2人の関係 その3
帰りはドレッドスパイクの背中に乗せてもらい、なんとか街に辿り着けたはいいがなんかもうヘロヘロになってしまい動けなくなっていた。
再生能力も連射性が半端無く、飛ばしてきた針もレーヴァテインで燃やし尽くせなく【クラウノス】の同時使用。久しぶりのマナポーションがぶ飲みで胃もたぷんたぷん。なんとか隙を見て麻酔矢を撃ち込み、昏倒したところで餌やり。起きたら懐いてる。どういう原理なのかは知らないが出来ることなら2度とやりたくないクエストだ。
「ははは…はぁ、疲れたね」
「このまま帰って寝ていいと思うか?」
「ならせめてアルマに一言伝えたほうがいいと思うよ。また大喧嘩になるし」
「だなぁ…」
とぼとぼと疲れを隠す気力も無く組合のクエスト受付で依頼内容の確認を取るとやっと終わりだ。
もう決めた。明日は休もう。昼過ぎまで寝ていよう。
「おーい!デン!アクト!」
「…ん?」
「あ、クララだ」
「居た!おい、アクト!やべえぞ!」
胸ぐら掴まれてそんなこと言われるがこれ以上なんなんだよ。どうせ、肉屋のペルラッドさんと奥さんのシーナさんが謎肉販売してたとかだろ?頼むから巻き込まないでくれ。
「アルマが!」
「…敵の構成人数と目的はわかるか?」
「違えよ、いやある意味そっちでもあるのか…?ともかく来やがれ!」
「クララ、僕は先に宿に戻って─」
「デン、こういう時は冷静な奴が1人は必要なんだよ」
「うごごごご…」
「クララ、待って!せめて立たせへぶっ」
俺もデンも腕を掴まれると抵抗する間も無く引き摺られて行く。
靴底が擦れるとか鞘がとか言ってる暇無い。それだけクララも急いでいたんだろうけど、目的地に着く頃には2人ともボロボロになっていた。
ーーーーー
「悪いな、帰ってきて早々に。いやまあ、そこまでボロボロだと気付かなかったが…でも、アタシ1人じゃどうすりゃいいのかわかんねえんだよ」
「……」
「クララ、先に説明してくれる?」
ボロボロなのはお前のせいだとはいえなかった。
間髪入れずにクララが言葉を続ける。
「話す前にだ、アクト落ち着け。いいか、絶対だからな」
「お前が落ち着け」
「暴れんじゃねえぞ」
「なんなんだよ…」
いいから話せと言う前にクララが指を刺すとアルマと見た事ない少年が楽しそうに食事をしていた。
随分と育ちが良さそうだな。服も上等な物だし…まあ、いいか。
「…え、何?」
「は?いや、見て暴れないかなって…」
「は?」
コイツは一体何に対してそんな慌てているんだ?そもそも理由も無いのに暴れるわけないだろ。理由あっても暴れないし。
「と、取り敢えずアルマと話してこい!うん、それがいい。デンは少し離れて見てろよな」
「だから、クララ。わけを言わないなと僕ら何も分からないんだけど?」
「いいから、こっち来い!」
変な奴だな。拾い食いでもしたのか?
「……あっ、アクト。おかえり」
「ただいま。クララに無理やり連れて来られたんだけど何かあったのか?」
「……う、うん」
あらら、お顔真っ赤。どうしたのだろうか?熱があるようには見えないし。
「あの、アクトさん!」
「…え?なに?と言うか誰?」
まあ、アルマは別にいいとしてこの子は誰だろうか?服装から見てもかなり育ちの良いところだよな。御坊ちゃまという言葉がよく似合いそうだ。
「ぼ…俺はサジです!」
「はぁ」
「あ、あの…アルマさんに一目惚れして…け、結婚を前提にお付き合いを!」
「…んー…ん?」
……ん?
「相棒である貴方に許可を取りに来ました!」
「んんんん??」
「……ん」
満更でもないようだ。
「あー…おめでとう?一応聞くけどお飯事とか洗脳、弱み握ってるとかじゃないよな?」
「はい!勿論です!それと、ありがとうございます!」
この子声デカくて頭に響く。
つまりなんだ?そんな事で呼び出しされたと?このクソ疲れてる時に?いや、まあ確かに大切な事ではあるけどさぁ…タイミング悪いなぁ。
そもそも相棒とは言えど仕事仲間だ。プライベートにまで首を突っ込むつもりはない。
「なので早速明日にお互いの事をもっと知るためにデートをしようと思うのですが…」
「うん、いいんじゃないの。あと俺そういうのは疎いからアドバイスとか何も無いからね」
「大丈夫です!」
丁度明日は休もうとしてたんだ。有難い。
「……アクト」
「うん?」
「……明日は…」
「ああ、気にするなって。たしか仕事入れてたよな?まあ、俺今日ので疲れたから悪いな。でも丁度いいじゃないか。」
「…違くて!」
「まあ、落ち着けって。そのまんま冒険者やめたっていい。人には人の幸せがあるんだ。俺の事は気にするな」
ああ、なんだろうか。たった数ヶ月の付き合いだけど相棒が婚約かー…涙が出てきそうだ。式辞とか言わなきゃならねえのかな…兎も角、俺といるよりかは絶対に幸せで楽しい暮らしが出来るのだろう。
「んじゃ、邪魔者は退散させてもらうよ。もう疲れて意識も朦朧としてるんだ」
「…待ってアクト!」
「大丈夫、大丈夫。取り敢えず後で詳しく聞くからさ」
祝杯を上げたいところだがもう限界だ。
アルマが何か言いたげだったが多少強引にでも俺から離れられればそれでいい。騎士様もきっと彼と見つけるだろう。
なんだか心がスッと軽くなった気がしたが同時に寂しさもこみ上げて─
クリティカルヒットした。拳は頬に減り込み勢いよく殴られるとぶっ飛ばされる。
「速えんだよッ!もう少し話すことあるだろうが!」
「痛…普通に痛いんだけど…」
「いや、幾らなんでも速すぎんだろうが!そもそもどこの誰かくらい聞けよ!」
「えー…ほら、プライベートな所は…ねぇ?」
「ねぇ?じゃねえッ!普通はアルマと結婚?許すわけないだろう!とか言って暴れ出すだろうが!」
「いやいや、俺そんな頑固親父みたいな性格してねえし。そもそも同意の上なんだろ?別によくね?」
店を出てすぐにクララにぶん殴られて説教されている。
何をそんなに怒っているのやら…
「いいのかよそれで」
「少なくとも初対面で殴る為に買った挙句に数日後にマジでぶん殴る様な馬鹿と一緒よりかはいいんじゃね?」
「あー、もう!お前、人の心ってか道理とか無いのか!」
「いや、幸せそうな人間見つけて裏で悪態垂れたり気にいんねえからって暴力振るう奴のどこに心や道理があるんだよ…普通にキ○ガイだろ」
…なんだかなぁ
「クララ、一旦落ち着いて…」
「落ち着いていられるか!この野郎に理解らせるまで…あれ?」
話が長くなりそうなので帰ることにした。
ちくちくと軽くなった胸の奥が痛むが寝ればいつも通り治るだろう。
ーーーーー
「…朝だ」
おかしい。昼過ぎまで寝るつもりだったのに朝になったら目が覚めてしまった。
しかも二度寝もできないほどにしっかりと。
「あー…日頃の生活習慣の賜物か。クソが、寝させてくれよ。頼むから」
そうは言っても体は快調。眠くも無い。
しょうがないからもそもそとベッドから出て着替える。
そういや今日はアルマがいないな。きっと、朝帰りか或いは…的な感じなのだろう。
毎朝抱いてしまって寝ていたせいか腕にふわもこのない物寂しさを感じながら宿を出ると生憎の雨。
まあ、休みだしいいや…
「あっ、アクト先輩じゃん!チース!」
「ああ、ラークス君。相変わらずだね」
まだ殆ど汚れてない革防具に新品同様の武器。俺よりも身長は高く髪も金色で口調もこれなので大分前世?でのアレな人間を思い出すが、ただのいい子だ。家帰って手洗いうがいして横断歩道でお婆ちゃんの荷物を持ってあげるタイプだ。
「アルマ先輩は今日は一緒じゃないんすか?」
「ああ、うん。今日デートらしいから朝早く出たんじゃないかな。ラークス君こそいつもの2人は?」
ゲラルドとエレンとラークスの新人達はガルドから冒険者全体の練度上昇のためだって当てがわれた初心者達だ。言っても、たった1ヶ月しか変わらない。まあ歳も多少下ではあるがそれでもなんというか…と言う感じではある。
「マジスカ!?へえー、アルマ先輩寝取られちゃうんじゃ?」
「相棒ってだけで俺のもんじゃねえよ」
「またまた〜。あ、それで2人は今日は雨だからってサボりっすよ。今日は俺1人でゴブリン狩りっす」
「へえー。暇だからついて行こうか?」
「えぇ!?序でに、剣筋とか色々見てくださったり?」
「いや、まあいいけど…俺素人だよ?」
「ヒュー!やったー!」
なんだかなぁ…
素人の妄想剣術なんかで強くなれるかぁ?
「いやー、今日の星座占い1位だったからやっぱ出かけて正解だったっす」
「因みに何座?」
「ミナミオトトカゲ座っすね」
「あー、はいはい。形がいいよね。アレ」
月が2つもある世界だ。そもそも元の世界の星座なんてあるわけもない。
適当に相槌を打ちながら今日も冒険者組合へと向かう。
雨の日だからか異様にムカムカしてるし、正直森のゴブリンじゃなけりゃ討伐してもいい。本当に適当な人間だな。
「明日、2人に自慢してやろーっと!」
「ほどほどにね」
あとなんか妙に後輩3人に懐かれている。
近々また初心者パーティーと組めって言われるだろうしまあいいか。仲良いのはいいことだし。
「ウェーイ!先輩方おはようございます!」
「おう、ラークス。朝っぱらからうるせえなあ!」
「それが取り柄なんで!」
「がははは!そうか、そうか!」
雨の日だからかいつもより人は少ない。まあ、湿気にプラスして女性もいるとは言えどいつも組合の中ムワッてするからこれくらいが丁度いい。
ラークスが何やら他の冒険者達と話し始めたので朝食を済ましてしまおうといつも通り注文して受け取り座ると、此方もいつも通りという感じに受付のお姉さんが前に座る。
「おはようございます。アクトさん」
「ああ、どうも」
「今日はアルマさんの姿が見えませんね?」
「あぁ…デートですよ、デート。やっぱり女の子なんですね。いったいどんな落し文句言われたのやら」
「あらぁ、おませちゃんですね」
「あ、ところでなんですけど結婚っていつから出来るんですか?」
「いつ…から?いやいつでも出来るんじゃないですか?」
「あー…あの、俺のもといた世界だと年齢が一定以上にならないとってありまして…」
何を聞いているのやら。
「あー…どうなんですかね。産めるならいつでもだと思いますよ。ほら、出生率と魔物の被害での死亡率同じくらいですし」
「うわぁ…よく、生き延びてきましたね人類」
「まあ、それだけしぶといって事ですよ。え、それで急にどうされたんですか?他の方に取られる前にアルマちゃんと?」
「いえ、なんかアルマが昨日プロポーズされたらしくて結婚するらしいんですよ」
味噌汁の様な物をすする。もうちょっとしょっぱい方がいいな。
「え…?」
「びっくりしましたよ」
「えぇぇぇぇえええぇぇ!?」
組合中に響き渡る声でお姉さんが叫んだ。
壊れた?
「け、けここけ、結婚!?」
「らしいですよ」
「え、待って。なんでここで呑気に朝食取ってるんですか?」
「え?いや、人間生きてりゃ腹も空きますし…あっ、そうですよね。結婚祝い用意しないと…」
「いや、そういう事じゃ無くてですね!」
お姉さんの声でざわざわと人が集まってくる。
ただでさえ今日人いないんだから余計に声も響いたのだろう。職員の人まで何人か来てる。
「アルマちゃん、結婚だってよ」
「まじかー…」
「待って、もしかしてアクトがフリーって事?あるんじゃね?」
「いやいや、無理っしょ。私ならいけると思うけど」
何やら色々と話されていてわちゃわちゃしてきた。
「ラークス君、さっさと行こう。面倒くさくなってきた」
「えっ、ここまで風呂敷広げといてっすか?」
「持ってきたのは俺だが広げたのはお姉さんだ」
混乱してきたのでそそくさとラークスを連れて出て行く。
今日は特に頑張らずに行こう。
ーーーーー
「雨の日って足を取られると致命傷に繋がるよね」
「…そっすね」
「で?どうだった?」
「いやー…あははは」
辺りに転がる肉塊を一瞥すると持っていたメイスから滴る血を拭う。
町から少し離れた草原ではぐれゴブリン達の討伐は雨の中行われ、無事に何事もなく終わった。
本来なら冒険者は組合に所属する前に冒険者の養成する学校的な場所で教育を受ける。そして年に一回ある卒業試験に無事合格すれば卒業、晴れて冒険者となれるのだ。
その際の職業は全員一緒で基本職の更に一個前の基礎職のノービス。頭がこんがらがってきそうだ。
で、この職業は秀でた部分は全くないが唯一全職業の中で全ての武器に適性を持っている。そして卒業した数ヶ月後にあるフェスティバルで自分に合った職業に転職するらしい。
因みに俺達やデン達の様に学校に通わずに冒険者になるのは余程腕に自信のある奴か或いは生まれながらに職業を持つ者か、或いは大馬鹿だけらしい。
「自分はウォリアーっすかね。次にヘビーナイトにグラディエーター!んで、最終的に上位職のパラディン!」
「いいんじゃない?」
昨日デンに聞いたフェスティバルについて話してたら、まあ当たり前だがラークスも知っていた。
今はなりたい職業について話してくれている。いい笑顔だが、服に付着した返り血がなんとも言えない恐ろしさを醸し出している。
「アクト先輩はプレゼンターにならないんすか?」
「今が精一杯だからな。それにこれ以上、化け物になりたくないし」
「そっすか?強いってのはそれだけ死ぬ確率が減るから俺たちからすると羨ましいっすけどね…あっ、エレンはアルマ先輩みたくなりたいから魔砲師になる為にって色々考えてるみたいっすよ」
「へえー」
ラークスは最近やっと慣れてきた魔物の解体を行いながら話を進める。臭いのによく平気だな。
今回何もやってないし本当に引率だけだな。しかもこれでラークスや他2人も報酬の半分を渡そうとしてくるのだから毎回断るのも大変だ。
「因みになんですけど…アルマ先輩のお相手ってどんな方で?」
「あー…サジ君だったかな。随分と育ちの良さそうな風体だったけど」
名前を聞くと暫く俯いて何やら考えだす。
「あっ、思い出した!養成学校にいたっす!」
「じゃあ、冒険者なのか?」
「いや…こういう言い方もアレなんすけど、親のコネで入学して親のコネで卒業したんで…冒険者って言えるとは思えないっすね」
「あらー…まあ、同じ名前の子だっているだろうしなぁ…うんうん。それにアルマ達はお互い話し合って同意したなら俺はどうこう言わないよ」
「結構女癖悪かったですしエレンも前に襲われかけたんすよ。でも親が伯爵?とかなんかそんな感じの偉いやつらしくて、特徴は右目の下の黒子っす。いつか引きちぎってやりたいっす」
貴族の息子?まあ好き勝手生きれるとしたら家督を継がない四男とか五男とかそこら変なのだろう。
黒子?ああ、あったね。うんうん。たまたまだよ。たまたま。
なんだか嫌な汗が流れ始めた。
「ロクでもない奴で、言動だけはこう熱血というか真面目そーな感じなのに中身真っ黒でとんでもねえゲス野郎っすよ」
「…まーじか」
「あれ?もしかして先輩知らなかったっすか?アイツ人食いって言われてますよ?まあ、食うのは女だけですけどね。
親に買ってもらったスキル結晶で覚えた幻惑の声ってスキルで意識を保ったまんま洗脳紛いのことをされて、知らないうちに惚れてることになんてされてたりもあったらしいっすよ」
……
「あ、因みにお宅はこの近くっす。辺境?って言い方もおかしいのかな?まあ、とりあえず人は少ないっすね」
「へ、へぇ…」
「先輩?」
「なに?え、どうした?」
「うちの母ちゃんもっすけど、別に先輩に、これだけは譲れない信念とか理念とか無いんだったらいいんじゃないっすかね」
「え?なんの話?」
「最近腹に肉が付いたって甘い物とか間食抜こうとしても結局3日も持たないんすよ。アクト先輩もソレと同じっす」
……?
「要するに変な意地貼ってどうせ後になって後悔するんだから、やりたいことやりゃいいって事っすよ」
「……」
「まっ、これ父ちゃんからの言葉なんですけどね。お陰で母ちゃんが痩せた試しがないっす…」
アルマが幸せになれるならと考えていた。彼女にとっての幸せ?そんな物は知らない。人によってそれぞれだ。
しかし、もし昨日のサジ君とラークス君の言うサジ君が同じ人間なら?それはアルマの幸せに繋がるのか?
アルマの側にいていい資格は俺には無い。未だにこの手に残る彼女の頬を叩いた感覚は刻印でも彫られているかのように彼女から離れろと訴えてくる。
たまに飲み仲間達に昔の事を忘れろだとか、俺も嫁さんにナニ突っ込んでヒィヒィ言わせてたとかクソみたいな事言われたがそういう問題では無い。誤って許されたとしても心の中では罪悪感しか無い。
「…いや、それでもだ…だめだな。うん」
「どうかしたんすか?」
「考え事してただけだ」
…アルマの側を離れるのはもう少し先にしよう。
相変わらず心が弱い。
「ラークス君、先に帰っててもらえる?」
「へ?まあ、いいっすけど」
「ごめん、やること出来ちゃって」
「まぁ…どっちにしろ今日は1人だったんで」
「埋め合わせは後でするよ」
「期待してるっす。それにしてもやっと雨上がりましたね。虹もかかりそうっす。いい気分で帰れるっすよ」
「ああ、それは残念だ。ここら辺、今から雷だってさ」
どうやらこの先を暫く歩いて行った場所に屋敷があるらしい。
まるで犯罪者だ。いや、犯罪者か。女を取られたから力付くで奪いに行く。なんとも滑稽な話だ。
…まあ、こんな世界にいるんだ。死ぬか生きるかだしいいか。
しかし、嫁にするだなんだとこの短期間で2回も巻き込まれるのはそういう星の下にアルマが生まれてしまったのかもしれない。
今後も気をつけたほうがよさそうだな。




