勇者に転生しました
目を覚ますと言う行為がここまで恐怖に感じたのは初めてだ。
だって目の前には目元を隠したフードを着た何十人もの怪しげな人間達がぶつぶつと何か呪文の様なものをいっている。
昔見たカルト映画の悪魔召喚の儀式の様だ。
「おお、成功したぞ!」
「やりましたな!」
「これで我が国は救われますぞ」
フードの人達は抱き合うかの様に喜び、歓喜の声を上げる。
若い声もしわがれた声もする。
どう言う事なんだ…?
脳の理解が追いつかない。だって、俺の最後は…
「あ、あの…」
「ささっ、勇者殿達此方へ。陛下がお待ちですぞ」
フードの人達が左右に分かれ興奮気味に言ってくる。
勇者殿達?
目の前の光景に目を奪われていたからか後ろを見ていなかった。
振り向くと多分今の俺も同じ様な顔してるんだろうな。
何が起きてるのかわからないって顔してる人達が4人いた。
ーーーーー
「よくぞ参られましたな。異世界の勇者達よ」
キラキラという単語以外出てこないほど豪華で凄い。目がチカチカする。
自分達よりも高い場所に座る少し年老いた男性は、宝石のちりばめられた金の冠を被り、美しい衣装を着ていて一目で王様なんだろうなとわかった。
「突然呼び出されてすまないが、我らが世界を救ってくれまいか?」
「世界を…ですか…?」
突拍子もない事を言われると自分の横に立っていた年の頃も同じくらいの金髪君が口を開く。
「あの、何かのドッキリでしょうか?
僕は確かにあの時駅のホームに落ちた少年を助けて…あの子は無事だったんでしょうか?」
「…ああ、無事だったぞ。それとどっきりと言う物は知らぬがこれは紛れもない現実だ」
現実…なのだろうか?
金髪君のかっこいい死因は取り敢えず置いておいて、彼の言う通り普通に生きているなら絶対に見ない光景だ。
それに確かにあの時死んだ筈だ。
「君達は才能を持っていた。決して君達の元いた世界では発揮されない物をね。だからあちらの世界で死んでしまった君達を私達の世界に呼んだのさ」
眼鏡に白衣と多分研究者なんだなって一目でわかる女性はいつ部屋に入ってきたのか知らないが王様に一礼すると俺達の前まで歩み寄ってくる。
そして一人一人ねっとりとじっくりと見てくる。
なんかちょっと嫌な気分だ。
「うん…うん!素晴らしいね!やはり魔力量が桁違いだ!陛下、取り敢えず彼らに説明をしようと思うのですがよろしいでしょうか?」
「構わない。いや、先ずはそっちが先の方が良かったかもな」
何か勝手に頷き合ってるがさっぱりわからない。
「では、勇者の皆様こちらへどうぞ」
結局何一つ理解できないまま研究員の後をついて行く。
本当にここはどこなんだ…?
ーーーーー
「改めまして、私はカールマイド王国技術顧問のメルカと言います。以後お見知り置きを」
一礼されたのでこちらもと頭を下げる。
カールマイド?聞いたこともない国だ。
異世界って言ってたし本当の事なのか?
「何が起きているか分からないでしょうが紛れもなく現実ですので、どうかその点を踏まえて聞いてくださると助かりますよ」
「はぁ…ええと、取り敢えず自己紹介しませんか?お互い初めて会いますし…
ええと、僕は月城 クロードって言います。見ての通りハーフなんですけど…あはは、えーと…よろしく」
爽やかなイケメンでハーフとか盛りすぎだろ。しかも死因も子供を助けてとか。
金髪君改めクロードは王子様スマイルとでも言えばいいのか優しげな笑みを向けてきた。
「羽水 皐月です。よろしくお願いします」
黒髪おさげの真面目そうな子。サツキは優しげで包み込むような笑顔を作っている。
「…馬淵 栄次」
クール系のイケメンだ。
と言うかイケメン美女率高くないか?俺だけ普通なんだけど。
「桐谷野 椿と言う。よろしく頼む」
大和撫子然、凛とした姿の少女と言うよりは女性だ。
刀と和服が似合いそうである。
「あっ、えーと、谺 阿久斗です。よろしく」
「はい、皆んなよろしく。それじゃ、みんなスキルとステータスを確認してみようか」
若干食い気味にメルカは話を進める。
スキル?ステータス?いよいよもって現実離れしてきた。
「心の中でステータスと言ってごらん。見える筈だから」
何だそのふざけた物はと思った。まあ、一向に話が進まないのでステータスと心の中で呟く。
すると、ピコンと音がして目の前に本当にゲームの様にステータスウィンドウが出てきた。
谺 阿久斗(16 ♂) Level1/30
HP160/160 MP200/200 ATK20
MAT0 DEF90 SP1/1
職業 魔法付与師
スキル エンチャント(Level0)
バッシブスキル 無し
称号 異世界の勇者、来訪者
…よくわからない。いいのかこれ?
「なあ、殆どの項目が2000超えているのだが、それに職業が勇者…?」
「なんと!?流石異世界の勇者、いえ真の勇者様です。クロード!素晴らしい!」
え?凄い。
顔のいい奴はやっぱりステータスもいいのか。
「私は…職業は賢者?でHPは700位だけどMPとMATが2000超えてる」
「ええ、ええ!賢者!魔法を極めた者しか慣れない職業が初期職業とは!」
ええええええ!?
ちょっと待って、冷や汗出てきた。場違い感が凄い。
「拳聖…?ATKと言うのが俺も2000超えているな」
冗談にしか聞こえない。俺のATK20なんだが?
やっと異世界って言う異常性に慣れてきたと言うのにまた、現実逃避したくなってくる。
「私は…サムライだな。しかし、皆と違って特段して目立った部分もない」
「おや、珍しいですね」
ほっ、なんだ。普通の人もいるのか。
「俺もそうです。魔法付与師で特に伸びてる部分ありません」
「魔法付与師!?いやいや、まさか…いや、でも…ううむ…」
何やら1人考え事を始めたメルカを置いてクロード達の話は盛り上がる。
「スキルとバッシブスキル?ってのはどう?」
「私はスキルの方はアルスマギカとやらしか無いですが、何やらバッシブスキルは【魔力消費軽減(極大)】と【魔法強化(全属性)】と【魔力増大(極大)】ありますね」
「サツキは凄いな。僕なんてバッシブスキルは【勇者の波動】しか無いぞ。その分スキルは多いな…スターブレイク、ライトニングスラッシュ、ブリザードソード…数えるだけでキリが無いな」
バッシブスキル無いのですが?スキルも一つしか無いのですが?
「…どうだ?」
「ええ、バッシブスキルが多いわね。20個くらいあるわ。見切りに受け流し。剣道やってたからかしら?」
「…俺は、喧嘩ばかりしていたせいかスキルが多いな」
「あら、喧嘩はよく無いわよ?」
「……」
そして何よりも、カップリングの様な物が既に成立している。
結局こっち来てもボッチかよ。
「コダマ、君はどう?」
「え、いや…スキルも1つだけでバッシブスキルも無いよ」
「「「「え…?」」」」
気を利かせてかクロードが話しかけてくれる。
まあ、結局こっち来ても無能で無価値な人間らしい。
そりゃそうだ。こんな最強軍団の中に1人、明らかに劣ってる奴らがいれば普通は…
「そうか。コダマ、君はきっと晩熟タイプなんだね」
「え?」
「大丈夫ですよ。私達がしっかりサポートするので」
「ええ、気にする事ないわ。誰しも得意不得意はあるもの」
「…ゆっくでいい。強くなれ」
思ってたのと違う。絶対馬鹿にされると思っていた。
「転生者であるのに通常職と言う事は恐らく何かしらの特殊なスキルが後々発現するのでしょうね」
考え事がまとまったのかメルカまでそんな事言ってきた。
「メルカさん、どうすればコダマを強くできますか?」
「いいですか、この世界には魔物がいて倒すと倒した人物に特殊な魔力が貰えます」
「なるほど?」
「これは経験値と呼ばれる物でして一定以上集まればまたLevelが上がります。
はい、ということで先ずは武器庫へ行き職業の適正武器と防具を受け取ってください」
ゴクリと誰かが唾を飲み込む音がした。
武器や防具…戦うのか。
「あっ、すみません。言い忘れてましたよ。皆さんを呼んだ理由を。
近年魔物による被害と何よりも活発になってきた魔王軍の動き。皆さんには魔王討伐を目的としてこの世界で過ごしてもらいます」
「一つだけいいですか?」
「はいはい?」
「僕たちは魔王討伐の折、元の世界に戻れますか?」
「勿論。魔王が我が国から盗み出した禁術の書の中に異世界渡りの魔法があったと言い伝えられています。それさえ使えば直ぐにでも」
正直…戻りたく無いと言いたい。あっちの世界にいても楽しいことなんて何も無いのだから。
むしろ、転生してきたこっちの世界の方がいい人に出会えた。
「よし、皆んな頑張ろうね!絶対誰も欠けずに元の世界に戻ろう!」
イケメンは言うことまでイケメンだなー。
こうして俺の異世界ライフは幕を開けた。