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宣戦布告



「どうしたよ、王国の勇者様」

「…くっ」

「エイジ!」


 【魔獣連装】と奴は言った。

 それは彼の付けている禍々しい足甲の名前なのだろう。

 三度攻撃を食らった。そして奴は三首の魔獣装(ケルベロス)と言った。

 右足の黒く分厚い足甲は漆黒の炎を纏い、逆に左足は薄くしかし決して柔らかくはない装甲を纏っている。


「悪いが女だろうがぁ、容赦する気はさらさらねえ!」

「【真・鬼神纏】!」


 ツバキの中での最高の防御スキルではある鬼神纏…それを鍛錬の末更に強くしたそれは5人の中で1番の防御性能を誇るだろう。

 ツバキが黒い鬼神の鎧に包まれると同時にキッドと呼ばれたガキの一撃が腹へ入る。


「はっは、それは悪手だ」

『ゴボッ』

「…ッ!?ツバキ!」

「冥府の炎を全てを焼き尽くす。んでもって、俺は俺で親父から鎧通し?ってのを受け継いでんだ。まあ、もろに食らっても大ダメージだったけどなぁ」


 鎧が音を立てて崩れていき中から出てきたツバキが血反吐を吐いて倒れる。

 あの無能の時もそうだ。どうしていつもいつも俺の大切なものを傷付けておいてヘラヘラしてやがる。


「……ぞ…」

「あ?」

「…許さねえぞ、クソガキがッ!」

「あっ…」


 大罪のスキル。それは誰しもが習得する可能性があると前にメルカが言っていた。

 この身を焦がすほどの熱い炎が体から溢れ出る。目の前の怨敵を…愛する女を傷付けた敵を殺せと。そう、囁いてくるようだ。


「【装甲纏・大罪】」


 頭に思い浮かんだ言葉を唱えると全身から漲る炎は両腕と両足を包み込み真紅の鎧へと姿を変える。


「…ふむ」

「テスー!テスーっ!ヤバイ!!」

「だいじょーび。マジでやばくなったら助けるから」

「んな、こと!?」


 呑気に話してるので顔面に1発入れてやろうと思ったが住んでのところで避けられてしまう。勘のいいやつだ。


「チッ…ふざけやがって」

「…ふざけてるのは貴様らの方だ。人の大切な物を傷付けておいて」

「大切だぁ?だったら鍵のある部屋に閉じ込めておけよ!」

「…会話も出来ない低能が」


 拳を構える。この一撃で沈めてやろう。



ーーーーー



「だー!もーっ!邪魔くさい!」

「こ、ここから先は行かせません!」


 決して強くは無い。だが的確に防御されて攻撃を全て弾かれると言うのは苛立ちが増してくるものだ。

 プレゼンターの肉体へのエンチャントの付与はかなりの数らしく次元を斬り裂く前に止められてしまう。


 キッドの方もヤバそうだし…テスは見てるだけ…どうすんのよこれ!


 テスタロッサとキッドは幼い頃からの知り合いである。キッドは両親同士の付き合いから姉弟の様に育ってきた。テスは…なんか研究員なのだが近所の適当な兄貴分って感じで…だからこそこの状況で余裕ぶって見てるテスタロッサにも苛立ちを感じる。


「【エンチャント雷撃】!」

「…ッ!」


 とことんコダマを真似するらしい。今度は雷まで飛ばしてきやがった。


 雷の柱を避けて今度こそと刀に手をかける。最速で腕さえ飛ばせばもうエンチャントも出来な─


「グハッ!」

「キッド!?」


 後方から飛んできたキッドが背中に当たり態勢を崩してしまう。


「ちょっと何すんのよ!」

「無理ぃ、急に強くなるなんて卑怯だろうが…」


 見れば既にボロボロで所々燃えてたりする。熱く無いのだろうか?

 そしてキッドの相手の拳聖…全身に重く全てを焼き尽くしそうな憤怒の炎を揺らめかせこちらへと向かってくる。


「大罪スキル?」

「憤怒のやつ」

「はぁ?あれってセルンの元勇者様のじゃないの?」

「知らねえよ。俺が聞きたいくらいだ」


 兎も角、背中合わせに…あ、ヤバイ勇者と賢者も復活した。


「こう言うのなんて言うんだっけ?」

「八方塞がり?」

「4つのやつ」

「四面楚歌?」

「それだわ」


 どうしようもない。逃げ場もなく、勝ち目も薄い。


「んー…まあ初戦にしては上々ってとこかな?」


 何やらメモを書き終えたテスが満足気に私たちの前に立つ。


「どう?殺し合い」

「別に…」

「どうって言われてもなぁ…」

「まあ、本来は子供の役目じゃねえからね」


 テスは楽しげに笑うと芝居掛かった口調で勇者達に告げる。


「やあ、勇者諸君。俺ちゃんの実験に付き合ってくれてありがとうネ。お礼と言っちゃあなんだけど…」


 奇怪な音がした。魔力を噴出する音にも聞こえなくもないが…音が鋭く高い。

 その音は空の…否、今こちらへと飛来した黒い飛翔体から発せられているものだった。


「俺ちゃんの本気、見せちゃうよん」


 私もキッドもテスへの考えを改める必要があった。

 倒れた勇者を蹴り飛ばして「行こうか」といつも通りふざけた感じのテスタロッサ。


 何よ、こんなに強かったわけ?



ーーーーー



 王城内は蜘蛛の子を散らす様だった。貴族我先にと逃げようとして城の入り口で詰まり、挙句に王ですら自身の子らを逃がそうとしているのだ。


 帝国が攻めてきた。


 それは捕らえた帝国の従者からの情報とは明らかにかけ離れた戦闘能力を持ち、勇者達に何度目かの敗北を迎えさせた。


「コダマだけではない…クソ!何故、我が国の勇者はあれ程までに弱いのだ!」


 無論弱いというのはあくまでも限定的な話。広い目で見れば人間の中でもかなり上位にいる。だが相手が悪かった。ウォーデンもコダマも、そして今回のテスタロッサも。


「陛下!」

「なんだ!今は貴様らなんぞに構ってる…暇…など…」


 城には勿論、秘密の抜け道がある。そこを通れば絶対とは言えずとも高確率で見つかることもない…筈なのに。


「あっ、どうも〜。帝国軍異界部隊長改め、国際同盟軍第二部隊隊長のテスタロッサでーす」

「父上!」

「この…妾を誰と思っておる!」

「まあまあまあまあ、落ち着いて。騒ぐと厚化粧の上からシワが目立ちますよ?」


 王の間に入ってきたのは先日の帝国の人間…今すぐに殺してやりたいが妻と実子に剣を向けられ兵士も誰も動けない。

 だがそれ以上に…


「国際同盟…じゃと?」

「んあ?そうそう。国際同盟。俺ちゃん達帝国、それに傭兵国家、宗教国家、水上国家…その他諸々。全部が全部あんたらに恨み辛みのオンパレード持ちだ。わかるだろ?自分らが踏み固めた死体の上で過ごしてることくらい」

「それは、つまり…」

「そう!宣戦布告!代表は俺ちゃんじゃないけどして来いってさ!ほら毎年俺ちゃんら戦争してんじゃん?折角だからどお?カールマイド対国際同盟。君ら亡んだら土地はみんなで仲良く分け合いましょって」


 何を言っているんだ此奴は…そんな事すれば


「世界が滅ぶぞ?」

「滅ぶぅ?まーだ、自分ら中心に世界が回ってるとでも?それはお生憎様。勇者召喚の魔法陣は既に盗ませてもらったよん。いやー、本当にセコいね。最初に確立したのは確かに君らだけど、ご先祖様が俺ちゃん達に教えてたのって…あれわざと人数少なくなる様にでしょー?ずっこいわー、これだから王国の人間は」


 好き放題言うだけ言うと部下に指示を出し王妃と王子を離す。


「ほんじゃあ、まあ…来年の夏に会いましょうね。王国の方々。あっ、亡命とかは無いので戦争始まったら無条件に王国の人間皆殺しにするからよろしこ〜」


 ひらひらと手を振るとそのまま行ってしまう。


 追ったところで返り討ちに遭うのが関の山だ。


「…メルカよ」

「はい、此処に」

「どの様な手を使ってでも構わん。コダマを手中に収めよ。その際に…あの使えぬ勇者どもがどうなろうと構わん」

「…はっ、了解しました」


 静かにメルカが去った後、泣き噦る息子と妻を抱き寄せる。決してこの国は滅ぼさせぬ。たとえどの様な手を使おうとも…


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