正しいスキルの使い方
「…なあ、一ついいか?」
「……ん」
「その…否定するのは申し訳ないんだけど、本気で言ってる?」
「……騎士様も言ってたよ。
大切なのは武器を強くしようと思う事じゃない、自分の中にあるイメージを纏わせる事だって」
「ううーん…」
本当に同じスキルなのか?もしかしたら別の何かなんじゃないかと思った。
多重エンチャントからの雷の速さで動き様々な属性の剣を使う?
冗談ならよしてほしい。
魔法付与なんて言ってる割には攻撃力の強化くらいしか成功したためしがない。
「……物は試し、やってみて」
「え…わかった」
護身用にと持ってた剣を抜き、刀身に【エンチャント・夢幻】を施す。
手のひらに淡い光が宿り剣の上を滑らせる。すると今度は剣が輝き始め完了だ。
これだけでSPが5消費されるのに、この鈍が普通の剣くらいの切れ味に上がるぐらいにしか精度がない。
「……頭でっかち」
「俺が?」
「……夢と幻。叶うことがなかった夢が、幻が、実現するスキルだって。
ここは、アクトの生まれた世界じゃないよ…?魔法とファンタジーの世界…だよ?」
「…ひょっとして、その騎士様も?」
「……ん。異世界から来たって。
多分、先々々々代の魔王討伐の時の人」
「あの、それって何年前?」
「……わかんない。けど、げぇむ?の魔剣が作れたって…言ってた。炎の魔剣」
炎、炎か…燃えてるイメージ以外何も思い浮かばない。
幼い頃から母の教え通りにゲームも漫画もテレビも教育に悪いと見せてもらえず、教育番組や新聞などばかり読んでいた。
友人も選べと、馬鹿じゃなく己の為になるような人間をと。
それでもただ一度だけ、元友人から借りたゲーム。ジャンルはアクションだったかな。生まれて13年、初めての感覚だった。
「ちょっと離れてて」
「……?」
それはなんて事ない、彼のゲームデータの中にあった武器。
名前が気になって調べたら一時期凄く神話とかにハマったっけな。溜めてたお小遣いで古本屋で本を買って…そのせいで成績が下がって結局買った世界の神話関連の本全部捨てられたっけ…
「【エンチャント・夢幻】」
今までにはないくらい鮮明に、何度も繰り返し思い出す楽しさとあのゲームの記憶を掘り起こしながら改めて剣にスキルをかける。
すると今までにないことが起こった。
普段はすんなり動く筈の手がとても重く、淡かった光は思わず目をつぶってしまいそうなほどに輝いた。
そうだ、あの剣の名前は…
まるで恒星かのように剣が一層輝く。
「レーヴァテイン!」
ゴウッと猛々しい炎が巻き起こる。
それは剣から、出てるように見えたが違う。剣自体が巨大な炎であり天を焦がすほどの灼熱を持っていた。
と言うか、あっっっつ。ナニコレ!?
「…それ!アクトもあの人と同じげぇむやってたの?」
少し興奮気味にアルマが詰め寄ってくる。
しかし今はそれよりも…
「どうやってこれ、戻すの…?」
「……うーん…多分…イメージ?」
大雑把すぎない?とか思った割には少し剣のことを思い浮かべると簡単に元に戻ったのでまあいいかと鞘に納めた。
「何事だ!?」
「おい、大丈夫か!」
「あ、すみませーん!ちょっとスキルが暴発してしまってー!」
そりゃあんだけでかい炎が上がれば驚くよな。
まあ、本人が一番驚いてるけど。
「……アクト、騎士様と同じだ。もっと、もっと見せて」
「え、ええ…待ってってせっかく上手く言ったから上書きしたくないし…」
アルマの騎士様に感謝するのと同時にまた一つ問題点が増えた。
エンチャントの重ねがけ。
多分その騎士様はバッシブスキルで重ねがけ出来る物を持っていたのだろう。だが生憎俺は持ってない。
Levelが上限に達すれば発現するのだろうか?
「……後で武器屋さん行こ?」
「わかった」
やっぱ俺のようなパチモン魔剣じゃなくて本場の魔剣や見たこともない武器が売ってるのだろうか?
楽しみで夜しか眠れなくなってしまう。
「……一袋目おーわり」
「え、はやっ。俺まだ半分も終わってないんだけど」
「……大丈夫、報酬は全部アクトの」
「頑張った分だけ払うからな。安心しとけ」
「……私、貴方の奴隷なのに?」
「そうだ」
こうしちゃいられない。負けじと俺もクスリソウを探す。
こんな小さな子に全部任せてられるか。俺がもっとしっかりせねば…
ーーーーー
「……うおぉぉぉ」
「……」
5袋対2袋。完敗である。
ていうか、集めんの速すぎだろ。
勝利の雄叫びをあげているが相変わらず蚊の羽音並なので煩くはないがガッツポーズまでしてる。
そんなに嬉しいの?
「……さあ、敗者の特権。アクトは荷台に乗って。アルマが…運ぶから」
「う、うーん?」
貸し出しされてる荷車にクスリソウを詰め込んだ袋を載せてついでに俺もと?
普通逆じゃね?とか思ったけどそういう問題じゃない。
いや、たしかに魔族は人間と比べて力は強いって聞いてたけど…
「……ふぬぬぬ」
うん、無理だよ。諦めよ?
それに俺も流石に女の子にこんな事させるのどうかと思うし。
「……大丈夫、絶対…動くから」
「いや、もういいって。大丈夫だって、やるから」
「……や」
子供か?いや、まあ子供ではあるけど…
「手伝うから…な?」
「……もっとLevel上げて次は絶対アクト毎運ぶ」
「そっか。頑張れ」
「……ん」
それはそれで困る気がするがまあいいか。
日はまだ頂点にあるし、早く仕事が終わったな。
今日は…何をしようか?
「……ぶーき、ぶーき」
「あ、そう言えば言ってたな。
んーでもなー、お金が…」
スられなければなぁ…と考えてると。もう既に街の近く。
朝の門番さんも休憩なのか座ってサンドイッチ食ってた。
「おや、お疲れ様。おじさんも今休憩中ダヨ。よかったら今度お昼ご飯一緒に食べようネ。
と言うかクエスト終わるの早いね、おじさん羨ましいよ」
「この子が凄い頑張ってくれたんで」
「……アルマ、やれば出来る奴隷」
「へえー、凄いね。
あっ、街の外周に沿ってけば冒険者組合の裏手に回れるからそこから納品するといいよ」
「なるほど。ありがとうございます」
この人も親切だなあ。なんか、治安悪い所とな思ってたけどそれもやっぱ一部の人だけで、いい人ばっかりなんだな。
「あっ、そういや君らがクスリソウ取りに行って直ぐに勇者たちがまた【禁域の地下神殿】に出発したよ」
「へー、そうなんですか」
「うん。なんか、君クビになったんでしょ?
おじさん、昨日聞いた時びっくりしちゃったよ」
「アハハハ」
「でも、おじさんはこうも思ったよ。
毎回お上からの依頼から帰ってくるたびにあんなに暗い顔してるくらいなら今日みたく気のみ気ままに生きてた方が絶対いいって」
話し方あれだけどいい人だよ。
「あと、おじさんこうも思ったよ。
早くその子にお昼ご飯食べさせてあげたら?」
「あっ…」
「……うー」
門番さんに挨拶してお腹空かせダウンしたアルマを背負うと冒険者組合に向かう。
軽いなあ。しっかり食べてるのか?
いや、食べてなかっただろ。今から沢山食べさせないと。背も低いままになっちゃう。
「あ、おーい。アクトさーん」
「あれ…?受付のお姉さん?」
「いやー、やっと見つけましたよ…
おわっ、凄いですね。半日でクスリソウ7袋持ってくるとは…」
「……アクト頑張った」
「いや、お前がな。
ところでどうしたんですか?冒険者組合の裏手はもう少し先ですよね?」
「いえ、依頼とは別件なんですよ」
え?
いや、何かしたわけでもないしな…
いや、まさか…アイツらが何か良からぬ事をして俺に罪をなすりつけたとか…?
可能性は100%無いとも言い切れないし、何ならまだあの王様の国にいるのだ。
どこかで監視されてたのかもしれない。
「あっ、それと用事があるのは私じゃなくてこちらの方々なんですけどね」
「え………え…????」
筋骨隆々で、身長も高く、淡く光るのはエンチャントされた防具なのだろう。
そして何よりも…ガラが悪そうだ。もうなんか、冒険者組合でいきなり絡んできそうなレベルで。
そしてその後ろにも何人か仲間らしき人物たちがいて、こちらを見てヒッヒッヒと笑っている。
ジャックナイフがよく似合いそうだ。
「よお、どこ行ってたんでテメェは…探すのに手間取ったじゃねえかよ」
「あ、えーと…はい、ソウデスネ…」
「まさか…覚えてねえのか?」
眉間にシワを寄せ、青筋を立てながら顔を近づけてくる。
たしかに何回か勇者パーティーの頃、野盗討伐の依頼とかしてたけど殆ど全員が体の部位がなくなるか、焼け焦げてたり…それに全員もれなく檻に入れられて今は監獄のはず…
もしかして残党?
いや、思い当たる節が一つだけある…そうだ、一昨日の夜だ。きっとその時に酒に酔って絡んだんだろう。なら、自業自得だ。
そりゃ記憶忘れるほどに呑んでたんだから忘れてるに決まってるよ。
そして男は握り拳をこっちへと向けてくる。
殴られる。いや、しょうがない。やってしまった事がどれほど大きい事かわからないが、甘んじて受け入れよう。
アルマを荷台に下ろし目をつぶる。
さあ、いつでも来い!
「…何やってんだてめえ?」
「え?」
「渡しに来たのに目瞑って手も出してねえんじゃ渡せねえだろうが」
「えっ?」
ぽんっと手に置かれるのはスられた筈の魔法の袋とサイフ。
「しっかりと検査したけどどこにも魔法による追尾機能なんてなかったぜ」
「は、はあ…」
「アニキ!重そうですし手伝ってやりましょうぜ!」
「おう、そうだな。
まあ、なんだ。これから少しずつよ、休んでけばいい。俺たちの国のために戦ってくれてたんだからよ」
ポンポンと軽く肩を叩かれる。
いい人達だった。
ーーーーー
たしかに一昨日の夜に絡み酒をしていたのは事実だったそうな。
そこで愚痴を散々聞いてもらった挙句に国からもらった袋やサイフに何故かケチ付け始めた所、筋骨隆々な冒険者…ガルドさんとそのパーティーの人たちが知り合いの鑑定士に頼んで硬貨の1枚1枚、袋の隅々まで見てくれたそうな。
「あと、ゼタールが心配してたぜ」
「ゼタール?」
「お前が昨日行った奴隷屋の商人の名前だよ」
あの人そんな名前だったのか。というか心配してくれてたの?何を?
「その子、直ぐに腹空かせるからよ。大変だったらしいぞ」
「あー…もしかして結構仕組まれてた?」
「何の事だが知らねえがな。
この街に住んでる奴らはな、あそこで踏ん反り返って用済みなら捨てる王様や共に研磨してきた仲間を切り捨てる勇者…まあ、ぶっちゃけた話だ。アイツらが勝手に魔王討伐だってはしゃいでんだよ。こっちは実害ねえしな」
「はぁ…」
「考えてもみろよ?お互いに話し合おうともせずに戦争ふっかけ合うんだぜ?馬鹿みたいだろ」
「そうですね」
「それにな、弱くたって俺たちの為に戦ってくれてた奴の方が好感持てんだよ」
なんか涙出てきた。
「あと安心しろ。そっちの嬢ちゃんに関してはちゃんとお前自身で選んだんだからよ。仕込みじゃねえよ。
俺たちゃ、あんたがこの街に来たなら優しくしようって決めてたんだ」
「……ほふぁっふぁね、ファフト」
「アルマ…
ちゃんと、飲み込んでから話しなさい」
「んぐ……ん」
なんか一昨日裏切られたばかりでどん底に落ちた気分だったのに、どうでも良くなってきた。
なんともまあ、流されやすい性格だよ俺という奴は。
「んじゃ、俺たちはこの辺で失礼する。
あまり酒に飲まれるなよアクト」
「うっす…ありがとうございました」
「おう」
本当は心のどこかでアイツらに仕返ししてやろうと思ってたけどどうでも良くなった。
いつまでも過去を引きずっても時間の無駄だ。
「……アクト、いい笑顔」
「そうか?」
「……ん」
「そうか…よし、武器屋に行くか」
「……おー。あ、ご馳走様でした」
何だか、少しだけだが救われた気がする。
そんな昼下がりな日だ。