二人の作戦
「無事に到着だな」
「ムカデを切り刻む」
「……殺す気ですか…って。アルマも同意見」
「1番早く来るならこれしか無かったんだ。我慢してくれって」
前にやったレーヴァテインの炎で推進力を作り出し飛ぶジェット斬りと名付けた技はアルマに心底嫌そうな顔をされたが気に入っている。
あとはその要領で2人を担ぎ飛んだ。凄まじいスピードで顔の皮がだるんだるんになるかと思った。
「グルルルル…」
「なあ、やっぱやめないか?」
改めて見るとでかいし強そうだしどう考えても倒せるとは思えない。
言い方はアレだがカシに完全に騙されたよ。
内心ちょっと考えてたもん、俺強くなったし勝てるとか。どう控え目に見ても無理だけど。
「……駄目。
…それにエルヴァも…ここまで来るのに…体力使い果たしてる…から逃げられない」
『ムカデに死を』
「死にたくないなぁ」
逃げる事も出来ないらしい。
はぁ…本当に嫌だ。俺は調子に乗りやすいのだからもう少し考えて行動しろよ。
「おお、アタギ君。生きてたのか」
見るからにボロボロで戦ってたと一目見て分かる。
周りにも倒れて苦悶の声を上げている者や或いはもう2度と起き上がらないだろう連中も大勢いる。
「…じゃあ、アルマ。頼んだぞ」
「……ん。頑張って近づく」
さて、果たして俺達は生きて帰れるのだろうか?
ーーーーー
もう少しで餌場だ。
そう思ってゆっくりと飛んでいたのだが何分、初めての外界なので少し疲れてしまったようだ。
途中で休憩にと懐かしき地面に潜って寝ていたら溢れ出す魔力に群がってきた蝿共が上の方で騒いでいた。
特に気にせずに起きて地面から這い出るとどうやら自分の魔力で進化したのであろうカオスワイバーンが死んでいた。
あとそれを殺したであろう餌達が沢山いた。
まあいいかと大欠伸をすると周りの餌共が吹き飛ばされて行く。
死んではいない様だがわざわざ1匹1匹摘んで口に放り投げるよりもあっちで集団で固まってるし無視しよう。
それに餌場まで飛んだとしてもこれ以上餌が散り散りになったら大変だと数歩歩いた時、とても素晴らしい匂いがした。
先程から攻撃らしき行動を取っていた者の方に何やら美味そうなのが3匹。
元より自分は質量的な食事でなく魔力を摂取して腹を満たすので獲物が小さいのは気にしないが、たった3匹のくせに沢山魔力を持っている。
思わず舌舐めずりをしてしまう。
「グルルル…」
前菜に主催それにデザートデザートまで付いている。
ああ、最高の目覚めだ。
ーーーーー
「本当に近づかないとダメなのか?」
「……ん。
…そうしないとアクトのエンチャントも終わらせちゃう」
「そうか…やっぱやめない?」
「……エルヴァ、れっつごー」
「ムカデの袈裟斬り」
「えっ、ちょっと!?」
アルマはエルヴァに跨るとそのままドラゴンへと突っ込む。
マジかよ。本当に死ぬ気か?こんなの勝てるわけないじゃないか。
「くっ…コダマ、お前は行かなくていいのか?」
「あ?あー…行くよ。相棒がやる気出してんだ、俺もやんだよ」
剣を抜き構える。今回は抑える必要もない。全力全開だ。
剣に付与してる魔法を発動させると天に届くほどに巨大な炎の剣へと変化する。
世界を燃やし尽くす大火の剣でもドラゴンは斬れない…いや、俺の想像力が足りないだけか。
「…僕と戦った時は本気を出してなかったんだな」
「当たり前だろ?こんなのお前より強い相手でも使わねえよ。
それこそ目の前の化け物とか相手じゃないとな」
「……」
「まあ、危ないから離れてろって」
剣を後ろに向け炎を噴出させ最高速度に達すると体を電気化させ一瞬でドラゴンの上に移動すると、まぐれなのか気付いていたのかこちらを見たドラゴンの顔面に勢いのままに剣を叩きつける。
なるほど。アルマの言った通りだった。
こんなに巨大なドラゴンに雷の速さで近づいて巨大な炎の剣で斜めに斬り付けた。多重エンチャントはまだ出来ないが強くはなれてる。
まあ、本当に擦り傷程度にしか傷は出来てなかったが。作戦通りだ。
「何を余裕そうに口開いてんだよ、クソトカゲが…やれ!アルマ!」
「……アクトは離れてて…【ワルプルギス】!」
再び体を電気化させ距離を取ると同時にドラゴンの体の周りに大小様々な虹が掛かる。
あれがそうなのか?
アルマとは予め作戦を立てておいた。まずは俺が囮になり奴の視線を上へ向ける。その間にアルマがエルヴァの最高速度で突っ込んでスキルを発動。無理だったとしたらアルマとエルヴァを担ぎ上げ距離を取る。
予備の作戦も考えてはいたが使わずに済みそうだ。
それと虹には触れるなと言われていたが…
なんか魔法を終わらせるよりも先に触れたら頭がおかしくなりそうである。
そしてドラゴンも何が起きてるのかさっぱりわからないと自分の体の周りに出来た虹を見て首を傾げて動かない。
そのお陰でアルマもエルヴァも無事に戻ってこれた。
「……成功」
『ムカデは臭い』
「……もう2度とやりたくない…って」
「うん、俺も2度とやりたくないかな…」
兎も角、準備は整った。
アルマも魔法の袋から蛇腹剣を取り出す。
エルヴァは既に人間状態に戻り距離を取っていた。巻き込まずに済む。
「うし、やるか」
「……おー」
「ゴガァァァアッッ!!」
思わず耳を塞いでしまう。煩さ過ぎる。
そして開けた口の奥、喉の辺りが光り輝く。魔法に疎い俺でもわかる。ありゃやばい。
「ア、アルマさん!?アイツの魔法終わらせたんじゃないんですか!」
「……外だけで…中までは流石に無理」
そりゃそうだ。あんなデカイ化け物の魔法を外側だけでも終わらせているのだ。
それだけでも十分過ぎるくらいだ。
空間が歪むほどに凝縮された攻撃は、仮に瞬間移動で飛んだとしてもゼウスエンチャントで防御力が上がっていてもダメージを食らうだろうし、俺だけ逃げても意味はない。
後ろにいるアルマもエルヴァも序でにアタギや冒険者共が蒸発してしまう。
「……任せて」
「大丈夫なのか?」
「……アルマはアクトを…信じてる」
一度強く手を握ってくるとアルマが数歩前に出る。
そしてアルマの装着していた肩当てが輝き始める。
信じることしか出来ない。
どっちにせよここで全滅か生き残るかだ。
彼女の肩当てに付与した【エンチャント・夢幻】は神話の盾。
ありとあらゆる邪悪や災厄を払い、攻撃を無効化するという夢幻。
「…イージス!」
輝きが一層増し、彼女の前に円形状の巨大な虹色の盾が出現すると同時にドラゴンから放たれたのは一条の黒い光。
そして目の前で盾と光がぶつかり合うと目の前が真っ白に染まって…一瞬だったのか数秒だったのかはわからないが盾より分かれて後ろ分かれて大地は抉れ焦土と化していた。
寒気がした。痛みも感じる暇もなく死ねそうではあるが、そんな訳のわからないまま死にたくはない。
…しかし、ドラゴンから見て前方向にのみ衝撃が起きてるな。わざわざそうなるようにしたのか?知能がある?意思の疎通は?
気になることは多いが無駄に時間を浪費する暇はない。
「……むん」
「し、死ぬかと思った…」
「……流石アクト…」
走馬灯見えてたし、嫌な事沢山思い出してしまった。
「……アクト?」
「いや、大丈夫だ。さっさとあそこの惚け顔したドラゴンぶっ倒すぞ」
「……あっ、アクト…これ使って」
アルマが袋から取り出したのは鉄の棒…否、武器の持ち手。
アルマにプレゼントしたのだがエンチャントをかけても重く、アルマには扱えない代物になってしまった。
名称不明で何処かからアルマが引きずってきたそのハンマーは巨大な打撃部分を持っているだけでなく内部に特殊な装置が組み込まれているらしく、魔力を火薬代わりにしてインパクトの瞬間に逆方向から噴出、威力を底上げするという頭の悪い武器だ。
武器屋の親父曰く、微妙に似たような武器でパイルバンカーなる逸品があるらしいがそちらに関してはエンチャントが思いつかないのでアルマには買ってきて欲しくない。
そして、件のハンマーにはエンチャントをかけた。
どれだけ使っても決して壊れる事はなく、投げても必ず所有者の元へと戻ってくる。神話の武器。
使用していた神様ですら自分の力を倍にする帯締めて使っていたものだ。そりゃアルマの細腕じゃ扱えるはずも無い。
俺だってゼウスエンチャントで力んで扱える代物だし。
「ミョルニル」
肩に担ぎ上げるとズシリとした重みと共に発熱しだし空が曇り雷鳴が轟き始める。
しかしエンチャントとは言えど、北欧の神の武器をギリシャの主神が使ってるのはなんともおかしな話である。
「……おぉー」
「やっぱり重いな。まあ、でも…」
巨大なドラゴンは雷鳴轟く虹の中というおかしな状況か或いは此方の行動にか再び器用に首を傾げる。
殺すつもりだったのか殺すつもりでなかったのかは知らないが無傷だったことに驚いているのだろうか?
「アルマ。1番に自分の命のことだけを考えろよ?」
「……ん」
「俺のことは二の次三の次だ」
「……それは無理」
「…俺は別に体を電気化すりゃ問題ない」
「……アルマも…イージスがある」
自分の肩を指差すが既にヒビが入って居る。エンチャントは成功しててもエンチャントした鎧には流石に耐久があったか…
使えてあと2、3度…壊れた後にしか替えが作れないのが難点だな…
「……大丈夫、みんなで頑張る」
「ムカデを裂く」
「……死ぬか、生きるか…だから手伝って?」
「なら、僕も」
「……足手纏いは…いらない」
言ったなぁ。
普通にアタギもショック受けてるし。そもそも、作戦は成功したが俺らの攻撃が通るかはまだ不明だ。
「グルルル…」
再びドラゴンが地の底から聞こえてくるような唸り声を上げる。
もう我慢できないということか。
「……今日から…ドラゴンスレイヤー」
「勝てたらな」
「ぼ、僕も戦か…グエッ」
「ムカデ」
エルヴァがアタギの首を変な方向に曲げてた。死んでない?大丈夫なの、それ?
冷や汗だらだら、足はがくがく。それでもやらねば生き残れない。




