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長として



 今度こそ無理だと早々に諦めた。

 

 どれだけ憤怒の炎を纏った矢を放とうが、どれだけスキルを撃ち込もうが、あの巨大な災厄にダメージが通るとは思えない。


 自然災害と同じだ。ただ、そこにある絶望を前に為す術なく殺されるしかない。

 

「ゴフッ…くそっ、もう無理か」


 MPもSPも尽きて燃やすものは命だけになったせいか、口から血が溢れ出す。これ以上は無理にスキルを発動は出来無いと【装甲纏・大罪】を解除すると全身から力が抜け倒れてしまう。

 

 …諦めろ。目を瞑れ。もう十分に頑張ったじゃないか。

 これ以上どうする気だ?なんで俺は…立ち上がろうとしてるんだ…


 地響きの揺り籠に揺さぶられながら一歩一歩と重厚に歩くドラゴンに向けて最後の力を振り絞り矢を放つ。

 刺さる訳もなく弾かれたが…歩みを止めると静かにこちらへと顔を向けた。


「グルルルル…」

「なあ、やっぱやめないか?」

「……駄目。…それにエルヴァも…ここまで来るのに…体力使い果たしてる…から逃げられない」

「ムカデに死を」

「死にたくないなぁ」


 聞き覚えのある声だった。


「おお、アタギ君。生きてたのか」


 夕焼け空に背を向けて後光を浴びる姿は助けに来てくれた増援というよりかは僕の命を奪いにきた死神達に見えた。



ーーーーー



 今日も今日とて湯治が終わり、明日には腕が生えるなんて言われた日には嬉しくなってしまう。


「アルマ、好きなもの買ってあげる〜」

「……アクト、ご機嫌」

「まぁな」


 早々に着替えを済ませ、準備万端。早速街へと思っていたのだが女将さんに止められてしまった。

 何でも俺宛の手紙が旅館に届いたらしいので見てくれと。


「誰からだろうか?先生か?それともガルドさん…いや、ゼタール?」

「……カシって人」

「カシ?カシ、カシ…あっ、もしかしてこの間の新人冒険者の時に組んだ奴?」

「……それはゲラルドとエレンとラークス」

「ふぅむ…」


 考えた所で無駄だし読んでれば思い出すだろうと手紙を開けると見覚えのある達筆な字が書かれていた。


 ……



 背景 ニルア冒険者組合所属 ランク1冒険者 アクト殿 


 ベルサー所属の組合長カシと言うものです。

 先日の部下と私の非礼を重々承知ですが、どうかお願いします。私の街を救ってください。



「…あっ、これセルバーの組合長だ」

「……あの人嫌い」

「俺も」

「……でも、手紙は…最後まで読むのが…礼儀」

「ええー…まあ、いいか」


 ……



 耳が早い貴方の事ですから知っていると思いますが、カオスドラゴンが現れ、現在ベルサーの街に侵攻中との事です。杞憂に終わればいいのですが、もしもの時は私も戦場に出る覚悟は既にあります。無論死ぬ覚悟も出来ています。



「…なあ、アルマ」

「……ん」

「何でこの世界の人間ってこんな簡単に死ぬ覚悟が出来るんだ?」

「……アクトだって、アルマ助けるとき…死ぬ覚悟出来てた」

「そうだな」

「……つまりそう言う事」

「ふむ…」



 ここで話すのも何ですが、ベルサーは元々魔族によって家族を奪われた者が逃げてきて出来た街です。

 その為か、貴方の住まうニルアと違い、魔族は明確な敵と認識されています。

 だからこそ仲間達の肩を持ちました。卑怯な手や挑発を行いました。その非礼は決して許されざる行為ですが、貴方に譲れないものがある様に私達にも譲れない物があります。勿論、相互を理解しお互いに歩み寄ってくれとは言いません。

 私の顔を立てるつもりなど微塵もありません。踏みにじっていただいても構わないです。

 だからどうか私の愛した街を守ってください。お金ならいくらでも払います。お金以外でも望む物なら何でも差し上げます。

 何も無く、小さな街ですがここは私の故郷であり、彼らの故郷です。

 どうか、かつての友ガルドの選んだ貴方の手腕を私の街を守るために奮ってくださる様に思慮いただけると助かります


 ベルサー冒険者組合長 カシ より



 ……


「……アクト?」

「はぁ…俺こういうの弱いんだよ」

「……?」

「何でもないよ…しっかしドラゴンかー…勝てるのかね」

「……普通ならレーヴァテインの最大火力で…擦り傷くらい」

「…マジで?」

「……まじで」


 そんなの無理に決まってる。

 仮に新しく作ったエンチャント武器でも太刀打ちできるかどうか…


「……アルマも戦えば…勝てる」

「2人ならってことか?それともさっきの普通じゃなければ?」

「……ん。ドラゴンは自分の鱗や甲殻に…特別な魔法を…付与してる」

「ふむふむ」

「……【ドラゴンスキン】ってスキルもあるくらいに…ドラゴンの鱗は硬い…」

「そんなにか」

「……でも、所詮は魔法…アルマの手に掛かれば─」

「なるほど!【ワルプルギス】で魔法を終わらせて攻撃が行えるってことか!」


 若干食い気味にアルマに返答してしまったせいか、頬を膨らませてしまった。


 左右から押して空気抜きたい衝動に駆られるが我慢して謝ると再び話し始める。


「……最初は役割を分けた方がいい。…アクトは攻撃役、アルマは防御役」

「防御って事は、この間作ったの試すんだよな?」

「……ん」

「試しに使っても無いのに大丈夫か?」

「……大丈夫、アルマはアクトのエンチャントを…信じてる」

「嬉しいんだけどそれで死なれたら俺どうすればいいの?」

「……危険はつきもの」


 危険過ぎる。

 だからと言って俺が使って防御出来なかったら意味がない。


 それでもアルマはやる気だと鎧の肩当てを装備して準備万端とでも言いたげにこちらを見てくる。


「…はぁ。俺がやられても、アルマがやられても死ぬ事には変わらないしな」

「……ん」

「行かないって選択肢もあるぞ?見て見ぬふりをする事も生きる上で重要な事だ」

「……そしたらアルマは…アクトよりあの勇者の方がかっこいいと…思う」

「えっ」

「……無駄死にだったとしても…人を助ける為に死んだんだから…」


 この世界はやっぱり死生観がやっぱり違うよな…


「ああ、もうわかったよ!行くよ…」

「……ん」

「エルヴァ迎えに行くか」

「……結構距離ある」

「最初は俺が2人を運ぶ、そのあとはエルヴァに任せる。間に合わなかったらそのまんま帰る!」

「……頑張ろうね」

「ああ」


 ラケルに話す必要もないと昨日行った店に行き呑気に茶を飲んでいたエルヴァに事情を説明するとまたかよ見たいな事を言われが無視して連れ出す。

 最悪届けたら逃げていいからと言うと何とか了承してもらった。


 なんだかなぁ…湯治に来たのに…

 身体よりも心が疲れてる気がするが気にしない。

 死ぬかもしれないのになんだか妙に高揚した気分のままセルバーへと急いだ。

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