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王たる魔物

「これで4匹目。

 ほら、次だ。さっさと来いや」

 

 今度は本当に杞憂だった。

 統率の取れたオーガ。どれほど恐ろしい物かと考えていたが、逆だ。弱体化してた。


 オーガは頭も悪く何よりも仲間意識というものがない。


 だからもしオーガ複数との戦闘になった場合にはお互いの拳や武器が仲間を傷付けてもお構い無しに、なんならオーガ同士で殺し合いを始めたりする。


 ところがどっこい、コイツらは変な仲間意識があるのか味方に攻撃が当たりそうになると攻撃が止まる。


 だからひたすら突っ込んで1匹の近くに近付いて攻撃が止まった隙を狙って焼いて斬っての繰り返し。

 そして最後の1匹も今終わったところだ。


「あとはお前だけだ。丁寧に焼き切られたいなら、そのまんまでいいがな」

『…そうか、所詮鬼は鬼…知能など持たせればそうなるか』


 ゴブリンロード立ち上がる事もなく静かに睥睨してくる。


 勝てるのか?

 前見た資料じゃランク5。今よりもずっと格上の存在だ。

 勇者として召喚はされた。それに見合うのかは別だがスキルの使い方を覚えた。

 それでも勝てるかどうかわからない。


『ふう…そう、警戒せずともよい。

 我とて傀儡。ソコな肉塊共と同じく捨て駒に過ぎぬ』

「…何?」

『…我は負けたのだ、ここはとうの昔に我の領土ではない。貴様ら人間共のものだ』


 厳かに話すクォルタはとてもじゃ無いがゴブリンになんか見えない。

 なんなら俺を召喚して、働かせていたあの王様なんかよりよっぽど王様っぽい。


 そしてクォルタは三度、口を開く。


『主人にな、時間を稼げと言われたのだ。

 ウヌは我が力に恐怖してた様だが違う。実際の我はもう…立つことすらままならぬ』

「…もしかして魔物奴隷か?」


 コクリと頷く。

 聞いたことがある。アルマみたいな人型の奴隷の中にも一定数いる戦闘奴隷。

 他者を殺すことしか考えられぬ物言わぬ人形だ。それと同類かそれ以下。それが魔物奴隷。言ってしまえば…使い捨ての駒だ。


 索敵や偵察に使われ、不要となれば突撃でもさせられて処分される。


 ゴブリンロードが?いや、見掛け倒しじゃ無い。

 資料にだって書いてあった。ゴブリンを率いる一騎当千の王って。

 実力差を知らずに討伐しに行き毎年何人もの人間が殺されてるって。


『ウヌ、名は?』

「コダマ アクトだ」

『アクトか。聴き慣れぬ名だな。

 その髪色といい…東洋人か?まあ、よい。

 調教されてたとは言え、よくぞ大鬼共を倒したな。褒美をやろうぞ』


 そう言うとクォルタはクイっと親指で己の首を斬れとジェスチャーしてくる。


 …は?


『我の首にはな、少なくとも金貨500枚程度の値が付くぞ。

 ああ、そう言えば首ではなく、討伐証明部位なる物が必要だったのだな』

「ちょ、ちょっと待てよ!そんないきなり言われても…」

『…?ウヌとて、我が同胞の首を刈りに来た冒険者であろう?』

「いや、そうだけど…」

『何を迷っている?早うせい。でないと我は戦い抜いた王としてではない。惨めな奴隷として死ぬことになる。

 それでは先に逝った同胞共に顔向け出来ぬ』


 …わかってる。目の前のゴブリンロードが目に見えて弱ってきているのを。

 魔物奴隷は契約の楔と呼ばれる物を打ち込まれて初めて契約が完了する。

 

 それはゆっくりと体内で毒を出しながらじわりじわりと寿命を蝕んでいく物だ。


 そして活発に動けば動くだけ魔力が体内を駆け巡り、毒は体を周りにくくなる。

 ならば動けなく慣れば毒が回り始めやがて…


「あの、一つだけいい…ですか?」

『なんだ、急げ』

「…過ちを犯した時に貴方はそれとどうやって向き合いましたか?」


 クォルタはまるで時間を止められたかの様に動かなくなる。

 

 えっ、もしかして死んじゃった?

 だが、そんな考えはまたもや杞憂に終わった。森中に響き渡る様な声で笑い出したのだ。


『くく、ははははッ!過ち?過ちだと?はははははッ。ウヌ、良い、良いぞ。これで笑ってあの世に行けるわ!はははは!』

「ちょ、こっちは真面目に」

『くく、良いかアクト。

 過ちを犯した時?それはどれだ?生まれ落ちた時か?他者を謀った時か?或いは親しき者に手を上げた時か?

 違う、自己の存在など他人から見れば邪魔で邪魔でしょうがない、ならば他人から見れば自己の行うことは全て見下すべき過ちであり、他人の行う事も自己から見れば嘲笑すべき過ちだ』


 なんて暴論だ。


『だがな、本当の過ちなんぞ無い。

 ウヌら人間ほど矛盾して過ちを犯してない生物などいないからな。過ちを正すと言うならウヌらを滅ぼした後にこの世の生き物を全て滅ぼし己らさえも滅ぼさねばならぬ。

 それに過ちを責め、反省すると言うなら大祖父(おぞふ)の代などでは足りぬもっともっと過去に戻って責めよ』

「は、はあ…?」

『過去は気にするなと言う事だ。

 生物は過ちを犯し学ぶ、そこで折れればそれまでだ。そこで折れなければまた過ちを犯し学ぶ。死ぬその時まで犯し学ぶ』


 それだけ言うと静かに座っていた椅子にもたれる。


『気は済んだか?』

「…ああ、なんかありがとう…いえ、ありがとうございます」

『なら、よい。斬れ。

 冥土の旅路に良い土産が出来た』


 剣に炎を纏わせ構える。

 魔物に…いや、偉大なるゴブリンロード クォルタの送り火に。


 最大火力でそれでいて無駄もなく痛みもなく首を刎ねる。


『げに、見事なり』

「…ありがとうございます」


 ごとりと落ちた首は満足気な顔を浮かべていた。

 討伐証明部位であるゴブリンの冠を取り遺体は木の根元へ埋める。


 爪と牙、体内の魔石も取らない。

 

 これ以上遺体を傷付ける必要なんてない。


「……よし、行くとしよう。

 そして…アルマに謝ってみよう…」


 金をちらつかせるつもりはないが、これだけあれば好きな武器も買ってあげられる。

 美味しいものも食べさせてあげられる。


 そんな時だった、狼煙が上がった。ただし討伐完了の緑の狼煙じゃない。緊急用の赤い狼煙だ。

 

 まあ、十中八九ゴブリンロードの事だろうな。


 森の入り口へと向かう。別に不安要素なんて何もないはずなのに、何故か無性に不安な気持ちが押し寄せてきた。



ーーーーー



 歩いて30分ほどやっと森の入り口へと着くと一緒に来てた他の冒険者達がもう殆ど全員戻ってきてた。


 アルマはどこだ…?


 見渡す限りではいないしクララとデンもいない。

 まだ戻ってきていないのか?


「はーい、大体集まりましたね。

 えーとですね…ゴブリンロードが現れました」


 作戦に同行してたギルド職員がそう言うと冒険者達がざわつき出す。


 面倒臭くなりそうだから後でコッソリと受付の人に話しとくか。


「ご安心くださーい!ランク7のパーティー、ダインスレイヴの方々がやってきてくれました!」


 あっ、やっぱ早めに言ったほうが良さそうだな。


 冒険者達の前に呼ばれたのは3人組の男たち。誰も彼もが高そうな防具に身を包みドヤ顔をしている。


「そうだ、俺たちが来たからもう安心だ」

「ただ、ゴブリンロードに集中した結果他のゴブリンが疎かになる可能性がある」

「君達には、そのゴブリン達を倒してもらいたい!

 無論、これは個人的な頼みなので断っても大丈夫だ」


 ワイワイガヤガヤと始まったのでそっと抜け出して手持ち無沙汰な組合職員の1人にこそっとゴブリンの冠を渡す。


「えっ…これって…ゴブリンロードの冠!?」


 バッと全員がこっちを見る。やっちまった。声出さないでって言っとけばよかった。


「しょ、少々お待ちを!今、鑑定してくるんでー!」


 早足にその場を去ると途端に今度は一緒に来てた冒険者達が群がってくる。


「マジか、お前ランク0だよな!すげー!」

「どうやって倒したの!?」

「やっぱ元勇者様は違うなぁ」


 小っ恥ずかしい。

 今までの人生でそんなに褒められたことはなかった。初めての体験だ。


 しかし、それが気に食わない者もいる。


「おい!」


 ビクリと群がってた冒険者達が肩を震わせるとモーセの海割りの如く一直線に俺まで道ができる。


 呼ばれたのに無駄足となったダインスレイヴの方々だ。


「ランク0のお前が…あ?

 もしかしてクビになった元勇者か?」

「え?うん、そうだけど」


 途端にゲラゲラと腹を抱えて笑い出す。


 クォルタを見習って欲しいものだよ。


「そうか、お前がそうなのか!

 どんな奴かと思えばやっぱりお前みたいな貧弱そうな奴なんだな」

「初対面の相手に失礼だとか思わないのか?」

「は?思うわけないだろ。腰抜けが。

 お前噂になってるぜ、魔王討伐に参加できなかったからって魔族の奴隷を買って腹いせに虐めてるってな」


 なんじゃそれ。聞いた事もない。


 いや、昨日の事を見られたのかもしれない。なら俺が悪いししょうがない事だ。


「まあ、いいさ。ゴブリンロードくらい俺でも勝てるからな。

 まあ、良かったじゃないかその貧相な装備も素材で多少は強くなるんじゃないのか?」

「…素材は剥ぎ取ってない。討伐証明部位だけ貰ってきて埋葬してきた」


 今度は先ほど以上にそれこそ息が出来ないほど笑い始める。

 下品だし一体何がおかしいのだろうか?


「ひっひっ…ぐふっ…お前、知らねえの?魔物って素材剥ぎ取るんだよ?

 それとも異世界の勇者様には難しちゅぎまちたかー?ギャハハハ!」


 低俗だなぁ。


「おい、行こうぜ。埋葬しちゃった偉い子ちゃんは素材がいらないんだとよ。

 勿体ないから俺らでいただくとしよう」

「待て、流石にそれはダメだ。

 あの人は王として1人の戦士として生まれ育ったこの地に眠らせた。

 死体漁りがしたいなら墓地にでも行け」

「は?」


 気に食わなかったのだろう。

 腹を思い切り蹴飛ばされる。大して痛くもないが。


「さっきから何なんだお前?

 そんなんでよく冒険者なんて出来ると思ってんな。

 いいぜ、腰抜けな後輩には教えてやるよ。冒険者ってのがどんだけ大変な仕事だってかをな…」


 1人は剣を、1人は杖を、もう1人は槍と盾を各々が装備を取り出す。

 

 多分相当強いんだろうな。それに…多分こうやって格下相手に調子づいて喧嘩吹っかけるのは初めてじゃないんだろう。慣れてるし。


「お、おい!やめろって!」

「ダインスレイヴの方々もやめてくださいよ!」


 しかしそんな声も聞かずにジリジリと距離を詰めてくる。

 対人戦は初めてだが大丈夫だろうか?うっかり火力強めてヴェルダンにしちゃわないようにしないと。


 剣を引き抜くと牽制程度に巨大な炎を作り出す。

 やれるもんならやってみろと。


 だが戦いの火蓋が落とされる事はなかった。

 聞き覚えのある声が聞こえてきたからだ。


「アクト!アクト、いるか!」

「あれ、デン?どうしたんだ?」


 剣を納める。

 声のする方を見れば再び人垣が割れデンとクララがこっちにやってくる。


「チッ…」


 流石に不意打ちかましてくるほど蛮族でも無かったみたいだ。

 ダインスレイヴの面々も武器をしまってくれた。


 正直助かった。絶対勝てないもん。と言うか勝てるわけがない。

 数の利もあるし、何よりも手練れそうだし。


「アルマ来たか?」

「え…?」

「おいっ!アルマだよ、いい加減にしやがれ!アルマどこにいんだよ!」


 クララに胸ぐらを掴まれてそんなこと言われた。


「…一緒じゃないのか?」

「ゴブリン達と戦ってたら急にどっかに走っていって…それっきりだ」


 迷子?ゴブリンに捕まった?後者はともかく前者はありえる。

 

 お腹を空かせて動けなく?いや、流石に非常食くらい持って…


 とにかくこの場で考えてたって無駄だ。

 もう一度森へ…


「どこ行くんだよ、おい」

「…あの、邪魔なんで退いてもらえます?」

「じゃあ、認めな。

 僕は弱くて腰抜けな元勇者です。ダインスレイヴの偉大な先輩達に刃向かってすみませんでしたってな」


 何なのだろうか、他者を下に見なければ己の存在価値を見いだせないのか?


「…僕は弱くて腰抜けな元勇者です。ダインスレイヴの偉大な先輩達に刃向かってすみませんでした」

「いいぜ、優しい俺たちゃお前みたいな屑のことも許してやるよ」

「んだと、テメェ!アクトはなぁ、むぐぐぐ」


 屑はどっちだよ。

 まあ、いい。無駄に血を流す必要なんてない。

 さっさと退いてもらってアルマを探しに…


「…何してるんですか?早く退いてくださいよ。偉大な先輩方」

「なんだよ、こっちは親切にしてやってんだぜ?

 魔族のガキなんざ連れてて、きっと洗脳されてるんだろ?

 だから大丈夫だって、俺たちが処分しといてやるよ。あのガキ」


 プッツンって音した。

 多分頭の血管切れたんだろう。


 ゲラゲラと笑う連中の武器を根本から叩き斬る。

 反応出来なかったんだろう。何が起こったってマヌケ面晒してる。


「俺は殺されたっていいし馬鹿にされてもいい、そういう最低な人間だ。

 クォルタも…ゴブリンロードの墓を荒らしたって目を瞑る。生者は死者の屍を超えて前に進む。

 だが、あの子は関係ない。ただの、どこにでもいる普通の女の子だ」


 刀身の炎が揺らめきだす。

 今この場で剣を振り下ろしたい。コイツらなど一瞬で消し炭になるだろうし。


「…2度と近づかないでくれよ。偉大な先輩方」


 こんな連中の相手してる暇はない。

 今はアルマだ。最優先すべき事は彼女の捜索なのだから。

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