命散りゆく
西の平原にある教会。
もう日も傾いているので赤くなってはいるが遠目にも随分と古ぼけてるし本当にあそこの地下で競売なんか行われているのかと思う。
ぜタールに騙された?
…いや、そんなことも無いようだ。
「ッ!」
「なるほど、多少はやるようだな。
どうやってかここも突き止めた事だしな」
見たことある武器だ。
剣のくせに遠距離から攻撃してきてまるで生き物のように蠢く。
「リヴァイアサン…」
「…?ああ、なるほど。この剣の名前か」
つまり、コイツがゲル。
忍者の方は近くに潜んでいるのか?
「お前がアルマを攫ったのか?」
「ん?そうだが?
もうお前には関係のないことだ。アレは元からお前のような奴の物になる手筈じゃない。
それなのに…ゼタールめ、ヤキが回ったか」
…ゼタールの事は話さないでおこう。
あの人にまで被害が出たら大変だ。
「はぁ…お前みたいなガキにアレの価値なんざわかんねえよな。
だから馬鹿みたいに取り返しに来た。違うか?」
「…だったらなんだよ」
「ワルプルギスって知ってるか?原初の魔法つまり全ての魔法の始まりアルスマグナと対をなす魔法。
まあ、言っちまえば全ての魔法の終わらせる魔法だ」
「何が言いたい」
「持ってんだろ?あのガキがワルプルギスを」
冒険者カードを見た時スキルとして名前が載っていた。あれの事か?
「アレはお前みたいな馬鹿にわかりやすくいえば全ての魔法を終わらせる。
威力が高いとか、特殊な事が起こるとかじゃねえ。どんな魔法も強制的に終了させ、なかった事にすんだ」
「だからどうした」
「はぁ…だからガキは嫌いなんだ。
金になんだろ。どっかの研究員が実験の為に買うか、魔族好きの変態がてめぇの快感の為に買うか。
前魔王の娘ってブランドも付いてるしな。
まあ、俺たちはどんな客だろうと金さえ払ってくれればいい」
「…言いてえ事はそれだけか?」
剣を抜き刀身に炎を纏わせる。アルマに申し訳ないがあの剣は壊させてもらう。
それにしても、まだエンチャントの効果が残ってたのか。
前は半日持てば良い方だったというのに。
「なるほど、ここまで言っても理解できないか…まあいい。
それにしてもこの奇抜な武器は貴様が作り出したものだったのか」
「ああ、だがそれはお前のじゃない。アルマのだ」
「ふっ、使いこなせもしない武器を渡して満足気にして…反吐が出る。
ましてや魔族なんぞに…馬鹿なのか?」
「悪いな、頭の悪さなら母親のお墨付きだ」
とにかく近付くんだ。遠距離は相手の専売特許に近い。
剣を地面に向けると炎を噴射させる。即席ジェットだ。
突撃するように突っ込む。
流石にそこまで馬鹿だと思って無かったのか一瞬で目の前まで来られてゲルは驚いている。
ジェットの推進力のままに体を捻らせ剣を叩きつける。もちろんその瞬間は最大火力で。
「オラァッ!」
地面は溶解し一直線に穴が開く。避けられてはしまった。
だが、アイツは避けた。俺の攻撃に当たればダメージは通るという事だ。
「なるほど、既存の武器の動きなんざ期待しちゃいけないってことか」
蛇腹剣を捻ると体の周りに纏わせる。
防御のつもりか上等だ。剣ごと叩き斬ってやる。
戦闘など全部アイツらに任せてきたが、それでもダンジョンによっては1人で頑張った場所もある。
やってやるさ。絶対にアルマを助け出してやる。
もう一度今度はもっと噴出を絞り更に推進力を強くする。
次で決めてやる。
凄まじい加速と共に突っ込む。
そして先ほど同様に炎が巨大になり最大火力となって蛇腹剣を真っ二つに…
「【忍法・幻術の術】なーんて」
「なっ!?」
蛇腹剣で出来た球体の中には誰もいなかった。
いや、それすら幻術で作られた物で代わりに斬ったのは大量の水の球体…いや、海水か?そんな事まで出来たのか。
超高温の剣の炎が低温の水に包み込まれると一瞬で蒸発して瞬きする間も無く光が生まれる。
「ついでにプレゼントでーす。【忍法・球結界】」
爆発は張られた結界内で収まり轟音と衝撃が生まれ何も分からなくなる。
そりゃそうだ。
馬鹿の一つ覚えで同じ事やって、スキルの使い方を知って、少しでも強くなったと勘違いして…それで…
「焦げ臭ー」
「よくやったアス」
体の前面が焼けたのだろう。
何も見えないし両腕の感覚もない。多分前方に出してたし粉微塵だな。
「その剣。あの爆発の中でも傷一つ付かなかったな…
いいぞ、リヴァイアサンだったか?これと同じで俺が使ってやろう」
「ヒュー…カヒュー…」
痛みが全身に生まれ始める。
転げ回って痛みを叫びたいのに筋肉なんてほとんど切れてて動けない。喉なんて焼けてて待てと言おうとしたのに掠れるような呼吸音しかしない。
「元勇者って聞いてたからさー、ゲルに言われた通り遠くから見てたけど大した事なかったね」
「所詮は元だ。
見たか?あの馬鹿の一つ覚えの様な動き。大方弱くて邪魔になった挙句に捨てられたのだろう」
「えー、惨めだね」
言い返すことも出来ない。
痛い。助けて、死にたくない。
「弱者は死に方も選べない。無様だな」
「次なんてないけど、頑張れー!」
「まあ、一つ褒められる点といえば。芯もない一撃だったが火力だけは十分だったな。貴様自体が巨大な武器の様にも思えたよ」
好き勝手言うだけ言うと足音が次第に遠ざかっていく。
行かないと、アルマが待ってる。助けないと…
真っ暗闇で進む方向もわからないまま這いつくばって進む。
止まるな、行け、進め。
屍を晒すその時まで。
ーーーーー
「俺の勝ちだ」
ガランと乱雑に投げつけられたのはアクトの使っていた剣だった。
「ダサかったよー。最後は自爆」
「所詮は力を手に入れたと勘違いする凡人だ」
「……アク…ト…」
心の中で決定的な何かが壊れた音がした。
負けた、死んだ。
折れた角だけではもうアクトの魔力を感じられない。
「アハハハ!死んじゃった!死んじゃったねぇ!」
「アス、黙らせろ」
「はーい」
隣の檻にアスと呼ばれる少年が入るとエルヴァの腹部を執拗に殴る。
その目に宿る凶気は多分命令なんかされなくても嬉々として行っていただろう。
「……」
「開始時刻まであとちょっとだ。
目玉商品なんだからしっかりとアピールしろよな」
ニヤついた顔で男が見てくる。
殺してやる。そう心の中で何度も思っていた時ふと、部屋に見たことある人間が入ってくる。
「ボス〜。金持ってきやしたぜ」
「ゼタール…ノックくらいしろ。
で、弁解はあるか?」
「勿論!酒飲んでふらふらになりながら仕事してやした!」
「…はぁ、てめえ仕入れはいいんだからそこら辺をしっかりとしろ」
「うっす」
私を売っていたあの人間だ。
ゲルに大きな袋を渡すとこちらに気付いたのかいつもの様に不快な笑みを浮かべてきた。
もしかしたらアクトはアイツに嵌められた?
「いやー、しかし今日は凄いですぜ。遠く帝国からも貴族様が来て今か今かと待ち望んでやす」
「当たり前だ。権威は無くなったといえど前魔王の娘。
そしてあの馬鹿な魔族共は気付かなかった様だが最強の反魔法ワルプルギスを使うことが出来る。売るのが惜しいくらいだ」
「……貴方達もそれ?」
「嫌か?まあ、そんな物の為に片方の角を折られたのだからな。
だが感謝もしてもらいたい物だ。ゼタールがお前を買ったからこそ今まで生きてこれたのだからな」
「へっへ、あっしは命の恩人ってやつですぜ」
「ふん。
それと、アス。いつまでやっている。それは商品だ。顔は傷付けてないが内臓にダメージがいったらどうする?
どうせ変態貴族の誰かに買われるのは代わりないがガキが産めなくなるだろ」
「あ、ごめーん。殴るたびにゲーゲー吐いてたから楽しくって」
狂ってる。それしか言葉が出てこない。
「おっ、そろそろ始まりやすね。それじゃあ、あっしはこの辺で。客席の奥にでも座ってるとしやす」
「そうしろ。
アス、さっさと準備しろ。金づる共を待たせる訳にはいかん」
「はーい」
これから見知らぬ人間に売られるのか。
恐怖は感じない。もう全てどうでもいい。
アクトが死んだならいっそ、舌でも噛んで一緒のところへ行こうかな。
それとも、私を買った人間を殺す?そうすればきっと、あの2人にも多少は嫌がらせが出来る。
「ゲホッ…助けて…やだ…」
エルヴァも痛みで正気に戻ったのか、それももう遅いが。
『レディィィィィスエンドジェントルメンズッッッ!
今宵も我らが組織ムカデ主催の競売会にお越しいただきありがとうございます!
今日も皆様を沸かせるあっと驚く商品があるので是非最後までご覧になっていってください!』
遠くから声が聞こえる。
嫌だ、私だってまだ…




