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■エピローグ バカンス終了です


「いやぁ、今日も大盛況だねぇ」

「うんうん、すごいね、マコ」

「というか、どんどんお客さんが増えてる気がする……」


 観光都市バイゼルに潜んでいた悪魔に関連する事件。

 その終息から、数日が経過していた。

 今日も私達は、最早この地の顔となった第二アバトクス村で、仕事をして過ごしている。

 行き交うお客人達の流れを見ながら、そう会話を交える、私とマウル、メアラ達。

 街の方は、崩壊した壁の撤去等、未だに復興作業が進められており、観光都市として本格的に動き出すにはもう少し時間を要する。

 なので、その分のお客さん達が、こちらに流入して来ている状態ということだろう。

 ……いや、もうここまで来ると、私達の作ったこの温泉地こそが、現在の観光都市バイゼルと言っても過言でないかもしれない。

 溢れ返る来訪者に、軒を連ねる行商人の方々のお店。

 自分で言うのもなんだけど、凄い賑わいだ。

 現世の、某夢の国のような光景である。


「お! この食堂で、例のあれが食べられるのか!」


 そこで、食事処の前を通り掛かった通行人が、そう話をしている。


「生の新鮮な魚を使った、珍しい食べ物なんだろ?」

「本当に食べて大丈夫なのか?」


 彼等の会話からわかるように、今この村で一番人気を集めているのは――レイレの努力の甲斐あって生み出された、新メニューだ。

 ――遂先日の事。


「マコ! 遂に刺身を作り出す事に成功したわよ!」


 事件解決から少し後の事だった。

 レイレが私にそう言って来たのだ。


「え、本当!?」

「彼女達の力を借りたの」


 レイレが指し示す先には、プリーストさん達の姿があった。

 アスモデウスを王都の聖教会本部へと連行した後、何やらレイレからお願いをされていたということで、この村に戻ってきていたのだ。

 何のお願いだったんだろう? と疑問に思っていたが、どうやらお刺身の作成に携わっていたようだ。


「でも、力を借りたって、何をしてもらったの?」

「ふふん、あたしの魔法で冷凍処理する事によって、ちゃんと生のまま食べれる刺身にできるか……試食をしながら進めていたの。もしも、あたしがお腹を壊したら、その都度《治癒》で治してもらってね」

「ええ……想像を絶する作業工程だね」


 流石、レイレ。

 商売に対する根性が凄い。


「とにもかくにも、実験の甲斐あって安全な刺身を生み出すことに成功したわ! マコ、早速この魚を使って料理を考案しましょう!」

「うん、ありがとう、レイレ。そうだねぇ……」


 私とレイレ、更に板前のブッシも加わり、新メニューの開発を行った。

 そして生み出されたのは、この地で捕れた魚介類をふんだんに使った、『海鮮丼』だ。


「おお!」


 時間は現在に戻る。

 食事処を訪れたお客さん達の前に件の海鮮丼が出されると、感嘆の声が上がった。

 行商人のアムアムさんから独自ルートで仕入れたご飯の上に盛られた、多種多様な魚の切り身を使った色鮮やかな刺身。

 それに加わる、イカ、タコ、ウニ、カニ、イクラ……。

 まるで芸術品のようだ。

 最初に出来上がったものを目にした時には、またしてもデルファイが歯ぎしりしていたのを覚えている。

 思わず「宝石箱や~」とコメントしちゃいそうである。


「すごい!」

「超豪華!」


 そんな素晴らしい出来栄えなので、こちら早くも大反響の人気商品となっている。

 さて。

 そんな感じで騒がしく過ごしていた、ある日の事だった。


「ところで、マコ」


 不意に、イクサが口を開いた。


「君達は、いつ頃アバトクス村に帰る予定なんだい?」

「………あ」


 そうだ、すっかり忘れていた。

 そもそも私達は、この地にバカンスでやって来たのだった。


「別に、僕の所有地や別荘は使ってもらっても大丈夫だけど。いつまでも、というわけにはいかないだろう?」

「うん、そうだね」


 アバトクス村の人員の大半が、今この村に来ている。

 あまりこちらに注力していては、元のアバトクス村の方が荒れ果ててしまうだろう。

 今後の事は、もう《ベルセルク》のみんなで大丈夫のはずだ。

 奴隷となっていた人達も解放され、人員的にも十分だし――街との蟠りも解決した今なら、今まで以上に上手くやっていける。

 というわけで、私達は帰り支度を始める事となった。




※ ※ ※ ※ ※




 そんなこんなで、出立の日がやって来た。

 私達アバトクス村の住人達が、第二アバトクス村に別れを告げて、故郷へと帰る日だ。


「あんたには随分世話になったな」


《ベルセルク》の皆から、そう感謝の言葉を贈られた。


「この地でただ死に向かって、捨て鉢になっていた俺達に、場所と新しい文化をくれた」

「その上、囚われていた仲間達まで助け出してくれて……流石は、神の使いと言われるだけのことはあるな」

「いや、それはまだ仮定の段階なので……」


 聖教会との《聖女》問題……今後、関わってきそうだね。

《ベルセルク》の皆との挨拶を終えると、私は続いて《ラビニア》の姉弟――ルナトさんとムーのところに行く。


「……本当に、お世話になりました」


 深々とお辞儀する二人に、私は「いえいえ」と手を振るう。


「ルナトさん達は、これからどうするんですか?」

「……私達も、しばらくはこの街で復興の手伝いをしながら、冒険者ギルドの依頼を行っていきたいと思っています」


 真面目で口下手ながら、ルナトさんはしっかりと言葉を連ねていく。


「……本当に、お世話になりました。同じ冒険者の身、きっとまた、お会いできる時が来るでしょう」

「はい、その時はよろしくお願いいたします」

『こりゃ~!』

『ぽんぽこ~!』

『きゅ~ん、きゅ~ん!』

『ぷー』


 と、チビちゃんとポコタ達も泣きながら抱き合って、別れを惜しんでいる様子だ。

 私達は皆で、エンティア達の引く荷車に乗り込む。


「本当にありがとうな!」

「また来てくれよ! ご馳走で出迎えるから!」

「あんた達からもらったものを廃れさせないように、頑張るぜ!」

「ウーガ! またねー!」


 手を振る《ベルセルク》達やムーの姿を見送り、私達はアバトクス村へと走り出した。




※ ※ ※ ※ ※




 荷車の上で揺られながら、私は色んな事を考える。

 仕事からの帰り、いきなりやって来た異世界。

 この世界での濃密な生活の日々にも、もうすっかり慣れてしまった。

 それだけではなく、色んな場所にアバトクス村の影響が出始めている。

 市場都市ではウィーブルー家当主の青果店で。

 王都では直営店で。

 そして遂に、姉妹村? ができた。

 今後、更にどんな変化が起きていくのか、私には想像もできないけど……。

 ……まぁ、それはともかくとして、だ。


「久しぶりのアバトクス村だー!」

「ですー!」


 私達の故郷――アバトクス村に到着すると同時に、マウル、メアラ、フレッサちゃんが勢いよく荷車から飛び出した。


「おう、お前らやっと帰って来たか!」


 村に残っていた《ベオウルフ》達が、私達を出迎えてくれる。

 私達が居ない間も、色々と仕事をしてくれていたようで、村の様子に変わりは無かった。


「ただいま! 私達が不在の間、色々とありがとうね。いっぱいお土産ももらってきたよ」

「おお! そりゃ楽しみだ!」

「マコ、そういやぁ、あんたの考えた新商品のポテトチップス。王都で出してみたら、えらい好評だったみたいだぞ」

「え、そうなんだ! よかった」

「ああ、あの人がそう言ってた」


 え? あの人?

 報告した《ベオウルフ》が、明後日の方向を指差す。

 そこにいたのは――。


「お久しぶりです、マコ様」

「ベルトナさん?」


 王都の冒険者ギルドの受付嬢、ベルトナさんだった。


「どうしてここに?」

「観光都市バイゼルの冒険者ギルドより、マコ様方がアバトクス村へお帰りになる日程を通知いただいておりました。加えて、モグロ様から今回の件を伺っておりましたので。直接ご挨拶をさせていただきたく、お待ちしておりました」


 この度は、お疲れ様でした――と、ベルトナさんは首を垂れる。


「マコ様のお力のおかげで、行方不明となっていたSランク冒険者、ルナト様の救出にも成功したと。我々冒険者ギルド一同、深く感謝しております」

「いえいえ、そんな」

「加えて、その後の経過をご報告するために、本日は参った次第でございます」


 ベルトナさんは、眼鏡を光らせて言う。


「聖教会が捕えた悪魔と、犯罪者ワルカ……両名は現在拘束中であり、時が来ましたら尋問を行う予定であります。加えて、今回の事件を騎士団や聖教会など、国の防衛に当たる各機関も重く考えている模様です」


 悪魔族の動きを、流石に皆が危険視し始めたという事か。


「そして、それは冒険者ギルドも同様です。悪魔族の暗躍は、これから先の我々の任務や仕事に大きな影響を及ぼす事でしょう。そこで冒険者ギルドでは、近々Sランク冒険者を集結させて、今後の展開を話し合う場を設けたいと思っております」

「Sランク冒険者を?」

「はい。現状、この国の冒険者達の中で、実力でトップに君臨するSランク冒険者を中心に、冒険者ギルドの今後を話し合いたいと。時と場所は未定ですが、まず間違いなく王都になるのではと考えられております」


 ベルトナさんは言う。


「その際には、是非ともマコ様とガライ様にも参加していただきたく、お願いに上がりました」




※ ※ ※ ※ ※




「悪魔……か」


 ――場所は、王都。

 その中心に聳え立つ王城の中で、今、このグロウガ王国各機関の重役達が一堂に会していた。


「悪魔族……度々、その姿を目撃され被害をもたらす事はあっても、ここまで深く、我等の世界に介入してきた事は無かった……ここにきて、本気で人間社会を乗っ取る事を考えているのか?」


 そう発するのは、王国各地を警備する騎士団――その組織を束ねるトップ。

 王国騎士団総本部長である。


「……いや、もしかしたら……今まで気付いていなかっただけで、本当はとっくの昔から我等の社会に潜んでいたのかもしれないな」


 また別の席に座るのは、王都に存在する、魔法使いを育成するための魔術学院の理事長。

 彼も、そう額に手を添えながら呟く。


「聖教会の見解はどうだ?」

「現在、我々の総本山にて《聖母》が悪魔アスモデウスと対面しております。有益な情報を聞き出してくれることでしょう」


 聖教会を代表し、この会議に出席した司教が、質問した騎士団総本部長に返す。


「ふんっ……そもそも、悪魔に好きなようにさせぬためにあるのが、聖教会の役割ではなかったのか? もし、今まで人の社会に悪魔が潜んでいたというなら、お前達はのうのうとそいつらを野放しにしていたというわけか?」

「人の中に潜む悪魔は、悪魔の中でも相当高位の存在。稀少中の稀少。今回のような事件の方が稀なのです」


 司教の言葉に、総本部長は舌打ちをする。


「とにもかくにも、我々の想像以上に、この事態は重く考えねばならない。甘く見ていては、この国を乗っ取られるぞ。騎士団に聖教会……他にも、全ての機関が悪魔に対する対抗策を案じなくてはなるまい」

「聞いた話では、冒険者ギルドも既に動いていると」


 魔術学院理事長が、そう呟いた。


「Sランク冒険者を集め、今後の方針を固めるそうだ」

「Sランク冒険者か……今は確か、11人いるんだったか?」


 騎士団総本部長が、指を折りながら言う。


「メンツが変わっていないのであれば……《黎明(れいめい)の魔女》《不死鳥》《(かんぬき)》《雷霆の檻》《暴食》《剣の墓》《八卦水晶(はっけずいしょう)》《聖母》《跳天妖精》……それに、最近加わった《黒鉄の魔術師》に《鬼神》だったか?」

「死刑囚、ノ国の王族、元騎士団長、スクナ一族の麒麟児……獣人に聖人に、新顔には伝説の元暗部も加わったのだろう? 随分、バラエティ豊かな顔ぶれだな」

「過去最大数にして、過去最強の人員が揃っているとも聞くが」

「疑いようも無いでしょう。我等が聖教会の輩出した、希代の天才、《聖母》ソルマリア・ホーリーグレイス……」


 司教が、そこで、玉座の方を見る。


「それに、魔法の極致と名高い第二王子、レードラーク・ディアボロス・グロウガ王子もいらっしゃるのですからね」


 玉座に腰を据える人物の顔は、影になって見えない。

 その人物に向かって、司教は言う。


「グロウガ国王の、優秀な跡取り候補筆頭が、ね」

「……ホンダ・マコ」


 そこで、玉座に腰を据えた人物が、そう呟いた。


「……ホンダ・マコ?」

「確か、Sランク冒険者の《黒鉄の魔術師》の名だったか……」

「そう、その名だ」


 そこで、魔術学院理事長が言う。


「悪魔達の暗躍が、ここ最近立て続けに明るみになったのには……ある一人の冒険者の存在が関わっていると聞く。悪魔の騒動が起こるたびに、その者が解決したという話だ。なんでも、異質な魔法を使う事からその二つ名を付けられたとか」

「その冒険者が、ホンダ・マコ?」

「ホンダ・マコ……我等が聖教会でも、この世に生誕した《聖女》その人なのではと審議されております」


 マコの名を聞き、各機関の重役達はざわめきを強める。

 その中で、玉座に腰掛けた人物――。

 他の誰であろう――グロウガ国王は、小さく口元に笑みを浮かべていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] おや、今回はスキルに変化無かったんですネ。
[良い点] うおおおおお!少年漫画のような盛り上がりでフィナーレ。熱い戦いでした。でも最後にうりぼうちゃんたちが癒やしの空気を持ってきてくれて可愛い過ぎます。 というかなんだか段々きな臭い雰囲気になっ…
[気になる点] レードラーク・ディアボロス・グロウガ王子……ディアボロスってどー聞いても悪魔やん?!(笑)
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