ユウキの選択
「陛下!」
乱暴に襖を開けると寝ていたミクリア姫の頭を優しく撫でているラケル王がいた。
「おや、ユウキ君。どうかしましたか?」
「僕は今からベルサーに行ってきます!」
「…?」
何を言っているんだ?って顔をされた。
軽く事情だけ説明するがそれでも尚、困惑した顔をされる。
「アクト君達が手伝ってくれるのですか?」
「いえ、自分1人です」
「それは…」
「…言わなくても分かってます。僕は弱いです。でも、命を見捨てる事なんて出来ません!」
「…その自信は自尊心から来る物ですか?」
「いいえ、違います。僕は1人でも多くの人を救いたい。そう僕を庇い死んだ2人に誓いました」
止めたって無駄だ。
持ってきていた鎧を着てポーションも余分に持っていく。
「…私の国を見捨ててもですか?」
「見捨てるつもりはありません。僕は生きて帰ってきます」
「……」
「陛下や姫の話を聞いたとき、たしかに僕はこの国の為に尽力を尽くそうと思いました。
ですが、僕にも譲れないものがあります。勇者としてではなく1人の人間として、大切な物を失ったからこそ僕と同じ目にあって欲しくない」
「随分と変わりましたね。アクト君の影響ですか?」
変わった?何が変わったのだろうか?
2人を亡くしてから、まるで心に開いた穴を埋めるように色々な女性を抱いては変え、豪遊し好き勝手に過ごしてきた。
今だって変わらない、自分の為に、誰かに認められたいが為にもしかしたら自分でも勝てるかもしれない相手へと戦いを挑むのだ。
「…帰ってきたら如何様にも処分を受けます」
それだけ言い残して宿を飛び出す。
ベルサーはたしか隣の街だ。馬でもなんでもいい兎に角急げばまだ間に合う。
他国の領土で何をやってるんだと自分でも思うが、いつもと比べるとなんだか違う気がする。
今日だけはまるであの頃の様に心のままに戦える気がした。
ーーーーー
「…はぁ?」
「ですから、そんな感じでユウキ君が出てっちゃったんですよ」
いきなり部屋にラケルが入ってきたと思ったら急に話をし始めた。
「あの…だから?」
「助けてくれませんか?ユウキ君はまだ弱いです。それなのにドラゴンなんかと戦ったら死んでしまいます」
「はぁ…あの、何でそんなに勇者にこだわるんですか?」
「…ともかくです、お願いします。報酬ならいくらでも払いますからユウキ君をどうか」
「お断りします」
あの男も余程の馬鹿らしいがこっちもこっちでだ。
一国の主人が何度、一般人に頭を下げるのやら…
「……アクト」
「ん?」
「……湯治の時間」
「ああ、そんな時間か。エルヴァ今日はどうするんだ?」
「ムカデを引き裂く」
「……みゅるめくすのおうち?」
何だ、そんなに仲良くなってたのか知らなかった。
「ああ、じゃあわかるからいいや。行ってらっしゃい」
「ムカデ」
それだけ言ってエルヴァは部屋を後にする。
多分、行ってくるとかじゃあとか言ったのだろう。相変わらず心の中はムカデ一色で真っ黒のようだ。
「あ、あの…」
「アルマはどうする?」
「……アクトに…付き合う」
「そっか、今日もありがとな」
「……あんこあいすくりぃむ…昨日見つけた」
なるほど。それが食べてみたいんだな。
「まだ、話は終わってないのですが…」
「終わりましたよ。俺らは手伝わない、アタギ君は多分死ぬ。それだけの事です」
「…お願いします、本当にお金ならいくらでも…」
アルマと顔を見合わせる。
勇者に関係すると途端に弱々しくなるなこの人。
先日とは大違いだ。今じゃくたばりぞこないにしか見えない。
「……アクト」
「ん?」
「……7,8年とかそれくらい前に…父様に毒を盛って勇者が…父様も殺した…セルンはその勇者が…召喚された国」
「はぃっ!?」
「……それで…現魔王が怒ったフリして…セルンの土地と…王女様を奪った…」
ビクリとラケルの体が強張る。
なるほど。ならばあのお姫様からすれば母親を奪い去った憎き魔族ってわけか。
で、アタギは新たに召喚された汚名返上用の勇者と。何処までも可哀想な奴だ。流石の俺でも彼に対し同情を覚える。
「…貴方は、もしや本当に先代魔王の娘アルマなのですか?」
「……違う。アクトの相棒のアルマ。
…でも、思い出した…ウルドがよく、わからないこと言ってた…エリシアって締まりのいい…女がいるって…」
スレンダーな女性ってことか?見てみたかったな。
「……結局、最後は…楽しんで殺した…って」
「ッ!」
部屋の外で外で盗み聞きしていたのだろう。メグとミクリアが乱暴に部屋に入ってくると斬りかかってきた。
相変わらず頭のおかしい連中だなとアルマを後ろに隠すと軽く2人に電気を流す。
痛いだろうが死なない程度だ。手は抜いてやった。
「…2人ともやめなさい」
「ぐっ…お父様はお母様が死んでから腑抜けになられました!
今、目の前には憎き魔族の!前魔王ラプラスと同様に暗殺された筈のその娘がいるんですよ!」
「そうです、陛下!エリシア様が人質として拐われた際に、貴方は呑気にいつ帰ってくるかなど…耄碌されましたか!?」
「…やめなさい」
「……父様は…死んだよ。全身を…槍で串座にされて…生きながら首を…鋸でぎーこぎーこ…」
「アルマ、無理に話さなくていいぞ。顔色が最悪だ」
「……ん、大丈夫。
…アルマはそれを…拷問されてる時に…見せられてた…お前の父親の最後だって…」
服の裾を掴んでくる。
いくら裏切られたって、いくら嫌われたって、そりゃ割り切れないよな。
ましてや今以上に幼い時だ。よく精神がもったな。
「……騎士様が…必ず迎えに行くって…だから耐えてた…」
「そっか、絶対会えるからな」
「……ん。
それに今は2人目の─」
「はっ!ザマァないわね!そんな奴死んで当然よ!ぎゃっ!」
「あ、ごめん。力込めすぎた。アルマもっかい最後のところ言ってくれ」
「……や」
ヒス姫の騒ぎ声でアルマの言葉がかき消されてしまった。
とりあえず軽くまた電気を流しておいたが。
「…まあいいや。で、ラケルさん?俺に勇者の尻拭いさせたいんですよね?勿論、アルマの話が全部って訳でもないですが、貴方の身の上話を聞いた上で丁寧にお断りさせてもらいますよ。俺にはやることが色々とあるので」
「娘の非も部下の事も謝ります!額が裂け、血が滲むまで殴ってくださって構いません!」
「…はぁ、老人虐待の趣味なんて俺にはないですよ。貴方の国全体かどうかは知りませんが少なくとも魔族に恨みを持ってる人間が大勢いるんですよね?
「…はい」
「なんで恨み買ってまで人を救わなきゃいけないんですか?」
「いい加減にしなさいよ!貴方は勇者としてこちらの世界に─」
は?本当にコイツ嫌いだ。反りが合わない。
「黙れよ、テメエらの都合で勝手に呼び出しといて世界を救ってくださいだ?そのくせして使えなかったら勝手に何処ぞへ行けだ?馬鹿にしてんのか?
それともなんだ?異世界人の命なんざ糞の価値もないってか?はっ、言い勘してんな。俺みてえな親にも見放される様な奴はそうだろうよ」
「はぁ!?なによそれ、そんなの私たちに関係ないでしょ!貴方を召喚したカールマイドの王様に言いなさいよ!」
「何いつまでも被害者ヅラしてんだよ。
関係ない?冗談だろ、テメエが崇め奉ってるアタギ ユウキは親友も恋人も目の前で2回も殺されたんだぞ?話し合って協力してたのかもしれねえが…お前らの勝手な都合でな」
「……」
結局は八つ当たりだ。
2度目の人生だったのに、冒険なんてしなくてもいい、ただ静かに仲良く暮らしてりゃいいのに…俺もアタギも結局自分のことしか考えてない連中に振り回されてる。
「ああ、そりゃ俺にはそんなのいた事ねえから知ったこっちゃねえよ、だから相手すんのも面倒だったしよ」
「それは…」
「なんで勝てる可能性が微塵もねえバケモノに喧嘩ふっかけると思ってんだよ?死んだ2人にせめて最後まで頑張ったって生き恥晒すためだろ?多分」
「……アクト、落ち着いて。肩持ってるのか…馬鹿にしてるのか…わからない…」
「…はぁ…そうだな。
ともかく、もうこれ以上テメエらの勝手に振り回されてたまるかってんだよ」
阿呆らしいとさっさとアルマを連れて仙湯へと向かおうと部屋を後にすると最後にメグが口を開く。
「…貴方が先代魔王の娘を匿っていると知れば…どうなるんでしょうかね?」
「へえ、告げ口でもするのか?いいよ別にやればいいじゃん。お前が生きてたんなら」
今まで1番神経使ったってくらい小規模に【クラウノス】をメグの鼻先に撃ち込む。
あとで畳汚した代金を女将さんに払っておかないとな…
馬鹿どものせいで最悪の1日の始まりになった。




