異彩の村
アクトと合流数十分前のこと
「……何の真似?」
私は別に怒ってたわけじゃないけど…それでもいきなり武器を向けられたら機嫌だって悪くなる。
しかしそんな事露知らずに獣人の兵士達は此方へと武器を向けながらにじり寄ってくる。
「魔族にヴァリアント…貴様らは我らの王の命により処刑となった」
「……」
「……そんな事したらアクト…が怒るよ?」
「あの人間か?たしかに強いようだが…獣神皇帝の前ではあの程度の羽虫程度。障害になどならない」
「……ふーん」
突然一緒に転移させられて武器の用意など出来てない。
エルヴァを守るように前に出てどうにかしようと思うが…
「やめておけ。お前が武器を持つまでに少なくとも3回は殺すことが出来る」
「……のんびりしてるんだね。さっさと殺せ…ば?」
「殺したいさ。だがな、お前が特殊な武器を持っていることは知っている。それをこちらに渡してからだ」
「……」
「わかるか?情けだ。武器を持つ時間を与えてやってんだよ。ほら、いつでもかかってこいよ。お前らみたいな屑は心をへし折ってから殺した方がいいからな」
獣人は人の何倍もの力を持つ。それは勿論種類?によっても違うが…素早さに自信があると言うのはわかる。
ましてやこれだけ多くの兵士に囲まれてるのに此方への明確な攻撃の意思を持っているのは目の前の1人だけ…舐められてると言うのはわかるが、それだけ実力がある可能性もある。
「どうした?怖気付いたか?」
「……」
「アルマ、下がって」
「なんだ…ヴァリアントの方が根性があるじゃないか」
彼女の魔力を角で受け取っているからこそわかる。強がってるだけだ。本当は病み上がりもいいところなのだから休むべきなのに…
「じゃあ、早速…ヴァリアントの解体でも始めるかなぁッ!」
「…っ!」
目の前の獣人が消えた。
私はエルヴァよりも小さいけど…それでも彼女の手を引き彼女が傷付くくらいなら咄嗟に彼女を庇い…
「……?」
いつまで経っても痛みも無く、エルヴァも何事だと疑問を浮かべた顔をしている。
「全く…女に手を出すなんざよ、クソ野郎のすることだぜ?」
「…アクッ…ト?」
「どうどう似ていたかい?ザンネーン、僕さ」
けらけらと楽しそうにトビィが笑っていた。
先ほどまで話しかけてきていた奴は…壁に頭から突っ込んでいるようだ。
「何者だ!」
「何者ってのは失礼だとは思わないのかい?僕は…そう、コダマ アクトの妻さ」
「……違うよ?」
「寝言は寝て言え」
「ははっー!辛辣だねえ!」
だが良かった。隙さえ生まれれば戦える。
「……エルヴァ、下がってて」
「そうさ、君は囚われの姫…いや、王様かな?まあ、取り敢えず何もせずに僕らに任せてくれればいいからね」
「アル…了解」
無理なんてさせられない。
構えるとあの時と同様に剣の側面に鱗のような模様が出てくる。
「さあ、アルマ君。楽しく鏖殺しようじゃないか!」
「……駄目。なるべく殺さない」
「えー…まあ、いいさ。それならそうしよう、うん」
「……露骨にテンション…下げないで」
ーーーーー
退治してきた嘗ての魔物達は強敵ばかりだった。何人もの友を失い、様々な犠牲の果てに戦ってきた。
「はは、ははは…はははははッッ!口ほどにもないね!やる気あるのかい?獣人諸君!」
「……トビィ、悪者みたい」
「悪者さ。少なくとも彼らからすれば殺すべき対象を守っている、ね」
「……格好つけないで」
「連れないなぁ」
2人の少女。片方はまだ対処出来る。あの伸びる剣も複数人で囲めば犠牲の下に攻略出来るだろう。しかし、もう1人。あの連れてこられた人間同様に城の中にいる筈なのになぜかここにいる。
「…ッ!?」
「そんなに険しい顔をしないでおくれよ?僕だって本当はこんなことしたくは無い」
「……嘘」
「はて?なんのことやら」
奴の装備してる仕込み籠手。およそ、理解の範疇を超えてのギミックが仕込まれている。
何せ装弾数が未知数の弾丸を撃てば此方の誰かが肉片に成り果てる。そしてブレードで斬りつけてくれば盾や鎧ごと斬り伏せる。
なんなんだ奴は!
「……」
「…?どうしたんだい、そんなに僕を見て?まさか惚れた?いやはや、見た目の良さに自信はあったけどすまない、君らはストライクゾーンから大いに外れている。端的に言えば興味がない。いや、失礼。実際は僕は君らだけじゃなく他のどんな奴も興味がない。僕の興味は旦那様にしかない」
「ほざけ。その口、縫い合わすぞ」
「やれるもんならやってみなよ。ねえ、アルマ?」
「……こっちに話振らないで」
呑気に談笑などしてるが不意打ちも成功しそうにない。ましてや最優先での殺害目標であるヴァリアントも彼女達の後ろなのだ。
「……トビィ」
「ん?なんだい?」
「……アクトやばそう」
「言われてみればそうだね、うんうん」
一瞬、彼女の全身の魔力が膨れ上がると魔力による輝くブレードを構え跳躍する。
「アルマ、エルヴァ。逃げようじゃないか!」
「……ん」
「了解」
止める間も無く城の壁を切りつけるといとも容易く、否…まるで光線のようにブレードは伸び文字通り城を両断した。
「小癪なッ!」
「完璧な不意打ちでも止められるとかどんだけ化け物なんだよ…」
「仮にもあの災厄の獣の名を冠してるからね。強いだろうよ」
「……アクト!」
ーーーーー
痛覚が鈍くなっているとは言えどあの高さから落ちれば骨だって折れる…だが、何よりも自分の肉体が無事な事に驚きだ。
「…?あり、もしかして目ん玉やったか?何も見えね」
「違うさ、目隠しされてるんだよ」
「…トビィか?外せよ」
「無理さ。僕だって囚われの身だからね」
「はぁ?」
囚われの身だ?もしかして獣人に追いつかれたのか?だったらアルマは?エルヴァは?声はしないということは別の部屋か或いは…
とにかく、固い床はついこの間に投獄された監獄の床と似ているし…ジメッとしたこの感覚とかび臭いのはなんとも言えない気分になる。
「おーい、見張りの人〜。旦那様が目を覚ましたから目隠しを取っておくれよ」
「黙れ罪人が」
「ははっ、酷いなぁ。じゃあ僕が取るよ」
「おい、勝手な真似するな!チッ…クソが」
ガシャンと牢屋の扉が開く音がして…目隠しが外された。
「……」
「やあ、旦那様」
「…なあ、聞いてもいい?」
「なんだい?」
「何これ」
「牢屋さ」
「牢屋さじゃねえんだよ!なんでだよ!」
ふざけてんのか、こいつ?
「おや、知らないのかい?牢屋と言うのは古今東西悪い事をした奴が…」
「ちょっと黙ってろ。で、なんで俺ら入れられてんの?」
「答える義務はない」
「ああ、そうですか。トビィここ噴き飛ばせ。アルマ達探しに行くぞ」
「よし来た」
「ま、待て!わかった、話すから!」
「最初からそうしろよ。手間取らせやがって」
と言うか壊せんならさっさと俺連れて脱出しろよと思うが…
それよりも看守の青年、軽そうな革鎧にボロボロの槍…そこは別にいい。それよりも見た目だ。気絶する前にいざこざのあった獣人のように獣の耳や顔を持たない。つまり人間と言うわけだ。なんでこんなところにって疑問は残るが…まあいい。
「…その女は我々の村に貴方や他の仲間達を連れて来たのだが…」
「そうなのか?」
「なんて事もないさ。そもそも僕はあんな高さから落ちたところでダメージは無いしね。それよりもビビって気を失った3人をどうにか受け止めるのが難しかったよ」
「ああ、そう」
お前が調子乗ったからああなったんだしマッチポンプみたいなもんだろ。
「だが、君らを我々に任せた後にな…急に暴れ出して村の御身体を壊そうとしたんだ」
「……え?で、俺は」
「ついでだ」
「はぁ?」
なにがついでなんだよ。
「と言うかお前何?普通に捕まったの?」
「いやはや…あの訳の分からない縄に魔力を吸われてしまってね…まあ、使い捨てみたいだったから牢屋に入れられた頃には解けていたけど」
「ふーん…」
と言うかついでって…誰だよそんな事言った奴。
どうなんだろうと考え込んでいると足音が聞こえてくる。どうやら新しい奴が来るようだ。
「起きましたか」
「エルヴァ、無事だったか」
「ええ、まあ。あと牢屋に入れておいて言ったのは私です。なんか人類の敵になりそうですし」
「なにその憶測」
「冗談です。そっちのを静かにさせるために貴方を入れておいたんですよ」
そう言って嫌そうにトビィを指差す。
なに驚いた顔してんだよ。
「まあ、ともかく…貴方が起きたのならトビィも大丈夫でしょう」
「アルマは?」
「まだ寝てます。問題ありません」
「村とか言ってたな?ここの連中は信用出来んのか?」
「さぁ?」
「……」
大丈夫かよ…
「ともかくここを出ましょう。話はそれからです」
「だってよ看守さん」
「あ、ああ!」
こうしてやっと外に出られたのだが…随分と古い村だな。牢屋も洞窟を利用したものだし。人も少ないしなんなら彼のような青年もほぼいない。
そして中央にある石像が御身体って奴なのか?
「しっかし獣人の領土に人間が住んでるなんてなぁ…」
「人間じゃないですよ」
「…は?」
「ここにいるの全員ヴァリアントらしいです」
「…マジで?」
「マジです」
……マジか
ーーーーー
「本来ならば異邦の者は入れないのですが…エルヴァを助けてくれたことに免じて、特別に入れています。その事をお忘れなきように」
「はぁ」
エルヴァに連れて行かれた家は村の中では比較的に大きな物だ。それでも小汚いと言うか手入れされてないと言うか…
そして村長と名乗る老人もまたヴァリアントなのだと。
「一応、私の祖父らしいです」
「…お前騙されてね?」
「かもしれませんね」
「胡散臭すぎるだろ」
「よそ者はよそ者らしくしていただきたいものですな」
いや、もう怪しさ満点なんだよ。
「仮にお前がヴァリアントだってならエルヴァみたくでけえ狼なり、何なりになってみろよ」
「無理です。生憎とわしは血が薄くて変わる事は出来ません」
「エルヴァさん?ねえ、聞きたいんだけど何を根拠にこの爺さん信じてるわけ?」
「…匂いです。父と似たような物を」
「…あっ、そっかぁ…」
どうしようもねえわこれ。加齢臭じゃね?とか言えねえし。
「それよりもどうだい旦那様?この泥みたいに不味いコーヒーでも飲んで落ち着こうじゃないか」
「いやお前のそれ泥だろ」
「ええ、泥ですよ。そもそもこの村にはコーヒーなんて嗜好品ありませんから」
酷いじゃないか!とか騒いでるがお前、御身体壊そうとしたんだからしょうがないだろ。
「…で?ここまでエルヴァに連れて来させたんだから要件あんだろ?」
「勿論です」
「……」
途端にエルヴァの顔が濁る。なんだ?どうしたんだ?
「彼女の父と母、それに彼に賛同した者達はこの村を出て人間の住む街の近くで過ごしていました」
「あぁ…」
そういやそんな話を前に聞いた覚えが…
「ですが両親共々殺され、エルヴァは奴隷の身に落ちそうになった。
彼らは獣人達の居ない場所にと向かったのにより危険な場所だったわけで…まあ、わしも考えはしたのですが…」
「……」
「エルヴァを返してもらいたい。いや、返してもらうと言う言い方もおかしな話ですね。彼女は貴方達とではない、ここで暮らすべきです」
「お爺ちゃムカデ」
…ん?
「どうやらもう1人の方も目が覚めたようですね。改めて話した方が良さそうだ」
…何やらまた面倒そうなことに巻き込まれたようだ。




