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赫雷鳴動



 巻き込まれない様にと倒れていた冒険者達を何とか助ける事が出来た。


「ふぅ…」

 

 …理解が追いつかなかった。否、頭が理解する事を拒んでいた。

 たしかに一度戦ってはっきりわかったのはコダマ アクトの異常なまでの強さだ。


 僕だってLevelは低いのはわかってる…けど、そこら辺の冒険者被れなんかは簡単に除せた。それにLevelが上がればコダマにもいずれ…そんな風に考えていたが…

 でも、コダマには自分のどんな攻撃もあたらず、どれだけ強くなっても勝てる気がしなかった。


 理由はそれだけじゃない。山の様に巨大なドラゴンを目の前にある地面にめり込んだ巨大なハンマーで叩き落とした。

 持てるかなくらいの気持ちで触れたら全身に電撃が駆け回った後暫く体が動かなくなった。

 それに魔族の少女に至っては空を飛び、ドラゴンを真っ二つにした後、更には大爆発でドラゴンが木っ端微塵。

 それを遠巻きにしか見ることしかできなかった。

 理解出来るはずがない。


「アルマもアクトも遅いですね。まさか煙の中で迷ってるのですかね?」

「…お前は2人を信じてるのか?」

「何ですか藪から棒に…まあ、でもそうですね。

 私に生きる希望をくださった方となんだかんだで私を理解してくれた方ですからね。信じる信じないの前にあの方達しか私には無いと言いますか…」

「……」

「何か?」

「いや、別に…」


 この少女はヴァリアントと呼ばれる種族で魔物にもなれると聞いた。

 そしてコダマと共に戦い正にドラゴンを倒した少女は魔族だ。

 僕が敵として教え込まれてきた全てが彼にとっての味方…


 勿論人間と同様に全ての魔族や魔物が悪いわけではない…それでも…


 そんな時だった。ほんの一瞬、土煙の中から勢いよく何かが吹き飛んできた。そして凄まじい轟音を立てながら地面を抉り叩きつけられた。


 抵抗出来る気力も殆ど無いがスキルで弓を出すと構える。

 

 何だ?新しい敵?それともドラゴン?或いはそれを使役してた奴?そんな奴いるのか?


 グルグルと回る嗜好で考えがまとまらないまま土煙から出てきたのは竜騎士とでも言うべきか、ドラゴンの様な見た目をした鎧姿の人物だった。

 フルフェイスヘルムの為、顔はわからない。ぶらんと垂れ下がる腕はひしゃげており、余程強い衝撃を受けたのかと思える。


 あんな奴…いたか?冒険者全員を見ていた訳では無いがあんなに目立つ鎧なら普通は気付く筈だ。


 ひしゃげた腕はゆっくりと再生して行き元に戻る。どうやら人間では無いらしい。

 そしてこちらに気づくと瞬きの間に一瞬で距離を詰められ、巨大化した口で今まさに隣にいたエルヴァを頭から捕食しようとしていた。


「あっ─」

「連れに触んじゃねえよ』


 次に目に移った閃光。赤い…否、目が冴えるほどに赫い稲妻。


 大口を開けた鎧姿の人物は顔面に飛び蹴りをもらい再度吹き飛ばされていく。


 今度現れたのは見覚えのある男。ただし、両腕と両眼が真紅に染まり人と呼ぶには余りにもかけ離れた姿をしていた。


「……あっ、アクトでしたか」

「もっと早く気付いて欲しかったな。まあいい、中でアルマが気を失っている。頼んだぞ』

「貴方はどうするんですか?」

「見てわかんねえのか?アレぶっ殺すんだよ』


 地面にめり込んでいたハンマーを軽々と持ち上げ天に掲げると空から巨大な雷が落ち、避雷針のようにハンマーに当たると膨大な魔力を内包し出す。


「…す、凄いな」

「あ?凄い?冗談だろ。何一つ守れやしない力の何が凄いんだよ』


 コダマは勢いよくハンマーを鎧の人物に投げる。

 先程ドラゴンを叩き落とした時よりも何十倍も威力がありそうなのに…その投擲物は目標に当たる前に粉々に砕け散ってしまった。


『…お得意のエンチャント武器もその程度か?』

「あっ、やべ。アルマに怒られる』

「化け物同士の争いに私とアルマを巻き込まないでください」

「わかってるからさっさと行け。邪魔だ』


 新しい敵という事か?アレが?


 もう抵抗する気力も勝てるなどという考えも1ミリも浮かんでこない。


「最後に聞きたいんですけど何者なんですか?」

「ドラゴンだよ。詳しくは俺も知らね。いいからさっさとアルマを助けてくれ』

「やれやれ、相変わらず人使いが荒いですね」


 エルヴァが肩をすくめると、巨大化していき美しい毛並みの狼になる。


『…アルマヲ悲シマセナイデクダサイヨ』

「…春の夜の夢の如しとでも伝えといてくれ』


 立ってはいるが恐怖で体が動かなくなっていたら鼻先で軽く持ち上げられて背中に乗せられてしまう。


『ジャア、マタアトデ』

「……』

 

 いまだに晴れぬ土煙の中と爆発によって歪んだ足場で気分が悪くなってきそうだが…最後に見た時、やはりコダマの後ろ姿は助けに来た英雄というよりかは天罰を執行しに来た荒神に見えた。



ーーーーー



 蝋燭の気分というのを現在進行形で味わっている。

 何せさっきまで第二関節下までは生身の腕のあった部分が今は肩口辺りまで赫く染まった雷の義手に変わり、足も気付けば膝下辺りまで無くなって代わりの赫い雷霆の足になっていて…意識して無いのに宙に浮いていた。


 最悪自爆すればどうにかなるのではと目の前で再生の終わったドラゴンを見ながらそんな事考えていた。

 生きて帰れる気はしない…ああ、アルマを守らなくてはいけない、死ぬな。強くならなくちゃ、もっともっとだ。

 頭の中に複数の人格があるかのように思考が纏まらないが一つだけ確かなのは目の前の生物を殺せと言う事だ。


「【クラウノス】』


 再び天雷が全身を包み込みより一層の魔力と肉体という名の蝋燭の消費が激しくなる。


『人間…貴様は─』

「話してる余裕なんて無えんだよ』


 もはや動くだけでも閃光を放ち視界を奪う。不格好なままにドラゴンの懐に潜り込むと腹部に一撃。殴打を入れる。鎧となった鱗を砕き腹の肉を裂き臓物に届くとその瞬間に電撃を放つ。


『ガガガギッ!てっめえ!』


 この生物に痛覚があるのかは不明だが腕を引き抜きドラゴンの臓物をばら撒くと風切り音がして目の前にドラゴンの足があった。

 軽く跳躍し蹴りは回避するが尻尾による刺突は避けられなく心臓を貫通される。


 痛み、痛いってなんだ?なんだこれ痛くない、ああ動ける。

 心臓など全身に魔力を送るだけのエンジンだ。必要ない。


 ドラゴンの顔面を掴み砕き電撃を、空いてる腕で手刀して左腕を斬り落とす。負けじとドラゴンも尻尾を使い俺を蜂の巣にしてくる。

 これ以上はマズいと喧嘩キックでドラゴンを蹴り飛ばし距離を取る。かなり体に穴開けられた。穴から赫い雷が漏れ出し始めてる。


「…ゴフッ、ヤバイな。時間が…無い』


 膝をついてしまう。まあ浮いてはいるのだが。

 口から溢れ出た血液も即座に蒸発し、心臓も身体中に空いた穴ももはや塞がらない。

 寿命はまだ有るはずだがどうやら体が持たないようだ。


『いったいなぁ…でも、まさかここまでやれるとは思わなかったよ』


 土煙の中からドラゴンが出てくる。その声音に疲れや苦痛の色など一切見えない。

 それどころか鎧は形を変え変化していく。翼と尻尾は無くなり角のみを残して全身を包んでいた黒い鎧も剥がれ落ちていく。


「諦めなよ。君にもう勝ち目はないさ。君がどれだけ僕を攻撃しようが僕は魔力さえあればいくらでも肉体を治せる。

 けど君は?その肉体はあとどれくらいもつ?寿命は?君、馬鹿でしょ?無駄な事って気づかないの?」


 パンパンと体に付いた埃を払いながら落ちた腕が腹から零れ落ちていた内臓が、電撃によってズルムケになった顔面が巻き戻しのように再生していき、左右で黒目と白目の入れ替わったオッドアイに祭祀服の様な奇妙な衣装を着た中世的な人間が立っていた。


 嘘だろ?また進化したのか?いやまだだ、行ける。回復の隙を与えるな。死ぬまで殺し続けろ。首を落とせ、引き裂け、潰せ。

 

 心の声に従うがままに再び前方に跳躍してドラゴンをこうげ─


「僕が1番嫌いな者は無駄な行為だ。例えば君のその行動とかね」


 ぐしゃり。そんな音がした。あり得ない。あり得るはずがない。

 だって、雷で出来た俺の腕が潰された。ローキックで俺の足が切断された。痛みは無くてもわかる。ヤバイと。


「僕は本当に君達を殺す気はなかった、最高の食事、最高の生活は保証してたよ。ただ、生殖行為を行なって産まれてきた子供を僕に食べさせてくれればよかった。それだけだったのに」

「ふざけ─』


 背中に凄まじい衝撃が走る。物理防御力はかなり上がってるはずなのに。ドラゴンが力一杯、俺を地面に叩き付けると肺から空気を吐き出し息吸う間もなく何度も何度も地面に叩き付けられる。


 やがてドラゴンの周りが陥没し足場だけが残った頃、やっとその攻撃は終わり俺は投げ捨てられた。


「人間は本当に愚かだ。目先の事しか考える事が出来ない。

 もっと先を見なよ。どうせ君はこの世界にいる限りは戦うしかない。なら一層のこと、諦めて死ぬか僕のような上位者に管理されるか…そんな事もわからないのかい?」

「…し、ね」


 【エンチャント・永続化】がどこまで適応されているのかは不明だが少なくとも、ゼウスエンチャントはもう終わりのようだ。

 抵抗する為の両腕も、敵を見据える為の両目も無い。全身に開いた穴からも赤い液体が溢れ出て体がどんどん冷たくなっていく。


「もうやめにしないかい?流石の僕も飽きてきたよ」


 顔面を蹴り飛ばされると背中から聞きたくも無い破砕音が聞こえてくる。

 そして何よりも嫌なのは体が下に押し付けられていくかのような感覚。

 物理的にではない、内面的に…魂が体から抜け落ちていくような…希望なんて持つな。ハッキリと告げるぞと体が教えてくれているようだ。

 死ぬんだとはっきりとわかった。


「やれやれ、主食は無くなってしまったが前菜とデザートはまだそう遠くまでは逃げてないはずだ」

「……」

「さて、と。僕は行くとするよ。

 最後に君の名前を聞いておくべきだったよ。まさかここまで追い詰められるとは思っていなかったし」


 ……


「ん?おっと、翼の出し入れが少し面倒になったな。まあいい。ヴァリアントの脚の速さなんてたかが知れているしね」


 



ーーーーー



 遂に倒れた人間を見てやっとかと安堵した。

 この人間に睨まれると心臓部にある魔石が奇妙な反応を起こす。突然大声を出したくなるような、全身を震わせるような。

 ただの魔石だった頃には知らない感情だ。


 まあ、人間社会に溶け込めばコレもいずれわかるか。


 もぞもぞとまるで芋虫かのように地を這いずり回り此方へと向かってきていた人間だったが遂にその動きを止め完全に死んだのを確認すると空を見上げる。

 初めて見る夜空に内心感動と共に随分と長く無駄な時間を過ごしてしまったという苛立ちが生まれる…まあいいか。


 翼を広げ魔力によって浮遊する。


 あの魔族のせいで突然魔法が使えなくなった結果何とか自力で飛んでいたがやはり翼に魔力を通して飛ぶのが1番楽だ。

 それに腹が減ってしょうがないが今度こそ、僕の求めた食事にありつけるのだ。我慢我慢。


「さあ、ディナータイムだ─」


 飛び立とうとした瞬間、寒気がした。言い知れぬ感情が全身を包み込んだ。


 ドクン


 聞きたくもない拍動が聞こえる。


 ここには餌どもの死体と少し遠くに寝かされている奴らしか居ない筈だ。


 ドクン…ドクン…


 再び聞こえた。

 心臓を潰した。重要な臓器も念入りに破壊した。何よりもあの出血量だ。普通なら死んで…


 その死体を…自分をギリギリまで追い詰めていた人間(化け物)を見る。

 

「…ッ!嘘だろ!?君は人間だ!そんな事あり得るわけない!」


 立ち上がった。ネクロマンサーでも近くに居るのかと思ったが連中が魔法を使う時に見える術者と死体の間の糸が見えない。


「あと…2日くらいか?体感そんな感じがするんだ。うん」


 最後に腹の穴が塞がっていき、体に空いた穴も全身の傷も無くなった。

 まさか、コイツもドラゴンなのか?いや、あり得ない。

 完全に人間の姿に化けてたなら早々に正体を見せるかやむを得ない事情があったとしても自分の様な産まれたての竜相手に手こずることなんて…

 

「なぁ…ところで聞きたいんだがお前まだまだやる気だし、アルマもエルヴァも食う気なんだよな?」

「…だったら何さ?まさか止める気なのかい?君の攻撃は僕に効かないよ?」

「いや、一つ試したい事があってさ」


 右腕に左手を乗せると眩い光を放ち始める。

 

「【エンチャント・夢幻】」


 ゆっくりと手をスライドさせていき手の甲、最後に指先にと動かす。


「ミョルニル」


 一際光を放ち、右腕を中心にぐにゃりと空間が歪み始めた。


 自分の肉体にエンチャントをかける魔法は知識として知っている。だがあれは何だ?そもそもこの人間の戦闘スタイル自体そうだ。ハッキリ言ってイかれている。


「だが、貧弱な人間の肉体にエンチャントした如きで僕が傷つけられるとでも?」

「はぁ?はは、あっはっはっはっ!うん、そうだな。このまんまじゃ無理だ。でもな、お前も無理なんだよ。お前がいたらアルマが幸せになれない、アルマが笑えない、アルマが優しい世界で生きられない」


 人間は再び左手に光を宿らせ自分の胸に手を当てる。


「ああ、なるほど。死んでも守りたいものがあるってこう言う事なのか。

 あれだけ死にたく無かったと言うのに、今はむしろ死ぬ事が誇りにすら感じるよ』


 目の前の人間は先程同様に自身にスキルを撃ち込みあの姿へ…赫い雷神へと姿を変えたが、即座に元の姿に戻る。腕にかけていたエンチャントに全ての魔力を収束したのだ。

 握った拳はもはや人間のものではない。空間が歪み辺りの色を消した。限界まで圧縮された魔力は世界から色を奪ったのだ。


 そこで初めて気付いた。あれはヤバイと。人間の最後の抵抗だと呑気に見ていたが…今すぐに奴を必ず殺さなくては。死体を魔力砲で粉微塵にしなければと。


 勢いよく翼を広げ一瞬で距離を詰めその首を蹴り飛ばして…しかしそれも上手く行かなかった。両足に何百にも及ぶ腐った人間の手が足をガッチリ掴んでいた。


「【ハデスゲート】」


 ドラゴンは知る由もないがそのスキルは自身が殺した人間を召喚し冥界へと引きずり落とすスキル。対象が人間を殺していればいるほど強力になるが流石にドラゴンを冥界に引き摺り込むまでは行かなく、一瞬動きを止める程度にしかならない。


 そしてもう一つ。ドラゴンの暴走した感情の名前。

 たかが腐った人間の手を振り解くのにも時間がかかってしまうほどに全身を震わせた感情。それは恐怖。何度も感じていた筈なのに進化によって薄れてしまった死への危険信号。


 そのほんの数秒が人間に…否、目の前に立つ化け物に猶予を与えてしまった。

 目の前には色を無くした拳を構えた人間が立っていた。


「死ね」


 腹部をただ殴り付けられる。その瞬間目の前が閃光に包まれる。その一撃は天上にも届かんばかりに輝く光の柱となった。


 音が、感覚が、五感の全て真っ白に染められた自己が、何処にいるのかも分からずに轟音も無く、衝撃も無く、ただ無慈悲に終わりを告げた。


 遠い街からも見えた光の柱は新たな災厄の序章などと呼ばれていたが少なくとも、とある転生者にとっては苦い勝利を祝福する光となった。

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