夏の忘れ物
花火がどこかであがり、
遠く離れた僕の元に遅れてやってくる。
夏がきた、そう教えてくれる。
僕は夏が嫌いだ。
止まらない汗、ベタつく肌、身体にまとわりつく熱気。
だから夏のイベント事には消極的である。
今年は君が亡くなって3回目の夏。
そろそろ君が帰ってくる時期だ。
「外に出ろ、夏を感じろ!」と君は言っているような気がする。
そんな夏がまたやってくる。
花火が夏の到来を報せてくれた。
だから夏は嫌いだ。君がいないからだ。
三年前の夏、僕が好きだった人は
交通事故で亡くなった。
花火大会の帰り道に飲酒運転の車に撥ねられた。
その日、一緒に花火を見た。
というよりも僕は花火を見ている彼女の横顔と時より微笑んでこちらをみる彼女に釘付けだった。
幸せな時間だった。
もう同じ花火を何年も見ている。
毎年毎年、何度見ても変わらない美しさが空に輝きを放ち、僕たちを照らしてくれていた。
そして、これからも照らし続けてくれるだろうと信じていた。
新しい命が芽生えても。
それは叶わぬ願いとなってしまった。
僕と彼女の未来は終わってしまった。
3年経った今でさえ、立ち直れたわけじゃないし僕自身の中で何か変化があったわけじゃない。
何に対しても意欲が湧かず、ふわふわと心ここに在らずといった状態が続いている。
彼女を殺した犯人を憎まなかったことはない。だからと言って直接会って文句を言った覚えもない。
僕の中で彼女が居続けるのは、彼女が居なくなってしまったことで僕が弱ってしまったからだ。
多分の逆の立場だったら僕が君の中に住み続けるだろう。そういうところが変に似てしまったのだろうか。
これ以上、夏になるたびにガミガミ怒られ続けるのも堪らないので僕は君がいなくなってから行っていなかった花火大会へ行くことにした。
毎年君に会えるのは嬉しくもあったが君から飛び立たなければいけないと思う自分もいた。
8/16 天気は快晴。
屋台で賑わう夏の夜は今も誰かが亡くなっていることなんて知らない風だった。
今年も花火は上がった。
雲ひとつない夜空へ、私はここにいるよと。
どこかでまた「私はあの青色の花火がいいと思うんだけど、君はどう?」と言う声が聞こえた気がした。
それは僕と君が付き合う前に花火を見とき、君が僕に言った言葉だ。
「私がいなくても元気でやるんだよ、これからは別の世界を生きる者同士。並行な世界で唯一交わることができた線だ。またいつかどこかで交わることができるなら、そのときはまた私のことを見つけてね」
最後の花火を見る君の背中はどこか寂しそうだった。
君との夏はやっと終わりを迎えた。
これだから夏は嫌なんだ。
汗か涙か分からないものが一粒。
僕の身体はとても軽くなった気がした。
君には感謝を伝えることはできないので
またいつか出会えた時に取っておこう。
僕の中の彼女はいなくなった。
君は三年前の夏に亡くなった。
いや、違う。
亡くなったのは彼女じゃない。
僕だった。