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■18 寿司です


《ベルセルク》達の集落が、温泉観光地として有名になった。

 そのおかげで、観光都市バイゼルの街を目的地として集まっていた行商人の方々が、こちらで店を出したいと来てくれるようになった。

 街から人を奪い無視できない程の打撃を与え、領主を引き摺り出すという作戦にとっては、大きな一歩前進と考えられる。

 さて――そんな中、私は実際に集落へと来てくれた行商人の方々に、挨拶をして回っている。

 主目的は顔を覚えて「今後とも御贔屓に~」的な遣り取りをするためだが、それとは別の狙いもある。

 行商人は、色んな商品を国内各地のみならず、海外からも仕入れてきていると聞く。

 だから、海外の変わった調味料や、食材とか珍味とかもあったりするのでは。

 それを、この土地の料理にも転用できないだろうか――そう考えたからだ。

 集落の入り口付近で、露店を開いている行商人達と挨拶を交えながら、私は抜け目なく商品の物色も行っていた。


「それにしても……行商人って言っても色んな商売形態があるんだね」

「ああ、僕も市場都市を拠点に活動しているから商人達とも交流があるんだけど、彼等の商売方法は多岐に渡っているからね」


 私とイクサは、そう会話しながら歩く。

 単純に地べたにゴザを敷いて商品を展開している者もいれば、自分の屋台を持っていて、それがそのまま店の構えになっているものもあったりする。

 後者は、現代でいう所のキッチンカーみたいな感じ。

 思い出すなぁ。

 現世でホームセンター店員だった頃も、店にテナントで、移動販売の人がタコ焼きとかたい焼きとか、チュロスとか売りに来たりしてたんだよね。

 場所代の清算の時に、よく売れ残ったあまりをもらったりしたなあ。


「……ん?」


 そんな中、私達は少し雰囲気の変わった露店を発見し、足を止めた。

 ゴザの上に展開された商品は、どれもこの国の文化のような洋風的なものではなく……どこか、アジアンチックなアイテムが多い。

 店頭に立つ商人は、女性の方。

 まだ全然若い……なんだったら子供にも見える、髪をお団子にした女の子の商人だ。


「こんばんは、このお店はどういう商品を売っているんですか?」

「アイヤー。はじめまして、村長さん。わたしは遠路遥々、東方から来た商人だヨー」


 お団子頭の商人さんは、そう溌剌とした声で言う。

 独特のイントネーションだ。

 ……ちょっと胡散臭い感じもするけど。


「へぇ、東方」

「東って事は、『()ノ国』の出身かな?」


 隣に立ったイクサが、そう口を挟む。


「そうだヨー」

「五ノ国?」

「グロウガ王国から見て東側にある大国さ。この国とは一風変わった、独特の文化が育まれてるんだよ」


 イクサの解説を聞き、私は「ふむふむ」と頷く。

 なるほど、この世界で言うところの中華っぽい立ち位置の国なのかな。


「ちなみに、その更に向こうにある『日ノ国』の変わった商品も仕入れてるヨ」

「日ノ国?」


 更に知らない国の名前が飛び出してきた。

 お団子の商人さんは、私に該当の商品を見せてくれる。


「へぇ……染め物の生地だ」


 それに、これはカンザシかな。

 なんだか、和風っぽい雰囲気だ。

 ってことは、その日ノ国がこの世界における日本――和の国みたいな立ち位置か……。


「……あ、これ!」


 そう思いながら商品を物色していた、その時だった。

 私は瓶詰された、透明に若干黄色の混じった液体を発見する。

 これは、もしや。


「それ、日ノ国で仕入れた変わったお酒ネ。口の中がきゅ~ってなるヨー」


 私は瓶の蓋を抜いて、においを嗅ぐ。

 懐かしさを感じるにおい。


「これ、お酢でしょ!」

「お酢? よく知らないけど、村長さん日ノ国の食べ物がご所望なのネ? なら、まだまだいっぱいあるヨー」


 言って、お団子の商人さんはどんどん商品を出してくる。


「あ、お米だ!」


 お米まである!


「随分興奮してるね、マコ」

「やったよ、イクサ! これだけあれば……」


 お酢とお米を手に、私はイクサに圧力強めに迫る。

 この二つの食材と、この地で獲れる食材を使えば……。


「これだけあれば……お寿司が作れる!」




※ ※ ※ ※ ※




 というわけで、早速。


「さぁ、新メニューの開発だよ!」


 お団子の商人さんから酢と米を入手したので、お寿司を作る事にした。

 食事処にある厨房の中で、私は意気揚々と腕まくりをする。


「お寿司って、何?」

「聞いた事無いよ」


 マウルとメアラも首を傾げている。


「えーっと……この世界の、日ノ国とかで多分作られてる料理じゃないかな?」


 二人には、そんな感じで説明する。

 似たような文化があるなら、きっとこっちの国にも類似した料理があるはずだ。

 だから日ノ国にもあるんじゃないかな、寿司。


「ちなみに、スアロ達スクナの一族はその国の出身なんだよ」


 そこでイクサが、後ろに控えているスアロさんを指し示してそう言った。


「そうなんだ! どうですか、スアロさん。日ノ国にはお寿司ってあります!?」

「いや……血筋がそうというだけで、私自身はこの国の生まれだ。日ノ国に行った事は無い」

「そうなんだ、じゃあ知らないですよね」


 でも、そう考えると段々興味が湧いてきた。


「いつか行ってみたいね、日ノ国」

「……そうだね」


 そう、私が何気なく呟いた言葉に対し、イクサはどこか影のある表情を浮かべた。

 ん? どうしたんだろう?


「マコ、それで、お寿司ってどうやって作るの?」

「あ、えーっとね」


 マウルに急かされ、何はともあれ、私はお寿司作りを開始する。

 まずは、スキル《錬金》を発動し、お米を炊くための〝釜〟を錬成。

 研いだお米を入れ火にかけ、炊き上がりを待つ――。

 その間に別の作業をしながら、数十分。


「よし、ご飯ができあがった!」


 釜の中には、見事炊き上がったご飯だ!

 おおお! 白飯!

 この世界に来て、初めて見たザ・和食!

 さて、いつまでも感動している場合ではない。

 事前にガライに頼んで、木材で桶としゃもじを作ってもらっていた。

 炊き上がったご飯を桶に移し、そこに砂糖、塩等の調味料を加えたお酢を混ぜ込んでいく。

 混ぜ込みが終わったら、うちわで扇いでざっと冷まし……酢飯の完成!


「さて、ここからが本番だ」


 流石に、本場の江戸前寿司職人ではないので、握り寿司なんて作れない。

 ちらし寿司でもいいけど、ちょっと前に、おもしろい料理方法を耳にした事があるので、その作り方を参考にする事にした。

 私は《錬金》を発動。

 作り出したのは……。


「これ、なに?」

「所々、丸く凹んでるね」

「ふふふ……これはね、ドーナッツメーカーの〝金属プレート〟だよ」


 ドーナッツ状の、◎型の窪みがある鉄板――ドーナッツを作る際に使うプレートだ。

 この窪みの中にネタとシャリを詰めていく事で、型の整った丸いケーキ状のお寿司を作れるというワケだ。

 まずは、ネタ。


「マコ、私が冷凍した生魚は使えないかしら?」

「ありがとう、レイレ。でも、安全の事も考えて、もうちょっと様子を見ようか」


 以前、冷凍すれば中の寄生虫も活動を止め、刺身に出来るかもしれないという事で、レイレが自身の魔法で魚を冷凍し、刺身を食べられるように努力してくれている。

 でも、まずは安全面を考慮して、今回はボイルしたエビ、イカ、タコ、ホタテで行こうと思う。

 そこに、他の野菜を加えれば、彩り的には申し分ないはずだ。

 まずはプレートの窪みの中にネタを敷き、その上に酢飯を詰めていく。

 そして、一通り完成したら――木を切って作った板の上に、ひっくり返す。


「どうでしょう!」

「「「「「おお!」」」」」


 すると、◎型に形作られ、魚介や野菜で彩られた、まるで花が咲き乱れているかのようなお寿司ができあがった。

 まるでケーキだ。

 皆も「凄い!」「おもしろい!」「綺麗!」と、絶賛のコメントをくれている。


「よし、じゃあ試食といきますか」


 ケーキのように切り分ける事も出来るし、ネタの下のシャリを摘まめば、そのまま簡単な握り寿司のようにもなる。

 うん、味も良好。

 懐かしい、お寿司の味だ!


「これはいいな! 早速、今日からお客さん達にも提供してみようぜ!」


《ベルセルク》の一人が、そう声を上げる。

 それに対しては、皆、賛成の様子だ。


「いいよな! マコ!」

「うん、いいと思うんだけど、ただお米もお酢も限られた量しかないから、数量は限定でね」

「アイヤ~、まさか適当に仕入れておいたあの商品が、こんなおいしい料理になるなんて思ってもみなかったヨー。村長さん、中々やり手だネ」


 いつの間にやら、厨房の中に紛れ込んでいたお団子の商人さんが、お寿司をパクパクと食べながらそう言った。


「わ! いつの間に!」

「よければ、わたしが食材を安定供給できるように仕入れるヨー。わたししか知らない秘密のルートを使うからネ、今なら安くしとくヨ~」


 うーむ、やっぱり胡散臭さ満載だね、この商人さん。

 でも今は、お米とお酢を仕入れられる事の方が重要だ。


「オッケー、じゃあこれからもお願いします!」

「アイアイ、ありがとうネー! 村長さん太っ腹、大好きヨー!」

「じゃあ早速、俺達にも作り方を教えてもらっていいか?」


 厨房で作業する《ベルセルク》や《ベオウルフ》のみんなにも、お寿司の作り方を伝える。

 そして――夜。

 この集落の名物が、また一つ増える事となった。


「おお! 美しい! 見た事のない料理だ!」

「上に乗っているのは、イカやエビや……野菜もか」

「変わった味だが、悪くない。目にも口にも美味しいな」


 新メニューの登場を大々的に告知すると、このドーナッツ型ケーキ寿司は一躍大人気と化した。


「アイヤ~、これは想像以上ネ。わたしも急いで商品を仕入れて来るヨ~」

「うん、お願い……えーっと」

「私はアムアムね、よろしくヨー」

「よろしくね、アムアム」


 というわけで、行商人のアムアムも味方につけ、我が集落は更なる盛り上がりを見せていく事となった。




※ ※ ※ ※ ※




 温泉、野菜、木材、魚介類……そして、お寿司。

 瞬く間に発展を遂げ、そして繁盛を続ける《ベルセルク》達の集落。

 毎日、色んな人々が行き交い、獣人達も明るく楽しく働いている。

 そんな日々が開始し――数日が経過した、ある日の事だった。


「マコ、あれ……」

「ん?」


 イクサに呼ばれ、集落の入り口の方を見ると、そこに見掛けない一団がやって来ていた。


「………」


 全体的にきちっとした雰囲気で、身に纏った衣服にはところどころ、イクサのコートの袖にある物と同じ、国章が刺繍されている。

 私は理解する。

 遂に、時が来たようだ。


「この集落の元締めの方にご挨拶をさせていただきたいのですが」


 私達が近付いて行くと、その集団の先頭に立つ女性が冷たい声で言った。

 眼鏡をかけた、キリっとした女性だ。


「はい、私ですが。本日はどのようなご用件で」

「領主、スティング王子の下から参りました」


 私が答えると、その女性は鋭い目を向けて来る。


「あいつら……」


 そこで、後ろに控えている《ベルセルク》達が、呟いた。

 見ると、その一団の中に、知った顔が居た。

 かつて、私が橋の上からボッシュートしたAランク冒険者――サイラスと、その仲間達だ。

 国章の着いた外套を纏っている。

 冒険者を廃業して、騎士か傭兵にでもなったのだろうか?

 だが、これではっきりとわかった。

 わざわざ護衛を連れてここに来たという事は、交戦の構えがあるという事。

 遂に、私達の存在が無視できなくなったのだ。


「わたくし、スティング王子の秘書を務めております、ワルカと申します」


 眼鏡の女性が、そう名乗った。


「これはどういうおつもりか、ご説明をしていただきたいのですが」


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