奇妙な店員
意を決したわけではないが妙に緊張しながら店に入ると奥から店員がやってくる。
「イラッシャイ」
「……」
「……」
虫…人間?
店員は何というか形容しがたい見た目をしていた。
複眼と下に伸びた針の様な口…口?ともかくセミの様にも見えるが、それなのに触覚やアリのように大小の顎もありチキチキと鳴らしている。さらに頭部に金色の髪が生えているのだからもう何が何だかわからない。
しかも顔がそんな感じの割には二足歩行でピシッと背筋伸ばして歩いてくるし。
「…あ、なるほど。異国の方か」
「え!?そうなのか!」
「異国ッテカ、異界ダケドナ。
デ?今日ハ何ヲオ探シ?最近ノオススメハ幸運ヲ呼ブ呪イノ人形ダヨ」
「幸運なのか、呪いなのかどっちだよ…」
「ンー、7:3クライデ幸運」
何処で喋ってるのわからないけど取り敢えず言える事はその顎をチキチキ鳴らすのやめてもらいたい。
「コ、コダマ…この店大丈夫なのか?」
「あ?何がだよ」
「いや、店員が…」
人を見た目で判断するのはどうかと思う。
…目の前にいるの人には見えないけど。
「ああ、ミュルメクスの方ですね」
「…あのさ、急に出てくんのやめてくれない?」
再び聞き覚えのある声がすれば後ろに立っていたのはエルヴァ。
土産は決まったのか?
あと、やっぱり普通に話せるんじゃねえか。
「アレ、ヴァリアントジャン。珍シイ」
「世界に1人しかいない貴重な種族ですよ、ははは…はぁ、ムカデは皆殺し」
「アア、ココラニ在ッタノ村ノ生キ残リカ」
「そうですが?」
「何ガ起キタノカ知ラネエケド、墓作ッテヤレヨ?魂ノ帰ル場所ガ無クナッチマウカラナ」
「はい…まあ、遺体なんてもうどこにもありませんがね…ムカデの連中が私に食べさせていたのが…ふふふ、あはあははッ!」
精神安定剤飲んでもこの傷は一生消えない気がしてきた…
「お、お前何?アルマいないと話せるの?」
強引に話を逸らす。それしかない。
「ああ、そうですよ。あれ?知らないんですか?
ヴァリアントとかそこのミュルメクスの方とか、そういう人間よりか魔物よりの肉体を持ってる人って声帯無いんですよ」
「…待て待て待て、話についていけない」
「別についてこないでいい」
アタギの事は放っておくにしろ、そこで疑問が生まれる。
声帯がないならどうやって話してるんだ?すると顔にでも出てたのかエルヴァが話し始める。
「ほら、魔物の体内に生成される魔石ってあるじゃ無いですか」
「ああ、うん」
「あれ、私達の体内にもあるんですけど、人間に近しい肉体の魔物の魔石は魔力を通すと感情に忠実な比較的人語に近い音を発生させられるんですよ」
「…?」
「ああ、言ってしまえば今の私のこの声が魔力で作られた心の声ってわけです。だから嘘付くのも苦手」
なるほど。じゃあ、あの時のクォルタは本当に心の底から笑っていたと言うことか。
「で、アルマが近くにいると魔力受信で声の魔力が阻害されちゃって」
「ああ、ムカデ云々にしか聞こえないのか。…ん?今のアルマって先生にもらった首飾りで魔力受信できないんだよな?」
「そうですね。でも、受信はできなくても体から魔力放ってるんでそれに邪魔されて結局って感じですね。因みにクソカスゴミムカデの連中に捕まってた時も魔法封じの檻に入れられてたので声は出せてましたよ」
「ふむ…」
「あとムカデ〜は心に根強くあるのがそれなんでそれだけ聞こえてるんですよ。
それと、アルマが私の言葉を解るのはそうやって受信してるからだと思いますよ。ゼタールは知りません」
「ゼタールって誰だ?」
「知らなくていい」
本当にこっちの世界の生き物は興味が尽きないな。じゃあこのミュルメクスも魔石で話してるのか…
チキチキと未だに鳴っている顎を見ているとミュルメクスの方が顔を逸らす。
「…アマリ、女性ノ顔ヲ直視スルンジャナイ」
「待て、女だったのか?」
「基本的にミュルメクスの生態はアリと似通ってますから働くのは女性だけです」
「ソウダ、旦那ハ家デ卵ノ世話モセズニ怠ケテル」
「しかも既婚者の子持ち…」
しかしミュルメクスか…ギリシャ神話の本で見たことはあったが上半身がライオンで下半身がアリとか頭ライオン首から下がアリだとか色々あったけど上手い具合にまとまった感じなのか?
と言うか、いるんだな異世界に。
いや、違うか。俺も異世界に転生してきたんだしこっちの世界から何らかの方法かで俺の世界に来たミュルメクスがそのまま伝わったって可能性もあるのか。
「デ、ヴァリアント。オ前ノツガイハドッチノ男ダ?ソレトモ両方カ?」
「え?いや、アクトは…うーん…なんか生理的に無理ですね」
「あ?」
「で、こっちのはそもそも知らないし興味湧かない」
「なっ!?」
「おい、エルヴァ。別に嫌われたっていいがなんだその生理的に無理ってのは」
「感謝はしてますよ?
でも、なんか生理的に受け付けないんですよね…なんでだろ」
酷い話だ。
「…まあ、いいや。ところでお前ゲルダへの土産は決まったのか?」
「ああ、それに関してなんですが。私、お土産とか貰った事ないしそもそも知らないんですけど…なんなんですかそれ?」
「あー…知り合いとか家族に旅行先で見つけた品物を渡すことだ」
「あの、私家族どころか種族ごと滅ぼされたんですが」
「だから、ゲルダに買えって話してんだろ」
「私、別にゲルダにお世話になってませんが」
「あーもう!じゃあゼタールに買え!休暇貰ってんだからそれくらいは渡せ」
あーいえばこう言うな。
エルヴァは渋々と品物を見始めた。
「ソッチノ人間カラハ魔族ノ匂イガスルガ、ソレガツガイナノカ?」
「どんだけツガイが気になるんだよ」
「子供ガイルナラ分ケテ貰オウカト」
「食うのか!?」
「食ウワケネエダロ。ウチノトツガイニシテ孫増ヤスンダヨ」
うわぁ…
「ミュルメクスは大抵の生物と子を成せるのでどんどん他の血を取り込んで進化してくんですよ」
「なるほど」
「ソレニ、他ノ種族ノ男ハミュルメクスノ男共ト違ッテヨク働クシナ」
「はぁ…」
「ジャア、ツガイニナルナラ教エテクレヨナ。知リ合イニ頼ンデ、ミュルメクス鋼デイイ指輪ヲ作ッテヤル」
ミュルメクス鋼?聞いた事もない。
あと、ツガイになる気は全くない。アルマにはアルマの人生があるのだ。いつまでも俺のそばにいるわけじゃない。
「ミュルメクス鋼って何?」
「ミュルメクス鋼はミュルメクスの体内にある特殊な消化器官で金属を溶かす事によって生成される合金です」
「へえ…」
「合金なんですが琥珀みたいにキラキラ輝くんで武器になる宝石なんて呼ばれてる物です」
「マア、言ッチマエバ金属食ベタ後ノ糞ダナ」
「そんなモン渡そうとしてんのかよ…」
「一応、ミュルメクス自体の数が少なくなってきてるので天然のミュルメクス鋼なら拳サイズで金貨50枚くらいは余裕で超えますよ」
…そうだ。前の世界にも猫の糞のコーヒーは高級ってあったしそれと似た類のやつなんだろう。うんうん、そうだ。
値段聞いてちょっとビビっているとアタギはもう何がなんだかわからないと言う顔をしている。
まあ、無視しとこう。




