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冒険者になろう

「……」

「……」

「…あの、アルマさん?」

「……おはよ、アクト」

「おはようございます」


 なんか妙に抱き心地のいい抱き枕だなとか夢現に思っていたらアルマだった。

 

 心臓に悪いのでやめてもらいたい。

 思春期男子の顔にそんな起き抜けの可愛らしい顔を近づけないでもらいたい。


「あの…放したので、そろそろ離れてもらっても?」

「……わかった」


 ひょっとして距離感わかんない子なのだろうか?

 それとも昨晩の仕返しに首でも絞めに…いやいや、俺に害ある行動出来ないって、あれ、でも魔法で契約書直してたしひょっとしたらなんかそこら辺も上手い具合に…


 ぐぅぅぅぅ


「……お腹空いた」

「昨日何も食ってないしなぁ…頑張って今日から稼がないと」

「……なら、冒険者がおすすめ。即日払い…」

 流石に朝食は出してもらえないので裏路地を抜け街へと出る。


 しかし冒険者かー…いいね。

 こっち来て転職するなら、選びたい職業No. 1だった。

 何せ、ゴブリンとかスライムとか弱い魔物を狩るだけでもお金が貰えるし、ソロでやってればアイツらみたいなのに会う心配もない。


 そうと決まればと身支度を整えて宿を出る。

 あと、余談だが出発するときに奴隷商さんが偉く艶々した顔してたが聞かないでおいた。

 触らぬ神に祟りはない。



ーーーーー



 早朝なのでどこの店も空いてなく途方に暮れていると冒険者組合なら安く食えるぞと通りすがりのおじさんが教えてくれた。


 冒険者じゃなくても食わせてもらえるのは有り難いし用事もあるので丁度いいや。


 えーと、場所どこだっけかな?


 手っ取り早く聞くのが1番だなと考えてると服の袖を引っ張られる。

 どうしたものかとアルマを見るとあっちと指差している。


「何かあったの?」

「……ご飯の匂い」


 そもそも魔族って人間と同じ物食べるのだろうか?

 こっち来てちょくちょくゲテモノも食べてきたが主食それだったらしんどい。


 そんな風に考えてるとアルマが走り出す。


「あ、おい!」


 とんだじゃじゃ馬だよ。

 

 まあ、そのお陰で冒険者組合に着いたんだけどさ…


 小さな胸を張って褒めてくれとドヤ顔してる。

 …頭でも撫でてやろうかなと手を伸ばすが昨晩の事を思い出し手を引っ込める。

 そもそもこうやって行動する事自体おかしな話なのだから。



ーーーーー



「……ご馳走様でした」

「食ったな…」

「……腹8分目」


 食費が大変なことになりそうだな!ちくしょう!


 適当にメニューを選んで注文し一言も話さずに食べ終わると満足気に腹を叩く。

 そんなにお腹空いてたのか。


 しかし冒険者組合と言われて頭に浮かんでいたのはむさ苦しく、初心者弄りに来るような奴ばかりと勝手に思い込んでいた。


 その実、皆優しくボロボロだったアルマに古着でごめんなさいと服を渡してくれた始末。


 アルマに関しても別に人間のフリしてないし、そのまんま魔族な見た目なのに特に誰も気にしてないのだ。


 むしろ俺が怒られた。女の子になんて格好させるのだと、服くらい買ってやれと。


「……服、暖かい」

「俺の懐は寒いよ」

「……ん」


 席を立ち上がるとちょこんと膝の上に乗ってくる。

 違う、そうじゃない。


「依頼受付を開始しまーす」


 どうやら、始まったようだ。

 とは言っても先ほど組合職員に言っておいたので書類は渡されており一通り目も通しておいた。

 後は契約書にサインすれば完了だったりする。


「はーい。新規の方はこちらですよー」

「よし、行くとしよう」

「……私も」

「え?アルマ、戦えるのか?危ないぞ」


 大丈夫と親指を立ててるが本当に?


「では、まず最初に水晶に触れながらステータスお願いしますね」

「あ、はい」


 言われるがままにステータスと心で呟くとチン!とどっかで聞いたことあるような音がして水晶の下の隙間からカードが出てくる。


「そちらが冒険者登録証になります。

 わあ、凄いですねランク0でLevel22なんて」

「あ、えーと…凄いん…ですよね?」

「え?そうですよ」


 何だろう。褒められてはいるけど…なんかもっと驚いて欲しかったと言うか予想外と言うか…


「あ、なるほど!異世界の方でしたね。何十年か前にもいらしたらしいけど似たような反応されてたらしいですよ」

「へえ〜」


 初耳だ。前にも召喚されてたのか。


「あと、実はLevel20台の方って結構いらっしゃるんですよ?

 Level30で凄いってなるのも上位職くらいですしね」

「ああ…そういや、俺上位職4人とパーティー組んでやってたんですけど俺よりも先に彼らの方が先にLevelカンストしたんですけど…」

「え?

 …ああ、アクトさん。魔法付与師なんですね。

 魔法付与師はサモナーとかとは別で自分の手で倒さないと経験値が入りにくいんですよ。

 あとは単純に貰える経験値の量を1番低く設定されてたとかですかね。パーティーリーダーにその権利がありますし」

 

 聞いたこともない。いや…多分メルカが意図的に隠してたんだろう。


 まあ、後者に関してはある時期から殆ど経験値が入ってこなかったので何となく予想は付くが。


「……アクト、魔法付与師なんだ」

「ん?そうだよ。まあ、でもスキルはどっちも酷いんだけどね…」

「あ、魔族のお嬢ちゃんも登録します?」

「……お願いします」


 かるーく流された…泣きたくなってくる。


 と言うか他の魔法付与師の人はどうなのだろうか?

 会ったとこないのでわからないがこんな感じのハズレスキルなのか?


「……チーン」

「ワンテンポ早かったですよ。はい、どうぞ」


 こうして俺たちはランク0の冒険者となった。

 ランクは依頼をこなすことで上がっていくそうで最高で9だそうだ。道のりは長い。


「……アクト、カード見せて」

「ん?いいけど」


 言われがままにアルマに冒険者ガードを渡す。

 

「人の冒険者カードはその人のステータスを見れるんですよ」

「へぇー。アルマ、カード貸して」

「……ん」


 どれどれ。



アルマ=マギウム(14 ♀) Level16/30


HP320/620 MP1200/1200 ATK60

MAT1200 DEF90 SP60/60


職業 魔砲師


スキル ワルプルギス(Level4)


バッシブスキル 魔力探知(極低)

        魔砲士の波動


称号 前魔王の娘、片角の魔族、魔法を破壊する者、アクトの相棒



 ん?なんか変な称号がある。魔王の娘…?え、アルマが?

 目を擦りもう一度見ても書いてあることは変わらない。


 魔王?魔王ってあの、倒せって言われた魔王?

 え、でも前魔王ってことは現魔王じゃ無いって事だよな。前魔王の忘れ形見?


「どうかしましたか?」

「い、いえー…あ、そうだ!ちょっと疑問に思ってたんですけど」

「はい、何でしょうか?」

「魔王って魔族の王で人の国を脅かしてるんですよね?」

「そうですね」

「その割にはアルマも魔族なのに誰も特に何も言ってこないので…」


 隠しもっていたライトな小説では魔族や獣人は結構迫害されていた。

 で、どうなのかと言うと受付のお姉さんは何かゴミでも見るような目で見てきた。

 え?何か悪いこと言っちゃった?


「貴方、差別主義者ですか?」

「い、いえ…」

「仮にどこかの街の出身者が大量殺人を起こしたとして、その街に住む人間は全員大量殺人犯って決めつけるんですか?」

「え、いや…それは無いですけど」

「別に考え方は人それぞれですけどね。少なくともここでは悪いのは魔王とその仲間、他の魔族は無関係って考え方が多いので注意してくださいね」

「はい…」


 話そらそうとした結果余計に面倒臭くなった。


「仮にもパートナーなんですから、気をつけたほうがいいですよ。

 そこら辺は結構グレーゾーンな方も多いので」

「以後、気を付けます…」


 まあ、当の本人はずっと俺のカード見ているので話なんて聞いてない。

 

 何が面白いのだろうか?あとで聞いてみよう。


「あ、ランク0の俺らでも受けられる簡単な仕事とかってありますか?」

「そうですね…本来はあっちのクエストカウンターで探すのですが初めてですし私が手頃なのを見てきましょう」

「あ、どうもありがとうございます」

「んー…これなんてどうです?クスリソウの納品。支給された袋いっぱいにクスリソウを摘んでくればいいだけの簡単な仕事ですし、袋の量に応じて報酬も増えますよ」


 クスリソウ?薬草って事?いや、まあそこら辺は気にしないでおくか。


「あ、じゃあそれで。

 それと袋ってどれくらい渡されるんですか?」

「上限は7ですね。一袋につき銅貨10枚加算されてきます」


 基本報酬が銅貨30枚…最高で100枚か。


「何袋持たれます?」

「じゃあ一応7袋で」

「わかりました。少々お待ちください」


 そう言って奥へと消える受付のお姉さんを見ていると、やっと満足したのかカードを返してくれる。


「……魔法付与師」

「うん。アルマは魔砲師?だっけか」

「……一つの魔法かスキルしか使えないけど…それが強化される上級職」

「なるほど。凄いな」

「……アクトも転職すればいいと、思う…でも、アルマはアクトのそのスキル見たことある…」

「え?」

「お待たせしましたー!」


 ドンっと机の上に置かれたのは組合のマークの書かれた袋。

 思ってたよりも大きいな。


「最終受付が日暮れの刻…そうですねー、5:00くらいなので遅れないようにしてくださいねー。

 薬草の群生地は門番の方に聞けばわかるので」

「わかりました。ありがとうございます」


 まあ、時間は沢山あるしお互いの身の上でも話しながらクエストをこなそう。



ーーーーー



 異世界に来て今日ほど良かったと思える日は無いだろう。


 見渡す限りの草原に所々咲く赤や黄色の花。更にそれを引き立てるような青い空。

 そしてその草原を駆ける未知の生物や魔物達。

 前世?では外国にでも行かないと…いや、外国に行ったって見れない景色が広がっていた。


「すげー…」


 思えばこっちに来てずっと戦いっぱなしだったな。

 魔物の巣だったりダンジョンだったり。

 冒険者になったのもいいが、お金が貯まったら旅をしてみるのもアリかもしれない。


「……アクト?」

「あ、ごめん。見惚れてた。

 えーと…クスリソウは…」


 組合で渡された資料の中に…あった。どれどれ…


 紫色の花で甘い香りのする花です。また、非常に高い繁殖力で回復薬にもなりますが、増えすぎると生態系も壊れてしまいます。


 なるほど。


 たしかに所々に紫色の花も見える。あれがそうなのだろう。

 そしてそれを摘んでいる人もチラホラ。同じ新人さんか。


「……アルマのノルマは?」

「早口言葉みたいだな。

 まあ、特に決まってないし、俺もやるから。ほら、話しながらでも…」

「……ダメ。ご飯の為でもあるし…私はアクトの奴隷だから…」

「いや、買ったけどさぁ…とりあえずお互いのこと話さない?何も知らなくない?」


 あら、お目々大きい。そうだね、驚くのはわかるけど。昨日会ったばっかりだし。

 俺もアルマの事何も知らないし、アルマも俺の事を知らないんだよ。


「……あ、私…先代の魔王の娘」

「うん」

「……あと、角が片方ない」

「うん?」

「……それと、アクトの相棒」

「あの、アルマさん?」

「……あと…もこもこ?」


 ダメだこれ、地雷原と切り出せない話題が多すぎてどこから突っ込めばいいのかわかんない。


 いや、ここは俺が自己紹介してどうにか流れを変えればいい。


「ええと…俺はコダマ アクト、異世界から来た勇者…いや元勇者か」

「……うん」

「アルマの相棒で…」

「……うん」

「……」

「……」


 アルマより酷かった。

 いや、昨日の夜はアルマも一緒なんて言われてたけど角のことも魔王の事も聞けないよこれ。


 こっちの身の上話も嬉々として話すようなことでもないし。


 どうすんだこの先と頭を抱える前に考えるだけ無駄だなと早急に諦め、クスリソウの採取を始める。


「……アクト、アクト」

「ん?」

「……アクトのスキル」

「あっ、そういえば見た事あるんだったよな?」

「……ん」


 スキルって多分【エンチャント・夢幻】の方だよな?【エンチャント】は魔法付与師の基本スキルだし。


「……昔お城に同じスキルの人がいた」

「え?そうなのか?」

「……ん。ちっちゃい頃だったから余り覚えてないけど…

 一ヶ月くらい私の付き人さんやってくれてた」

「へえー…」


 やっぱスキルってランダムに発現するのか?

 俺と同じスキルの人もいるのだろうか?

 もっと種類があるのだろうか?気になるな。


「……アルマの騎士様」

「ん?付き人だったのに騎士だったの?」

「……違う」

「違うのか」

「……お別れの時、大きくなったら必ず迎えに行くって」


 なんだかお姫様…いや、お姫様だったか。


 その人にもし会えれば、もしかしたら何か別の運用方法を思いつくかもしれない。

 それにその人がもし、本当に迎えに来てくれると言うなら彼女を一度は奴隷として殴ろうとした罰だ。

 その時まで側で彼女の事を守り通そう。

 

 そんな事言えた義理じゃないが。


「……アクトの使い方は間違ってる」

「え?この、スキルのか?」

「……ん。

 あの人も言ってた。最初はわからなかったけど、大切な人に教えてもらったって。だから今強くなれたって」

「なるほど…」


 また、悪い癖だよ。何でもかんでも否定から入って身に合わなきゃ直ぐに吐き捨てる。

 使い方が間違ってたならそりゃそうだ。

 ちゃんと使えてたなら今頃まだ勇者パーティーに…いや、無いな。

 申し訳ないなとは少し思った。俺がスキルを使いこなせてればと。

 けど、環境なのか名声なのかは知らないけど、変わってしまったアイツらと今でもいたらもしかしたら今以上に酷いことになってたかもしれない。平気で無抵抗な少女を殴り付けるような奴になってたかもしれない。


「……」

「なあ、アルマ」

「……ん」

「覚えてるだけでいい。お前の騎士様がどんな風にスキル使ってたか教えてくれ」

「……いいよ」


 プチン、プチンとクスリソウを根ごと引き抜きながら、俺は初めて俺のスキルがどんなものなのか理解した。

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