勇者クロードの受難
【禁域の地下神殿】をたった2日で攻略し魔王討伐の旅の前に少しの間休みをいただいた…
やはり、あの無能が足を引っ張っていた。武器が強くなったのもそうだがプレゼンターのエンチャントはあの無能のと比べ物にならないほど精度が高く長い時間維持もされる。
やめてくれて本当に感謝してる。
そんな時にふと陛下から耳を疑うようなことを言われた。
大規模な裏組織ムカデがたった一晩で壊滅した。
ノリコだけは首を傾げていたが僕らにとってはあまりいい思い出がない。
まだ弱かった頃に何度か末端組織と戦ったがとても強いイメージがある。まあ、どうせ今は楽勝だろうが。
国からは元々危険な組織して監視対象とされており、先日行われた競売会に国の諜報部員が潜入していたらしい。
「にわかに信じがたい話だが…コダマ アクトの姿があったそうだ」
コダマ アクト…先日僕らのパーティーから抜けた同じ世界から来た勇者…いや、一般人で無能なあの男だ。
どういうコネで参加してたのかは知らないが落ちるところまで落ちたものだな。
「違う…奴がムカデを全滅させた…あれは…あれは、なんなんだ?」
余程のことで気が動転してしまったのかそんな事を報告されたと、王から言われた。
そう言えば王都から少しの距離にある街の近辺にも巨大な魔物が出現したと聞くし、やる事もないから異世界人の暮らしを見るついでに行こうかなと興味本位で出かけ、件の組織のアジトのあった教会跡地へと来たのだ。
「…何だこれ?」
巨大なクレーターとその近くにある地下深くまで続く穴。
そして街まで続く巨大な足跡。
何が起こったのかは見ていた諜報員しかわからないので足跡を追っていくと街の前で忽然と消えている。
召喚された魔物?
聞いたことはある。遠く西の国には魔物と契約して魔石内に封じ込めることで好きな時に呼び出し使役する召喚魔石なるものがあると。
「他国からの侵略か…?」
考えていると冒険者らしき2人組が此方へとやってくる。
「ん?そんなとこで突っ立っててどうした?」
「いえ、巨大な魔物が現れたとの噂を聞いて近くまで来たのですが…」
「あ、それなら冒険者組合に行くといいですよ。
今の時間ならガルドさんがいるので何か聞けるかもしれませんし」
優しい笑みを浮かべた少年はそのまま隣にいた少女を連れて行ってしまう。
冒険者…魔物を狩ったり薬草を採って日銭を稼ぐ集団。バカどもの集まりだとメルカから教えてもらった。
それでも情報を持ってるなら教えてもらおう。
街ゆく人に聞き組合に案内される。そこそこ小綺麗ではあるが普段から城の中で暮らしているので酷く貧乏臭いと感じてしまう。
「すみません、ガルドさん?と言う方がいらっしゃると聞いて来たのですが…」
「はい。今ちょっと他の組合長達と話してるので…お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「クロードです。月城 クロード」
ニコリと笑顔を見せると受付の女性は僕の名前を何度か復唱している。
気に入られてしまったのかもしれない。困るな。心に決めた人がいるのに。
「あっ。何か聞いたことあると思ったら、アクトさん見捨てたロクデナシ勇者ですか」
「…は?」
今なんつったこの女?ロクデナシ?それにアクトさんだと?あんな無能にさん付けで僕はロクデナシ呼ばわり?
どう言うつもりなのか知らないけど…ふざけた奴にはちょっとお灸を据えてやらないとな…
死なない程度にスキルで痛めつけてやろうと手を構えようとすると後ろから何かを投げつけられる。
見れば昼間から呑んだくれた冒険者達が顔を赤くして笑っていた。
「おい、勇者様!さっさと帰んな。ここはまだ何もしてないお前さんよりもアクトの方が立場上なんだよ…ひっく」
「おう、そうだ。よく言った。
アイツはなぁランク0なのにゴブリンロード倒したんぞ。それに比べてお前らは1年間も俺らの税金で豪遊して雑魚狩って無駄にレベルアップしただけだろ!」
「「そうだ!そうだ!」」
どうやら冒険者とかいう蛮族共とは言葉が通じないらしい。
次々に食器や石やらを投げつけてくる。
こんな連中死んだほうがいいな。
剣を抜くと体と剣が金色に輝くオーラで包まれる。今や神の加護を受けた自分が負けることなど絶対にない。
「おいおい、見ろよ。勇者様が人殺すらしいぜ」
「へっへっ、チビっちまうよ。おかーちゃーん」
「…今なら土下座すりゃ許してやるよ」
「…ドゲザってなんだ?」
「たしか東洋に伝わるリーサルウェポンじゃなかったか、ブシドウソウルを重んずる戦士ブシのハラキリと対をなすスキルだった筈だ」
知能も低いらしい。土下座すら知らないなんて…
剣を構える。細切れにしてやる。
しかしガシリと手を掴まれてしまう。見れば巨大な体躯に犯罪者の様な顔をした男が僕の腕を掴んでいた。
「ったく、煩えと思ってきてみりゃよ…お前らその辺にしとけ。一応は勇者だ」
「…誰だか知らないんだけどさ…何か用?」
「俺がガルドだ。何ピリピリしてんのか知らねえが用って、てめぇが俺に話聞きにきたんだろ」
手を放されたので少し距離を置く。
ふん、転生物序盤のかませ犬みたいな顔しやがって。
剣を納めると一応握手してやる。光栄に思って欲しいな。
「まあ、いいや。
うん、そうだそうだ。僕は君に聞きたいことがあってさ…」
「おう、なんだ」
「ここら辺に巨大な魔物が現れたって聞いてさ…折角だからあの無能や役に立たないそこら辺の冒険者共と違って倒してあげようと思ってさ」
するとガルドが急にバツの悪そうな顔をしてきた。
なんだ、何が言いたいんだ?
「…あれは見つからなかった」
「見つからなかったぁ?へえ、冒険者って一応魔物とかから市民を守る仕事なんですよね?」
「ああ…」
「どうなんですかそれ。さっき僕のこと税金使って豪遊とか言ってましたけど、あなた方こそ市民の貴重なお金で昼間っから酒呑んでるような体たらく。恥ずかしくないので?」
「…そうだな、悪かったよ」
ガルドが頭を下げる。
そうだよ、何してるんだ。僕は選ばれた勇者でコイツら凡人以下でしかも無能を担ぎ上げる馬鹿共の集まりだ。
「でもいいさ。寛大な僕は君を許してあげるよ。
あーあ、でも無駄足だったし悲しい気持ちになったなぁ。こんな所で日々命の危険に晒されながら日銭しか稼げないなんて可哀想」
「……」
「でも、安心してよ。僕が必ず魔王を討伐するから、その折には君らも祝賀パーティーに呼んであげる。あとあの無能も。
貴族の方々に誰ですかって聞かれたら胸を張って答えなよ。無能な人間を担ぎ上げ、本当の勇者を知らなかった愚か者ですってさ。あはははは!」
ちょっとムカつく連中だったがやっと学習したらしい。お前らが下で僕は上の存在なんだ。
最後に無能の顔でも拝んでやろうかと思ったけどどうやら魔物に襲われて生死の境を彷徨っているらしい。
「本当に身の程を弁えない馬鹿って嫌いなんだよね」
鼻歌を歌いながら楽しく城への道を歩いた




