反撃開始
「……」
「ほら、照れるなって!」
『ギギッ…』
巨人の攻撃も蛇腹剣を伸ばした状態で受け切れる様になった。あの魔眼もおそらくは連発できない筈だ。それに攻撃も…チマチマとだがベヒーモスで攻撃を行えている。
「安心してって。僕がちゃあんと面倒見てやるからさぁ!」
あともう一つ、この攻撃だ。
今度は自分とエルヴァを囲む様にリヴァイアサンを展開する。
不可視の魔弾があらゆる方向から飛んでくるのだ、厄介過ぎる。見えなければワルプルギスでも対応出来ないし、威力も巨人の拳よりもある様で初撃の時は剣が弾かれかけた。
ペイルの少し後ろの辺り…あそこだ。
撃ち出されている場所は分かっている。僅かに魔力が漏れているのを確認している…
だがどうにもワルプルギスで無力化出来ないのだ。
「……それもナンタラ兵器?」
「ん…?なんのことだい?」
「……」
攻撃は仕掛けてみるもののやはり巨人にガードされてペイルまで届かない。
もっと速く?違う、鋭く攻撃力も、隙を見つけなきゃ…
エルヴァを守らないといけない、戦って勝たないといけない。生き残らないといけない。
攻撃、防御、攻撃。繰り返し何度も行うが相手の弱点が見えてこない…
巨人に気を取られたら不可視の魔弾に…だからって魔弾ばっかりだったら巨人に…
「アルマ、観念してくれって…これ以上手こずらせるなら…僕も本気で戦っちゃうよ?」
気持ち悪い笑みを浮かべてきて寒気がした。本当に嫌いだこいつ。
ーーーーー
「何避けてんだよッ!』
『ほざけ!』
魔力消費量は激しい…一回振り回すたびに【クラウノス】並に魔力を持ってかれる。肉体を無視すれば魔力の尽きる事のないゼウスと違ってオーディンは魔力回復手段がポーション以外にないのだ。
婆さんが作ってくれたのも残り1本…無駄には出来ねえ。
しかし相手は素早く簡単に避けられてしまい先程から地面に大穴や地割ればかり作ってしまう。
『消耗戦じゃのう』
「チッ…ちょこまかと」
先程とは違い、攻めに転じてはいるが劣勢なのには変わりない。
「この…クソトカゲ野郎がッ!』
杖の先の球体の炎が一回り大きくなり済んでのところで避けようとしていたのだろうヘキサの腹部を溶かし砕く。
『ゴプッ…きさ─』
「逃すわけねえだろうが!』
此処ぞとばかりに慌てて飛んで逃げようとしたヘキサを地面に叩きつけると何度も星砕きを叩き付ける。
地面が割れ、砂塵が舞い、それでも幾度と無く叩き付け…
「…ん?」
見覚えはあった。たしかトビィも負けかけた時に進化して…中身の抜けた魔石の様な皮を残していた。
『なるほど、ドラゴンは敵に合わせて進化すると聞いておったが…こうなるとはのう』
慌てて距離を取るが相手は自分の方が優勢とでも言いたいのだろう余裕そうに砂塵から姿を現す。
漆黒の鎧に包まれたヘキサ生物的と言うよりかは無機質で…まるで機械のドラゴンでも見てる様だ。特徴的な10本のツノを恐らく本体であろう頭部から生やし、所々から生えている刺と背中から生える翼は分離され武器の様でもあり、同時に彼を守ってるかの様に周りを浮遊している。そして何よりも…下半身が竜や熊、獅子など強いと思われる生物を混ぜ合わせた様な見た目をしており、何よりも…不気味な七つの竜の頭が此方を睥睨している。
「きっも…』
『ドラゴンの肉体というのは随分とまあ…素晴らしいものじゃのう』
気付けば俺は宙を舞っていた。なんだこれ?
背中に伝わる凄まじい衝撃とベルセポネによる急速再生。マズい魔力が底をつく。
『くく、ふはははっ!良い、良いぞ!』
「や…べ……』
息を吐く暇もなく、瞬きの間にヘキサの周りに浮いていた刺やら翼やらが何本も腹に刺さっていた。
クソトカゲより化け物じみてやがる。
「ゴボッ…体勢を立て直さねえ─』
『逃げるのか?愚かしいのう…』
両足から不快な音がした。それは全身を伝い次の瞬間には体を丸め痛みにのたうち回り始める。
「が、アッ…ぎゃァァァァァッッ!!』
痛みで考えが纏まらない、やば…逃げ…
後退りしながら少しでも距離を取ろうとするがあの距離を一瞬で詰められたのだ。逃げるだけ無駄だろう。
鎧越しのヘキサの冷たい眼が俺を睨む。
『ふむ…さて、どうすかのう…』
「…ぐっ…こんな所で死ぬくらいなら…てめえらの仲間にでも何にでもなってやる…』
『ほう?』
落ちていたレーヴァテインを拾い上げると星砕き【魔杖】へと姿を変える。
『これだけで十分じゃわい』
「なっ…!』
ヘキサが星砕きを掲げると俺の時の何十倍もの大きさにもなった杖の先の火球が胎動する。
ああ、そうかい。俺は必要無いってんだな。
いくらエンチャントでも防御しきれない。死んだなこりゃ。
案外あっさりと俺は自分の死を受け入れた。
『安心しろ、わしがあの女共もこの武器も活用してやるわい』
振り下ろされた星砕きによって俺は粉微塵になった……
パンッ
辺りに乾いた音が響いた。何事かとヘキサは辺りを見回すとおかしなことに気づく。
肉体の変化は?それに奴の武器も…
進化したはずのドラゴンの肉体はそのまま、手に持っていたはずの武器は手元にない。
「いい夢見れたか?クソじじい』
『…ッ!?』
馬鹿なと振り向こうとしたとき、鎧を貫通し槍が左大腿から突き出て来た。無論、本当の肉体ではないのでダメージこそ無いが…
『ぬう!?』
「キッドとかいう奴に刻印したのは再生だったが…同時にそれは死でもある…うわ、なんか恥ずかしいなこれ』
クルクルと槍を回しながら顔の前で手を振っているが此方はそれどころではない。
魔石を破壊された?馬鹿なあり得ない!
「体内の6つの魔石が同時に壊されない限りは他の魔石が壊された魔石を修復させるはずなのに…か?』
『貴様…何をした!』
目の前の取るに足らない雑魚…否、今や未知の能力で体内の魔石を壊し、片膝を着かせたコダマとかいうこのガキ…
「オーディンもそうだが【エンチャント・夢幻】での肉体付与は何するにしても魔力を消費する。
刻印付与、千里眼、それに1度きりしか使えない魔法創生』
トントンと軽く槍で肩を叩きながら後ろから回り込んで正面にコダマが立つ。
「幻影の魔法。俺は2度と使えないが…魔法って便利だな。まんまとバカが騙された。そして千里眼による魔石の埋め込まれた場所の把握』
『いつからだ?』
「さぁ?いつだろうか?』
槍を地面に突き刺すと腰にさしていた剣を抜き炎に包まれ…杖の先に炎の球体を持つ魔杖に姿を変える。
「どうでもいいことだ』
『きさ─ガッ!』
顔面に思い切り星砕きを受け鎧が溶け砕ける。
「なんだ、ツラはトビィなのか。てめえの悔しそうなのを拝めると思ってたのに…非常に残念だ』
剣を納め槍の穂先を向けてくる。
「さっさとその体。返してもらうぞ』
ーーーーー
「…やあっ!」
リヴァイアサンが進化したことによって作り出した海水を自在に操ることができる様になったが…それでも尚、巨人を倒せない。
「いい加減に諦めたら?」
「……そんな選択肢は…ない」
「あっそ」
そもそも巨人はただでさえ皮膚が硬いのだ。そのくせに鎧を着るとは…
過去に父に連れられ巨人の領を歩いたが、みんな隠す場所以外は裸だった。寧ろ肉体に傷を負うというのは誉れであり鎧を着るなど言語道断だ。
それに改造されたにしたって…いくらなんでも硬すぎる。
幾重にも重ねられた魔法だけならどうにでもなるが、魔銅合金製の鎧なのかワルプルギスもどうも上手く発動しない…
「無駄だよ。理解出来る?コイツ1つで国とやってけるって設計したんだから。たかが一個人にどうすることもできない」
「……その割には未だ…に私を殺せてない」
「はぁ?当たり前だろ?手を抜いてやってんだか─」
「……強い人の後ろに隠れて口先…だけ偉そうで…貴方大したことないね」
ピクリとペイルの眉が動いた。行けそうだ。
「……手を抜いた?必要の無いって決め付け…た、エルヴァを殺すこともできないで…何が兵器?」
「…おい」
「……やーい、やーい。口先だけのヘッポコナナフシモドキ…あっかんべー」
「僕が温情をかけてあげてもいいって言ってるのに、お前は僕を馬鹿にするのかッ!」
「……貴方みたいなのをアクトの世界…では、能無しふにゃちん野郎って言うんだ…って、その通りだね」
やっぱりそうだ。ペイルがあからさまに苛立ちを見せる度に彼の後ろの空間が歪み断片的に隠されている何かが見え隠れする。
魔法じゃ無い技術…か、アルマが未熟…か…どっちにしても後ろのがどんなのかわかった。
「僕が、僕が僕が僕が僕がぁ…決めた。お前もそこのヴァリアント同様に殺す!泣いて喚いて!僕の○○○しゃぶらせてやるよ!あの異世界の猿の前でなぁ!」
「……本当に口先だけは達者…だね。口先だけは」
見えた。
デンの使うライフルよりも巨大な砲身にいくつかメモリの様なものが付いている。ただ奇妙な事にぐにゃりぐにゃりとまるでペイルの感情に左右される様にどんどん姿を変えていっている。
…僅かな魔力ではわからなかったが…あれがエルヴァのお腹に穴を空けた正体?
「死ねよ、このゴミ屑が!」
「……それは貴方」
見えて、どこから飛んでくるのかが分かっているのなら対処など簡単だ。
伸ばしたリヴァイアサンで簡単にガード出来る。
「…ッ!」
「……勝ち目なんてないよ?」
巨人もそうだ。槍状になった水が刺さっている部分がある。
あれはたしか…
エルヴァが死にかけているけど…急がば回れだ。落ち着いて冷静に行動して、さっさとコイツらを殺そう。




