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語る阿呆に、解せぬ阿呆



 見事でしたとラケルから称賛の声と共にケルト神話と書かれている本を渡される。


 これだよ、これ。ずっと読みたかったやつだ。ああ、たまらん。アルマも心なしか目が輝いてるし…あ、違う欠伸して潤んでただけだ。


 まあいいとヨダレでも溢さんばかりに大事に本を魔法の袋へと仕舞うとラケルが話し始める。


「しかし、驚きましたな。勇者でありながらエンチャントを使いこなすなど。

 それにあのスキルを未知のものでしたし」

「元勇者ですよ。そもそも勇者だなんて呼ばれたくもありませんし」

「そうでしたね。転職はなされたのですか?」

「あ、はい。今は冒険者に」


 するとラケルがまた楽しそうに笑い出す。

 何か変なことでも言ったのだろうか?


「違いますよ、スキルとか使う方の職業ですって」

「…ああ、そっちはずっと来た当時のまま魔法付与師ですよ」

「え…?」

「え?」


 何をそんなに驚いているんだ?


「あれ?勇者じゃないんですか?」

「え、違いますけど…」

 

 何がおかしいのだろうか?


「すみません、メグさん。ちょっといいですか?」

「あ、はい」


 そう言って呼ばれたのは眼鏡をかけた大人しそうな女性。

 

 ああ、そうだ。この人も魔法付与師なんだよな。さっきヒス姫の武器にもエンチャントしてたし。


「貴女はアルマさんの武器程のエンチャント出来ますか?」

「無理ですよ!あんなのエンチャントの域を超えてます!」

「ふむ…」

「あ、すみませーん。メグさん質問いいですか?」

「なんですか?」


 ずっと聞きたかったことだ。


「【エンチャント・夢幻】って知ってますか?」

「…はい?なんですかそれ」

「え、いや。俺のスキルです。アルマの剣も俺の剣も肉体にも…」

「はぁ!?肉体付与やってるんですか!正気ですか?」


 まあ、予想はつく。先生にも怒られたし。


「それ、ウェポンズ・エンチャントですよね?」

「多分」

「…あの、これ聞くのなんですけど肉体的に痛覚を感じにくいとか?」

「え、いや、普通に感じますけど…まあ、痛いの慣れてるんで」

「むむむ…」


 何やら考え始めた。


「…アクト君、その【エンチャント・夢幻】というのは?」

「あ、はい。僕がLevel15の時に覚えたスキルでアルマ曰く夢や幻、そう言った存在しないものをエンチャントできるものだと」

「なるほど、だからこの異界文書を…」

「まあ、ぶっちゃけ神話の本じゃなくてお料理本とかだったらこんなことやりませんけどね」

「あっ、聞いたことあると思ったらそうだ!前魔王ラプラスの娘アルマの護衛をやってた伝説の付与師ウルドと同じスキル!」


 前魔王はラプラスと言うのか…つまりアルマのお父さん…という事は騎士様はウルドと言う魔法付与師と言うのか!

 と言うか騎士様も騎士様でやっぱり凄い人だったんだな。


「アルマに…って寝てるし」

「ウルド…彼もまた異世界の勇者として呼ばれたと聞いていますね」

「そう言えばその子アルマって名前でしたよね?」

「あー…まあ、同じ名前の人間だっていくらでも居ますよ」


 我ながら見苦しい言い訳だな。


「…まあ、いいです」

「ふむ…とにかく、そのスキルはお強いですな」

「逆に言ってしまえばスキル以外は何もできない無能なんですけどね」


 自分で言っといてなんだが嫌なことを思い出してしまった。


「それで…どうでしょうか?よろしければ我が国の勇者を強くしていただけませんか?」

「えっ、いやいや無理ですよ」

「そこをなんとか!」

「いや、本当に無理ですって」


 一国の主が一般人に頭下げんなよとは思う。それに強くしてくれって言われたって…


「王様、俺そんなに強くないですって」

「…お願いします。我が国にはもう後がないのです」


 ……


「…陛下、おやめください」

「おや、気付きましたか」


 どうやらアタギが目覚めたようだ。何か言われる前に退散するかな。


「コダマだったか…一つだけ聞いてもいいか?」

「うん?」

「お前はこちらに飛ばされてきた時にあと4人一緒に召喚されたらしいな」

「ああ、うん。追加で後から1人来たけどね」


 ラケルさんが凄い羨ましそうな顔をしている。

 そんなに呼びたいのかよ。


「知り合いか?」

「いーや、誰1人知らない」

「そうか…羨ましいな」


 は?なんだこいつ?あんな馬鹿どもを信じた俺もそうだけど何が羨ましいんだ?死んでも悲しまないってことか?そりゃ同意するが。


「…セルンでは3人の勇者が召喚された事は陛下から聞いているな?」

「ああ、うん。死んだんだっけ?」

「…ッ!…そうだ、僕が弱いから、僕が腰抜けだから…」

「そんなに気負う事なのか?他人だろ?」

「違うッ!僕と一緒に召喚されたのは…僕の…僕の親友と恋人だ…」


 ……友達なんてろくにいなくてもハッキリとわかる。やってしまったなアクト。地雷を踏み抜くどころか追い討ちに一斉斉射ぐらいやらかした。


「…すまん」

「謝る必要はない。お前は事実を述べたまでだ。僕にとって大切な人でも他人からすれば所詮は知らない人間に過ぎない…」

「……」


 何やら重い空気になった。

 さらに追い討ちをかけるかのようにユウキは話を進める。


「アイツは…僕を庇って死んだんだ。元の世界でもこちらの世界でも…彼女も結局腰抜けな僕のせいで凶刃に命を奪われた…なんて事ない、通り魔事件だ」


 いや、十分に騒がれると思うのですが。


「友の死を2度も見た…僕が腰抜けだからだ、弱いからだ」

「あー…あの?」

「彼女もそうだ!あの時恐怖で足がすくんだから…手を伸ばせなかったから…」


 …聞きもしないことをベラベラと。よく話す奴だ。

 ああ、こういうのでなんも感じられないのが感受性が無いって母に殴られた原因だったのか。


 ポロポロと涙を流しアタギは続ける。

 魔物に襲われ死んだ親友、それから強くなろうと決心し周りを見ずに突き進んだ。その結果、同様に魔物に襲われた時、また庇われて彼女を助けられなかった自己嫌悪。


 だからなんだと言う話になる。他人の身の上話しで可哀想だろうと思える人間でもない。


 まあ、でもなんか言っといた方がいいんだろう…

 そうだなぁ…


「…強くなりたいのか?」

「ああ…強くなりたい!」

「じゃあ、とりあえずLevel upしろよ」

「…は?」

「あと、手頃な魔物でも倒したりスキルの確認したり…」

「待て、待て…同情してくれなんて言わないけど…お前に人の心は無いのか?」


 失礼だな。俺だってアルマを失ってたら…今頃、人の心を失っていた気がするがそれとこれとは話が別だ。

 

「だってお前弱いじゃん」

「それはわかっている!だから─」

「いや、俺だって弱いし…いつか大切なモン失うかもしれないけど…それが嫌だから命削ってまでアルマを守ってるんだ。で?お前は?」

「失ってからでは遅いが命程度いくらでも!」

「いや、お前はダメだろ。あー…なんで言えばいいんだろうな…」


 バリバリと頭をかく。

 だって俺、こんなの初めてだしそもそもヒーローとかじゃないんだ。心に残る言葉なんて言えるはずもない。

 

 心の中では何言えばいいのかわかんないし、他人の心を読むのなんて出来るわけもない。適当な言葉を投げ過ぎて次の言葉が出てこない。

 あと、なんかわからないが無性に苛立ってくる。


「お前の親友も彼女もお前を庇って死んだんだろ?」

「あぁ…」

「じゃあ、託された命を無闇に使うなよ。そもそも、身の丈に合ってねぇならラケルさんに言って考えるくらいしろ」

「なっ!?」


 それだけ言うと、もう面倒くさいのでアルマを背負い街へと戻ろうとする。


「…厳しい言葉は時に人を傷つけます…ですが、それでもどうかお願いしたい…我が国の勇者となっていただけませんか?」

「根絶丁寧にお断りさせてもらいますよ。

 俺には大切な者を失ってまで世界を救いたいなんて勇気はとてもじゃないですが無いんで」

「…そう…ですか」

「ああ、それと。ご依頼でしたら組合通してくださいね」


 なんだか最低な屑な気もするが元からこんな人間だ。

 救いようの無い馬鹿なのは自覚している。

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