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大した事も無い

桃源郷の街から出て数分。ちょうどいい野原もあることだしここにするか。


「うっし。アタギ君、頑張ろうね」

「気安く名前を呼ぶな!」

「まあまあまあまあ、落ち着いてって」


 報酬にラケルさんがケルト神話の本を…ふふふ、楽しみだ。

 こっちの世界の神話もなかなか興味はあるけどやっぱり実在してるのかエンチャントとして出来ない。だけど世界が違う本なら…


「…ところでアルマ。1対6で大丈夫?何人か手伝おうか?」

「……だいじょーぶ。これは女の戦いだから」

「舐められたものね…いいわ、そっちの土俵で戦ってあげる。

 エンチャント武器使うなら私たちもね。1対1で勝負もしてあげる。メグ!頼んだわよ!」

「わ、わ。そんなに早くは無理ですって〜」


 …大丈夫なのだろうか?1対1になってもやっぱり手伝った方が良くないか?

 エルヴァはそのまんま宿戻って寝てるし。


「……アクトのエンチャントは…世界一。だからアルマ…負けない」

「はぁ?メグのに決まってんでしょ!」


 と言うかさっきからアルマを目の仇にしてくるあのお姫様はなんなのだろうか。というか戦えるのか?

 いや、まあアルマも元とは言えどお姫様だけど…


 アルマが剣を引き抜くと毎日のように見てきた彼女の瞳のような群青色の魔力を纏い始める。相変わらず綺麗だな。


 一方で相手は神々しく輝く剣。メグと呼ばれる少女がエンチャントしたのだろう。

 あとで話を聞きたいものだ。


「何よ、そのチンケなエンチャント。まあ、魔族と手を組むような奴の力なんて所詮そんなものよね」

「……弱い犬ほどよく吠える」

「なんですって!」


 大丈夫だ、うん。アルマなら問題ない。


「いつまでよそ見しているのだ。それともなんだ?僕の女に惚れてしまったのか?」

「それは絶対ないから安心しろ」

「なんだと!?」


 こっちはこっちで面倒臭そうだけど。


「いやー、楽しみですね」

「そんなにですか?」

「噂通りの実力なら、スカウトしたいくらいですよ」

「…お断りさせてもらいますよ、勇者とつるむなんて懲り懲りだ」

「ははは、まあともかく。ユウキ君、健闘を祈っているよ」

「ご冗談を」


 長いお話も終わり、さて勝負だ。とは言え長引かせるつもりはない。


「それじゃあ始めてくれ」

「行くぞ、蛮族め!」

「誰が蛮族だ」

「【武器召喚・強弓】!」


 聞いたこともないスキルをユウキが発動させると手に輝く弓が現れる。

 

なるほど、武器を召喚するのか。そのまんまだけど面白いスキルだな。そして矢は魔力で作り出せると?いいな、それ。

 それにしても同じ勇者でもスキル構成は全く違うのか?あっちは近接主体だったし


「【サウザンドアロー】!」


 これまたスキルで上空に矢を撃つと空に魔法陣が生まれ…光の矢の雨が降ってくる。


 まあ、だからなんだという話でパチンと弾ける音を残して一瞬でユウキの目の前に移動する。


「おっ、すげー。上のやつ付いてくるんだ」

「ば、馬鹿野郎!お前が移動したら」

「一緒に蜂の巣だな」

「チッ…」


 スキルを切ってしまった。

 そしたら今度は距離をとってまた別のスキルを撃ってくる。

 学ばないなぁ。


 強くなったと言うよりかは使い慣れたと言った方が正解か。


 ゼウスの能力は判明しただけで魔力を元に蓄電能力、発電能力、放電能力、それと自分を雷に…まあ1番最後のはいつも使ってる瞬間移動である。

 もうとにかく頑張った。無駄をとことん省き、必要最低限の魔力で。

 結果として短距離での瞬間移動の効率化と自身を短時間雷状態にもできるようになった。


 まあ、全部アルマの助言と件の騎士様のおかげだ。


 いまだに1人じゃ歩けもしない赤ん坊のようで本当に自分が情けなさすぎる。


「くそっ、くそっ!なんで当たらないんだ!」

「…馬鹿正直に撃ってないでフェイントとかしなよ」

「うるさい!」


 まあ、こっちはダメだな。

 

 この間のお試しってガルドさんに組まされた初心者冒険者達の方がまだいい動きしてたな…


 長引かせる必要もないので瞬間移動で距離を詰めるとアッパーカットを決める。

 まあ、流石に本気でやったら数十秒後に地面に赤い花が咲くので寸止めにして軽く電気ショック流すだけで済ませるが。


「あぎっ…」」

「…はあ、やはりこの程度でしたか」

「?」

「いえ、僕は強い僕は強いといつも言っていた割には一度も戦ってる姿を見たことなかったので…」


 それはそれでどうなのだろうか?


 まあ、いいやとアルマを見ると完全に遊んでいた。


「くっ、卑怯よ!」

「……なにが?」

「そんな武器を使ってる事に決まってるじゃない!」


 ヒス姫の攻撃をぴょんぴょんと避けたりわざと足払いして転ばしたりと普段見ない戦術だ。いや、きっとこれが女の戦いというやつに違いない。


 それに蛇腹剣ことリヴァイアサンは今日も絶好調だった。

 相変わらず伸びて伸びて刀身が増え続け、アルマの周りに纏わりつきガードしたと思ったら剣を元に戻して思い切り振るいながら伸ばす。それだけで前方向の範囲攻撃にもなる。

 あと最近は剣だけでなく鞭としても使いこなしてる。まあ、叩くと言うよりかは斬り続けると言った方が正解だが。


「エンチャント武器かと思ったら騙して…やっぱり魔族は卑怯者ね!」

「……これがアクトのエンチャント。え…?こんな事も出来ない…の?」

「メグを馬鹿にするなぁぁ!!」


 刀身が一層輝くと光が伸びてきて巨大な剣となる。


 …いやいやいや、アルマを殺す気かよ!


「……アクト、離れてて」

「えっ」

「……早く」


 言われるがまま数歩下がるのをアルマが確認すると手を前に突き出す。

 何をする気なのだろうか?


「死ねぇ、魔族!

 輝剣よ、破魔となりてわが敵を打ち砕けッ!【フォトンセイバー】ッ!」


 エンチャントからの呪文の詠唱…それが必要なのかは知らないがともかく巨大な光の剣がヒス姫によって振るわれる…いや、だから違うってアルマが!


「【ワルプルギス】」


 それに対してアルマは冷静に手を向けると一言呟き光を発する。それは彼女の唯一のスキルの名前。

 曰く最強の反魔法。全ての魔法を終わらせるなんて割には今まで一度も見たことなかったものだったが…

 

 巨大な光の剣は空中で紐解くように消えていき、エンチャントもスキルも魔法は全て終わった。


「なっ!?」

「……ばーか」


 アルマにしては珍しく罵倒をして、伸ばした蛇腹県のワイヤーでヒス姫を捕まえると顔面から地面に叩きつける。


 最後にカシャンと蛇腹剣が鞭から剣に戻る音がして、取り敢えず勝負は終わりを告げた。

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