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現実と言う名の地獄

はい、回想終わり。え?どう言うことかって。


 異世界に来てもうすぐ一年経つよ。時が流れるのって早い。


 あれから色々なことを学んだ。


 例えば、SPとMPは時間で回復するとか、魔法付与師は武器に強化魔法をかける職業で時間制限はあるけど魔剣を作れたり出来たりとか。


 それから、この世界のLevelは30が上限で今22なんだけど丁度半分の15の時、新しいスキル【エンチャント・夢幻】なる物が発現した。

 結局これは従来のエンチャントが少し強化された物で倍率が1.5倍から1.7倍くらいにしかならなくSPの消費も5と馬鹿にならない、所謂ハズレスキルだった。


 そして何よりも…仲間たちの目が冷たい物に変わった。

 最初こそみんなで仲良く、最後まで生き抜こうって言っていたのにもう今じゃ邪魔者でお荷物扱いされる始末。


 名前で呼ばれる事なんて無く無能としか呼ばれない。

 優しかったあの頃は何処へ…そんな感じだ。


 あとクロードのもそうなんだけど、〜の波動ってバッシブスキルを覚えたら驚くことに様々な複合スキルだったのだ。ズルイ。

 

 パッシブスキル?1つだけ発現したよ。【エンチャント永続化】って奴。

 まあ、これも自分以外には効果のないハズレスキルだけど。

 

 そのせいで効果が切れるたびにクロード達の武器にエンチャント使ってSP回復ポーションがぶ飲みして常に胃がたぽんたぽん。


 で、今どこにいるかって言うと王都から少し離れた所のここらでは最難関ダンジョン。通称【禁域の地下神殿】

 なんでも、地下に続くダンジョンの更に奥に台座がありMPと素材を捧げる事でその人専用の最強の装備が手に入るんだってさ。


「無能。何してんだ、エンチャントの手が止まってるよ」

「早くしてくれない?私達は貴方と違って暇じゃ無いのよ。この、経験値泥棒が」

「あ、ごめんなさい。寝不足でぼーっとしてました」


 ブラックだよ。真っ黒だよ。


 ダンジョンに潜ってもうかれこれ1週間近く、コイツらは強いからいいけど俺は相変わらずステータスの伸びが悪く、挙句に格上の魔物ばっかのこのダンジョンでいつ死ぬかわからない恐怖のせいか全く寝れてなかった。


 いや、何度か寝かけたよ?なのに、そういう時に限って薄いテント越しに喘ぎ声とか聞こえてきたら寝れるもんも寝れないよ。


 そしてなんやかんやで最後のボス部屋前。

 この部屋の奥が目的地の場所だ。


 やっと寝れる。

 それにダンジョンと言うのは遺跡や古代の建物の跡地などに自然に出来た物と人為的に作られた物。ここは後者だが、ダンジョンをクリアすると入り口までのワープゲートが生まれる親切仕様なのだ。

 帰りの事を考えずに済むのは気が楽な話だよ。


「チッ…相変わらず精度が悪いね。君のは。

 まあ、一般人のよりかは多少上限が高いからいいけどさ」

「ははは…」


 笑う事しか出来ない。


 すると、パンッと乾いた音がして右の頬が熱くなってくる。


「貴方が足を引っ張ったせいでここまで時間がかかったのに笑ってられるなんて呑気ね」

「…ごめんなさい」


 大和撫子とか思ってたけどさ、とんだ女だよ。このツバキって奴は、暴力的で直ぐに手を出す。俺限定で。


「…放っておけ」

「ええ、そうする事にするわ」


 魔王…癌とか不治の病で倒れてくれないかな…

 あと、都合よく禁忌の書どっかに落ちてないかな…

 

 最近こんな事しか考えてないよ、本当に。


「よし、行くぞ!今回でレベリングを終わらせていよいの魔王討伐だ!」


 意気揚々に扉を開け巨大なボスモンスターへ対峙する。

 見なくてもわかる。どうせ数分後にボスは倒されるのだから。



ーーーーー



「剥ぎ取っといてくれる?君はそれだけは上手いものね」


 サイクロプスと呼ばれる巨大な棍棒を持つ一つ目の巨人は全身に火傷や凍傷の後、切傷多数に粉砕骨折とまあ、これでもかと言うくらいボコボコにされ倒れ伏した。


 魔物にもHPの概念があり、自分たち同様0になれば生命活動が停止する。

 難儀な世界だよ、全く。


 渡された剥ぎ取りナイフで腐った卵と牛乳拭いた雑巾と生ゴミの臭いを足して倍にした様な悪臭を漂わせるサイクロプスの腹から魔石と呼ばれる宝石を取り出す。


 これは言ってしまえば魔力を高濃度に含んだ宝石であり武器の強化とか防具の強化に使える。


 純度によって大きさは違うが今回は平均的な成人男性の頭ほどのサイズ。

 中々の大きさだ。


 まあ、素材は全部アイツらに取られて手元に来るのは端金程度の報酬だけだけど。


「えーと…サイクロプスは魔石と魔眼…あと骨もか…肉は不要と」


 慣れた手つきで5メートルの大きさを超える巨人を解体し素材を魔法の袋に詰め終わるとやっと一息つく。


 魔法道具なんて呼ばれる物で質量保存とか無視して入れられるので重宝してる。拾い物だけど。アイツらのはもっと多く入るし。


「あー、くっせえ。なんで魔物ってどいつもこいつも臭いんだよ。

 シュールストレミングでも常備して食ってんのか?」


 いつも通り悪態を吐きながら体に付いた血と汚れを布で落とす。

 ずっと薄暗い中で解体してたのでどれほど時間がかかっていたのか分からないがそろそろ奥へ向かうか。

 何か言われそうだし。


 最近、食欲も無くなってきたし。何なら味しないし、ダンジョン出てもマシになる程度で慢性的な睡眠障害だし…

 やめたい、超やめたい。勇者の1人なんて数えられてるけど明らかにお荷物だしもう嫌だ。


 考えても無駄なので奥へ進むと美しい泉や自然に彩られた中で白亜の神殿が中央に鎮座していた。

 

 地下…だよな?明るいし、木も生えてるし…


 空を見上げればダンジョン特有の灰色の壁ではなく洞窟などのゴツゴツした岩肌に薄らと苔が生えている。


「親には医者か公務員になれって言われてたけど…ああいう未知の植物とか動物とか調べる方が絶対楽しいんだよなぁ…」


 湧き水を飲み、喉を潤すと覚悟を決めて神殿に足を踏み入れる。

 奥では丁度武器の受け取り?をしているところだった。


『貴方に大いなる神の加護があらん事を…』

「有り難き幸せ」


 なんか微妙に噛み合ってない気がするが兎に角、背中から翼生えてるし天使なのだろう。装飾された剣をクロードに渡している。

 そして順々に武器を受け取り武器が光り輝く。いいなー、羨ましい。


『悪しき魔王を倒し平穏を取り戻す事を期待してます。勇者達よ』


 そう言い残して天使様は消える。なんか都合よく俺に武器くれるってのも無い様だ。


「なんだ、無能。ずいぶん遅かったじゃ無いか」

「貴方の分の武器は勿論ありませんよ?」


 本当に嫌な連中になったものだ。


「いや、大きかったんで。それに肉質も硬かったし…これ刃こぼれしてますし…」

「…お前、それ以外に能が無いくせにまだ言い訳するのか?」

「…すみません」


 人の事、無能無能って散々言っといてそれしか能が無いって何?

 口元まで出かかっていた言葉を飲み込む。逆らったところで勝ち目なんてない。


「とりあえずダンジョンクリアだ。陛下の所戻ろう」

「ええ、そうしましょう。魔法で綺麗にできるとは言えど流石にこれだけ地下に潜っていたらお風呂にも入りたいし」

「…無能、ワープゲートは?」

「さっきのボス部屋の端に出現してましたよ」

「そうか。じゃあ、僕らの荷物持って後でついてきて。あと、臭いからあんまり近付かないでくれるか?荷物持つ時もいつも通り手袋してくれよ?変な菌が付きそうだし」


 小学校低学年かよ。


 転職したい。リ○ルート行きたい。



ーーーーー



「勇者御一行様の凱旋です!」


 ワァァァァァッッ!!!


 王都に戻ると民衆の声が木霊する。いつからだったかダンジョンや魔物討伐から帰るたびにこんな調子だ。


 モテモテだよ。勇者と賢者で普段からヤってる癖してたまに街娘連れ込んでもヤってる。

 お盛んすぎない?猿なの?


 それは一旦置いておいて。

 民衆は勿論、王様の眼も最近冷たい。

 メルカだけは未だに仲良くやってるけど最近忙しいのか会えてない。


 なんで俺なのだろうか?俺が何かしたのだろうか?

 もうなんか、前世の業が余程酷かったのだろうと独り合点している。母親の期待に1度も応えられなかったしきっとそのせいだ。


「よくぞ戻ってきた。異世界の勇者達よ。

 遂に神の加護を受けた天上の武器を手に入れたか」

「はい!そしてLevelも1人を除けば30となり、いよいよ魔王討伐の旅へと向かおうと思います!」


 ちらりと見られた。

 何だよ、言いたいことがあるなら言えよ。

 ステータスと心の中で呟く。そうだよ、未だにLevel22だよ。


谺 阿久斗(17 ♂)Level22/30


HP110/450 MP850/850 ATK80

MAT8 DEF150 SP11/36


職業 魔法付与師


スキル エンチャント(Level8)

    エンチャント・夢幻(Level6)


バッシブスキル エンチャント永続化


称号 異世界の勇者、来訪者、無能、お荷物、経験値泥棒


 そも、4人が上級職?とか呼ばれるのでこっちが下級職なのだ。ステータスが伸びないのも当たり前だろ。

 なのになんでお前らの方が早くカンストするんだよ、おかしいだろ。


 あと、称号の後半が悪意しかなくて腹立つ。


「ですが、その前に一つ。頼み事あるのですが」

「ほう?なんだ、申してみよ」

「無能…いえ、同じ勇者の仲間であるコダマをパーティーから外してもいいでしょうか?

 彼が、この先ついてくることはハッキリ言って無理でしょう」

「ふむ…」


 体よく言うけど要するにあれだろ?クビ。


 願ってもみないことだ。


「しかしな、君ら同様に非常に強力な魔導師達によって召喚された者で…ん?どうした?」


 おい、部下と話してるんじゃねえよ。 

 召喚の下りもいいよ。どうせ、手違いかなんかだろ。


「ほう…そうか。異世界より召喚された勇者達よ。朗報だ」


 その声とともに扉が開く。

 一体何ヶ月ぶりかにメルカを見た。そしてもう1人新たに入ってくる。なんか随分見覚えのある感じの服装だな。

 …あり?あれって向こうの世界の…


「紹介しよう。異世界から召喚された新たな勇者の1人だ」

「は、初めまして!西河 紀子です!よろしくお願いします!」

「彼女は上位職のプレゼンターと呼ばれる職業でね。まあ、言ってしまえば魔法付与師の上位互換です」


 メルカの笑顔が心に刺さる。

 そうか、優しくしてたのは俺が逃げ出さないように時間を稼いでいただけか…

 信じてた人間にも裏切られた。

 そして止めと言わんばかりにメルカに一言。


「お役御免だよ、アクト。君は勇者パーティー追放だ」


 嘲笑の中、礼だと渡された僅かな金の入った袋を握りしめ城を抜け、王都の先の街へと歩く。

 何が悔しいのかもわからないまま、大粒の涙は城を出るまで止まらなかった。

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