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俺は久しぶりに気分よく帰り道を歩いていた。今まで俺の周りをうろちょろしてた違う学校の奴をシメる事が出来たからだ。ただ雨なのが少し残念だが。
家までの帰り道を歩いていると、道のそばで屈んでいる女がいた。近づいてみるとそいつは学生だと分かった。
(へっ、あれは俺の嫌いな頭のいい学校の制服を着た奴じゃねか。一気に気分が悪くなっちまったぜ。)
俺はそいつの後ろを通る時に思いっきり舌打ちしてやろうと思いながらドスドスと近づく。さっきは影になって見えなかったが、彼女の前にダンボール箱に捨てられた3匹の赤ちゃん猫がおり、ニャーニャーと餌をねだるように鳴いていた。
(なっ、なにー!?おおおお、俺様の大好きなニャンコ様じゃねーか!それを捨てるなんてあのくそ忌々しい学校の女、ぶっ殺してやる!)
俺が駆け出して女にドロップキックをブチかましてやろうとした時、彼女はキョロキョロと周りを見回してから、鞄から特大の煮干し袋を取り出しそこから猫に煮干しを食べさせ始めた。
(んなにぃ!ここここ、この女、子猫ちゃんを捨ててわけじゃなくて可哀想だから餌をあげようとしていただけだと!ししししし、ししかも猫に優しい煮干し!わかってやがる!ヤベェ!なんであんなデケェ袋に入った煮干しを持ち歩いてるかは分かんねぇけど、とにかくヤベェくらいできた女だと分かったぜ!全く、俺としたことが早とちりしちまったようだな。ただこのままだと猫ちゃんが雨で凍えちまいそうだな。)
俺は彼女の横まで近づいたが子猫に餌をあげるのに夢中で全く俺に気づく様子がない。それどころか可愛い子猫ちゃんに触れ合える事が嬉しいすぎて、整った顔を見ちゃいけないほど完全に弛ませてていた。
俺はん゛ん゛と喉を鳴らして存在を彼女に知らせる。ピクッと身体を震わせ、ギギギギギ、と首をこちらに向け、俺を見た瞬間、大きく口を開いてアワアワ、アワアワし始めた。そして一人でパニくって
「ここ、これは違うんですよ?けけけけ、決して餌付けしてる訳じゃ無いんですよ?い、今は近所迷惑になる事もああ、あります、からね!たまたま、たまたま近くに煮干しが落ちてあったのでダンボール箱に、入れてあげよっかな〜、な〜んて思ったので入れてあげただけですよ?」
と聞いてもいない言い訳を始めた。俺は黙って彼女の左手を指差す。
「?…!?ここ、これは違、違う、違うんですよ!?これは、あっ、そうだ、そう!煮干しは頭にいいから常に口に入れれるように常備しておこうと思って持っていたんですよ!だから決して猫に優しくてかつ私のお財布に優しいから買った訳じゃ無いんですよ?帰り途によく猫ちゃん見かけるから餌を持っていれば近寄ってこないかな?なんて考えて買った訳じゃ無いんですよ?分かりましたか?!」
女は目線を右上に向けながらすぐに分かる、それどころか完全に本心の嘘をつき、最後に鳴らない口笛を吹いて誤魔化そうとした。
「別にあんたがあんまりにも必死に、さっきまでしてたことを否定したからつい指をさしちまっただけだ。誰にもチクったりなんかしねーから安心しな。」
そう言って俺はさしていた傘を段ボールが濡れないように置き、くるりと背を向けてその場を去る。
「不良に見える善良学生さん…」
ちょっと力の抜けそうになる言葉を彼女が呟くのを耳にしながら、俺は気にするなと手を上げヒラヒラさせる。
「傘の不法投棄はダメですよ?」
ズコー、これが漫画だったならそんな効果音がつく勢いで俺はこけた。
「あのなぁ、さっきのをどう見たら不法投棄に見えたんだ?どう考えても猫ちゃんのためだろ!?」
「あなた、そんな見た目で猫ちゃんなんて可愛らしい言い方するんですね。ビックリです。」
「話聞いてんのかっ?今そこじゃねーだろ?」
「いえいえ、私には分かりますよ。猫のことを猫ちゃんなんて言う人が悪い人のはずがありません。さあ、私のことは気にせずどうぞあなたもこの子猫達を愛で尽くしましょう!」
「いや、話聞け!?猫が可愛いのは当たり前だが今はそこじゃねーだろ!」
「ささ、遠慮せず。ほらどうですか?この子猫たちすっごく人懐こっくて可愛いですよ?」
「お前耳ついてんのか?それとも何?俺の意見なんて聞く価値ねーってか?それとあとで猫ちゃんズはたっぷり愛でさせてもらうからな。」
俺たちはそんなこんなで猫のいるところで15分ほど話し込んでいるとトラックがうしろか突っ込んできて死んだ。