獣神皇帝
「…ッ!?」
「ようこそ、我らが国へ異国の…いえ、異界からの旅人よ」
見覚えのあるものだった。
初めて俺がこの世界に来た時…あの時の魔法陣に似てるし、あの時の召喚士?達が人間が獣人かの違いなのだから。
「やあ、旦那様。生まれて初めての転移はどうだったかい?」
「2回目だがな」
「そうかい」
「ささっ、コダマ殿どうぞこちらへ」
一足先についていたのか、フォルカが階段から降りてくると案内してくれる。
「…ところでアルマ達は?全員って事はあいつらも居るんだよな?」
「えぇ…ですが、獣神皇帝の命によりこの城には不浄の者…失礼。魔族やヴァリアントは入れないのですよ。ですから城前の騎士団の停留地へスーナンと共に転移してます。先ほど確認してきました」
「へえー」
「獣神皇帝との話が終わり次第すぐに会えますよ」
「僕は平気なんだね」
「…?だって、貴方は人間でしょう?」
「え?」
ややこしい事になりそうだからそうしとけと頷くとやれやれと肩を竦める。
「…トビィ」
「なんだい?」
「任せてもいいか?」
「構わないさ。ああ、一応君のところにも居るからね」
「おう」
流石に全部信じれるとも思わないのでひっそりとトビィが分裂し彼女達の元へと消える。
どうやらスキルのせいか、乗っ取られてたせいかは知らないが分裂出来るらしい。それとプラスして体表の色を風景と溶け込ませる…擬態らしきことも。いよいよもってトカゲとかカメレオンだなとか思ったが元から爬虫類の進化系みたいな奴だったな。
「美しいでしょう?自然と神祖様の加護を受けたこの土地が我らを育みました」
「へえー…おぉ」
たしかにフォルカの言う通りだ。
古代遺跡のように建物と植物が一体化していたり、都市の真ん中に巨大な川が流れてたり…言葉で言い表せないような美しさを感じる。
「過去8000年間。神祖が生まれた、その時から私達はこの地に住んできました」
「その神祖ってのは?」
「それは獣神皇帝から直接話をお聞きください。あの方は神祖について話すのが大好きですから」
「なるほど」
それから暫くして中庭のような場所に着く。
中央にある巨大な狼の石像…これが件の神祖を象った物か?果たして原寸大なのかどうかは別としても…かなりデカい。
「来たか」
「…こっちもデカいな」
のっそりと石像の側から出てきたのはウォルフと同じような耳と尻尾を持つが…顔は人間…とは言っても傷だらけで一眼見ただけで歴戦の猛者であり、その巨体から滲み出るオーラのようなものは…ガルド同様に勝てないかもしれないと錯覚させてくる。
「座れ、異界の旅人よ」
「あ、どうも」
気づけば周りにいた兵士らしき人達も跪き、思わず俺も合わせたほうがいいのかと錯覚してしまう。
とりあえず…座ればいいんだよな?
キャンプ場とかに置いてありそうだなと思いながら切り株のような椅子に座ると目の前に獣王が座る。壁みたいだな。
それにしても…どこかの駄王とは大違いだな。覇気とでも言えばいいのか…
それから暫くしてなにやら紅茶らしき物や茶菓子やらがテーブルの上に置かれ、そこでやっと獣王が再び口を開いた。
「貴様の犬に用意したエリクサーは無事に届いたようだな」
「エルヴァのことか?ありゃ犬ってよりか、おおか─」
冷や汗が出てきた。それは初めてトビィと対峙した時のようにただ純粋なまでの殺意。
その発生源は確認するまでもない…目の前の奴だ。
「狼…だと?そうか、貴様は知らないようだからな。言っておこう。
この国で狼の獣人は我ら王族のみだ。そして…あの中途半端な駄犬共は決して狼ではない」
「……」
殺される覚悟を一瞬でしていた。なるほど、目の前のも化け物だな。
しかし直ぐにその殺気は収まり、静かにティーカップを口まで持っていき…一息付くと優しげな目になる。
「すまぬな、歴史を知らぬ者に大人気も無く…だが今から話す事を知ればあの駄犬との縁も切りたくもなるだろう」
「……」
エルヴァを駄犬、駄犬と馬鹿にしてくるが…言い返しなどすれば今度は本当にそっ首叩き落とされそうなので黙っておくことにした。
ーーーーー
今から8000年前。先ほどファルカの言っていた通りにこの地には彼ら獣人の神祖…フェンリルが降り立ったらしい。
降り立つ…それは文字通り天の、それもこの世界を作り出した創造神が自ら作り出した神獣のうちの1匹と言うわけで空から落ちてきたのか着地したのか知らないがそうらしい。
「それよりも先に原初の智リヴァイアサン、原初の種ベヒーモスが創造されこの世界を彩った。そして我らが神祖フェンリルもまた原初の力として生み出されたのだ」
「力…?」
「そう力だ。あらゆるもの、万物さえも壊さんとする圧倒的な力であり、生物の根本…暴力的な根幹、他社から奪う本質…言われは色々とあるがな、それ故に後に作り出された下位の神達は恐れたのだ。その牙が、爪が、自分の腹を裂き臓物を引き摺り出さんとする日がいつか来るやも知れないとな」
ふむ…
「我らが神祖は自由だった。下位の神を殺し、人を殺し、この地を支配した…そしてある日出会ったのだ」
「何とだ?」
「番となるメスとだ。とは言っても神祖フェンリルはこの世に1柱しか居ない。だが…どう言うわけかフェンリルは番いを得た…それは、人の子だったと言う」
「じゃあ、それが獣人のルーツってわけか」
「然り」
しかしまあ…狼と人の子ねぇ…まあ、神話では異種族同士の子などいくらでもいるから普通なのだろうな。真偽の方は知らないが。
「無論、神祖フェンリルの番いはその人の子のみでは無かったにしろ…神祖と人の間に我らが生まれた。そして、長い年月をかけ、様々な種と混じり合い今に至ると言うわけだ」
「なるほど、たしかに城の中だけでも色々な動物って言っていいのかは分からないが獣人がいるな」
「そうだ。そして、神祖の血をより濃く引く我が一族こそがこの国を統治している」
「へー」
まあ、そこは別に個人的な興味としてあとで図書館的な場所にでも行ってみるとして…
「で、ヴァリアントは何でそんなに嫌われてるんだ?」
「ふむ…奴らは狡猾な神の生み出した者達の子孫だからだ」
「狡猾な神?」
北欧神話と似た神話なら恐らくロキの事だろうが…ここは異世界だ。こっちの神話のことは忘れておいたほうがいいかも知れない。
「…神祖フェンリルは人と混じり、我らが生まれたが…創造神はそれを良しとしなかったのだ…故に神祖フェンリルは寿命を持たされてしまった。本来なら死ぬはずの無い神獣が…死の概念を持ってしまったのだ」
「なるほど…」
「そして、創造神から作り出された下位の神達はその隙を待っていたのだ。
神祖フェンリルがまさにその命の灯を消さんとする時、3柱…否、愚かな3人の神が神祖フェンリルを殺そうと人の子を捕らえ、神祖フェンリルを誘き寄せようとした。馬鹿なものだな。
だが結果として所詮は神によって作られた最高傑作と紛い物の神。人間の信仰心でしか力を得られない愚神。戦いは…否、蹂躙は瞬く間に終わりそして3人の神は死んだ…そして、神祖フェンリルも彼女を助け出し安堵したのか、その輝く命を潰えした」
「興味深いな」
異世界の神話か…そりゃあるよな。ここだって俺のいた世界ではないだけで生きて考えて行動する知的生命体がいるのだから。いや、案外本当のことなのかもしれないな。魔法だってあるし、おかしな話ではない。
「しかし…狡猾な神は死を偽装していた…いや、偽装というよりは死にはするが最後の力を振り絞ったと言うべきか…
死した我らが神祖を汚し、侵し…神祖の肉体から、あのおぞましき生物共を作り上げたのだ」
「それが、ヴァリアントなのか?」
「そうだ。我らの姿を真似、我らに近づき、狡猾なる神に植え付けられた命令を…神祖フェンリルの子孫を根絶やしにしろと、あれほどに愚かで間抜けな種族そうはいない」
「…なるほど」
エルヴァがか?馬鹿な話だ。そんなわけ無い。
そして獣王は厳かに言葉を続ける。
「異世界の旅人、コダマよ。貴様に渡したエリクサーは貴様の仲間を救う為ではない、これから死する最後の愚者へのせめてもの手向けだ」
「なに?」
「貴様をここに呼び出したのは勿論、我が手先となってもらうためではあるが…同時にあのおぞましきヴァリアント、そして世界の仇敵である魔族と手を切ってもらうためだ」
所作までなんだか芸術品のようだと一瞬見惚れて獣王が手を挙げると全方向から槍を向けられる。
「今、決めよ。獣神皇帝ヴァナルガンドの忠実なる僕となるか…ここで女共々殺されるか」
…そういや話に夢中で忘れていたがトビィが一言も話さない…というかこれ…立ってるだけの抜け殻じゃね?
「一応言っておくが、あの国の低レベルな兵士と我らが屈強なる兵士を同じだと思うな。格が違い過ぎるからな」
「……」
「一応聞いておくが…考える時間とかは?」
「言ったであろう?今ここで決めよ」
一応念のためにといつでもゼウスは発動出来るし攻撃されてもベルセポネでリカバーはできるだろう…
だが、それは相手の手の内がわかってる場合だ。今対峙してるのは獣神と呼ばれる化け物。決して弱い筈がない。そして後方の兵隊たちもまた…背中に向けられる殺気は小便でもちびりそうだ。
「どうした?まさか、のこのこと着いてきたのは適当な仕事でも任せられるとでも思っていて覚悟が出来てないとでも言いたいのか?」
「うーん…いやー…何というか…」
都合がいいと言うか最早見計らっていたとでも言うべきか。しゃがんでくれると助かるなと聞こえた気がした。
咄嗟に身を屈めると同時に刃が城の外から振るわれる。
それは容易に城の壁を切り裂き兵士の何人かを斬り伏せるがヴァナルガンドによって止められる。
「小癪なッ!」
「完璧な不意打ちでも止められるとかどんだけ化け物なんだよ…」
「仮にもあの災厄の獣の名を冠してるからね。強いだろうよ」
「……アクト!」
一瞬でも呆気に取られてくれたなら上々だ。
声のする方に跳躍すると城の壁が粉々に砕け外に出られた。
「ふいー…マジで死ぬかと思ったぜ」
「……安否は後」
「ムカデは皆殺し」
どうやら全員無事のようだ。それにしても彼女の口からムカデって久しぶりに聞いた気がするな。
「追え!1人として逃すなッ!」
「「「おおっっ!」」」
「やっべ、トビィ!全員抱えて飛べるか!?」
「勿論さ!」
「だったらこっちのこと気にすんな!とにかく全力で飛べぇぇぇっっっ!!!」
「委細承知さ!」
トビィが指を鳴らすとどう言うわけか3人が宙に浮かび上がり…同時にトビィが飛び立つ。彼女の魔法なのかは不明だが…一瞬で獣人の国の入り口あたりまで飛んでいた。
「はははっ!舌を噛まないようにね!」
「わがっでぇ!」
「もう、言ったそばから…あとで消毒しておくよ?勿論僕の口で?」
「……トビィ!」
「久しぶりに本気で飛んだのさ!気分は最高だよ!」
まあ、兎に角連中の目の届かないところか最悪…ここの領土抜けるまで…
「あっ…」
「…うん?」
「いやー…ははは、久しぶりすぎて…ちょっとペース配分間違えたかなー…って」
「「「……」」」
「てへっ」
「ふざけ…なぁぁぁぁぁっっ!!!」
上空何メートルとかは知らないが…強制フリーフォールが開始された…




