薬草求めてどこまでも その1
浴びるほど酒を飲んだ後は記憶が無くなる。
やめよう、やめようと思っても飲んでしまうのは呑兵衛の素質があるのかもしれない。それでも二日酔いしないのは異世界人故の体の頑丈さのお陰か?
いつも通り目を覚ますと髪の毛のふわもこ感は無くなってしまったが、少女特有の甘い匂いと柔らかな体で寝起き1番にドキマギさせる少女の顔が目の前にあった。
こればっかりは何ヶ月経っても慣れる気がしない。
「…アルマさーん?」
「……んぇ…」
どうやら相棒はまだお眠なようだ。そりゃあ昨日は明け方近くまで飲めや歌えや大騒ぎだった。
デカデカと書かれた誕生日おめでとうの文字に思わず逃げ出しそうになったが酒が入ればお構いなし。
どれだけの人に迷惑をかけてしまったのか分からなくて不安が募る。
いつも通りベッドにアルマを寝かせると既に上がった陽を睨み診療所へと向かう。
アルマと一応は仲直りした。だから動かない右腕を治してもらおう。
街の一角にある見慣れた建物へ入るといつもと違って今日は明かりが付いていなかった。
出張にでも行ったのかと思いながらも一応奥を覗くと足が見える。
「先…生?」
何事かと思って駆け寄るとそこには床に突っ伏して動かないゲルダがいた。
ーーーーー
「いや、わりと今回は本当に死んでるのかと思った」
「そうかい」
生きていた。全くしぶとい人だ。
腰を痛めたらしく布団を敷いてやって寝かせてやる。歳の差いくつか知らないが10分前にも同じことしたな。
「昨日の夜帰った後にね、ちょいとそこの資料の入った重いもん運ぼうとしたんだよ」
「ほう」
「そしたら、腰をグギっとね」
「ああ、ぎっくり腰だな」
「言わなくても分かってるよ」
なるほど。それで動けなくなってそのまま床で寝ていたと言うわけか。
しかしまあタフな婆さんだとは思ってやっぱり歳だな。意外と脆い。もう少し優しくするか。
「ところで今日は何の用だい?」
「ああ、アルマと仲直りしたから腕のリハビリ始めようかなと思ってな」
「そりゃあよかった。若いうちは喧嘩しとくもんだが、仲直りもしっかりとな」
まあ…うん。
「取り敢えずはだ。腰に塗る為の薬を調合するから悪いんだけど薬草棚から取ってもらえるかい?」
「おう、どれとどれだ?」
「上から3段目の右から2つ目のセンジュソウと、下から数えて4段目の左から5番目のショウガマってのを頼むよ。あと、奥の甕に入ってる濃ポーションとすり鉢、すり棒もね」
「へいへい」
随分とデカい棚だし上まで届くのだろうかと思ったが横に台あるし、ここは魔法のある世界だ。そこら辺はなんとかなるのだろう。
指示された通りの場所を開けると乾燥させた薬草の独特の臭いで思わず鼻をつまむ。
「…ん?あり?先生、ショウガマ?っての無いけど」
「何だって?悪いけど薬草棚から見て左じゃ無いからね?」
「いや、分かってるけどよ…」
無い。空っぽだ。
「おかしいねぇ…あっ」
「ん?」
「そういや、街の外装工事の奴が肩を痛めたってんで薬を調合してやったんだよ。忘れてた」
「歳だな」
「黙りな、この皮被り野郎が!」
酷い言い草だ。このまんま帰ってやろうか。
「しょうがないねぇ…あんた、悪いんだけど取ってきてくれるかい?」
「えぇ…まあ、いいけどよ。見た目とか色々知らねえんだが…」
「それなら受付の生娘に聞きな。教えてくれるよ」
「適当言ってると偉い目に遭いますよ?」
「知らないのかい?あの子を取り上げたの私だよ?何だって知ってるよ」
「え?何?医者だけじゃなくて助産師もしてたの?」
「そうだよ」
手広くやってんなぁ…
「あの頃は若くてねぇ…ふふ、旦那にはいつも美しい花には毒や茨があるって顎を持たれていたよ」
「何百年前の話?」
「何十年前だ。訂正しな」
妙にリアルで結構最近の話だった。まあ、ともかくこんな状態じゃ俺のリハビリも出来ないのだろう。受付のお姉さんに聞いて採取しに行くとするか。
「あ、あと序でにガルドを呼んどいてくれるかい?」
「わかった。婆さんが腰痛めたって言っとくよ」
「助かるよ」
「まあ、なんだ。ゆっくり休んでくれよ。歳なのに頑張ってんだし」
「急に優しくなると気持ち悪いねぇ…もしかして私を狙ってるのかい?」
「死ねババア」
「お前より先には死なんよ、小僧」
ーーーーー
「……おは、ふわぁぁぁ…おはよぉ」
「眠そうだな」
「……ん」
取り敢えず組合に行く前にアルマに声かけておくかと宿の部屋へ戻るとちょうどアルマが起きて着替えを済ませたところだった。
危うくラッキースケベでビンタ貰うところだった。危ない危ない。
「……お腹空いた」
「もう昼だからな。俺今から薬草取りに行くんだけどどうする?」
「……クスリソウ?」
「ショウガマってやつ」
「……何それ?」
「さぁ?」
まあ、会話しながら武器と袋を持ってきたので行く気満々なのだろう。
「……れっつごー」
「…お、おー?」
まあ、よく分からないが取り敢えず組合へと向かう。
心なしかいつもより機嫌がいい。何か嬉しいことでもあったのだろうか?
まあ、ともかく組合に着くと昨日の夜の片付けも終わっていていつも通りの内装に戻っているが何やら酒飲み連中とは違った奴らが今日は騒いでいた。
「おう、アクト。昨日はお楽しみだったな」
「うっす。間違いでは無いけど言い方」
「ははは、それよりもアレどうにかしてくれよ」
「え…もしかしてまあ酒に酔って、俺またなんかやらかした?」
「あー…うん、まあ、お前の身の上話延々と聞かされただけだから気にするな。
それとは別のことだ」
顔見知りの冒険者はバツの悪そうな顔をしていた。
何だろうかと騒いでる奴らを見ると新人冒険者達や見知った奴に何やら大荷物を持った者までいる。
「ほら、この間アルマちゃん婚約騒動あったろ?」
「あぁ…」
「どこでどういう噂を聞いてきたのか分からないがよ、アルマと何故かパーティー解散したから新しいパーティーメンバー募集してるって話を聞きつけてきたってわけだ。
あそこに居るのはお前と組みたいって連中だ」
何をどうねじ曲がったらそうなるんだと言いたくなる。
「お前はアレだろ?アルマと2人きりがいいんだろ?」
「うーん…どうなんですかね」
アルマは横でえっと顔をしているが…正直な話一部を除けば未だに信用出来ない人間が多く、後ろに置いて置きたくないし、なによりも失礼な話だがあまりにも実力差が開いてるとパーティーと言うよりは寄生虫も宿主みたいな気分になってくる。
「あっ、アクト先輩!」
「…やべっ」
1人が気付いて声をかけてくれば全員が一斉にこっちを向いて血眼になって駆け寄ってくる。
昔見たゾンビ映画みたいだ。
「アクトさん!是非我々とパーティーを組んでくだいませんか?上位職3名に貴方のエンチャントが加われば向かうところ敵なしです」
「いやいや、アクトさんは上位職の奴らが嫌いなんだぞ?ここは、バランの良いうちのパーティーへ…」
「アクト先輩!ラークス達より俺らの方がいいですよ!」
何か色々言われてるがもみくちゃにされながらなんとかアルマを抱き寄せる。
こんな人並みに飲まれちゃ踏みつぶされちまう。
「……ア、アクト…近い」
「え?いや、いつもの事だろ?」
寝ぼけていつもアルマに抱きついてしまっているが今回だけは大目に見てもらいたい。
収集がつかなくなってきた頃、ガンッ!と地を震わせるような音がして、続いて怒声が響き渡る。
「テメェら!迷惑だから離れろ!」
声の主はガルド。ビリビリと大気を震わせて、俺達に纏わりついていた奴らがその声にビクリと肩をすくめ上げる。
「ったく、人の話も聞かずに自分らの押し売りか?魔物だって話し合いができるのになんだテメェらは?」
「がははは〜いいぞ、組長!」
「テメエも昼間っから酒飲んでねえで、嫁と娘の為にプレゼントの一つでも買ってさっさと帰りやがれ!」
先程の冒険者が一喝されると一目散に組合から出て行く。いい人が怒ると怖いって言うけど見た目のせいも相まって余計に怖えよ…
「…なあ、アクト?テメェも男ならシャキッとしろ。報酬を分配したくねえだとか、後ろを任せられねえだとか理由なんざどうでもいいから断れ。いつもの昇進蹴ってるみてえにな」
「…っす」
「テメェらもだ。他所の組合の奴ならともかくなんで、ここで働いてる奴までアクトがフリーになってると思ってんだよ?あぁ?」
「いや、だって、何か風の噂で…」
「毎日ツラ合わせてんだから、嘘か本当かわかるだろうが!お溢れ貰いたいなら他の連中とパーティー組め!アクトのエンチャントが欲しいなら仲間なんて言う回りくどい言葉で紛らわせずに直接交渉しろ!それが出来ねえなら冒険者なんざやめて魔物の苗床にでもなってろッ!」
なんかいつにも増して怒ってるな…何かあったのだろうか?
「……ガルド」
「あ?」
「……アクトが言いたいことある…って?」
「なんだ?言ってみろ」
ヒイッ。なんか文句あるみたいじゃ無いか。最悪のタイミングだよ。アルマさん。ガルドさんの額の青筋がやべえもん。
「あ、あの、その…ゲッ…ゲルダ先生が腰痛めまして…」
「なに?」
「それで、取り敢えずガルドさん呼んでこいって言われたんですが…」
「……」
「……」
「…ったく、なんだよ。びっくりしたわ。気に食わねえからって下克上でもされんのかと思ったぞ」
「いやいやいやいや、そんな事しませんって」
無理。どんなエンチャントしても勝てる気がしない。
「で?用件はそれだけか?」
「あ、いえ。ショウガマって薬草を取ってきてくれって頼まれたんですが…」
「ショウガマ?そうか。おい、ベル!袋渡してやれ」
「は、はい!」
「テメェらは取り敢えず座れ。一応俺がここの組合長だからな。アクトにふさわしいか見極める。一人一人自己アピールしてきな」
「「「はいっ!」」」
なんか始まった。




