにシルフィーが口を開いた。
『そんなに大切な人達なの?』
「…そうかもな」
『へえー、なら君のその逝かれたエンチャントを武器にでも付与してあげれば良かったのに』
「1人は持ってるが…3人はどうなんだろうな」
『へぇー』
「なんだよ」
別に彼等を見下してるわけじゃない。だがアルマほどの才能が無けりゃこんなの危険物以外の何物でもない。或いは俺みたく肉体の損傷なんか無視できる奴か。
『じゃあ、君がさっきフォグプラント真っ二つにしたアレは?量産すればいいじゃん。そうすりゃみんなに教えられるでしょ?』
「それが出来りゃ楽なんだがな。生憎と無理なんだよ」
『ふーん…』
「複製しようとしても失敗したんだよ」
『それって君の心が醜いからじゃないの?』
なんで今会話の流れのように俺ディスられたんだ?
『君さぁ、お兄さんや家族相手に随分と邪悪な考え持ってるんじゃん?』
「邪悪…?いやまあ…死んでくれとは常々思ってるけど」
『いやー、いいねえ。私そういうの好きだよ』
「お前アレだな。悪い精霊だな?」
『まさか!人間じゃないんだから良し悪しも無いよ』
どうだか。
『君さぁ、上っ面だけの薄っぺらい人間じゃん?』
「…そうだが、初対面の相手に言われるのは流石に頭に来るんだが?」
『はっはー!ウケる』
「死ね」
『まあ、冗談はそれくらいにして。
君さぁ、自分とその子以外に強くなって欲しくないんでしょ?』
……
『結局さぁ、常に誰かよりも上にいたい。誰かを見下したい。そうでしょ?凄く人間らしいね』
「あ、もしかして今俺喧嘩売られてる?」
『売ってないよ。君あれだろ?自分を認めてくれる人しかそばに置かないタイプの人間。イエスマンならぬイエスウーマンだけどね。感情を持たない人形に肯定されるのはさぞ気持ちいいだろ?』
「…ああ、フォグプラント切られた事をそんなに怒ってるのか。ちゃんと取り憑く相手は紹介してやるから」
やれやれ、何千年生きてるかは知らないが根に持つ奴らしい。
『あれぇ?君、結構精神攻撃有効っぽかったんじゃない?なんで平気なの?』
「いや、それに他人の事ならともかく自分の事なら別に自覚してるし。そもそも、アルマはウーマンじゃなくてレディじゃね?」
『そこはどうでもいい。でもさー、いるよねー。俺、過去に何かあったんすわぁって調子乗ってる人間』
「そうなのか?」
『……』
「…?」
『やめやめ!もういい!君、本当につまんない!』
シルフィーの手から魔法陣が消えると目の前で暴風が巻き起こる。
これでようやく霧から解放された。あとは薬草を採取するだけだ。
その前に4人を探しに行くかと思ってたら森の中から勢いよく見知った人物が走り出てきた。
「…アクト!」
「おお、アルマ。良かった無事だったのか」
「……ん。アクトは…邪霊と話してたの?」
『邪霊!?初対面の相手に酷くないか?私、そんなに悪そうに見えるの?』
「……精霊なんて殆どが人の嫌がる事しか…しない」
「ああ、確かに。散々言ってきたもんな。流石に傷付いたよ」
なに言ってるんだとシルフィーが睨みつけてくるがアルマはそれを信じてしまったらしい。
敵意を剥き出しにされてるシルフィーだが、攻撃がそもそも当たらないので余裕ぶってあっかんべーしてる。
どうなっても知らね。
「【ワルプルギス】」
『へっへーン。スキルだろうが魔法だろうか私には…って、うわぁ!私の体から魔力が消えていく!』
「……このまま消してやる」
『ごめんなさい、ごめんなさい!許してぇ!』
放っておこう。
それよりもラークス達だ。一体どこに…
「ひぃ、ひぃぃ!かーちゃん勘弁してくれ!」
「ぶくぶくぶく…」
「どうせ僕なんて…どうせ…」
……
「アルマ、その精霊が霧を出してた奴だ」
『なっ!?さっき説明しただろ!霧を出していたのは私じゃなくて─』
「…問答無用!」
『ヒィッ!助けてぇぇぇ!!パラクス様ァァァッ!』
ーーーーー
『酷いよぉ…怖いよぉ…もうやだ人間嫌い…』
「……アルマは魔族」
『魔族も嫌い!』
散々追いかけ回された挙句に体の大半を奪われてシルフィーは消えかけていた。
『それでコダマ。私の…私の契約者はどこ…?』
「ああ、もうそろそろやばいのか」
『そうだよ!呑気言ってないで早く!』
一応優しさのつもりで声をかけてやったのに酷いやつだ。
「……今後一切、悪さしない…?」
『しない!しないから!』
「……ん」
寝てる3人を指差すと待ってましたとばかりにそちらにふよふよと飛んでいく。
「…いやー、しかしよかった。よく無事だったな」
「……これも一種の魔法だから」
「なるほど?」
まあ、無事で何よりだ。
「うぅ…は!?ここは」
「頭が…」
「なんだったんだ…」
『あっ起きた』
「え?うわぁ!誰だお前!」
『落ち着け諸君。私は味方だ』
「え?は?え?」
どうやら3人も目を覚ましまた様であるがラークスが何やらシルフィーに虐められている。
そりゃあ寝起きに見たこともない奴に急に私は味方だとか言われても混乱するだけだよな。
『で、コダマ。こいつがそうか?』
「いや、そっちの眼鏡の方」
『なるほどぉ。ふむふむ…』
「え?え?」
まあ、品定めは後にしてもらって取り敢えずショウガマの場所を押してもらおう。
『ん?ああ、ほらそこら辺に生えてる背の高い草だよ』
「根っこがカエルなんだよな?」
『そうそう!よく知ってるね。でも、最近寒くなってきたじゃん?そうなると動かないでじっとしてるんだよ。休眠期ってやつ?』
「なるほど」
『じゃあ、私ちょっと色々聞きたいことがあるから。ほら、ゲラルド私とお話ししよ?』
「え?あの…え?」
まあ、危害は加えないだろうと言われた通り背の高い草を引き抜こうとするとぬるりと脂ぎった感覚がする。
「……ばっちい」
「そう言うなって。取り敢えず袋一杯に詰めれるだけ詰めよう」
「……ん」
「あ、俺手伝うっす」
「私も!」
なんだか久しぶりに採取クエストしたな。最近はもっぱら討伐か討滅クエストばっかりだったし。
「……終わり」
「相変わらず早いね、どうやってるの?」
「……普通に」
薬草取りのエキスパートのアルマさんの前ではショウガマも即座に摘み取られたらしい。
「てことは…?」
「やったー!クエスト完了だわ!」
3人にとっては初めての遠征だし疲れもたまってるだろうけど…まあ、しょうがない。
「帰るまでクエスト完了じゃないよ。日もまだ高いし早く街へ戻るとしようか」
「えっ…村で一泊してくんすよね?」
「しないよ。あの人たちはあの人たちで生活があるんだから」
「…っす」
「エレンも疲れてるだろうけど、大丈夫そう?」
「は、はい!問題ありません!」
用事も済ませたし早々にここいら一体から離れたい。
シルフィーの話を鵜呑みにするのもどうかと思うがそれでも疑わしきは罰せよと偉い人も言っていたし、何か起きてからでは遅いと散々学んできた。
「……アクト、流石にアルマも疲れた」
「うーん…シルフィー、森の中は安全か?」
『え?ああ、平気平気!普段入ってこないから!』
「そうか!じゃあ少し休むとするか」
安堵の息が出てアルマもラークスもエレンも座り込む。
考えてみれば2人は精神的に追い詰められて、アルマも常時スキルを発動させていたのだ。そりゃ疲れるか。
「俺は取り敢えず村の人達に無事に終わったこと伝えに行ってくるから、よく休憩しとけよ」
「アクト先輩」
「ん?」
「やっぱ先輩メンタルも強いんすね。俺、昔母ちゃんが魔物に襲われて死にかけた時…いや、死んだの見せられて直ぐにでも帰りたいんすけど…疲れがたまり過ぎて…」
「私は前に3人で遊んでた時に魔物に襲われたのを見せられたわ…私だけ生き残って…それで…」
わざわざ傷口を抉るような会話しなくてもいいのに、なんでするかな。
「……アクトはどんな幻影?」
「キレの悪い死体の夢だ」
「……?」
わざわざあんなのの話をするのも人生で無駄な時間を浪費するだけだ。
アルマにあとは任せてさっさと村に用事を済ませに行こう。




