いなくなって初めて気づく
アルマが行方不明になって既に3日が過ぎていた。
街からそれほど離れてないので自力で帰ってくる事も可能な筈だ。
だが、怪我をしていたら?もしも何かしら動けない状態であるなら?
不安は拭えないまま毎日森へ向かい探している。
一昨日は南側、昨日は西側。今日は東。明日は北。
毎日門番のおじさんに聞いてはいるが帰ってきてないと言う。
「アルマー!いたら返事してくれー!アルマー!」
今日は生憎の土砂降りの雨。
不安で3日くらい寝れてないので丁度いい眠気覚ましになる。
何でだろう、たかが数日の付き合いだ。
なのに何でこんなに不安になってくるんだ。
気を引き締めないと泣き叫びそうになるんだ。
「アルっ!!ゲホッ、ゴホッ…」
口の中が鉄臭い。
どうやら叫び過ぎて喉が切れてしまったようだ。
そして人間の体というものは一箇所が壊れれば他の壊れた部分も私も私もと声を上げて主張してくるのだ。
睡眠不足なのか、食事が喉を通らなかったせいかは知らないが体が動かなくなって倒れてしまう。
寒い、眠い、目元が霞む…
こんな雨の中で寝てたら魔物に殺される前に低体温で死んじまう。
アルマ…どこだ、どこなんだよ…返事してくれよ…
意識を失う最中、最後に見たのは緑色の足がいくつか。
なんだよ、王様の仇でも取りに来たのか…?
ーーーーー
『言えと言っているのが聞こえないのか?』
嗄れた声で魔族の老人は私に質問してくる。
『始まりの魔法アルスマグナ。
それと対になる魔法ワルプルギス。
どこだ?貴様の父が…先代の魔王がお前に託した筈だ』
誰が教えるかと黙っていると仕方がないと老人が呟く。
『やれ』
『…いいので?』
『構わんさ。
もうこの世にそいつの味方は居ない』
父の腹心だった老人は楽しげに笑う。
父の護衛として信頼されていた騎士団長は今は鑿を私の角に当て軽く金槌で叩く。
や、やめて…
『ごめんなさいな、アルマ様』
ニヤつきながら騎士団長は金槌を振るう。
ガンッガンッ
助けて、騎士様。
助けて…アクト…アクト…?あっ、そうか…これは夢だ…
「……んん…どこ?」
「あっ、目覚めた?ねーねー、目覚めた?こんにちは、初めまして!
私、エルヴァって言うのよろしくね!あなたはどうしてここにいるの?ねえねえ、なんで?」
「……うるさい」
…奴隷屋に戻された気分だ。
いや、あそこの方がマシか。居場所は悪かったが少なくともこんな狭くて…それに檻の横に小うるさい隣人はいなかったし。
「おはよう、アルマ=マグナウ。よく寝れたか?」
「……最悪の目覚め。貴方達…誰?」
「名乗ったところでどうせ明日には売られる」
「売られる…?私はアクトの…」
体の中にあった感覚。
契約書が…アクトとの繋がりがなくなっていた。
それに目の前にいる奴らの声は聞いたことある。私を捕まえた奴らだ。
「契約ならもう解除した。
お前は新しい主人に買われるんだ。楽しみだろ?」
「……そんなわけない。ここから出して」
「それは出来ない」
「僕らの金になってもらうんだー」
……
「よし、じゃあこうしようかー。
明日もし君の大切な王子様が来たら僕がぶっ殺すから。あの元勇者ね。そうすれば踏ん切りがつくだろー?」
「……無理。アクト、本当は強いもの」
「ほう…」
ガシャンと檻越しに蹴ってくる。
それがどうした、怖がらせてるつもりか?痛くも痒くもない。
「じゃあ、せいぜい待ってるんだな。魔族」
お互いに檻越しに睨み合いながらも先に相手が目を逸らすとヘラヘラと笑いながら行ってしまう。
「あ、ダメだよ、無理だよ!
あのね、凄いんだよ!
私の一族ね、あの2人に滅ぼされちゃったの!あはは!」
「……笑い事なの?」
「え?だってさ、死んじゃったんだもん…もう、会えないんだもん…喧嘩して…ぞれっぎりで…パパもママも…」
なんだ、おかしくなってただけか。
「……大丈夫、アクトが助けてくれる」
「グスッ…ねーねー、貴方お名前は?アクトって強いの?」
無視して何か使える道具でも無いかと探す。
人にだけ任せてられないとにかく逃げないと。
ーーーーー
目が覚めて最初に見えたものは厳ついおっさんの顔だった。
「…ガルド…さん?」
「ん?起きたか。
ったく、心配かけやがってよ。まあ、もちっと寝てろ」
「ダメだ…アルマを探しに行かないと…」
ベッドから降りようとするとガルドに肩を持たれ無理やりベットに寝かせられる。
「…諦めろ」
「でも!」
「あー旦那!起きやしたんすね」
言い返そうとしたら部屋に人が入ってきた。
「ゼタール」
「ガルド、ちょいと消毒薬切らしてんだ。買ってきてくれやしねい?」
「…わかった。安いのでいいか?」
「ああ、頼んまぁ」
ゼタールは最後にこちらをチラリとだけ見ると部屋をさっさと出て行ってしまう。
「まあ、旦那。まずはあっしの話を聞いてくだせえ」
「……」
「代わりにいい奴隷を紹介しやすんで、ね?」
「いらん。アルマを探しに…」
キラリと視界の端が光った瞬間に身体中に針が刺される。
「旦那、人の話は聞きやしょうや」
「お…まえ…何者…だ…」
ゼタールその見た目に反してとてつもない速さで針を投げてきた。
体が動かない。毒針か?
「安心してくだせえ、あっしは貴方の味方です。
ただ、旦那に落ち着いてもらわねえと話が出来やしねえ」
「……」
「うっし。話せなくなりやしたね。んじゃあ、まずはあっしの事から。
実はあっしムカデっつう裏の組織の売人なんでさあ」
売人?
奴隷商は表の顔ってことか?
いや、奴隷商の時点でかなり裏側の気がするが。
「まあ、そこは良いとして。
実は先日の話なんですけど、今日開催される組織の競売に出す奴隷を売っちまいまして大目玉食らったんですよ。
ほら、見てくだせえ。売っちまった奴隷は無事に捕獲したから明日の競売にはしっかりと金持って来いって書いてあるでしょ?コイツは上納金として納めろってことなんでさ。
じゃなかったら処刑ってね。いやー、リーダー2人は恐ろしい」
「……」
「アスっていう忍者とソードマスターのゲル。それぞれ上位職でさぁ。
コイツらがまた強くてね、先日もヴァリアントっつう魔物と人間の中間みてえな連中がいるんですが価値を高めるために1人を除いで皆殺し。連中も決して弱くはねえんですよ?
まあ、それが今のムカデっつう組織の二大巨頭」
つまりアルマを攫った奴らか。
「そこでですがね、あっしは死にたくねえから金払いに行くんですが、よかったら旦那もどうかなって思いやして。
ここ、分かりやす?西の平原にある古びた教会の下。そこが組織のアジトでもあって競売所になってるんすよ」
「……」
「まあ、大変やしたぜ。何せかなりの金がいりようだ。方々駆けずり回しやしたよ。
で、その帰り道でした。旦那が森の近くで倒れてやしてね。見えねえようにわざわざ上に葉っぱ乗せられてて」
ゴブリン達が助けてくれたのか…?俺を殺しにきたんじゃなく?
「まあ、どごぞの誰だか知りやしませんがどうせなら街まで運んでくれりゃいいのに、あそこに放置。そのせいで一瞬でもあっしは死体かと思いやしたよ」
「……」
「まあ、この話は関係ないんで置いときやして、ご執執心してた奴隷が居なくなっちまったのは残念ですが、どうです?
きっと素晴らしい出会いがあると思いますぜ」
そう言い残すと招待状らしきものを机に置き、体に刺していた針を抜いていく。
そして最後に
「あっ、今回の目玉は片角の魔族のガキらしいですぜ」
そう言い残すと部屋を出て行ってしまう。
何を遠回しに言ってきてんだ。行けって事だろ。
そんな事言われねえでもわかるわ。
気付けば動くようになった体を確認すると立て掛けてあった剣を持つ。
謝るんだ。土下座して、許してもらって。
そしたら美味い物一緒に食いに行けばいい。そんだけだ。




