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温泉パニック



「いらっしゃ…おや?お着物を先にお貸ししましょうか?」

「…お願いします」


 少しだけ俺の服に吐かれた。

 今度から酔い止めかそれに似たものを絶対に持ってこようと思った。可哀想だもん。


 エルヴァは鼻がいいのかそのせいで非常に不快そうな顔してアルマも変な顔してる。


 とにかく着いた。やっと目的地だ。なんだか近いのに凄く遠く感じたよ。


 街に入り渡されたパンフレットの場所を聞きながら歩き数十分、やっと着いた場所は別にめちゃくちゃ豪華とかすげーボロいとかでもなく至って普通の旅館だった。


 そして中に入ると優しげな笑みを浮かべた高齢の女性が奥から出てきた。


「ええと…ああ、ゲルダちゃんの知り合いなんだよね?」

「ゲルダ…ちゃん…?ああ、そうです。

「ええと…アクトご夫婦様?」

「ぶふっ!えっ!?」

「あれ?ゲルダちゃんからそう聞いてるけど…」


 あのババア…


「貴方がアクトさんで…貴方がアルマちゃん?」


 ポンと肩に手を置かれたのは荷物を重たそうに持っていたアルマではなく横でボーッと突っ立っていたエルヴァだった。


「ムカデ…?」

「あら、ムカデちゃんって言うの?」

「あ、いや、えーと…」

「…私がアルマ!」


 そりゃたしかにエルヴァの方が身長高いし一部分も大きい。見た目だけで判断すればアルマの方が子供でエルヴァの方が大人に見えるけど…


「あらぁ?背の大きい女の子がアルマちゃんって聞いてたのだけど…」


 あのババア絶対楽しんでやってるな。つーか、なんでエルヴァ来る事知ってんだよ。


「……むー」

「あら?あらあら、むくれちゃって。ごめんねぇ、飴あげるから許して。ね?」

「……あめ?」

「あー…降ってくる雨じゃないよ?」

「まあ、知らないの?美味しいから、ほら」

「……ッ!甘い」


 飴を知らなかったのか…うう、今回の旅で美味しいもの沢山食べさせてやるからな。


「あっ、そうだわ。そういえばゲルダちゃんに言われてたんだった」

「え?」

「アルマちゃんっては片角の魔族だって。他に来る子は大きい奴だぞって」


 なんだ、勘違いしてただけか。すまん、ババア。


「それでね、アルマちゃんは大好きなアクトさんが何処にいるのかいつも魔力受信してるって」

「…へ?そうな─」


 ぷるぷると震えながら耳まで真っ赤にしてアルマが睨みつけてきた。

 俺が悪いの?


「あっいっけなーい。このこと言うなってゲルダちゃんに言われてたんだったわ」

「…あのー、アルマさん?」

「…アクトは聞かないで!」


 バチコーンといいビンタが頬を叩いた。



ーーーーー



「それじゃあごゆっくり。あ、温泉は男女別ですが仙湯は混浴のみですので…ご注意くださいな」

「…あの」

「あ、ごめんなさい。うち古いから防音とか無いのよ。夜はできるだけ静かめにお願いね」

「いや、そうじゃなくて」

「あと、お食事の際は声かけてくださいね」

「違くて」


 女将さんはそれだけ言い残してさっさと言ってしまった。

 何が言いたいかって?なんで、3人部屋?確認したけどなんで布団が2つ?あのババアやっぱ手まわしてんだろ。


「……アクト」

「…なに?機嫌治った?」

「……恥ずかしかっだけだから…大丈夫」

「そっか…まあ、あれだ。心配してくれるのは嬉しいけど先生の言う通りだ。普段は角の機能切っとけよ」

「……ん」


 問題はそこじゃないのだが、気にはなった…そうか、そこまで心配されていたのか…ごめんな、不甲斐ない相棒でもっともっと強くなるからな。


「で、だ。どうするよ布団」

「……そもそも、アルマとアクトいつも同じ部屋で…寝てる」

「…言われてみればそうだわ」

「ムカデを蒸し焼き」

「……エルヴァも大丈夫だって」

「ムカデの酒蒸し」

「…エルヴァ!そんな事言っちゃ…めっ」


 …料理名?もう、統一性のない言語みたいでわからない。

 

 と言うか、なんで昨日の夜エルヴァが急に普通に話したのか、なんでアルマがなんか言われて顔を真っ赤にしてるのか。アクトわかんない。今のこの現状が全くわからない。


「……ふう…とりあえず…仏湯入ろ?」

「え、いや先に2人で…」

「……アクトが1番死にかけなのに?」

「まだ寿命3週間くらい…」

「……17日」

「えっ」

「……アクトの寿命あと17日。昨日スキル撃ちすぎ…」


 いや、本当に死にかけだけどそこだけは申し訳ないけど譲れない。断固として譲ってはならない。嫁入り前の女性と風呂になどと…


「……じゃあいい、知らないおじさんに…アルマのあんな所やこんな所…チラ見されてくる…」

「アルマさん!?あんな所もそんな所も見せちゃいけないんだよ⁉と言うか自分の体をもっと大切にして!」

「……そんな所は見せない。とにかくアクト…お風呂入って、ゆっくりしよ?」

「いや、だから本当に後でゆっくり入るから…」


 勘弁してくれ。本当にマジで。


「…ムカデの釜茹で」

「……エルヴァ。そんなこと言っちゃだめ」

「え、待って、なんて言ったの?」


 またもや、顔を赤くしている。翻訳機が欲しい。マジで何言ってるのさっぱりわからない。


「とにかく!」

「失礼します。そう言えば仏湯用の行衣を渡すのを忘れておりました」

「…へ?」

「仙湯用の行衣ですよ。

 もう、いやですねえ。パンフレットにも書いてあるじゃないですか、仙湯に入る際には最大限効能を高めるために特殊な糸で編まれた行衣を着て入浴してくださいって」

「……流石にアクト相手でも裸は…恥ずかしいよ?」

「ムカデ…」

「あれ?もしかして裸の付き合いが良かったのですか?でしたら、お部屋に備え付けの物がありますのでそちらで…」


 …へ?


「……あっ…アクトのえっち」

「ムカデの水責め」

「ああぁぁぁぁぁっっ!!!」


 その日俺は羞恥心で死んだ。

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