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2人の関係 その5

 森の奥の大きな樹の下で息を切らせながらも何とか大丈夫そうだと安堵する。


「はぁ、はぁ…ここまで逃げりゃ王国軍とも合わないだろ」


 アルマを下ろし、今度こそハイポーションを彼女の手にかける。

 傷は残らないか、後遺症は?他にも色々と嫌な事を考えてはいたが流石は異世界。暫くすればいつも通りのふにふにとして柔らかな手に回復した。

 

「……ありがと」

「い、いやうん。俺のせいだし…」


 エルヴァは人間態になると血を落としてくると何処かへ行ってしまった。

 今は2人きりだ。


「……」

「……」


 気まずい。


「……あ」

「ん?」

「……じゃ、じゃーん」


 突如アルマが口を開くと、袋の中から何やら不格好な形をした剣を取り出す。

 何だろう?魔力探知とか出来なくとも、そこはかとなく嫌な感じの魔力を埋め込まれている魔石から感じる。


「……アルマもアクトと同じ火の魔剣…を手に入れた」

「おお。じゃあ、早速エンチャントするか?」


 いつもみたくと思って聞くと首を横に振った。違うのか?


「……この剣はレーヴァテインよりも消費…が激しいけど同じくらいの威力…を出せる」

「凄いな」

「……アクト、見てて」


 彼女が剣を構えると確かにレーヴァテインのように一度巨大な炎となり次第にいつも使っているような圧縮された炎の剣へと姿を変える。

 そしてアルマは何を思ったのか自分の髪を掴むと無造作に焼き切った。


「…ッ!?何やってるんだよ!」

「……あちち」


 腰まで届くほどあった髪は背中の辺りで揃えてもなく雑に切られた。


 そして少女はいつものように真っ直ぐと俺を見てきた。

 全てを包み込むような青い瞳に俺だけを写して。


「……アクト。これは、アルマへの…罰」

「え?」

「……アルマは勝手にアクトの事…を大切だと思ってた。

 だから、これはアルマへの罰。アクトの気持ちも考えず…にアルマが言っていたから」


 ……


 浮かれていたと言われれば嘘ではない。

 何せこんなに可愛い子と一つ屋根の下で暮らしたりいつも行動したり、相棒だなんて呼ばれ信頼されていたから。

 だが、それも…俺の思い違いだったようだ。

 

 我ながら芯のない人間だよ。つい先日に神様に彼女とこれ以上仲良くなりたくないとか願ってたのに。クッッソ恥ずかしい。何がああ、神様だよ。死ねあの時の俺。


「だからって女の子にとって大切な髪を切る必要はないだろ!」

「……アクトも、右手が動かない…」

「それとこれとは別だ!大体俺のはリハビリすれば動くようになる」

「……アルマの髪も時間が経てば元に…戻る」

「そりゃあ…そうだけど」


 そういう問題じゃない。


「……アルマはアクト…が今までも、これからも大切…アクトは…どう?」

「…はい!?い、いや…お、俺は勿論…た、大切だぞっ」


 若干裏返ったような声で返答してしまった。

 そりゃそうだ。面と向かって言うとなると小っ恥ずかしい。


 それでもアルマにとってはそれがとても嬉しいようで「よかった」と小さく呟いて必死になってにやけてしまう顔を手で隠している。


「……アクト、まだアルマと相棒で…いてくれる?」


 それから少しだけ隙間から顔を覗かせると手を差し出してくる。

 勿論だと彼女の手を握ろうとすると、彼女を殴ったあの感覚とかつての自分が殴られていた時の感覚が戻ってくる。

 

 たしかにその手は握り返した。

 暖かな手と何週間ぶりかに見たアルマの心からの優しい笑顔に釣られて思わず俺も笑っていた。

 

 凍っていた心が溶けて、また彼女と頑張っていこうと、あの日の過ちを繰り返さないように優しくしようと…そう心に誓ったが、やっぱり彼女から離れろという深く全身に刺さった感情は抜けなかった。



ーーーーー



 戻ったなぁとデンは2人を見ながら思った。


 アルマの結婚騒動から早くも2日経ち、結局あれは洗脳による強制的なもの。そして何よりも恨むべき相手は何と肉塊として見つかったというオチだ。

 まあ、一時期は彼女がばっさり髪を切ってきたので破局したなんて噂が立っていたが、結局あんなよく知らない奴よりアルマの隣にはアクトだなとわずか1日でその噂も無くなった。


「なあ、デン。アタシもあんくらい短くしようと思ってんだけどよ」

「なんだっけ、ショート…マイケル?」

「ジョンだろ?」

「ボブっすよ」


 アルマの髪型が人命っぽかったがなんだったかなとクララと話してるとアクトがたまに組んでる新人冒険者のラークス達が前に座ってくる。


「チース、デン先輩。クララ先輩」

「ちょっとラークス!先輩相手にそれやめなって言ってるでしょ!」

「うるさいな。大体、エレンは挨拶すらしてねえじゃんよ!」

「はぁ!?今からするんでしょうが!」

「まあまあ、2人とも落ち着いて…」


 昼間から酒を飲んでいる連中の陰湿な五月蝿さとは違ったフレッシュな騒がしさを感じる。

 どちらにせよ煩いのは変わりないが。


「まあ、ともかく…やっぱりお2人はあれっすよね」

「ははは、わかる?」

「そりゃあ、今や新人冒険者でアクト先輩とアルマ先輩は憧れの的っすからね。クジで決まったとは言えど変わってくれだとか、今からパーティーに入れてくれだとか散々言われたっす」


 後輩達からも慕われてるし、僕らも頑張らないと。


「昨日の研修でラークス、ボロクソ言われてたもんね。アクト先輩と2人でクエスト行ったって」

「純粋に羨ましかったけど、途中でアルマさん助けに行ったって聞いたよ」

「まぁ…でも、武器の使い方は直々に指導してもらったんだよなぁ」


 ラークスがにやけながら言うと何処かで聞いていたのか新人冒険者達が集まってきて更に騒がしくなってくる。


「そういや、一昨日って何があったんだ?」

「え?聞いてないの?」

「違えよ。アクトとアルマで何か前から決めてた事あったんじゃねえのか?」

「…ああ、アクトが誕生日だったんだってさ。でもアクトは祝わなくてもいいって言ってたけどアルマが祝うって、後はいつも通り」

「なるほど。相変わらずアルマのケツの下を堪能してるわけだな」

「はははは」


 異世界の常識は知らないがどうやらあちらの世界では産まれた日を祝わないらしい。

 だが今は関係ない。ここでは祝う。郷に入っては郷に従ってもらう。

 アルマと2人での誕生日会を済ませたなら、少し遅れてしまったが今夜も組合を上げてアクトの誕生日会をサプライズするつもりだ。

 楽しみに待っていてもらおう。


「アクトー!私なんかどうよ!アルマよりもおっぱいあるわよ!」

「やめ、やめろ!まとわりつくな、離れろ!」


 悪ふざけなのか本当なのかはわからないが女性冒険者と序でに受付のお姉さんからも猛アプローチを受けている。

 そしてアルマが凄まじい形相でアクトと女性冒険者達の間に割って入って威嚇を始める。

 

 今日もまた1日が始まる。眺めるだけで楽しく、ほんの少しだけ変わった2人の関係を。

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